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Delete  作者: Ruria
第二章
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休憩室

 彼に連れられ、休憩室に付いた私は、ホッと一安堵した。ここにいる時は狂者に狙われないからだ。


 周りを見渡すと、両サイドに本棚がズラリと並び、真ん中に白い椅子二つとテーブル。その奥は窓があるけど、ここからはどこの場所にいるかはっきりとは見えない。そして、窓の近くには簡易キッチン。見た感じ、図書室にある休憩スペースのようにも見える。


 少し違うのは、照明が薄暗いと言った感じだろう。本当はもっと明るくしてもいいと思うのに。


「ここに座ってもいいよ」

「あっ、ありがとうございます」

「あと、本は趣味で読んでるから、自由に見てもいいよ」

「はい」


 彼にエスコートされ、勧められるがまま椅子に座る。


「今からお茶、持ってくるね」

「あっ……、ありがとうございます」

 

 屈託のない笑顔で言うと、奥にある簡易キッチンへと消えていった。まさかこんな展開になるなんて。


「それにしても、凄い量の本だよね」


 見渡してみると、本棚にはどれも天井に当たる程、本がびっしりとしまわれていた。待ってるのも暇だったので、久しぶりに本を読んでみることにした。でも、本を読むとか何年ぶりだろう。とても新鮮な気持ちになる。


 今はというと、パソコンの画面に噛り付くように見てゲームをして、時を過ごしているような人も多い。私もその中の一種だ。なのでいざ、こういう場で異性と逢うと、かなり緊張して言葉が出ない。

 それと、あの美青年は今まで逢ってきた人とは全く違かった。とても親切で、誠実で、何をとっても完璧に見えた。地味な私とはかなり対照的であったから、余計に惹かれてしまうんだろうな。


