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Delete  作者: Ruria
第四章 EX
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Re:お互いの過去2&突然の訪問



 調理室を通り過ぎ、トイレ付近にある真っ白い壁の前へと辿り着くと、彼は金属バットで軽く壁を叩いていた。

 すると、一ヶ所だけ変わった音がしたので、勘が鋭い彼は早速バットを振り回して壁を壊す。


「よっしゃ! ビンゴぉー!」

「つーか、さっきめっちゃ勢い良かったよね」

「んあ? こんなのふつーだ!」


 彼は嬉しそうにそう言うと、躊躇なく目の前にある鉄製の扉の取っ手に手をかけた。どうやら鍵はかかってない様だ。


「まぁー、いくぞ」

「りょー」


 カチャッと音を鳴らしながら扉を開けると、手元にあった懐中電灯を使って慎重に入っていく。

 部屋の内部は、入って直ぐに折りたたみの机が縦、横の向きにそれぞれ四角形の形になる様に配置されていて、机一つに対してパイプイスが二つという並びで置かれている。

 奥には所々に血痕が着いたスライド式の棚。木で出来ている。更に奥隅には全体鏡があり、これも周りは木製のフレームで縁取られていた。

 そういえば保健室にも似たような鏡を見かけたけど、まさか……。


「とりま、閉めとけばいっか」


 ウチは独り言の様に呟きながら扉に鍵をかけ、部屋の中を調べることにした。


「んー……」


 しかし、パイプイスの裏や折りたたみ机の裏も見たけど、使えそうなものがない。


「ねー」

「んあ?」

「何かあった?」


 なので、期待を込めながらも彼に訊ねてみることにした。


「ここ、見てみろよ」

「ここ?」

「あぁ」


 すると、彼が開けたスライド式の棚の中から、六角形のボルトで固定された黒い箱を見つけた。鉄で出来ていて頑丈そう。


「またこれかぁ」

「でも、あのレンチで開けられるんじゃ……」

「だよな」


 互いに言い合うと、彼は赤色のパーカーのポケットからレンチを取り出し、慎重に外していく。


「まぁ、こんな作業も悪くねぇけどよ」

「そん中何が入ってるんだろうね」

「んなの、俺に聞かれても知らねぇって」


 ウチはその中身が気になって聞いてみたが、彼は半ギレしながらも器用にボルトを外していた。


「開けるか」

「りょー」


 少し経った頃、ボルトが全部外れたので、そっと蓋を開けてみる。


「これって」

「あっ……」


 すると、寄せ書きみたいな小さな文字がびっしりと書かれた野球ボールが入っていた。メッセージの内容は多種多様で、思い思いに書かれている。


「ねぇ。戮さん、これ何?」

「あぁ。懐かしいなぁ……」


 隣にいた彼は、箱からそのボールを取り出した途端、一筋の涙を流していた。まさかだと思うけど、これが支配人が前に望さんに言っていた『心の補給源』っつーやつ?

 そういえばウチも、あの時に望さんから借りた充電器が補給源で今に至るけど……。


「ていうか、懐かしいって、どういうこと?」

「そのまんまの意味だ。ほら。よく見てみろって!」


 気になって彼に訊いてみると、何故か満面の笑顔で返された。手に持っているボールをよく見てみると、『俺達永久不滅!』『ずっと友達だよ!』『また会おうね!』と色々なことが書かれていた。


