表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delete  作者: Ruria
第二章
8/180

リビング


 廊下には赤い絨毯が敷かれているが、前後真っ暗で先が見えず、周りにある蝋燭の火が不気味に怪しく揺らめいている。ここまで薄暗いと、狂者がどこから現れるのか、全く予想がつかない。


 寝室を滅茶苦茶にした、あのガキ狂者。出会い頭には絶対に逢いたくない。


 前も後ろも先が見えない恐怖に襲われながら、より慎重に行動していた。


「ホントここ、広いよね」

「そうだね。あっ。リビング、確かこの辺のはず」


 辺りを見渡すと、左右に扉があった。


「麗。どっちから入る?」

「んー、右から見てみよっか」

「了解」


――ギー……ギギギギギギ


 私達はそっと右側の扉を開けて入り、念の為、内側から鍵をかけた。これで大丈夫。うん。


 薄暗かったが、ベージュのソファの前にガラスのテーブルが置かれている。壁周りには沢山の棚や装飾品が飾られていた。


「ここだね」


 そう呟くと、探索を始める。麗も壁の周辺から探索を始めた。





「望。もしかして、探してたものって、これ?」

「ん?」


 探索して少し経った時であった。棚を漁っていた彼が、こっち来てと言って手招きすると、おもむろに大きなクッキー缶を渡してきた。


「これ、クッキー缶じゃない?」

「開けてみればわかるよ」

「う……うん」


 言われるがままに缶を開けてみる。すると、中には針と糸が沢山あった。針もきちんと糸が通っていて、針山に刺されている。間違いなく裁縫道具だ!


 なるほど。確かにクッキー缶ぐらいの大きさになると、そのデザインの可愛さから、裁縫道具やちょっとした小物入れにする人も多い。少しだけ納得した。


「望は何か見つかった?」

「うーん、まだ……ん?」


 ふと、ガラスのテーブルの上に置かれたあるものを見つけ、手に取ると、彼は背後から覗きこむようにして見ていた。


「これは、本かな。でも、なんでこんな所に?」

「流石に僕でも分からないなぁ」


 困った顔をして辺りを見渡している。


 普通は子供部屋や書斎に置いてあるはずなんだけど、パラパラと見る限り、ひらがなばかり書かれているから、子供向けだろうね。そう思い、手にとって捲ることにした。


―――――――――――――――――――――――


 【アダムとイヴ】


――むかしむかし、エデンとよばれたところに、アダムというおとこのこがいました。


 アダムはひとりでエデンをみていましたが、さみしくなり、じぶんのからだをつかって、イヴというおんなのこをつくりました。


 そのときかみさまは、アダムにこういいました


「ほかのみはたべてもいいけど、ちえのみはぜったいに、たべてはいけないよ」


 そういわれ、アダムはかみさまのいうことをちゃんとまもっていました。


 やがて、イヴはアダムとむすばれ、ふたりでなかよくくらしていました……


―――――――――――――――――――――――



「んー、見た限り、特になさそうだけど」

「次、めくってみよう」

「そうだね」


 勧められるがまま、私は更にめくってみることにした。



―――――――――――――――――――――――


――ところが、


「たべてもだいじょうぶだよ。ちえのみをたべたら、あたまがよくなるんだよ」


 あくまがヘビにへんしんし、イヴにこっそりとちえのみをたべるように、すすめてきました。

 ちえのみをたべたイヴは、アダムにもおしえ、むりやりたべさせました。


 かみさまはそれをしって、カンカンにおこり、やくそくをやぶったばつとして……


 『イヴはひだりて、アダムはみぎてをけんできられて、からだはズタズタにきりきざまれたのでした』


――――――――――――――――――――――



「え?」


 何故か、一番下だけ血文字でそう書かれていた。

 これ、子供向けの本だよね。教育上よろしくないけど、一体誰がこんなことを。


「元々、こんな話?」


 喜び以外の感情が無いせいか、最後の正しい話がうまく思い出せない。なので彼に訊ねてみることにした。


「んー、内容からして、アダムとイヴの創世記の話だと思うけど、最後は体をバラバラにする様な恐ろしい結末ではなかったよ」

「そう」


 顔は青ざめていたけど、気さくに答えてくれた。私に心配かけまいと平常を装ってるかのようにも見えたが、寝室であの腕見てからのこの文章だから、誰でも怖いと思う。


「そういえば、この話って、詳しくいうとどんな感じなの?」

「アダムとイヴの話ね。確か……」


 そう言うと、丁寧に解りやすく教えてくれたので、お陰で少しだけ内容を思いだすことができた。確か、最後の罰は衣を与えてエデンから追放した。という流れだ。


「ところで、裁縫以外になにか良いの見つかった?」


 気分転換に話題を変えてみるが、彼はううん。と首を横に振る。


 ここでの収穫は針と糸と、変な本だけか。本は持っていてもしょうがないから、元の場所に置いておこう。

 でも一体、見取り図はどこにあるんだ? もしかして、他のところかな。


「麗。ここにいても埒開かないから、次行こう。針と糸は手に入った。それだけでも、今の所は嬉しいかな」

「そう。だね」


 彼は元気がなかったが、前向きに考えることにした。






 リビングから更に奥に行くと、立派なIH付のキッチンに食器棚、ダイニングテーブルが備え付けられている。テーブルクロスもかかっていて、海外にありそうなお洒落なキッチンだ。ここに見取り図があるのかな。


