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Delete  作者: Ruria
第四章 EX
72/180

シャワールーム3



「えっ。何これ……」


 意を決して中へ入ると、あまりの変わり様に思わず声が引きずる。脱衣室はバスタオルやカゴが床に散らばっていて、足の踏み場が無くなっていた。


「レイ……」


 悲惨な状況と同時に、彼がどうなっているのかが心配になった私は湿ったタオルの上を慎重に歩き、水飛沫の音がする扉の前へと立つ。


「まさか……」


 ふと、あの時の血濡れた彼を見た光景が思い浮かび、取っ手を持つ手が微かに震えたが、ゴクリと唾を飲むと静かに扉を開けた。


「あれ?」


 しかし、中には誰もいない。シャワーが独りでにお湯を出していて、かかる水飛沫が温かく感じる。


「おかしい……」


 ここにいるはずじゃ。

 戸惑った私は中へ入ると扉を閉め、内側から鍵をかけると、服を脱いで全裸になる。


 そういえば最近知ったことだけど、このガラス、かなり曇っているから、外から見ても中の様子は全く見えない仕組みになっているらしい。

 だから、血がべっとりと付いていたあの時、中でどうなってるのかよく見えなかったから、開けた時の衝撃は今でも忘れられない。


 そんな事を思い出しながら、解いて黒いヘアゴムを手首に付けると、早速髪や体を洗う。


「はぁ……」


 ふと鏡を見ると、溜息をついてしまう程、上半身が痣だらけになっていた。両腕に付けられた煙草跡や痛々しい程に腫れた青痣。下を向くと、下半身にも痣が広がっている。

 そのせいか、見るだけでも夢で見てしまった『あの事』を思い出してしまい、自分自身に嫌気がさす。

 まぁ、今回は流石に服を着たままで洗うのは、洗い残しとかあって、臭い的にもまずいと思ったから裸になった。ただ、それだけ。


 そう心に言い聞かせながら、慣れた手つきで服を洗濯すると、お湯を止めて出入口付近に取り付けられた乾燥ボタンを押す。


「そういや……」


 ぬるい風に当たりながら思い出したかの様に呟くと、乾燥で乾かした服を着ながら中を隅なく見渡してみる。


「はは。流石にここには居ない。よね」


 思わず苦笑いしてしまったが、まぁ、いたらいたらでその時は、「変態」と言いながら火傷する程の熱湯を容赦なくかけとけばいっか。

 そんなことを思いながらボタンを止めると、シャワールームの扉を開けた。


「ん?」


 ふと、何かの気配を感じた私は再度、脱衣室の中を見渡してみる。


「えっ!?」


 すると、あの人が脱衣室の奥隅で体育座りをして蹲っていた。こちら側からだと顔色は見えない程俯いていて、何だか具合が悪そうだ。


「レ、レイ?」

「……」


 なので、顔を覗かせながら恐る恐る声をかけてみるが、反応がない。


「えっ。どうしよう」


 いつもなら「望?」って泣きながら言ってくるはずなのに。

 私は蹲ったまま動かない彼を見て、どうすることも出来ずにいた。


「そういえば……」


 戮さん、ヤバイって言ってたよね。

 ふと、脳内で忠告してくれた言葉を思い出すが、何だか放っておけない精神が働いているせいか、凄く心配になる。

 なので、私はセミロングの黒髪を靡かせながら、肩を軽く叩いてみることにした。


「……んん」


 すると、彼がむくりと顔を上げ、瞼を半分閉じた状態のまま、こちらを見てきた。

 頬は戮が言っていた通り、両サイドに掻き傷が残っていて、見ていて痛々しく感じる。それに、折角私が付けた湿布は掻きむしった勢いで取れてしまったのだろう、口元には小さくなった痣が未だに残っていた。


