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中林さんの天球儀(旧作)  作者: すたりむ
第1章:結婚詐欺編
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6。金策と日食とろうそくの火(後)

「珍しいわね、宗谷がこっちに来るなんて」


 入ると、中林はこちらを見もせずにそう言った。

 ……ていうか。


「なにやってんの? ふたりとも」


 中林は親方と一緒に、なにかが書き込まれた紙を熱心にのぞき込んでいる。


「おう、シュンペーか。ちょいとここんとこ忙しくてな」

「なんで?」

「いやあ。なんでも10日後に日食があるらしくてよ」

「日食?」


 それは初耳だ。


「そういうのってどっかでアナウンスとかしてるの?」

「神殿に星見役がいるからそいつが立て看板出すと思うけど、たいていは一週間前だな」

「じゃあ、なんでわかったんだ?」

「ナカバヤシさ」


 親方が指さして言った。


「こいつがバルチミ家で発掘した資料から計算した結果らしい。そんで、いま張り切っててな」

「日食のときにしか観測できない現象もあるからね。忙しいのよ」


 中林が言葉の後を継いだ。


「そっか……じゃあ、いまは余裕がないのか?」

「余裕……というと、どの程度の余裕かにもよるけど。どういう用件なの?」

「いや。金稼ぎの相談。なんか方法ないかと思って」


 言うと、中林はめんどくさそうに、


「私だって一応考えてるわよ。成果ないけど」

「お、そうなの?」

「協力するとは言ったでしょ、前に」


 言いつつも、中林はいまいち浮かない顔。


「なんだよ。なにか気になることでもあるのか?」

「まあ、いろいろね。

 とにかく、成果が出たら報告するわ。もうちょっと待ってて」

「……わかった」


 言って、


「あれ、ところで他のみんなは?」


 見回して、親方にたずねる。

 工房はさすがに1人では回せないわけで、なにかやってる日なら手伝いがいるもんだ。

 前に中林が来たときは夕方でだれもいなかったけど、今日は炉にも火が入ってるし、このふたりだけってことはないと思うんだが……


「あん? 知らねぇのかシュンペー。残りの連中はバルチミ家にいるぞ?」

「へ?」


 予想外の答え。


「ナカバヤシが手伝って欲しいっつーからな。いろいろ作業してるんだよ。たしかいまは屋敷の端っこのほうの部屋を改造中」

「……マジすか」


 気づかないうちになにやってんだ、あんたら。


「うーん……やっぱりお金の問題って切実ね」


 中林がなにやら難しい顔をして言った。


「科研費とかないのかしらこの国。補助金制度的な」

「あったとしても、実績のないおまえじゃ取れないんじゃね?」

「実績ある研究者なんて逆に金に困らないと思うけど。実績がなくて他に資金繰りのアテがない若手にこそ研究費を回さないといけないとなんで思わないの?」

「なんで俺問い詰められてるの?」


 まあ、そもそもないと思うけどな。補助金。


「がはは、まあ気にするな。ウチだってそれほど余裕はねえけど、いちおうちょいちょいは出来上がってきてるだろう?」

「ま、そうね。贅沢を言えばきりがないし」


 言って中林はほほえんだ。


「わかった。ともかく、なにかあったら教えてくれよ。この際猫の手も借りたい気分だ」

「ねこしっぽなら借りてるじゃない、いつでも」

「……そういや、どこまで行ったんだろうな。あいつ」


 リシラを追いかけていなくなったナイエリのことを、いまさら思い出す。

 んー……まあ、放っておいてもバルチミ家のほうには帰ってくるだろうけど。

 とか思っていると、


「はあ、はあ……! くそ、撒かれた……!」


 と言いながら、ナイエリが工房に入ってきた。


「よう。その様子じゃ捕まえられなかったみたいだな」

「あの変態セクハラ男女……次会ったらただじゃおかない」

「リシラがまたなにかやったのか?」

「あー、親方。まあたいしたことじゃないし、俺が止めたから気にするな」


 ハテナ顔で言ってきた親方に、俺はそう返す。

 親方はふうん、とたいして気にしてない顔で言ったが、


「にしても……そっちの娘は見たことねえな。何者だ?」

