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白くて丸くてフサフサです  作者: メタいです
3/6

幼女の正体を探ります

 拝啓、皆様お世話になっております。私です。

 いやはや大変なことになりましたね。まさか私がピーチ姫的ポジションだとは思っても見ませんでした。

 しかもクッパJr.ならぬクッパ幼女から『マクラ』という名前も頂きました。もうチェンジも出来ないので私は一生こんなダサい名前です。


 その名の通り、毎晩唾液にまみれて窒息寸前まで締めあげられる運命なのでしょうか。

 いや、そんなことはありません。運命とは自分で切り開くものです。うむ、今すごい良いこと言いましたね私。

 明日は明日の風が吹くのです。適当に頑張ればなんか良いことが起こるのでしょう。多分。


 さて、今後の目標は本当の召喚主を探すことだとして、取り急ぎこの幼女を警察に突き出さなくては。

 というのは冗談です。幼女を警察に突き出すなんて紳士的じゃないでしょう。まあ実際に御用になってもお尻ペンペンくらいで済むでしょうけど。

 きっとドジっ子だらけ儀式の中でいろんな偶然が重なって、たまたまこの幼女がパクる形になったのだとは思うのですけれども。

 直接儀式会場に乗り込んで召喚主以下関係者を皆殺しにして強奪した可能性もあるわけですし。いや無理がありますね。


 何にせよ今の私には動きようがありませんね。こっちの世界のことを何も知りませんし。

 まずは下準備の情報収集からですね。ではこの幼女を適当に相手しながらさっさと情報を集めますか。


「すごい、めっちゃ伸びる!」


 今この幼女は、私の体の伸縮性に興味があるようです。

 限界まで伸ばしてマフラーみたいに首に巻き付ける遊びをしてますね。それ以上引っ張るとちぎれちゃいますので自重してほしいものです。


 え?こんな状態で情報を聞き出せるのかって?心配ありません。そのうちこのうっとおしい絡みもなくなりますから。

 子どもって新しいオモチャにはガッつきますけども、数日たてば飽きて興味を無くすじゃないですか。その理論です。

 今は耐える時です。勝利の方程式は既に完成しています。時間が私の味方なのです。


「この白い毛って抜けても大丈夫なの?」


 どこ抜きやがりましたか。今手にゴッソリ持ってたのを隠したの見えましたよ。

 あんまり抜くと禿げちゃうので勘弁してください。ああ、あと抜け毛は心配無いですよ。

 季節の変わり目に一気に生え変わるので、その時に注意して頂ければよろしいかと。

 もっと言えば季節の変わり目まで新しい毛は生えてこないんですよ、ええ。何が言いたいのか分かりますよね。

 肉体的精神的なダメージは許せても、毛へのダメージはちょっとシャレにならないんです。

 ですからその粘着テープをコロコロしてホコリとか取るやつをこっちに向けるのをやめてください。それだけはやめてください。後生ですから。


「わかった。やめてさしあげる」


 ふむ、本気で嫌がったら割と素直にやめてさしあげてくれましたね。

 というか急にこの子テンションが下がりましたね。私の体で遊ぶのもやめたみたいですし。

 もしや私に飽きて頂けたのでは。これは好都合。数日は覚悟していたのですが、これほどトントン拍子に事が進むとは思ってませんでした。

 じゃあさっさと聞きたい事聞き出しておいとましましょう。


 と、そんなことを考えていると幼女のお腹が盛大に鳴りました。

 ああなるほど。テンションが下がった原因が分かりました。お腹が空いただけのようです。

 私に対する興味は失っていないようです。その証拠に私を抱き上げてベッドから立ち上がりましたので。


「マクラって何食べるの?」


 愛とか勇気とか友情とかですかね。いえ嘘です。

 ご覧の通り消化器官というものがありませんので、普通の食べ物を食べることは出来ません。

 私が食べるのは詠唱とかで変異する前の魔力ですね。詠唱とかで変異する前のですよ。変異する前です。

 君の場合は先にこれ言っとかないと普通に魔法ぶち込まれそうで怖いですからね。レジストなんて器用な真似出来ないので、まともに喰らったら速攻あの世行きですよ。


 魔界にいたころはそういった純粋な魔力が封じ込められてる魔力石というものがありまして。毎日のように実家の裏山へ掘りに行ったものです。

 別に珍しい物じゃないのでちょっと探せば腐るほどありましたし。

 そういったものをペロペロして生きてきたわけです。こっちの世界にもそういったものがあれば助かるのですが。


「うーん・・・あるけど高い・・・」


 是非買って頂きたい。こっちの世界の魔力石がどんな味なのか非常に興味がありますし。

 そりゃあ召喚獣を飼おうっていうんだからそれなりの稼ぎがあるんですよね。

 食事もあるし防具とか武器とか杖とか馬とか馬車とか色々と揃えないといけませんし。

 そうですかお金がないんですか食べ物ですら無理ですかじゃあ大人の人呼んでくれますかほらほら早く早く。


「じゃあわたしが直接ぶちこめばいいの?」


 極論を言えばそうなるんですが、君魔法使えるんですか?