「起きた?」

「……起きたっていうか、クソ眠い」


 なので、優しく声をかけてみるが、彼は寝惚けた顔で言いながら再び俯く。


「眠いって……。そう言ってここで寝られても、正直困るんだけど」

「はぁ? 何で?」


 私は呆れ気味に相槌を打ちながら注意すると、彼は紫色の目をバッと見開きながら唖然としていた。


「ここ、脱衣室だから寝る所じゃない」

「そんな五月蝿く言わなくてもなぁ……」

「それに、まだ行ってない場所があるでしょ?」

「それは、お前が勝手に子分連れてクリアすればいい話じゃね?」

「子分って……」


 その言い方、不味いと思うけど。

 思わず呆然としてしまったが、私は顔色を全く変えないまま、彼との些細な言い合いが続く。


「ったく。お前はそーいう所、相変わらずだよな」

「相変わらず?」

「あぁ。全く変わってねぇ。変に堅苦しい所とか」

「堅苦しい? 私って、そんなに堅い人だったの?」


 疑問符を頭に浮かばせながら訊ねてみると、彼は真顔で「うん」と頷く。


「例えるなら、んー、そうだな……。カタブツの鬼女とか!」

「あのさ、そうやって人をからかうのもいい加減に……!」


 その後、ニヤニヤと笑いながら訳もわからないあだ名を付けてきたので、私はムキになって言い返そうとしていた。


「なぁ」

「え?」


 すると、彼が突然真剣そうな顔で呼んできたので、思わず戸惑った顔で聞き返す。


「オレが教室で言いかけた最後の忠告、ちゃんと守ったか?」

「守った?」

「あぁ。あの後突然眠くなっちまってさ、言いかけたままになっちまったけど……」


 彼は水色のコートの裾を軽くはたきながらゆっくりと立つと、私の耳元でこう囁いた。


「『レイには気をつけろ』」

「うん。それ、ちゃんと守ったよ」


 それを聞いた私は軽く相槌を打ちながらニコッと微笑む。


「ほぉー。そっか。ならいいけどよ」


 彼も彼でそれを聞いて安心したのか、安堵の表情を浮かべながら微笑み返してきた。


「お前ってさ、肝心な記憶は飛んじまう癖に、そーいうのは忘れずにきちんと守るんだな」

「飛んじまう癖って……」


 これは癖では無いのに。支配人に意図的に取られてしまってるんです。と言い返したかったが、相変わらずの「面倒臭い」が働いていたせいか、これ以上反論するのは止めることにした。まぁ、彼も上機嫌だからそのままにしとこう。


