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Delete  作者: Ruria
第二章
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浴室

 子供部屋を後にした後、廊下を歩いてみると、隣にはまた扉があった。誰かいるかわからないので、今度は音を立てないよう、そっと開いてみた。


「ここは……」


 シャワーの音がする。どうやら浴室のようだ。誰かが浴びているのだろうか、部屋は酷く湿っていた。


 周りを見渡していると、白いカーテンの奥にうっすらと黒い人影が見えた。狂者かと思い、隠れ場所を探していたが、さっき見た狂者とは明らかに背が高い。


「もしかして……」


 あの支配人が言っていた破片者パーツだろうか。でも、声をかけようにもかけられない。


 見ると右側にパイプ椅子があったので、座って待つことにした。でも、さっきみたいに狂者がナイフを持って現れても困るので、人影の正体が分かる間、隠れ場所も探してみることにした。


 すると、椅子の傍にアコーディオンカーテンを見つけた。その先には、大きなダンボールが二つ。身を潜めるにはうってつけだ。

 カーテンを閉め、再び待っていると、例の人影がシャワー室から出てきた。しかし、正体を見た途端、息を呑んで呆然とその場に立ち尽くした。


 人影の正体は、ゲーム物の天使がリアルに出てきたと思う程、髪は白に近い銀髪の青年だった。濡れていたせいか、ストレートになっていたが、長さは耳に掛かるかかからない程短い。横顔は顔立ちが整ってるせいか、凛としていて、目は透き通った薄紫色。肌も白く、見た感じ、王子様の様だ。


 どうしよう。気まずい。思わず恥ずかしくなって、裏に隠れようと背を向け、カーテンの取っ手を握る。


「どうしたの?」


 全裸になっていた青年は、隠れようとする私に声をかけてきた。


「えっ、えっと……」


 後ろを向きながら答える。取っ手は握ったままだから私は見ていない。見ていない。

 そう思いながら呟いていると、青年は何かを察したようで、自身の上下を見ながら「いっけない!」と叫びだした。


「あっ。えと、その、ごめんね! 僕、裸だった!」


 彼は私に謝ると、急いでタオルで体を拭いて着替え始めていた。


「あっ」


 後ろ向きのままであるが、どうすれば良いかわからず、挙動不審になり、終始取っ手を強く握りしめる。


「気にしなくていいよ」


 しかし、青年は笑顔で答えると、再び着替え始めていた。





「あっ。着替え、終わったよ」

「は……はい」


 少し経ったあと、青年から声をかけられ、そっと振り向いて返事をした。

 改めて見ると、白のタートルネックにベージュ色の新品同様のズボン。黒のブーツに、高そうな水色のコートを羽織っていた。その為か、乙女ゲームのイケメンがそのまま現実に現れた感じがした。


「えっと、突然……、入ってしまい、すいませんでした」


 失礼のないように、言葉を探して謝罪の言葉を述べた。


「謝らなくていいよ。椎名望様」

「え? 何故私の名前を……」


 青年は微笑んで私の名を口にした。

 私はこの美青年とはここで初めて逢ったはず。なのに、何で名前を知っているのだろうか。とても気になった。


「んーっと、支配人から聞いたんだ」

「支配人から?」


 そう訊ねると、彼はうん。と頷く。


「これを渡して欲しいって」

「これ……」


 水色のコートのポケットから取り出し、私に渡した物は、あのゲーム機のソフトらしきものであった。色は緑色でタイトル名が書かれていたが思い出せなかった。


「望さんが持ってる物に使えば良いと思うよ」

「これに?」


 そう訊ねると、彼はコクリと頷いた。私はポケットからゲーム機を取り出し、渡されたソフトを挿し込んでみる。すると……


――ノゾミサマハ

    ヨロコビノカンジョウヲ

           エラレマシタ――


 と液晶に書かれていた。ソフトは取り出そうとしたら、ガシャンと音を立て、粉々に砕けてしまった。


「どういうこと?」

「じゃ、笑ってごらん?」


 そう言うと、彼は満面な笑顔で微笑んできたので、思わず笑ってしまった。


「あっ!」


 不意に口角が上がっていることに気づき、私は思わず声を出して喜ぶ。


「えっと……」

「あっ、ここじゃ危ないから、休憩所まで案内するね!」

「は、はい!」


 すると、彼は何故か顔を赤くしながら私に背を背け「ま。ついてきて」と辿々しく言うと、扉の前まで歩き始めた。私も彼の後をついていく様に、二人揃って浴室を後にした。

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