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白くて丸くてフサフサです  作者: メタいです
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幼女とベッドでプロレスです

 拝啓、皆様ご無沙汰しております。私です。

 ご心配をおかけしました。ワープ中に意識を失ったのは単に居眠りをしてしまっただけです。

 いえ、実は狙って居眠りをしました。よく飛行機に乗ると離陸から着陸までずっと寝てる方とかいるじゃないですか。

 あれと同じです。だって怖かったんだもん。ワープ。


 これも儀式の直前に色々と噂を聞いてしまったせいです。

 ワープ中に目を開けると幽霊とか精霊的なものが見えるだとか、魔界やら冥界やら地獄やらの一部が垣間見えるだとか。

 そういうのは目を閉じて耳をふさげばいいのですが、その噂の中でも実害を被りそうなのがワープ中の事故関連です。


 ある事故ではワープ途中で召喚先との接続が途絶え、戻ることも出来ずに現世と魔界の狭間に閉じ込められたとか。

 別のケースでは召喚先が分岐しており、上半身と下半身が別々の場所に召喚されてしまったということもあったそうです。


 はっきり言いましょう。こんなこと聞かされてビビらないはずがありません。

 私の場合では現世到着まで意識を保つのは無理です。変な音が聞こえただけで失神してしまうことでしょう。

 召喚主には申し訳ないのですが、到着したら起こして頂くことにしました。

 本当は召喚主に対してナウい決め台詞を言いつつ俺使えますぜアピールしなければならないのですが、理想と現実ってのはなんとも相容れないものです。


 そんなことを思いつつ、ワープ中に目が覚めたら無理矢理二度寝をすることを繰り返し。

 無事に現世に召喚されました。めでたしめでたし。


 さて、前置きはこのくらいにして本題に移りましょうか。


「ぐー・・・すー・・・」


 私は今、ベッドで寝ている幼女にネックロックを掛けられています。

 ハグなんて生易しいものではありません。確実に意識を刈り取りに来ています。

 何故こうなったのかは分かりません。目が覚めたらすでにキマっていました。


 ベッドの上でプロレスごっこは大人の嗜みですが、ガチのプロレスをすることになったのは初めてです。

 ロープもありませんし、完全にキマった裸締めは脱出不可能っていうじゃないですか。

 いや、一応脱出するために抵抗はしましたよ。ですが体を動かせば動かすほど締め付けが強くなっていくのです。

 体をよじってもそれに合わせて腕が吸い付いてくるのです。ハルクホーガンの生まれ変わりかと疑うほどのテクニックでしたね。

 しまいには「おいしそう」とか寝言を言って私に何度も噛みついてきました。おかげで私の体は歯形まみれ+唾液でべちょべちょです。


 さすがにこのまま物理的に美味しく頂かれるのは勘弁ですから、大人しく起きるのを待つことにしました。

 無理矢理起こせ?紳士にあるまじき振る舞いですよそれは。


「ぐー・・・わぎりにして・・・さしみにすると・・・うまい・・・」


 なんか物騒な寝言が聞こえてきましたが、私のことではないと願うばかりです。


 どうやらここは寝室のようですね。それほど裕福ではない家みたいです。

 召喚用の魔法陣もないでしょうね。まあ儀式には学校のグラウンドばりに大きな魔法陣と体育館に全校生徒を集めるばりの収容人数が必要ですので、この家では無理でしょう。

 そういった場所が近くにあるのなら魔力の余波で分かるはずなのですが、どうもこの幼女プロレスラーのせいでそういう系の感知出来なくなっているようです。

 何らかの形でスピリチュアルな干渉を受けているようですね。この幼女は私の魔力も寝ながら吸い尽くそうというのでしょうか。


 え?幼女の容姿についての説明が欲しいですか?

