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Delete  作者: Ruria
間章3
73/180

モニタールーム1


「ぁぁぁあー! くそっ!」


 俺は無性に込み上げてくる激しい苛立ちと悔しさを募らせながら白い仮面を剥ぎ取る様に投げ捨てると、机を思いっきり叩いてモニターを睨みつけた。

 まぁ、ボタンを押した後だったから、モニターに映る悪魔達に聞かれなかったのが不幸中の幸いだ。


「はぁ……」


 まさか、あんな予想外なことが起きるとは。

 全く予測してなかった展開に、戸惑いを隠せない。そのせいか、どこに怒りをぶつければいいのか分からず、薄暗いモニタールームで一人、大きな溜息を漏らす。


「兄、さん?」

「ガブ!? お前……!」


 すると、いつの間にか俺の背後にいたガブが、心配そうな表情で見ながら声をかけてきた。


「ていうか兄さん! 一体どうしちゃったのさ!? 急に顔真っ赤にして怒るなんて、兄さんらしくないなぁ」


 しかし、心配の言葉とは裏腹に、彼の両手にはビックサイズのポテチ(コンソメ味)を抱えている。


「あぁ。かなり面倒なことになっちまってさ」

「そなの!?」

「そうだ。ったく……」


 人の心配をしてくれるのはありがたいが、ガブは俺よりポテチの方が大事なんだ。そっかそっか……。はぁ。

 そう思うと、何故か虚しくなってしまったので、俺は彼に悟られない様、再び深く溜息をついた。


「まぁ……、ボクはさっきここに来たばっかだし、兄さんと悪魔達との間でどんな会話をしていたのかなんて、全く知らないけど」


 彼はというと、俺の悲しげな気持ちを知ってか知らずか、呑気な口調で言いながら水色の回転椅子に腰掛け、美味しそうにポテチを頬張っている。


「でもね、一つだけ言えることがあるんだ」

「一つだけ言えること、か?」

「うん。それは……」


 食べながらそう言いかけると、何かを伝えるかの様に水色のノートパソコンを開いて文を打ち込み始めた。


「何だ? 勿体ぶって……」

「まぁ、早くパソコンの中身を見てよ。ね!」

「ったく……、近くにいるなら直接言えばいい話だろ」


 俺は少し苛立ちながらも、引き出しから黒いノートパソコンを取り出し、机に置いて起動させると画面を開く。


「これって……」


 ウィンドウをよく見てみると、そこには「新着メール 1件」と書いてあった。

 なので、俺はカーソルを近くまで持っていき、タッチパッドを押してみると、「『Green』がついに本性を現した」と文面に大きく書かれていた。


「ふっ。実はそいつのことで今、頭を悩ましていたところだ」


 思わず鼻で笑ってしまったが、その事なら俺も知っている。なのに、何故、わざわざ回りくどいことをする必要があるのだろうか。ガブの不思議な行動に、疑問を抱く。


「だろうねー。それはそうだけどー、本当にボクが言いたいことは、そこではないんだー」


 彼はというと、俺の近くで呑気にポテチを頬張りながらも再びメールを送っていた。


 今度はなんだ?