 そう頭の中で考えていたら、彼が紅茶を両手に持って現れ、座ってる私の目の前に差し出した。


「どうぞ」

「あっ、ありがとうございます」


 お洒落なティーカップを手にし、いただきますというと、軽く紅茶を飲んだ。とてもフルーティで甘く、優しい香りがした。アップルティーかな。

 紅茶を配った後、相手も私の向かい席に着き、こう訊ねてきた。


「本、好き?」

「久しぶりだったので読もうかと思って」

「そっか。それなら嬉しいな!」


 唐突に聞かれたので、そう答えると、笑顔で軽く紅茶を飲む。


「それと、自己紹介遅くなってごめんね。僕の名前は麗。よろしくね」

「あっ。麗さん、よろしくお願いします」

「えーっと、さん付けいらないから、麗でいいよ」

「え? い、良いんですか?!」


 突然、笑顔で呼び捨てでいいよ。と言ってきたので、戸惑いを隠せない。


「大丈夫。僕も望って言うから。ね」

「あっ、それで、いいです」


 そう促され、思わず顔を赤らめた。

 目の前に麗がいると、安心感があるけど、余りにも美し過ぎて、とっても緊張して思うように言葉が出ない。

ふと、目の前に理想の人がいて、嫌われないように、モジモジしてしまうシチュエーションを思い出してしまった。


「望って、もしかして、あまり喋り慣れてない?」

「え?」

「僕、喋り過ぎたかな? もし、喋り過ぎたら謝るよ」

「そんなこと、ないです!」


 顔を真っ赤にしながら、全力で否定した。


「そう?」

「はい。えっと……」


 麗は首を傾げ、じっと相手の言葉を待っている。私は会話が途絶えないよう、頭の中で考えていた。


「だ、大丈夫?」

「あ。はい。久しぶりに人に会うものだから、とても緊張して、喋れなかったんです」

「そうなんだ」

「はい。ここに来るまでの間、人目に逢わないように、避けて通っていたので……」

「それは、何故?」


 更に質問してきたので、何かを思い出すかのように、言葉を口にする。


「過去に嫌な事があって、それから引きこもって大好きな物に没頭していたから……ん?」

「どうしたの?」


 ふと、喋っている時に思う。


「忘れていたはずなのに……。何で?」


 ここに来る前の記憶を覚えているのだろう。

 なので、恐る恐る彼に訊ねてみることにした。


「それは恐らく、その感情と記憶がリンクしているんだろうね」

「感情と記憶が繋がってるって……。どういうこと?」


 思わず聞き返す。


「んーと、簡単に言うと、喜びを含めた思い出は、今の段階で蘇ったっていうことかな」

「なるほど。それなら納得するかも!」

「でしょ!」

「うん」


 麗が解りやすく教えてくれたので、その場で意気投合すると、顔から自然と笑顔がこぼれていた。


 ここまで親身になって聴いてくれる人なんていなかったから、私にとっては、とても新鮮。

 それと、麗のことをもっと知りたいと思い、今度は私から質問をすることにした。


「えっと、ここに入って気づいたことなんですけど……」

「もしかして、ここが薄暗いことかな?」

「え? 何故それを?」


 言おうとしたのに、何故か読まれてしまった。

 本当にこの人は何者なんだ。不思議な顔をして麗を見る。

 でも、彼は先程とは違い、深刻そうな顔をしていた。


「あー。実は、アルビノなんだ」

「アルビノ?」


 そういえば、微かに聞いたことはあった。ネット上での話で。

 アルビノは「銀髪+赤目」が基本体なんだ! とか決めつけたような書き込みを見られたこともあった。

 天使みたいな容姿で、誰もが羨ましがるような話で進んでいたから、それを聞いた時、なんで深刻そうな顔をするのだろうと疑問に思っていた。


「先天性色素欠乏症。とも言われているんだ」

「それって……」

「僕の場合は、生まれつき、黒色と黄色の色素が他の人より少ないらしいんだ。無いに等しい程にね」

「てことは……」


 更に食いつく様に訊く。


「だから、このぐらい薄暗くしないと、眩し過ぎる。今の状態なら、これぐらいが限界かな」

「あー。なるほど」


 思った以上に大変なんだ。確かにこういう姿の人を見たことなかったし、こんな話も聞いたことがなかった。


「じゃあ、私の色素、あげようか?」


 なので私は自身の真っ黒な黒髪を触りながら、冗談まじりで答えてみる。ん? そもそも色素ってあげられるのか?


 言った後、冷静に考えてしまい、凄い恥ずかしい気分になった。


「え? 何その答え!? 初めて言われた!」

「嘘!」


 驚いて彼を見ると、「ははは!」と満面な笑みで笑っている。


「良い意味ばかりで囚われなくて良かった。ってこと」

「それ、どういうこと?」

「他の人から見たら、僕は天使のように見えるみたいで、それが羨ましいだとか、表面上の褒め言葉だけしか言われなかったからね」


「辛そうだから色素あげるね」と言われ、正直驚いた。ということだ。


「そうなんだ。最初見た時、第一印象はゲームに出てきそうな天使キャラに見えたよ」

「ほんと?」

「うん。でも話してみたら、普通の人と全く変わらないなって」


 視線を反らすと再び、紅茶を一口飲む。さっきから緊張が止まらない。手に汗が握る。


「だから、ああいう答えをしたんだね。僕の体質のことも含め、そう言ってくれるなんて、とても嬉しいな」


 彼はそう言いながら頬杖をつき、微笑みながら私の話を聞いている。


「えっ? 私はただ単に……」


 言いかけようとした途端、彼は立ち上がり、耳元で囁く。


「ありがとう」

「いえ、お礼される程じゃ!」


 思わず顔を赤らめて視線を外す。


 あー、今が十六年生きた中で、一番の喜びかもしれない!

 内心はかなり舞い上がっていた。


「それと」


 彼は天井を仰ぎながらこう呟く。


「多分、望とは今後、かけがえのない関係を築いていけそう。そんな予感がした」

「まさか、それは大げさだって!」

「大げさじゃないよ。本当のこと言っただけなんだけどなぁ」


 逢って早々、そう言われたせいか、真っ赤にしながら紅茶を飲み干した。彼も立ちながら紅茶を飲んで、私から視線を反らす。


 もしかして、女性を口説くのに慣れてないのかな。


 そんな雑念に駆られながら、飲み干したティーカップを覗いた時、ふと、あることを思い出した。


「あっ。ところで……」

「ん?」

「裁縫道具、どこにあるか知らない?」


 そうだ。裁縫道具を使って、くまのぬいぐるみを縫おうとして探したけど、子供部屋から見つからなかったんだ。

 麗なら何か知ってるかと思い、訊ねてみることにした。


「んー、あるとしたら、寝室かリビングのどれかにありそうだよね」

「確かに。あっ、それと……」

「もしかして、心細いのかい?」

「え? でも……」


 また言いたいことを読まれてしまい、半分パニック状態になる。

 何でこんなにも人の言いたいことがわかるんだ?

 謎は深まる一方だ。


「それなら、僕も一緒に回ってあげるよ!」

「いいの? 大丈夫?」

「大丈夫だって! 困ったら手を貸すこともできるし」

「うん。わかった」


 ちなみに僕は、英語と医学は得意分野だよ。

 と言いながらさり気なくくっついてきたので、私はりんごみたいな顔になりながら笑って休憩室を後にした。

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