 友達、多かったんだ。ちょっぴり羨ましい。


「これって、卒業の時に寄せ書きみたいに書いたボール?」

「あぁ。確か、仲良い奴らで思い思いに書いて書きまくって、思い出として中庭に埋めたんだよな。でも……」

「でも?」

「……あぁ。でもよ、何でこんな場所に隠されていたのか、さっぱり分かんねぇんだ。あん時は確か、ここの中庭に埋めたはずだ」


 そう言って近くにあったパイプイスに座ると、おもむろに手に持っていたボールを見ながら考え事をし始めた。


「まさか、誰かが掘り起こしたってこと?」

「可能性としては大いにある。例えば……ん?」

「どしたの?」

「おい! あれ見てみろよ!」


 ふと、一緒になって考えていると、ボールから一瞬目を離した彼が、棚の扉に隠れるかのように奥隅に置かれていた箱を見つけた。


「こんなのあった?」


 そう言ってすぐさまに取り出そうとするが、重量感がある。ウチが引っ張ってもビクともしない。


「いや……。見たことねぇが、まさか!」

「やばっ! 重すぎるんだけど!」

「んだと!?」


 それを隣で聞いていた彼も驚きながら、ウチと共に一生懸命引っ張って取り出そうとするが、余りにも重い。なので少しずつ前へずらしながら慎重に棚から出そうとする。


「ふぅ……」

「なんなんだこの箱。重すぎだろ!」


 ドスンと大きな音を立てながらも、何とか棚から出すことが出来た。箱は先程の野球ボールが入った箱よりは二回りも大きい。色はと言うと、赤黒くて異様なオーラが漂っている。金属みたいなものでできているせいか、試しに軽く叩いてみたら鈍い音が出た。

 

「とりま、開けよう」

「あぁ。わりぃ。開けてくれ」

「ん……。分かったよ」


 そう言い返すと、恐怖を押し殺しながらもそっと蓋を開けてみる。


「えっ。嘘でしょ……」

「おいおい。一体どういうことだ……」


 すると、死体が全裸で体育座りした状態で入っていた。それを見てしまったウチと戮さんは、思わず言葉を失う。


 体全体は骨と皮しか残ってない状態で、長めの髪は乾燥しきってバサバサと横に広がっている。見た感じ、女性だと思うが顔は蹲っているせいか、こちらからは全く見えない。

 髪の隙間から僅かに見えた右腕には注射痕が大量に付けられていて、左腕にはウチと同じく、手首から肘付近まで数え切れない程の切り傷が横に刻まれていた。痣も大きい痣から小さい痣まで、至る所にある。


「この死体……」


 もしかしたら、と思い、恐る恐る長髪を掻き分けて顔を見ようと手を伸ばしてみたが、恐怖で手が震えてしまう。


「おい」

「えっ……?」


 すると突然、彼が制御するかの様にウチの手首を強く握ってきた。それで我に返ったウチは、自然と遺体から手が離れる。


「お前、さっき、魂が抜けたような面してたぞ」

「それは、その……」

「わざわざあの死体がお姉ちゃんかどうか、確かめる為か?」

「あ。そ、そうだよ!」


 戸惑いながらも素直に答えると、彼は「はぁ……」と深いため息をつきながら蓋をしめようとしていた。


「だからってよ、嫌な物を無理に見る必要もねぇだろうが!」

「な、何で? 違う人かもしれないし……」

「馬鹿野郎。あれは紛れもなく……、あいつだ」


 そう吐き捨てると、ガッチリと蓋を閉めてポツリと呟き始める。


「茶色くて長ぇ髪、そして、テメェと同じ腕に付いていた無数の傷跡。痛々しい痣。近くまでみてねぇけどよ。でもあれは……、紛れもなく恵本人だ」

「もしかして……」

「あぁ。俺は一度惚れた奴の特徴は忘れねぇ。だから、見た瞬間、分かったんだ」

「じゃあ……」


 言いかけた時、彼は目を潤ませながらも箱を見つめてこう言った。


「あぁ。マジで言うと、俺と恵は付き合っていた」

「……」


 戮さんが、お姉ちゃんの、彼氏……。

 そして、お姉ちゃんは、戮さんの、彼女……。


 まさかの告白に、ウチはどうすればいいか分からずに、隣にいた彼と共に呆然と箱を見つめている。


「けどよ、教師をしていた遠藤は、馬鹿みてぇに嫉妬していたみたいでさ。それが許さなかったみてぇ……」

「遠藤。やっぱり最悪……」

「だろ? それで思いっきり引き離されたのさ。俺に一生逢えないように、息を止めて滅茶苦茶にしてよ。挙げ句の果てにはこんな窮屈な場所に入れやがって。酷すぎるよな?」

「ん……。うん!」


 元凶が遠藤だ。と聞いて、ウチも怒りに震えて唇をグッと噛み締めた。


「だから戮さんは……」

「あぁ。一思いにぶった切った。勿論、あいつに殺された晶さんや卓の恨みも全部、晴らしてやったさ」

「それで……」

「あぁ。ぐちゃぐちゃにして……な」


 音楽室での経緯を粗方知ったウチは、結局たどたどしく相槌を打つことしかできなかった。ていうか、平然そうな顔で怖い言葉を沢山言っていたけど、彼がやっていたことって、結局は「復讐」ってことだよね? 