「ところで、うるは?」

「何だ?」


 ふと、聞かないといけない事があったのを思い出し、恐る恐る聞いてみる。


「その……、過去に何かあったの?」

「何かあったって?」

「例えば、小さい頃とか、学校で起きたこととか。もし、私のことを知ってるのであれば、その中の何処かに私がいたのかもしれないし……」

「小さい頃、か」


 すると、彼は暫く黙り込みながら腕を組み、何か思い詰めた様な表情で考え込んでいた。


うるは?」

「んー。参ったなぁ。あまりこの場では話したくない内容だが……」

「どういう、事?」

「そのまんまの通りだ」


 そっと聞いてみると、珍しく引きつった様な苦い顔をしながら白髪の髪を掻いていたので、何か隠してると思った私はしつこく聞いてみる。


「そのまんまって。それ、答えになってない」

「それが答えだ。引き続き、『レイ』には気をつけろ。いいな?」

「いやだ」

「何でだ。さっきまでやってただろ!?」

「違うの」

「何が違う?」

「その、『私にだけ』ちゃんと教えて欲しいの。だから」

「はぁ……」


 すると、彼は私のしつこさに観念したのか、思いっきり大きなため息をつきながら、床に散乱した白いバスタオルに視線を落としていた。


「まぁ、そんなにオレの事が知りてぇなら、お前に一個だけ、特別にヒントを出してやる」

「ひ、ヒント?」

「あぁ。今後役に立つヒントだ。そうだな……」


 麗はぼんやりと周囲を照らす豆電球がついた天井を見上げ、考えるかの様にそう言うと、私の耳元であるメッセージを残す。


「人を『信じるな』。いいな?」

「人を……、信じるな?」

「あぁ。ここは言っての通り、悪魔級の罪人が参加する殺戮ゲームだ。下手に人を信じると、お前が殺られるからな」

「それって……」


 驚きながらも脱衣場の扉に視線を向けると、彼は静かに頷き、全てを悟るかの様に小声で呟く。


「勿論、今、向こうにいるアイツらも含まれる」

「そんな……」

「あー。でもよ」

「ん?」


 私は思わずがっくりと肩を下ろすが、何かを思い出したかのように呟くと、両手をコートのポケットに突っ込みながら話を続ける。


「さっき、アイツらと話したんだ」

「え? いつ話したの?」

「それは内緒だが、愛とか、戮って奴、『色んな意味』でいい奴だな」

「あっ……」

「オレ、とんだ誤解をしてしまったみたいだ。お前の言う通りだった。その、ごめん」

「いや、別に謝らなくても……」


 彼は満面の笑みを浮かべながらも、何故か申し訳なさそうに謝っていたので、私は遠慮気味に返事を返した。


「まぁ、深い理由はないが、お前を泣かせてしまったのは悪いことだから謝った迄だ」

「そう……」


 この時。麗は戮さんみたいにあっさりとした人だな。と思いながらも話を聞いていたが、何処か違和感を感じる。

 そもそもここにいる人達って、悪魔級の罪人のはずなのに、『悪魔級』な怖さを全く感じない。

 教室の時は音楽室のことも相俟って、殺される恐怖と不安に怯えてしまったが、愛さんはかなり気さくに話しかけてくるし、戮さんは口悪いけどさり気なく助け舟を出してくるし、麗は……。


 あれ。可笑しいな。麗のことを思うと、一言で簡単に纏められない。


 フレンドリー? いや。違う。

 口は悪いけど実はいい人? いや。それも違う。


 頭の中で考えながら、今まで逢ってきた『仮面達』の事を振り返ってみる。


「んー……」


 確か、私に初めて会った時に見せていた『レイ』の姿は表の姿で、「誠実」や「社交的」「頭脳明晰」で、誰からも好印象を持たれる魅力的なイメージが強い。

 しかし、裏の姿は「独占欲」が強く、「傲慢」で欲しいものなら手段を選ばない。そんな二面性を持つ青年の仮面。


 そして、『うらら』は『レイ』が予想外の出来事に遭遇して、対処できなくなった時に現れるもう一人の姿で、「幼稚的」になることによって、周りを混乱させ、自身で自己防衛を行う少女の仮面。


