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白くて丸くてフサフサです  作者: メタいです
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プロローグです

 拝啓、皆様初めまして。私です。

本当は初めに名前を名乗るのが礼儀ですが、どうせすぐに改名しちゃうので言っても無駄でしょう。


 私は今、巨大な魔法陣の中央に鎮座しております。

 立派な魔法使いに使役されることを夢見て早十数年。猛勉強猛特訓の成果もあって召喚獣育成学校を卒業したのが先月のこと。

 ようやく順番が回って来て、今こうして現世に召喚されようとしているわけですね。

 が、何やら召喚先の手続きで揉めている様子。召喚の儀式中はこの魔法陣から出ることも出来ないし、下手に動いたりも出来ないので大変暇です。

あんまりにも暇なので自己紹介がてら自分語りでも始めましょうか。


 皆様、召喚獣と聞いてどんな姿を想像されますか?

 大体の人はでっかい犬やらドラゴンやら妖精的なものを思い浮かべることでしょう。

 しかーし、私はそんなテンプレではありませんよ。ていうか何の種族かっていうのも説明しづらいです。

 私の姿は簡単です。まず楕円を想像してください。以上です。

 私には先の召喚獣に見られるような目や口や鼻といった器官もありませんし、手や足みたいなひょろひょろしたものもついておりません。

 一応全身に白いふさふさとした短毛がびっしりと生えてはおりますが、まあおおよそ丸っこい以外に特徴のない体をしております。

 一見すると白いスライムに見えますね。まあ私はビチャビチャした粘液とかも出しませんし、魔力以外食べないのであの単細胞馬鹿よりもクリーンであるとだけ言っておきましょう。