「あ、あたしはナイエリと言って、」

「宗谷の新しい彼女よ」

「ぶはっ……!」

「な……!? そんなわけがあるかー!」


 思わず吹き出す俺と、昂するナイエリ。

 中林はごく平然と、


「あら? 違ったの?」

「断じて違うわ! ていうか気色悪いこと言うのやめろ!」

「でもここのところいつも一緒に行動してるからてっきり」

「違うー! あ、あたしはバルチミ家のために金策が必要だから、」

「なるほど。宗谷の愛人になって金を稼ごうと」

「おまえもう殺す!」


 ぎゃーぎゃー言うナイエリと楽しそうにからかう中林。

 ふと見ると、親方がうらやましそうな顔でこちらを見ていた。


「どうした?」

「いやぁ……いいなあ。女の子に取り合われてハーレム状態。うらやましいぜ」

「…………」


 どこをどう解釈したらそういう話になるんですか。と思ったが、特に言わないでおいた。



--------------------



 そんなわけで帰り道。


「けっきょく、中林もたいしたアイデアはなしか……難しいな」

「うぐぐ、セクハラされたりからかわれたり、いいことなかった……」


 とぼとぼ歩く俺とナイエリ。


「まあ、とにかく別のアイデアを出すしかないってことだな。今の時期に有効な商材ってあるか?」

「む。あたしにそんなこと聞かれてもわかんないぞ。いまは春だから春の農作物とかはすごい売れそうだと思うが」

「あー、そのへんはよくわからないんだよな……」


 この世界、馬とか牛みたいな主要な動物は地球と大差ない感じなのだが、植物はなんだかよくわからんものが多い。

 そのせいで、俺は野菜の名前を覚えるのがどうにも苦手なのだった。


「農作物の他には……ううむ。キンバリアで春に売れるもの、かあ。じっちゃんに聞けば、なにかわかるかな」

「いや。まあ、実はそれがわかったからと言って問題はあるんだがな」

「? どういうことだ?」

「売れるとわかってるものは他の商人も殺到してるだろ、ってことだよ」


 俺は言った。

 それがあるせいで、どうにも商売という方向性に未来を感じないんだよなあ。

 売れ筋の商品とかも、この前市場を見に行ったときにはまるで教えてもらえそうになかったし。

 商人たちの情報ネットワークから締め出されてるとなると、やれることは少ない。


(せめて俺たち特有の、俺たちしか知らない情報があれば……)


 ふと。

 中林の言葉を思い出した。


「日食、か……」

「? なんだ日食って」

「ああ。中林が言ってたんだよ。十日後に日食があるんだって」

「なんだと? そんなこと、どうやってわかる」

「あいつは元学者だからなあ。天文とか詳しいし、暇さえあればバルチミ家の書庫から本出して勉強してるし。お手の物じゃね?」


 人格はともかく、能力的に中林は疑いようもなく一流だと思う。

 というか、エリアム語の読み書きができるだけでもすごい。俺、しゃべることはできても読み書きはできないし。


「日食……日食かあ。やだなあ。暗いのは苦手だ」

「珍しいことだから俺は好きだけどなあ、日食」

「でも二度と太陽が姿を現さなかったらどうしようとか思わないか?」

「それはさすがに思わないな……」

「うう……日食は嫌いなのだ。ろうそくでお祓いして一刻も早く退散願うのだ……」


 なんか涙目になってるナイエリ。

 俺はなんの気なしにその話を聞いていたが、


「……待て。ろうそく? なんだそりゃ」

「知らないのか? 太陽が機嫌を損ねて日食が起こると、みんなはいっせいに太陽の仲間である火をともして帰還を祈祷するのだ。エリアム人はみんなそうだぞ?」

「あ、そうなんだ」

「む。そうか。太陽の国では日食なんて起こらないからな! だから貴様は知らないのか!」

「いや起こるって。太陽の国ったって通称だし」


 言いながら、俺は考えていた。

 日食。日食……


「なあ。さっき親方が話していたことによると、七日前になると日食が起こるって通達を神殿が出すらしいな」

「ああ。そのとおりだが」

「ろうそくの値段、上がるんじゃね?」

「…………」

「…………」



 策は決まった。

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