「キッチン……」

「そうだね。あっ! 望!」

「ん?」


 麗が私を呼ぶと、振り返って相槌を打つ。よく話しかけてくる彼が、子供みたいで可愛く見えてしまう。


「僕は食器棚から探してみるね!」

「わかった。じゃ、私はそこを調べてみる」


 そう言って、キッチンに取り付けられている収納棚に指差す。電気も付いてないので、見るからに不気味で怪しさが漂う。


「でも、気をつけて。望に何かあったら、僕、不安だよ」

「うん」


 淋しげに言う彼に笑顔で返すと、二手に別れて一つ一つ調べることにした。


 シンクには何もなく、誰かが使った形跡もない。蛇口をひねったら、茶色く濁った水が出るようだが、すぐ様に締めた。カウンターは食器が乱雑に置かれていて、IHだけは綺麗に拭かれていた。


 そこだけゴミが一つも無いのが気になる。でも、変なことを考えるのは止めよう。


 次に見たのはシンクの下。そこは開き戸になっていて、大きな収納棚が二つ、その隣のカウンターの下にも引き出しが三つ。更に隣のガス台の下にも開き戸が一つ。

 まずは、下を開けてみる。奥行きが思ったより広かったが、排水溝があるだけで何もない。

 次は引き出しを一段一段漁ってみることにした。一番上は、鍵が掛かっている為、開けられなかった。なので、真ん中を開けてみると、中には調理用ハサミ、長いさえ箸などの調理器具がしまわれていた。


「見取り図はどこ?」


 そう呟いて一番下を開けてみると、料理本が何冊かしまわれていた。なので気になって本をめくると、少し大きめの切れ端らしきものが挟まれていた。もしかして……。


 そう思い、恐る恐る開けて切れ端を取り出してみる。


―――――――――――――――――――――――


 だけど、いとこがぼくのめのまえでわらいながら、だいじにしていたぬいぐるみを、はさみでぼろぼろにしたんだ。


だから、ゆるさない!


―――――――――――――――――――――――



 もしかして、子供部屋で見つけた日記の一部か!


 日記の切れ端を見つけ、ポケットにしまう。

 そういえば、麗は何か見つけたのかな。声をかけてみることにした。


「ねぇ」

「どうした?」

「なにか見つけた?」

「あっ。さっき、食器棚の中から、こんなのみつけたよ」


 そう言って渡してきたのは、銀色に輝く小さな鍵だった。


「てことは」


 おそらくは、キッチンの一番上の引き出しの鍵。

 彼から鍵を受け取った私は、先程の引き出しに差し込んだ。


――ガチャッ、ガー……


 すんなりと開いた。でも、良いものではなかった。


「また、これ」

「望、まさか、例の手かな」

「うん。天秤に乗っけるやつ」


 そう言って、切られた右手を見つけた。右手は大きくがっちりとしていて、寝室で見つけた左手とは、硬さが違う。しかし、これも不思議と腐敗が無く、真っ白で切り口も綺麗に切れている。尚かつ、血も流れてない。もしかして、模型か?


 ふと、今の状況を確認した。そういえば私のパーカーのポケットの中、拾ったものばかりでもう入りきらない。どうしよう。


「バックとか、その辺に無いかなぁ」


 呟くように辺りを見渡す。流石に手の模型を、ポケットの中に突っ込んで持ち歩くのはかなりひいた。


 すると、彼がおもむろにリビングから、黒色で猫耳がついた可愛いリュックを持ってきて、チャックを開ける。


「これならどうかな?」

「あっ! それならたくさん入れられそう!」


 そう言うと、右手をリュックの中にそっと入れた。ついでに日記、ペン、プラスドライバー、充電器、腰にお飾り程度につけていたレプリカの剣を入れて、背負ってみる。


 思ったよりは重くない。これはとても便利! ということで、そのままいただく事にした。でも、こんな可愛いリュック、どこにあったのだろう。


「後は来た道を戻って、だね」

「うん。でも、どうなるか分からないから、これからも慎重に行こう」

「そうだね」


 無表情で頷いていたが、内心は怯えていた。生々しい物ばかり見せられ、泣きたかったけど泣けなかった。


「麗」

「どうした? 望」

「あ。えっと、ありがとう」

「えっ? あっ。此方こそ」


 お互い、顔を真っ赤にしてお礼を言う。傍から見れば、初デートでぎこちなさが残るカップルのようだ。


 私達は狂者が来てない事を確認し、リビングからそっと出て行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