 でも、今のウチは怒りと怖さが複雑に絡み合って、どのような表情で戮さんに接すればいいのか、本当のことは分からないけど、一つだけ聞きたいことがあった。


「ねぇ……」

「なんだ?」

「戮さんはその……、親友が殺されて、自分も『死にたい』って考えたこと、ある?」

「んー……」


 こんな時に死の話はタブーだけど、戮さんだってクソな先公に友達を奪われて『死にたい』と一度は考えたこともあったはず……。

 そう思って聞いてみたけど、彼は少し考えながらこう答えた。


「俺、あいつらが生まれて初めてできた、友達……、だった」

「初めて?」

「あぁ。だから突然、三人とも消えちまった時は、死にたいっつーより、怒りの方が先に出ちまった」

「死より……怒り?」

「あぁ」


 そう言って相槌を打つと、真っ暗い天井を仰ぎながら思い出すかのように色々な事を話し始める。


「俺、生まれた時から両親の顔知らなくてよ。ガキん時から施設にいたんだ」

「施設に?」

「あぁ。その時はみんなが同じ場所にいて、同じ様に行動していて、同じ様に生活していてよ。まるで刑務所にいるみてぇだった。ゲーセンに行ったりと言った自由もねぇ」

「じゃあ……」

「だから、ぶっちゃけ言うと親がいる家庭って羨ましく思えた。かと言って施設が嫌だったかって聞かれるとそうでもねぇ。そこにも先生って呼ばれてる人がいて、そいつが親代わりでここまで育ててくれたから本当は感謝しねぇといけねぇんだが……」

「……」

「俺はその時、全てが憎たらしく見えてしまってな。今思うと嫉妬かもしれねぇ。親に会えたことを自慢してきた子に対しては、暴力奮って相手を殺してしまいそうになったこともあった」

「そんな……」


 彼の暗く複雑な過去話を聞いて、ウチはどう声をかければいいのか分からず、相槌を打っていた。親がいなく、施設で育ったけど、満たされることがなく、心の中は空虚で……。聞いているうちに何となく、ウチに似ている様な気がした。


「あぁ。でもよ、周りも近寄ってこねぇ程のこんな荒れ果てた俺にさ、笑顔で『友達になろう』と言ってきたのは、卓や晶さん、恵だった……」

「えっ……」

「俺はその時は嬉しかったよ。友達ができてさ! ガキだったけど、ずっとこの仲でいられんじゃねぇかとも思っていた」

「でも、その矢先にあんな出来事が……」


 この時、遠藤がその三人を殺したあの事件だと分かったけど、続けて彼の話を聞く。


「その通りだ。あの時は全てを失った気がした。でも……」

「でも?」

「その後に起きた出来事で、俺は思いっきり怒りをぶちまけたのさ」

「その後に起きた出来事?」


 もしかして……ドラム缶に死体をコンクリート漬けにして捨てた事件のこと? ふと、管理室で手に入れたあの資料を思い出し、言葉を返す。


「あぁ。確か、俺に殺された相手は児童ポルノの常習者だ。とお前に言ったよな?」

「う……うん」


 もしかして、ウチの処女を奪われたあの時……。

 嫌な予感が頭の中を過ったが、彼は続けて話し始める。


「あの時、俺はたまたま閉鎖された学校に忍び込んで、職員室にあった遠藤のパソコンを漁っていた」

「えっ!」

「あいつも突然、学校を閉鎖すると聞いて、慌てて置いてっちまったんだろうな。それで漁ってたらよ、画面にお前の素っ裸姿が映っててさ」

「それで……」


 あぁ。これじゃあ、彼に幻滅されちゃうよね。どうしよう……。

 何で抵抗しなかったんだ? と聞かれそうで怖くなったウチは、密かにカミソリが入ったポケットに手を突っ込む。


「見た瞬間、ムカついたさ。で、そこにあった問い合わせの番号を書き写した後、思いっきりパソコンをぶっ壊した。あの時、モニター室にいた椎名みたいにな」

「でも、何で?」

「あぁ。好きな人の妹があんな滅茶苦茶な姿されたら指咥えて見てられるかっつーの。椎名だって、城崎がラリったホモにやられる姿を見て黙ってなかっただろ」

「ん……」


 確かにそうだよね。言ってることは間違ってない。望さんだって、大切な人がやられている所を見たら、めっちゃ怒るよね。うん。

 ウチも戮さんの話を聞いて納得する。


「だから、あの時問い合わせの番号を使って、ビデオに合ういい女がいる。と嘘をついてあいつらを呼び出したんだ」

「そうなの?」

「あぁ。俺も馬鹿じゃねぇからよ。学校は閉鎖されたと同時に俺は退学した。で、その後に仲良くして貰った先輩も含めて十人程人を集めてな、ソイツらを取り囲んで色んなもので殴ったのさ」

