寝室
私は麗と共に、次の空間の鍵を見つける為に探索を続けていた。途中、変わった部屋を見つけたので、そこに入ってみることに。
「ここって、誰かの部屋かな」
「そうだね」
鍵は開いていたので、すんなりと入れた。
茶色い絨毯に小さな花柄の壁紙。隅には、白いダブルベッドが密かに置かれている。その近くには、オシャレな照明スタンドと引き出し付きの小さな机。明かりは薄暗く、光は仄かに温かみがある。
寝室ながら、なんとお洒落な部屋だろう。羨ましい。
「ここなら眩しくないから、大丈夫そう。ん? これ……」
彼はそう呟くと、早速、ベットとは反対側のドレッサーの上に置かれた紙を手にする。
「麗。どうしたの?」
「これ、見つけたよ」
そう言って、私にメモのような紙を渡す。
メモには、不可思議な暗号が書かれている。
―――――――――――――――――――――――
・剣を抜け
S B W A O
C R K D S
B W O R E
Q この?に入るアルファベットは?
ヒント︰車の速さを競うアニメらしいが……
A 頭文字「?」
――――――――――――――――――――――
「これ」
「何かの暗号かな?」
麗はそのメモをよく見る。
「んー。英語については、さっぱり分かんないなぁ」
そう呟いてメモを彼に返したが、まだ暗号を見つめていた。
「もしかして、何か分かった?」
そっと聞いてみる。
「うん」
「そう。って、えっ!」
すると、彼はすぐに首を縦に振ったので、驚いて目をぱちくりする。
「望、ペン持ってる?」
「あっ、これなら」
笑顔で私からボールペンを貸すと、スラスラと✕を書いていった。
「どういう意味?」
あまりにも早業で暗号を解いていたので、訊ねてみると、計算が苦手な私にも解りやすく、丁寧に教えてくれた。要するに、とあるワードを抜けば良かったらしい。
そして、最後の問題は、支配人の悪戯か?
「なるほど」
この時、私じゃ解けない時は、麗に任せようと思った。うん。今度からそうしよう。
「どうやら、ベットの裏に何かあるみたい」
「ベットの裏?」
ふと、ベットの裏を覗き、何かを見つけたので、そこに手を突っ込んで取り出した。
「これ」
「望。それは……」
彼は青ざめて指をさす。すると、私が手にしていたものは誰かの左手で、薬指には指輪を嵌めていた。どうやら取れないように、テープで頑丈に貼り付けてあったようだ。きつく固定された跡が残っている。
よく見ると、腐敗は不思議としていないようで、細く、肌白く、切り口も綺麗に切れていた。しかし、血は一滴も流れていない。
恐らくは、あの剣でスパッとやったのか。
そう思った私は、誰かの左手を手に入れた。あとは、左手に握られていたぐしゃぐしゃになった一枚のメモ。そっと取り出し、「罪と対価する物を置け」と書かれたメモを見る。
彼はこの件から、変な奴がいるというのを察したかのようで、辺りを見渡すと……
「これ」
「今度は何?」
そのものを見て、思わず警戒していた。
「天秤」
私は呟いて指差すと、顔色を変えずに切断された左手を置く。片方が空いている為、まだ傾いたままだ。
「恐らく、このメモが関係してるんだろうね」
「それは、間違いないと思う」
彼の顔はとても青ざめていたが、なんとか答えていた。
――タッタッタッタッ
その時廊下から再びあの音が聞こえた。
「あいつだ」
「嘘! こんな時に!」
「ベットの下に隠れるよ!」
彼の耳元で囁くと、急いでダブルベットの下に隠れた。幸い、シーツが床まで垂れていたので、息を潜めたら大丈夫だ。そして、ベットの下で静かにしての合図を送り、息を潜める。
――ギー……ギギギギギギ
緊迫した空気の中、私と麗は息を殺して脅威が去るのを待つ。狂者はと言うと、ナイフを片手に、標的を探していた。
「ククッ……ハハハハハハハハ!」
突然、笑いながらダブルベッドの上でぴょんぴょんと飛び跳ね、ナイフの鈍い音を立てながらシーツや枕カバーを滅茶苦茶にし始めた。
ベットの下に隠れていた私達は、僅かな隙間から枕カバーの端切れや羽毛が床一面に散らかる様を見て、どのぐらい悍ましいか、軽く想像ができた。
飛び跳ねてる時は、ベットがミシミシミシと容赦なく軋み、驚いて声が出そうになる。しかし、その後は何事もないかの様に、部屋から立ち去っていった。
私達は狂者がいなくなったのを確認すると、恐る恐るベットの下から這い出る。
「ふぅ」
ため息をつき、滅茶苦茶になったシーツを眺める。恐らく狂者は子供。
ふと、彼が刺し傷だらけの枕の中をポンポンと叩いていると、中から小さな物がポロッと落ちた。
「これ」
「んー、鍵だね。それに、タグもついてる」
【Storage Room】と、タグがつけられた鍵だ。恐らく、貯蔵室の鍵だろう。ということで、貯蔵室の鍵を手に入れた。
「あと、覗いてないとこと言ったら……」
私は指で数えながらこことここと、と言っていたが、あまりにも広い為、「多すぎて分かんない!」と言って頭を抱えてしまった。まぁ、顔は相変わらず石のように何一つ変わってないけど。
「んー。広いからまだまだありそうだね。ひとまず、片っ端から漁るしかないかな」
「でも、効率よく探索したいから、見取図みたいなものさえあればいいけど」
そう私は呟いて、散らかったダブルベッドを隈なく探す。すると、麗が考える素振りを見せてボソリと呟いた。
「んー、ここに無かったら、リビングかな」
「あー、それは……」
確かにもう一つ、リビングは探索の候補に挙げていた。もしかしたら裁縫道具もあるかもしれない。行ってみる価値はありそうだ。
「あと、僕と逢った浴室も、何か見落としてるとこがありそう」
「確かに」
あの時は黒い影(麗)を狂者だと思って、隠れ場所を探すのに精一杯だった。あと、彼がいることで高身長が生かせる所もあるかもしれない。
「じゃ、次はリビングに行ってみようか」
「そうだね。まぁ、僕は望が怖がらないよう、ぴったりついてくね!」
「はいはい。わかったよ」
苦笑いしながら相槌を打っていた。
しかし、もう、ここまでいったら、周りから仲がいいだとか、付き合ってるの? とか言われても、おかしくないよね……。
そう思っていた私は、彼と共に寝室を後にした。