処刑室&鮮明な……
「ここか……」
モニター室から出て、左に曲がって奥へと突き進むと、カードリーダーがあるシャッターへとたどり着いた。そして私は、おもむろにパーカーのポケットから黄色いカードキーを取り出し、カードリーダーにかざす。
――ピッ……ウィーン……
「よし!」
案の定シャッターが開いたので、ズカズカと入ることにした。
「えっ……」
すると、目の前には鉄格子があり、その奥には鉄製の黒い拘束イスと看守、麗の姿が見えた。しかし、中道はカチャッと音を立てながら、怯えている麗に何かを向けている。
「大人しく、あの世へ逝って罪を償ってくれないかぃ?」
まさか、殺すつもりじゃ……。
その言葉を鉄格子越しで聞いていた私は、麗を助ける為に、ポケットから銃を取り出し、銃口を中道の背後に向ける。そして、躊躇うことなく引き金を引いた。
――バンッ!
「うっ!」
撃った途端、彼はよろめいて右足を抑えながらしゃがんだ。まぁ、その反動で心臓とは大きく離れてしまったが、結果オーライだと前向きに考え、開きっぱなしになっていた鉄格子の扉を開けて中へと押し入る。
おかげで中道は、撃たれた右足を抑えながら「誰だ!」とか「どいつもこいつも邪魔しやがってぇぇ!」などと大声でわめき散らしていた。あぁうるせぇ……。
でも、彼の奥にいた麗の顔には、痛々しくできた大きな痣があり、膝を抱えて震えていた。きっと、目の前にいる看守が痛めつけたんだろう。
「麗、可哀想に……」
(でも、私が来たから大丈夫だよ。それと、麗の綺麗な顔をずたずたに傷つけたゲス野郎には、一刻も早く消えてもらわないと……ね)
そう思いながら中道を上から睨みつける形で銃口を向けた。
「てめぇ! どうやってここに入ってきた! ここは看守と囚人以外は立ち入り禁止だろ!」
「ん? これを使って入ったんだけど……」
石のような顔で言うと、パーカーのポケットから黄色のカードキーを取り出し、中道の目の前でぶらぶらと見せつける。
「おい! それ、どこにあった!?」
「あぁ。モニター室にある箱の中にあった。予備用で作ってたんだろうけど、随分と厳重にしてたんだね」
「くっ……!」
すると、彼は唇を噛みしめながら私を睨んでいた。
「あっ。そうだ」
確か、麗は血みたいな赤い液体を見るのが嫌だったね。思い出したかの様に呟くと、足元に転がっていたアイマスクを手に持ち、それを終始震えている麗に投げつける。
「あの……これは……」
「とりあえず、目につけといて」
戸惑いつつも、か細い声で訊ねてきたので、笑顔で返しながら答える。
彼はというと、怯えながらだが、「うん」と頷くとアイマスクをつけ、部屋の隅っこで体育座りをしていた。
よしよし。コイツを消した後、きちんと治療をしてあげなくちゃ。
そう思いながら私は、中道に再び銃口を向ける。
「さてと……。遺言はあるか?」
「貴様ぁぁぁ! 誰に向かって言ってんだぁぁ!」
上から目線で挑発したせいか、彼は振り向きながら立ち上がり、私に殴りかかろうとしてきた。なので、すぐ様に彼の左足、腰、腹、右足に一発ずつ銃弾を撃ち込む。
すると、中道はふらふらとよろけ、コンクリート製の壁に寄りかかる状態で倒れた。よく見ると、額や体全体から血がダラダラと流れている。
「うっ!」
「次に変なことしたら、まじで殺すよ」
「……くそっ!」
睨みながら脅してみると、中道は唇を噛みしめ、私から視線を逸らしていた。
まぁ、相当悔しいんだろうなぁ。でも、お前には麗にやった時より、数倍痛みつけて苦しんで欲しいから、ここで簡単に死んで貰っては困る。
なので、至る所に血を吹き出している中道をじっくりと痛めつける為の段階として、肩付近に銃口を向ける。
「貴様……何を……するつもりだ!」
「まずは、そのくまのぬいぐるみを返して」
「ふっ」
すると中道は、鼻で笑いながら片目が取れたくまのぬいぐるみの頭部に銃口を向けた。何考えてんだ、コイツ。
「それ、麗が大事にしていたものでしょ?」
「あぁ……その通りだ。私を弄んだ罰として……没収したまでだ」
「はぁ? どういうこと?」
思わず唖然とする。
「弄ぶって、何馬鹿な事言ってるの?」
「お前……麗の正体も……知らないで普通に……接していたのか?」
「正体ってそもそも何? 頭イカレてんじゃない?」
私は怒りに任せて言うが、彼はしどろもどろに話しながら再び「ふっ」と鼻で笑う。
「まぁ……イカれてる……かもしれねぇ……」
「じゃあ、何? 早くしないと撃つよ」
「まぁ……そんなに……アイツのことが……気になるならよぉ、しっかり……聞いとけよ。椎名……望」
「何さ。まぁ、本当は聞きたくないけど……」
こんな外道な奴、一刻も早く消したかったけど、麗のことも知りたいという気持ちもあってか、銃を一旦下ろす。
「こいつは……簡単に言うとなぁ……『多重人格者』……なんだよ」
「はぁ?」
何を言い出すかといえば、多重人格だって?