 とはいいましても、白いロングヘアにネクリジェを着ているとしか説明のしようがありません。

 人間の顔なんて判別出来ませんしね。猿が祖先だけあって顔のパーツが猿っぽいなという感想しか出てきません。

 雰囲気やら体格やらでまだ幼い子どもだということは分かります。ちっこいだけの大人かもしれませんけどね。


 しかし、まさか召喚主に起こして貰うどころか、そのまま幼女の抱き枕として捨てられるとは思っても見ませんでした。

 いや、もしかしたら召喚に失敗して枕を引き寄せちゃったみたいな勘違いだったのかもしれません。

 それなら仕方がないですね。現世の人から見たら私の姿は枕にしか見えないって言いますし。

 顔の無い私では、寝ているかどうかの区別も付かないですからね。いきなり魔法陣に動かない私が現れたらそう思ってしまうのも無理はないでしょう。


 でも召喚獣を使役するほどの身分の方なら、歯がゆい決まり文句とか考えてそうだなって思ったのですが。

 お主が我が隷属か~とかお前の命を預かるぞ~的なセリフとか無かったんでしょうかね。

 そういうのがあれば気が付いてすぐ起きたのに。これじゃ私の第一印象が最悪じゃないですか。召喚されたのに気付かず寝てたってことになっちゃいますよ。もう。


 とりあえず幼女が起きたら召喚主の行方とかその辺を先に聞き出しましょうか。


「ぐー・・・すー・・・・・・・・・・・・・・・・・・ぐー・・・」


 今息止まりましたね。睡眠時無呼吸症候群ってやつでしょうか。

 日頃よっぽどストレスを溜めてるんでしょうね。寝る前にストレッチするとリラックス出来てよろしいかと。


 しかしこの子はいつまで寝てるのでしょうか。日も傾きかけてるし、お昼寝にしては長すぎやしませんかね。

 もしかして夜行性なのでしょうか。紫外線はお肌の敵みたいなやつでしょうか。

 それとも闇に紛れてモンスターをハントする的なやつでしょうかね。銀の矢で清めてやろう的な。

 3回攻撃で確定クリティカルとか出したりしそうですね。

 ウルト吐いてもビジョンワード置かれてタンブルの移動先がバレバレになったりとか。いえ、こっちの話です。聞き流してください。


「ぐー・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 今度の発作はえらい長いですね。酸欠で頭がパーンになってそうです。

 夢の中で水泳でもしてるんでしょうか。海で溺れる夢とか見てそうですね。

 想像力次第では魚になってエラ呼吸出来るはずですよ。がんばってください。

 間違っても海の中だからと言って放尿してはいけませんよ。目が覚めたら己の無力さを嘆くことになりますので。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 ・・・あれ?息してなくないですか?