 総合的に纏めると、麗の場合、どのカテゴリーにも当てはまらない。唯一言えるのは……、発言は「狂気的」だけど、どこか「孤独」を感じる青年。


 そう思うと、一人の青年の中で、常に一緒にいる仮面達は『色んな意味』で厄介だ。


「お前、どうした?」

「あっ」


 呆然と考えてると、麗が心配そうな顔で私の顔を覗き込んできた。


「なっ! ななな、何でもない! 先行ってるから」

「おー。オレも落ち着いたら、後から向かう」


 なので、私は思いっきり首を横に振ると、慌てて扉へ向かい、シャワールームを後にする。




「あっ! 望さん!」

「愛さん。って、これ、アップルパイ!?」


 メインルームに戻ってきた私は、テーブルに置かれた出来立てのアップルパイに目を向けると真っ先に席へ向かい、目の前に置かれた白い皿の上に乗せる。

 四等分に切られたパイの切れ目はとても綺麗で、お店に並べられているケーキみたいで見るからに美味しそう。


「うん。丁度出来上がった所だから、次に行く前に食べてかない?」

「あ。うん……って、戮さん、先に食べてたんだ」

「んあ?」


 私はコクリと頷いて食べようとすると、戮が右奥の席で美味しそうにパイを頬張っていた。


「まー、甘いのは苦手だとは言ったが、これみてーな甘さなら俺は好きだ」

「あっ。そう……」


 子供の様に無邪気に食べる彼を見て、少し引き気味に相槌を打つと、パイの上に乗っていた林檎をよく見る。

 見た目は黄金の様に輝いていて、一口食べてみると、後からシナモンの仄かな香りが口の中で広がってきて、美味しい。

 何かで煮詰めたのかな。甘さがあるが、懐かしさを感じる。


「って満足そーに言ってるけど、その林檎、砂糖でめちゃくちゃ甘くして煮詰めたんだよね」

「ふーん……って、はぁ!?」


 彼はまるでドッキリをかけられた時みたく、ポカンと口を開けながら彼女を見ていた。口元にはカスタードクリームが少し付いていて、なかなかの傑作だ。


「だから、前に戮さんがくれたチョコレートよりは、かなり甘いはずだよ?」

「マジか!」

「マジだって。はぁ……」


 しかし、彼がかなりの味覚音痴だったせいか、愛は呆れ気味に溜息をついていた。


「あっ」


 そういえば、ポケットにチョコを入れていたのを思い出したが、もう溶けてしまって使い物にならず、そのまま排水口に流したんだった。今思うと勿体ないことをしたなぁ。でも、いっか。

 私はチョコに申し訳なさそうに謝りながらも、お笑い芸人並に面白い二人の会話に耳を傾ける。そして、「あはは……」とから笑いをすると、お手製のアップルパイの味を堪能した。


「やぁ。何食べてるの?」

「えっ!?」


 ふと、背後から声がしたので思わず振り向くと、『レイ』がニコニコと笑いながらパイを見つめていた。


「あっ! レイさん!」

「んだよ城崎。まさか俺を笑いに来たのか?」

「いやいや! 笑いになんて! ただ、その……」


 そう言いかけると、『レイ』は少し戸惑いの表情を見せていたので、少し気になる。


「お腹が……、ちょっと空いただけ。えへへ」


 すると、彼は恥ずかしそうに言いながら私の右隣にあったお皿を使ってパイを乗せ始めた。そして、自身の席に着くと手前にあったフォークを使って上品そうに食べている。


「あっ」


 食べる仕草が綺麗過ぎて思わず見惚れてしまったが、こうして近くで見ると何ていうか。人間離れしていて、ずっと見ていても飽きない。


「えっと、望?」

「……えっ!?」


 あまりにも見過ぎてしまったせいか、彼が困惑した表情で訊ねてきたので、驚いて声が出た。


「僕の顔、何か付いてた?」

「あっ。いや、な、何も!」


 なので私は何事も無いかの様に、最後の一口を頬張りながら照れを隠す。


「ふーん……」


 彼は意味深気に相槌を打ちながらアップルパイを食べ終えると、食器をキッチンに置こうと席を立つ。


「あっ。みんな、味はどうだった?」

「うん。とっても美味しかったよ。ごちそうさま」


 愛はというと、キッチンに備え付けられている流しで、お皿を洗いながらみんなに味の感想を求めていたので、笑顔で答えていた。


「あっ! 私もその、美味しかった!」

「おー。美味かったぜ」


 私と戮も「美味かった」と言いながらお皿を戻す。


「それなら、作った甲斐があって良かったー」


 彼女もそれを聞いて嬉しかったのか、マスクをしていて表情は見えなかったが、喜んでいる様な気がした。





「さて……」


 もう、行こう。あの少女が待っていると思うと気が滅入りそうになるが、やらなくては。

 少し休憩した後、私はパーカーのポケットからカードキーを取り出すと、あの差し込み口にスライドさせる。


――ピッ


「通った」

「向こうは準備完了ってことか」

「うん」

「この先、何があるのか全く想像がつかないんだけど……」

「俺も同じく」


 みんなにカードキーが通ったことを伝えると、それぞれ思いを呟いていたが、私の場合、ソフトはあと二つ。一つ目はあのツートーンカラーの子が持っているだろうけど、簡単には渡してくれなさそう。でも、もう一つは一体……


 色々と思考を巡らしながらも黄色い扉のドアノブを握り、扉を開けてメインルームを後にした。

 

 


おはこんにちばんは!

Ruriaです!


ようやっと4章EX、終了しましたε-(´∀`*)ホッ


次は間章になりますw


予告ですが、5章は癖がある章にしていこうかと思ってますので応援の程、よろしくお願いします!



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