あまりにも滅茶苦茶なことを言ってるので、思わずその場で固まる。
「それでな……前に起こした医療事故で……当時の入院患者を……死なせた……張本人でも……あるんだ」
「それ、本当に言ってるの?」
「看守が……嘘を言うか!」
彼は勢い余って叫んでいたせいか、ゲホッ、ゲホッと血を吐いていたが、続け様にこう言う。
「そこに……当時入院していた……患者になぁ……私の……私の……婚約者が……入院してたんだ!」
声を荒らげていた彼の目からは、何故か大粒の涙が零れていた。
「だがなぁ……コイツは……人格障害だと……言う理由でなぁ……保釈……ゲホッ……されてたんだ!」
「それが、何?」
「だからなぁ……何が何でも……殺らなくては……いけないんだ! それに……」
彼は更に言葉を言おうとしているが、銃を持つ右手が震えている。
「ただ……ただ……ただ私は……罪人を……処刑する……断罪人として……任を、全うしている、だけだ!」
「……そう」
静かに相槌を打つ。この時コイツにもプライドというか、誇りを持って仕事をしていたんだ。というのが分かった。それに、守りたいものもあったんだ……。他人事の様に聞いていたが、内心は同情していた。
「だから……お前らみたいに……楽して罪を重ねてきた訳では……ないぃ!」
「それが……なんだよ」
しかし、同情してやったのに突然、彼は傲慢な発言をしてきたので怒り気味に返答する。
麗が多重人格? 罪人? 全く聞きたくないことばかりでかなりイラつく。おまけに看守が言うと、全部綺麗事のように聞こえてきて、より一層腹が立つ。
おまけに、全身から血をダラダラ垂らしている筈なのに、タフでうるさいし目障りな奴だ。だから、もう一発撃って黙らせようかと思い、再び銃口を彼の右肩に当てる。
「そういや……お前も麗と同じく……罪人だったな」
「はぁ?」
「お前……『人を殺した』こと……あるだろ?」
「えっ……」
それを聞いた途端、背筋が凍る程の寒気がした。彼はというと、にやりと笑いながら更に言葉を続ける。
「相当な人数を……殺したり……嫌がらせしたり……、随分と……派手に……やってた……じゃねぇか」
「いや……違う!」
必死に反論するが、得体の知れない恐怖に襲われ、手が震えて銃を落としそうになる。
「私は殺してなんか!」
「邪魔だから……消した。とか……大事な……ものを……『誰かに消された』とか。その……怒りに任せて……殺ったんだろ?」
「違うっ!」
違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!
私は頭を振って彼が言った言葉をかき消そうと全否定する。
「そこまで……頑なに拒否する……ってことは……図星……なんだな」
「だからちが……!」
「おい!」
すると、良いタイミングで戮が私に声をかけながら駆けつけてきた。
「戮さん!」
「椎名。待たせたな。愛ももう時期来る」
「う、うん」
彼の笑顔を見て安心したのか、表情が少し緩む。そして、不思議と右手の震えも止み、再び拳銃を中道の右肩に向ける。
「さてと、中道よぉ。お前も椎名のこと言えねぇぞ」
「な……何のこと……かな?」
中道は彼の挑発に動揺せずに聞き返す。
「そりゃぁーなぁー。隠し事の一つや二つは、あるよなぁ?」
彼はニンマリと笑いながらそう言うと、赤色のパーカーのポケットから白い粉が入った小さい小袋を取り出して見せびらかした。
「貴様……なぜ……それを!」
それを見た途端、中道は思いっきり目を見開いて声を震わせていた。まさか、私の予感が的中したのか。あの中身はおそらく……ネットでよく見かけていた『覚醒剤』という奴だろう。あの驚き具合からして、きっとそうだ。
「お前よぉ。看守の分際でやってること、屑だな」
「おのれっ!」
――バンッ!