 いや、いびきが聞こえなくなっただけですねね。ひょっとして目が覚めたのでしょうか。

 そうと分かれば早速話しかけてみましょう。スキンシップはもう十分ですので、言葉での対話を要求します。


 さあ、いよいよ現世でのファーストコンタクトです。状況が状況だけに不安ですが、なるべく刺激しないようフレンドリーに接せねば。


 もしもーし、おは幼女。


「・・・・・・・・・・・・・・・えっ・・・・・・誰?」


 幼女が驚いた様子で体を起こしました。その状態でも私を離さないとは訓練されてますねこれは。

 まあ寝起き直後のパッパラパーな脳みそとはいえ、いきなり知らない人の声が聞こえたらガチビビりしますよね。

 その証拠に私を締め付ける力が強くなって・・・ギブギブ。

 ちょっと中身が出ちゃいそうなのでさっさと話しを進めちゃいましょう。


 私ですよ私。あなたがガッチリホールドしてる私です。


「ふぇ?」 


 ふぅ、ようやく幼女必殺のネックロックが解けましたね。

 その代わりに私の体をクルクル回しながらいろんなところを殴ってます。

 別に綿とか詰まってないですからね。チャックとかもありませんよ。

 ていうか普通に痛いので止めてほしいのですが。まあパイルドライバーとかジャーマンスープレックスとかされるよりはマシですけども。

 他にも6次元殺法とか隠してそうですが、下手なこと言って実際に喰らうと頸椎が破壊されそうなので触れないでおきましょう。


「・・・まくらがしゃべった・・・・・・」


 枕じゃないから喋ったんですよ。生き物は大切にしましょうね。


「すごい・・・しゃべるまくらだ・・・」


 いや枕じゃないですって。脇腹をつままないでください。敏感なんですそこ。


 幼女に為されるがまま乱暴されて私の心はボロボロです。

 まあギャーギャー騒がれてパニくられるよりはマシですけども。ていうか普通そういう反応しませんかね。

 てっきりすぐにお母さんでも呼んでくると思ってましたが、私をいじくるのに夢中でベッドから出る気配すらありません。

 変わった子ですね。でも私にとっては都合がいいです。子どもって口軽そうなイメージですし、色々と聞き出せそうですね。


 そろそろ気が済んだでしょうか。私は怪しい者ではありませんよ。夕諸正しき召喚獣です。


「どうやってしゃべってるの?口どこ?」


 着眼点そこですか。いやまあそういう魔法使ってるだけなんですけど。

 というよりもっと違うところにツッコむべきではないでしょうかね。召喚獣ですよ召喚獣。

 こっちの世界の貴族とか上級な冒険者とかが大金叩いて下僕を召喚するアレですよ。

 本当なら今頃名前を頂いてその足でカッコいい防具とか買いに行って、次の日には主人の肩に乗っかって旅したりどーでもいい話したりしてるはずなんですよ。

 何故に幼女のサンドバックになってるんですか。召喚主はどこですか。お答えください総理。もとい幼女さん。

 

「うーん・・・名前かぁ・・・」


 いや話聞いてましたか?名前は君が決めることじゃないですからね。

 ちょっと大人の人呼んでくれますか。まだ寝ぼけてて話が通じないみたいですし。

 別に捨てられたんなら捨てられたでいいですから。召喚主探し出してぶち殺して魔界に帰りますので。


「じゃあ・・・マクラ!」

 

 またえらく率直な名前を。じゃあ寝具の方の枕はなんて呼ぶつもりなのでしょうか。

 藁は英語でストロー。じゃあストローは英語でなんていうの?みたいな混乱が起きちゃいますよ。


『芸名:マクラ に設定完了しました』


 ・・・・・・ん?何か変な声が聞こえましたね。

 召喚獣名付けシステムがバグりましたか?そもそも名付けは召喚主にしか出来ないはずなんですけども。


 ちょ、リセットとか出来ますよね。もっとイカした名前がいいんですけど。

 ホワイトデビルとかどうですか?デストロイホワイトボールとか。この際ポチとかタマとかでもいいんですけど。


『貴方に芸名を変更する権限はありません』


 いやそうなるのは分かってますが。例外ってことで何とかなりませんかね。

 この名前だと雑貨店に羅列されても違和感ないじゃないですか。

 お手頃価格で取引されるの嫌ですよ。ポイント二倍とかもってのほかです。


『無理ですマクラ。諦めなさいマクラ。前に進むのですマクラ』 


 語尾みたいになっててすごくマヌケっぽいですよ。

 いやもうこれどうしたらいいんでしょうか。ちょっと責任者呼んでください。


「はーい。せきにんしゃです」


 ビシッと敬礼をしてはいますけども、ネクリジェのまま座った状態でされても威厳もへったくれもないですよ。

 いいから早くお母さんか誰かをですね・・・


「わたしがご主人様です。あがめなさい」


 ・・・・・・ん?

 今私の中である答えが浮かび上がってきました。

 いや、ありえないはずなんです。でもこれが正しいとすると、この一連の騒動が合理的に説明出来てしまうんです。

 まるでパズルが組み合わさるように、全ての歯車が噛み合うように、ルービックキューブが1面揃えられた時のように。

 信じがたい事実が今この瞬間確定しました。


 もしかして私を召喚したのって・・・君?


「ちがう。そんなの無理に決まってんじゃん。なにいってんの」


 違うんかーい。じゃあどういうことなんでしょう。


 次の瞬間、幼女の口からとんでもない事実が明かされました。

 流石の私も動揺せざるを得なかったです。予想の斜め上を行くという表現がありますけど、これは斜め上どころかそのまま雲を突き抜けて天国まですっ飛んでいくレベルでした。


 いやぁまさか九九の7の段も出来なさそうな幼女がね。


「えっとね、・・・・・・ぱくった!」


 犯罪の片棒を担ぐとはね。

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