 そんな私が何故卒業できたのか、ていうかどうやって喋っているのか、そもそも日常生活はどうなってんだなんて疑問も抱いていらっしゃることでしょう。

 答えは簡単。私は魔法が使えるのです。

 そうです、ファンタジーです。剣と魔法のなんとやらです。そもそもここ魔界ですし。

 卒業できたのは魔法が使えるからです。口が無くても喋れるのも魔法が使えるからです。

 日常生活も魔法を使えばどうとでもなります。手足が無ければ魔法を使えばいいじゃないbyマリー・アントワネットです。

 歩けないのならホバー移動すればいいのです。足なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。


 でも戦闘系の魔法はあまり得意ではありません。メラ〇ーマとかジコス〇ークみたいなかっこいいのは無理です。

 基本的に召喚獣というものは戦闘が出来なければ話になりません。

 主人を守るのが勤めですので。主人に守られてちゃいかんでしょってことですね。

 モリモリマッチョなゴリラみたいな奴なら魔法が使えなくても肉体美でどうにかなるのですが、私は見ての通り華奢ですので。

 見た目や体格で抑止力にならないのであれば実力でねじ伏せるしかないのです。


 よって私は戦闘系魔法のプロなのです。矛盾しているようですが、これには訳があります。

 そりゃ魔族とかが使うマジ物の戦闘系魔法は無理ですよ。魔力をゴッソリ使うので私の魔力量ではちと辛いものがあります。

 魔力が無尽蔵とか、どんな魔法でも使えるぜ的なチート要素もありませんしね。

 私の場合、まともなのを一発撃つだけで魔力切れになってアヘ顔ダブルピースのまま失神してしまうでしょう。

 ていうかバリバリ戦闘種族ってわけでもありませんので、魔力量的にはぶっちゃけ平均以下です。その辺のスライムのほうが多いくらいですし。


 しかし、力に勝るはテクニック。限られた魔力を賢く使ってこそプロの仕事なのです。

 狼の群れとかに襲われても焚き火程度の火魔法で十分追い返せるのです。群れ全体を丸焼きにする必要なんてないのです。

 意識高い系の召喚獣は主にドヤ顔出来てご満悦なのでしょうが、その余波で火事にでもなったらと思うと気が気でなりません。

 その火事を消すのにもドヤ顔で大雨を降らせたりするのでしょう。そしたら主人がずぶ濡れになって風邪を引いてしまうとか考えないのでしょうか。

 私が卒業できたのも実用性の高い日常系魔法とその応用が評価されたからですので。

 ドラゴン的な強さよりも家庭的な強さが重視される時代になってきたってことでしょうね。母は強しとはよく言ったものです。


 さて、自分語りはこれくらいにして私の家族の紹介をしましょうか。

 私のちょうど前方にいる白くて丸くてフサフサなのが父です。その隣の白くて丸くてフサフサなのが母です。

 その近くにいるちっちゃいのが弟です。その上に乗っかってる更にちっちゃいのが生後まもない妹です。

 皆私のことを魔法陣の外から固唾を飲んで見守ってくれています。まあ固唾を飲む口はないし見るための目もないんですけどね。

 召喚の儀式がすごい長引いているので不安そうな表情ですが、特に顔もないので見た目は楕円形です。


 父は威厳たっぷりな楕円形で、母は優しさ溢れる楕円形ですね。ああ、見ればわかりますよね。失礼。

 しかし改めて見ると弟は父親似ですね。妹はまだ幼いので分かりませんが、たぶんあの楕円形だと母親に似るんじゃないかなと思います。

 私はどちらにも似ていないそうです。なんでも突然変異級の超絶美形な楕円形に生まれたのだとか。

 でも魔物は見た目じゃありません。中身が重要です。

 弟達には清く正しい楕円形であってほしいと兄として願うばかりです。


「準備が整いました。ご親族の方々は白線の後ろまで下がってください」


 やっと待機時間が終わったようです。まるで電車が到着する時みたいな注意の仕方でしたが、まあ深くは突っ込まないほうがいいでしょう。

 いよいよ現世ですね。家族と離れ離れになるのは寂しいですが、これは私の長年の夢でもありました。

 買って来たばかりのゲームのオープニングを見てるようなワクワク感です。不安もありますが、気に入らなかったらゲームショップに行って売ればいいんです。

 新作ゲーなら売り逃げ出来ますし。どこかのジョジョなオールスター格ゲーみたいに買取拒否レベルまで値段が下がってからでは遅いのです。

 話がそれましたね。もはや意味も分かりません。軽く聞き流してください。


 あとは召喚主が私のことを座布団代わりにするようなド腐れ外道じゃないことを祈るばかりです。

 まあ多少のセクハラは許しましょう。私は自分で言うのもなんですが、ナイスバディな楕円形ですので。

 モテるのは仕方がありませんし、多少のお痛で主従関係をぶち壊すわけにはいきませんしね。


「これより、・・・えっと、白くて丸っこくてフッサフサなやつの召喚の儀式を行う」


 えらい適当ですね。

 最期くらい本名で呼んでほしかったです。いくら召喚先で新しい名前になるとはいえ、こっちの世界じゃ見納めなんですから。

 ていうか召喚の儀式って名前だと私が召喚されるみたいなニュアンスじゃないですか。送る側なんだから転送の儀式って改名したほうがよくないでしょうかね。

 と思ってはいるものの口には出せません。もう儀式は始まっているのですから勝手な行動は控えないと。


「汝、召喚主を主と認め、命果てる最期の時まで付き従うことを誓うか?」


 誓います。


 大げさにこんなこと言ってますが、仮に主が死んだ場合は召喚獣だけ元の世界に戻るのでどうということはありません。

主がウンコヤローなら魔法でさっさとぶち殺して帰ってきますよっと。


「ではこれより転送の儀を行う。最期に何かご親族に言い残すことはありますか?」


 楕円形に恥じぬよう、召喚獣としての役目を果たして来ます。どうかお元気で。


 私の最期の言葉を言い終わるや否や、魔法陣が不気味に輝き始めました。

 地面に刻まれた呪文から訳の分からない記号とか図形が浮かびあがり、私の周りを旋回し始めましたね。

 転送を担当しているスライム達がビチャビチャと体液をまき散らして魔力を込めてます。魔法陣にも思いっきりぶっかかってて非常に汚いです。


 やがて魔法陣から溢れ出る魔力がとろみを帯びて私の体に絡みついてきました。

 家族の目の前で触手攻めですね。別に興奮はしません。

 R-18的なのでもマッサージ的なのでもないです。全身を生ぬるいのでまさぐられてるだけです。

 うわっ気持悪っ、という感想しか出てきません。

 徐々に魔法陣の輝きが増し、目を開けていられないほどの光が一面を覆っていきました。

 甲高い金属音が魔力の飽和状態を知らせています。ヤカンが沸騰した時と同じですね。


「座標、125の234の332の2とか3辺り、あとはノリで、ワープ!」


 その掛け声と同時に全身が引き伸ばされる感触がありました。足元に黒い穴が現れて引きずり込まれていきます。

 えらい座標がアバウトだったが大丈夫なのでしょうか。スター〇ォーズでもワープの座標を間違えると天体と衝突したり超新星の近くを通ってあの世行きになるって言ってたましたし。

 でもよく考えたら召喚の儀式って相手側もいるのであって、多分適当でも自動で吸い込んでくれるのでは。


 あと転送の直前に「あっやべ」という声が聞こえましたが、何がやべぇんでしょうかね。

 ここまできてミスとかそういうのは無いでしょう。あなたもプロなんですから。

 いや、プロほど成功し続けるとミスに対する意識がなくなっていくって言いますし。まさか本当に超新星の近くを通るんじゃないでしょうね。


 そんな不安の中、徐々に意識が遠くなっていく。

 今となっては最期の言葉が絞首台を目の前にした死刑囚っぽくなりましたね。

 宇宙戦艦ヤ〇トでもワープって気分悪くなるって言ってたし、ワープ酔いとか大丈夫でしょうか。まあ関係ないでしょうけど。


 さて、じゃあ計画通りに事を進めますか。


 この言葉を最期に、私の意識はそこで途切れました。


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