 魔法どころか敬語も使えそうにないナリしてますけど。


「む、ばかにしたな。本気出すし」


 まあ本気出してもこの歳での魔力はたかがしれてますし、大したことはないでしょう。

 これでこの幼女から離れる口実も出来ることですし、朝食中に色々と聞き出したらいつでも出立できそうですね。いや時間的にはもう夕飯でした。失礼。

 もうすぐ暗くなることですし、夜が明けるまで居候するのもアリですね。もちろん幼女女とは別室で。


 とか考えてる内に幼女の準備が整ったようです。とはいっても普段着っぽいのに着替えただけですが。

私の体に手のひらを当てて目を閉じ、柄にもなく集中しているようです。 


「いくぞー。魔力さいだいしゅつりょく、そぉーい!」


 という気の抜けるような掛け声の後、幼女が私に魔力を流し込んでくる中で思いました。

 ええそうです。常識的に考えれば最初からおかしいかったんです。


 召喚の儀式でドジっ子大集合って意味が分かりません。魔界ですらトップエリートの魔法使いが数十人集まって転送するんですよ。

 こっちの世界の魔法使いなら恐らく数百人単位での儀式になると思います。人間は我々に比べて魔力が少ないですからね。

 それにそれだけの人間を集めるのなら当然それを警護する人間もいるわけでありまして。

 そんな中で召喚獣をパクられちゃったテヘペロなんてことが起こると思いますか。


 無理無理かたつむり。そんなことになったら確実に何人かの首が飛ぶでしょう。下手したら全員の首が飛ぶかもしれません。

 規模が規模だけに金もかかるし、下準備にも馬鹿にならない労力がかかりますからね。失敗したでは済まされません。


 ということは可能性は二つ。

 一つはこの幼女が実際の召喚主だったってことですね。パクったというのも冗談で、お金なさげな雰囲気も親が財布を握ってるだけという可能性です。


 で、もう一つの方。これは簡単です。

 要するに、数百人単位の魔法使いとその護衛の目を潜り抜けて、召喚主から召喚権を掠め取り、召喚された私を連れ去って追跡を振り切ればいいのです。

 無茶苦茶でしょう。ルパン三世でも無理ですよ。でも今私は確信しました。


「めっちゃ膨らんだ。うける」


 ケタケタと笑う幼女。そしてその目の前には巨大な白い風船。

 そういえば、フォアグラ用の鴨は太らせるために無理矢理餌を食わされるらしいですね。その気持ちが分かったような気がします。

 あと気球の気持ちも分かりますね。コ〇ドームの気持ちも若干分かりました。


 幼女は今、「ダイエットダイエット」と連呼しながらその巨大な風船を縦横無尽に転がして遊んでいます。

 ええ、そうです。その風船が私です。大量の魔力を無理矢理流し込まれた結果ブクブクに太りました。

 いや、太ったというよりもハムスターのほっぺたみたいに膨らんだという表現が正しいかと思います。

 別にこんな状態になったからといって死にはしません。中に詰まってるのは魔力ですので体重も増えませんし、ほっとけばそのうち萎むでしょう。

 問題があるとしたら体が全く動かせないってことくらいですかね。その証拠に高速で転がされてるのに為されるがままでしょう?

 ちょっとした段差にぶつかってスーパーボールばりに天井に跳ね上げられてもどうしようもありません。反発性が限りなく100%に近いこの体では止まることも出来ません。


 しかしこれだけの魔力を流し込んだのにも関わらず、まるで疲れを見せていないこの幼女は一体何者なのでしょうか。

 跳ねまわる私を追いかけて壁も天井もナチュラルに歩いてるんですけど。なんという魔法の無駄遣いを・・・いや、違いますね。

 詠唱も全くしてませんし、魔力変換の仕方も我流みたいです。ぶっちゃけ本人は魔法を使ってる自覚がないんじゃないでしょうか。

 ということは、無自覚無意識で思いつくがまま魔法を垂れ流してる状態ってことですか。いやはや本当に何なんでしょうこの子。

 ただのちっちゃいハルクホーガンという認識は改めないといけないようですね。


 そういえば君の名前を聞いていませんでしたね。私はマクラで結構です。


「うむ、苦しゅうない。わたしの名前は・・・」


 魔王に匹敵する魔力。しかし幼い故その使い方を知らず。

 その無邪気さで世界に改変をもたらした者。後の世で実はただのアホじゃないのかと語られることになります。

 ていう後付けは全て私の勝手な妄想ですが。でも割と的を射てる気がしてなりません。


 さあこの先この子はどんな厄介事を引っ提げてくるのでしょうか。それはこれからのお楽しみということで。

 ここらへんでこの小説は完結してほしいものです。第二章とかスピンオフとかも結構です。印税が貰えるのなら考えないこともないですが。


 まあそんな現実逃避はともかく、この幼女は自らをこう名乗りました。


「イヴ」

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