 疑問に思いながらクリックして開けてみると「それと……」と意味深な文で帰ってきたので、俺も「何だ?」と打ち返してみる。

 すると、「ぶっちゃけ言うと、この上にあるセンター自体、何か変なんだよね」と、如何にも意味深な文で返ってきた。


「はぁ!?」


 なので、俺は思わずノートパソコンを勢いよく閉じて席を立つと、すかさず彼の元へと詰め寄る。


「これ、どういう事だ?」

「何かね。簡単に言っちゃうとー、センターのお偉いさんが変な事を企んでるってさー」

「センターのお偉いさんが?」

「うん」


 彼はニコニコと笑いながらそう言うと、袋をガサゴソと音を立てながらポテチを一切れ取り出す。


「って、お前、どっからその情報を仕入れた?」

「あー、じょーほー?」

「そうだ。それ以外に何がある」


 しかも、それを聞いたのは初耳だ。

 俺は心の中で思いながらも、幸せそうな顔でポテチを頬張る彼に問いただす。


「んーと……、双子のお姉さん達からだよ? ねっ! ラファ姉さんに、ウリ姉さん!」


 そう言うと、彼は背後にある自動ドアに向かって呼び始める。


――ウィーン……


 すると、自動ドアの起動音と同時に、金髪の女性と赤髪の少女二人組が颯爽と入ってきた。

 服装は俺やガブと同じような全身に纏った黒いローブで、目には黒いレーザーアイを着用している。


「そだねー。ガブちゃん! ってミカにぃおひさー!」


 そう言うと、金髪の彼女はバシバシと俺の肩を容赦なく叩いてきた。その為か、肩はかなり痛い。


「おひさー。っておい。ラファ!」

「なによー」

「さっき、ガブが言ったことは本当なんだろうな?」

「あったりまえじゃーん! うちを誰だと思ってんの?」

「ったく……」


 俺はまた面倒臭い奴が来た。と言わんばかりに深く溜息を漏らす。


 あぁ。この口煩い女はラファ。見た目はどっかのお姫様みたいに金色で髪を巻いていて、紅い口紅を付けていて、顔だけ見れば何ともセクシーな女だ。

 ただ、コイツの口調が上から目線な上、俺より年下の分際で馴れ馴れしく接してくる為、どうも苦手だ。


「あの……、お兄様、お久しぶりです!」

「おー。ウリも元気そーで良かった」


 ちなみに、ラファの隣にいる赤髪の少女はウリ。あれでもラファと血の繋がった双子の姉妹だ。

 こっちは口煩いラファとは正反対で、とても大人しくて内向的だが、洞察力が優れていて、イルミナでもSiri様と争う程の優等生だ。

 見た目も姉と全く逆で、茶色に近いダークレッドの髪色にロングストレートな髪型で、清楚なイメージがある。その為か、周りからの信頼も厚く、正に人気者と言った所だろう。


「それと、かなり話が脱線してしまったが、その、例の話を詳しく聞かせてくれ。ラファ、ウリ」

「りょーかい!」

「あっ。はい」


 彼女達は真っ先に返事をすると、ラファは黒いローブにあるポケットから、赤いUSBメモリを取り出す。

 そして、俺の黒いパソコンの差し込み口に挿し込むと、パソコンを自分の方へと向け、慣れた手つきでキーボードをカタカタと打ち始めた。


「ていうかさー、ミカにぃは『Green』が多重人格者なのは知ってた訳でしょ?」

「まぁ、ここにある資料にもちゃんと書かれてるからな。ったく。分厚すぎて全部見る気が……」


 俺はというと、パソコンの隣に置かれた山積みの書類に指を指しながら、ため息混じりに答える。


「ふーん……。だから、あんな喧嘩腰で『本人格を出せー』」って怒鳴ってたっつー訳ね!」

「っておまっ!? まさか、見てたのか?」


 すると、彼女が突然、俺しか知らない情報を話し出したので、驚きのあまり、声が裏返ってしまった。


「見てたっていうか、ガブちゃんがミカにぃのおサボり防止に付けてくれた監視カメラと盗聴器のおかげかな」

「ガブが!?」

「そーそー! って知らなかったの!? そのアホ面、まじでウケんだけど!」


 彼女はというと、そんな俺をよそに、ゲラゲラと笑いながら茶化し始めていたが、俺は思わず左手に持っていた煙草を口元へ寄せる。


 ったく……。


 あのポテチ野郎! 余計なことを!

 そして、俺は動転した気を落ち着かせようと、必死に煙草を吸っていた。


「でもさでもさー、ミカにぃはリアルタイムで悪魔さん達と画面越しで会話できるから、羨ましいよねー」

「まぁ、な」

「そ、れ、に! 『White』も『Green』に釣られて段々と本性が見えてきちゃってるしー。キャー。マジデ怖イワー」

「おい、お前。最後が棒読みになってるじゃねーか」

「あはははっ! だってそーじゃん!」

他人事ヒトゴトの様に言いやがって……」


 はぁ。と呆れ気味に言い返すと、俺の左隣にいたウリが、そっと俺の耳元でこう囁く。


「つまり……、これで『Green』と『White』の出生や、隠された秘密も、明らかになってくる。っていうことですよね」

「まっ。そういうことになるな」


 なので、静かに相槌を打つと、再びパソコンの画面に視線を向けた。


「それとー、このセンターの裏の秘密なんだけど……」

「あっ。それそれ。俺が知りたかったのはそこな」

「そこな。って……」

「だってさ、『Green』みたいなイカれた殺人鬼の情報なんてどーでもいいんだわ」


 俺はそう言いながら、何となく煙草を口に咥えていたが、正直、悪魔達こいつらのことを監視するのは面倒臭い。


「どーでもいい。って……。あのさ、あの子達はちゃんとした被検体なんだよ?」

「でもな、いくら被検体と言っても、相手は高校の餓鬼共だ。少しぐらい手加減を……」

「それ、Siri様にも同じような事言える訳?」


 彼女は呆れ気味に呟くと、再び画面に視線を向けながら俺に説教を垂れてきた。ったく、一々口うるせぇ女だ。


「いや、それとこれとは!」

「だからさ、Siri様の為にも、ちゃんと悪魔このこ達の面倒を見てよね。『運営』という名目で。わかった?」

「……はいはい」

「はいは一回!」

「……ふぁーい」


 しかし、口喧嘩で彼女にボロ負けした俺は、灰皿に煙草の灰を落としながら怠そうに返事をすると、そっとパソコンに視線を向ける。まぁ、そろそろ情報が出てくる頃合だな。

 彼女はというと、途中、幾つも仕掛けられたパスコードを簡単に入力しながらも、キーボードを打つ手を止めない。まるでハッカーの様に、巧妙に仕掛けられた罠を一つずつ解除していく。