「それで……」

「まぁ、その後は察しの通りだ」


 彼はそう言うと、笑いながら肩を竦めて話し続けた。


「俺が近くにあった小型のチェーンソーで切り刻んでドラム缶に入れた。一緒にいた先輩がコンクリートを流して固めて埋めて、海に落としたのさ」

「……そう、だったんだ」

「あぁ。単に俺は、許さなかったんだ。あいつらが私利私欲の為に、大事な人を傷つけたから……」

「り……戮……さん……」

「だからよ、これ以上過去のことを引きずるな、わかったか?」

「うっ……」


 ウチはこの時、色んな事が一気に思い出してしまい、思わずその場で泣き崩れた。


「ったく。泣くんじゃねーよ。まだこっから出てねぇだろ」

「だって、だって!」

「まぁ、辛かったよな。よく我慢したな……」

「ううっ……。うん!」


 彼はそう言って泣きじゃくるウチを抱き寄せ、優しく頭を撫でてくれた。その左手は血に濡れて真っ赤になっていたけど、彼はその手で障害物を取り除いてくれたんだ。と思うと嬉しくて……、嬉しくて……。


 ウチは思わず彼の腰に手を回し、ギュッと抱き締めた。

 このまま時間が止まれば……。






「そういえば、あの黒ローブの人は?」


 泣き止んだ後、ウチは改めて音楽室であったことを聞いてみた。戮さんが怒りに任せて分解していたのは分かったけど、じゃあ、あの謎の人は?

 疑問だらけだったので再度聞いてみる。


「あいつか。あいつも同じことを考えていたみてぇでさ。俺と同じ様にぐちゃぐちゃにして解剖していたさ」

「うわぁ……」


 相変わらずえげつない行動だと思い、思わずドン引きする。そして、後から本当に望さん一人で行かせて正解だったのだろうか、とも考え始めた。


「その理由もさ、『大切な人を泣かせたから』だとさ。俺と考えが似すぎて笑えるだろ」

「大切な、人?」

「あぁ。誰なんだ? と聞いても、あいつはゲラゲラ笑ってはぐらかしてきたから全く聞き出せなかったけど……」


 彼はと言うと、ニッコリと笑いながら肩を竦めて答えていたが、目は何だか寂しそうだ。


「けど?」

「もしかしたら俺、あいつの正体が分かったかもしれねぇ」

「うそっ!?」


 すると、彼から思わぬ発言が飛び出してきたので目をまん丸くする。


「その、一体誰なの!?」

「まぁ、まずは声質は全く変わってなかったからあいつか? と思っていた。でも、口調が別人みてぇで俺は正直驚いた」

「まさか……」

「あぁ。その、まさかだ。謎の人の正体はな……」


 そう言いかけた時だった。突然、ドンドン。と扉を強く叩く音がしたので、ウチと戮さんは扉に視線を向ける。


「えっと、誰?」

「愛さん? 早く開けて! 私!」

「望さん!?」

「う……うん!」


 すると、扉越しからパニック状態になっている望さんの声が聞こえたので、思わず鍵を開けた。


「急に、どしたの?」

「あの、実は……」


 彼女は戸惑いながらそう言うと、重そうにずるずると引っ張ってきた。まるで芋虫みたいに黒くて長いものだが……ん?


「これ、何?」

「実は、この人が突然倒れちゃって……」

「この、人?」


 疑いながらもよく見てみると、謎の人だった。芋虫の正体はこの人だったらしい。ってこれ、どういう状況!?


「お前……、まさか……」

「望さん、その人殴った?」

「いやいや! 私は何もしてないよ!?」

「ホントか?!」

「うん。ついてったら教室だったんだけど……」


 そう言うと彼女は戸惑いながら、色々と経緯を語り始めた。

 

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