「よし! でた!」

「ってお前……、パスコードはどうやって!?」


 俺はというと、ラファの華麗な打ち込み姿に見とれてしまい、思わず吸っていた煙草の灰を落としそうになっていた。


「あー。コードはウリちんがうまい具合にやってくれたんだ」

「ウリが?」

「あ。はい。お姉様はセンター内では医療事務員という立ち位置なので……」

「そっか」


 そういや、ウリは看護師の資格を持っているんだったな。

 だから、センター内では看護師として多忙な日を送っている様で、ここにはラファ同様、有力な情報を手に入れた時のみ、顔を出してくれる。

 まぁ、簡単に言うと、この二人は、センター内を常に監視する『諜報員スパイ』だ。


「どれどれ……」


 そして、俺は恐る恐る画面を見る。


「ってこれは!」

「センター長が……、っていう話、マジだったんすね!?」

「初めてこれを見た時、うちも驚いて凍りついてしまったよ」

「わぁ。院長……」


 すると、その情報は極秘データだった様で、俺を含めた四人は思わず凍りついてしまった。


 その内容は、とあるサイトに挙げられた告発文みたいな物で、背景は真っ黒になっており、


――ある総合医療センターの当院長は、過去に人を殺めたことがある。それも、故意に……


 と、赤文字で打ち込まれていた。


「これ……」

「おい。ラファ」

「な、なに!?」

「その、殺された人は誰だか、載ってるか?」

「えっと……」


 恐る恐る訊ねてみると、彼女は動揺しながらも、更にサイトを漁る。


「あった! って、えっ!? ここで『✕✕』が!?」

「おい! どうしたんだ! って……、何だこれ!?」

「院長が、『✕✕』さんの……、父を……」

「口止めの為って……」


 その衝撃的な文を見た途端、俺達は思わず絶句してしまった。


「これ、Siri様には、何て……」

「そんなの、わざわざワタシに報告しなくてもいいわよ」


 ふと、妖艶なお姉さんみたいな声が聞こえてきたので一斉に振り向く。


『ふぁっ!?』


 すると、そこにはピンク色の髪をしたツインテールの女性が、グレーのローブを身に纏いながら両腕を組んで仁王立ちをしていた。目元は俺達と同じく、黒いレーザーアイを着用している。


 ちなみに俺達イルミナでは、ローブの色によって、幹部か俺達みたいな下っ端なのかが分かるシステムになっている。

 下は黒から始まり、グレー、白と階級が上がるが、白のローブを纏ってる人はSiri様より上の方らしく、ここにいる歴が長い俺ですら、姿は一度も見たことがない。まぁ、見かけたら見かけたらで、ある意味奇跡の様な存在だ。


『Siri様!? なぜ……、ここに!?』

「そんなに驚くこともないでしょうに」


 俺達が驚くことをよそに、彼女はふっ。と微笑を浮かべながらパソコンの前に立つ。


「なるほど。うん。やっぱり。予想通りだね」


 そして、文章化された情報を一文字ずつ漁っていく様に眺めた後、一人で納得するかのように呟き始めた。


「えっ? Siriさん、まさか……」

「えぇ」


 なので、彼が彼女の顔色を伺いながら聞く。


「これで、ハッキリしたわ。院長が人殺しをしといて、涼しい顔でのうのうとこの世の中を生きている事も、自身の名に傷がつかぬ様、息子が犯してしまった事件をもみ消すのに一役買ったりしていたことも。ね」

「は……え……」


 何なんだ、この急展開。

 それを聞いてしまった俺は、まるで昼頃にテレビでやるドロドロなサスペンスドラマの様な展開を想像してしまい、声が出なくなってしまう。


「てことは、Siriさんはその、全て、知ってたんっすか?」


 俺達が唖然としていると、突如重くなった空気をかき消そうと、ガブが青ざめた表情で、恐る恐る彼女に訊ねていた。


「当たり前よ。それじゃないと、こんな実験紛いな処刑デスゲーム、最初っからやらないでしょ?」

「まぁ、確かに……、そうっすね」

「うん」


 俺は背後にいるSiri様とガブが話している所に、聞き耳を立てていたが、まさかなぁ……。この事の詳細は全て『Delete』の為だったとは。


「それと、ここに来たのはみんなに大事なお願いがあってね」

「お、お願い、ですか?」

「えっ!? なになに? Siri様、どう言うことなん?」

「そうねぇ……。実は……」


 彼女はそう言ってニコッと微笑むと、俺達の方へと振り向いて、こう命令した。


「貴方達だけで、『城崎源きざきみなと』を暗殺してきて欲しいの」

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