今度は私の背後でニヤリと笑っている戮に向かって銃口を向けてきたので、すかさず右肩に撃ち込む。
「うぐっ!」
その衝撃で中道の手から銃が滑り落ち、私の足元に転がった。
「まだ、動いていいだなんて、言ってないよね?」
「くそっ! テメェが……テメェが私をはめたのか! 椎名!」
「はめたも何も、自分で弱点作って馬鹿だと思う。ふっ……はっ……はははは!」
中道が徐々に苦しみながら睨んでくるので、それがあまりにも滑稽に見えた為、思わず笑い声が出る。
「椎名……テメェは……本気で……許さねぇぞ!」
「許さないも何も、いずれ死ぬ運命なのは変わらないんだから、潔く麗にぬいぐるみを返せばいいのに……」
ほんとにそうだ。自分は体がボロボロになりながらも、ぬいぐるみを一向に離さないなんて、馬鹿丸出しだなぁ。哀れで救いようが無い惨めな奴だと思う。
「早く、返さないと、撃つよ」
ボソリと呟きながら、最後の一本となった左肩に銃口を向ける。
「くっ……グハッ!」
再び口から血を吐き出す中道。もうすぐで命が尽きるかもしれないと思うと、何かつまんないし、殺す気が失せた。
なのでジーンズのポケットにさり気なく銃をしまう。
「お前……私を……殺さない……のか?」
「こんなクソ野郎の左腕の為に、銃を撃つなんて弾が勿体ない。だから……」
唖然とする彼に無表情で言い放つと、ぬいぐるみを持っている左手の甲にグリグリと力強く踏み付ける。
「うっ……うぐっ!」
すると、彼の指先が緩んできたので、素早くぬいぐるみを抜き取った。
「言っておくが、私がこの処刑室来た本当の理由は、ここに麗がいるからなの。あんたに会うつもりなんて微塵もなかったんだけど」
「ふっ……そうか……」
「うん。それに……これ以上、私と麗の邪魔をしないで」
「あぁ……それはだ……グハッ!」
そう強く言い放つと、彼は突然吐血をし、そのまま息をしなくなった。
私はその足で、アイマスクをして怯える麗の元へと駆け寄る。
「れ……麗? 私だけど、分かる?」
先ほど中道が言っていた「多重人格」ということが頭に引っかかり、恐る恐る声をかけてみた。
「……ん? その声って……望?」
「……うん。そうだよ……うん!」
すると、聞き慣れたあの優しい声で訊いてきたので、嬉しさのあまり、思わず彼の前にしゃがんで涙ぐむ。
「泣かなくてもいいのに……って、僕が言える台詞ではないよね……」
彼はアイマスクをそっと取ると、微笑みながら私の頭を優しく撫でてくれた。口元には大きな痕があったけど、全く気にしてない素振りをしている。私はというと、クソ看守から奪い返したぬいぐるみを大事に持ちながら泣いていた。
「ううん! 私も……麗に……頼りっぱなしで……麗の……足ばっかり……引っ張っちゃって……」
もう、何だろう。頭の中が麗のことでいっぱいになってしまって、涙が一向に止まらない。早く行かなきゃという気持ちもあったのに、何故か足に力が入らない。
「そんなことないよ。これは全部僕の軽率な行動が引き起こしちゃったことだし……」
「でも……でも……!」
「だから、責めなくていいんだよ。ね」
「うっ……ううっ!」
そう言うと、麗は私を近くにそっと抱き寄せ、泣き止むまで優しく頭を撫でてくれた。その腕は何だか温かく感じ、私は彼に抱かれたまま、その場で眠ってしまった。
*
「ん……」
うっすらと目を開けると、目の前には真っ白な天井が広がっていた。手で触れた箇所からは、つるつるとした感触が伝わり、これはシーツだということを認識した。
「……夢、かな」
また私、夢を見ているんだ。でも可笑しいな。ソフトは挿してないのに……。
瞼を軽く擦って左右を見渡すと、私を囲むかの様に白い柵が取り付けられていた。服装を見ると、全身には淡い青色の寝衣を身につけていた。こんなの、いつの間に?
疑問に思いつつ、私はゆっくりと起き上がると、その柵を取り外してベッドから慎重に降りた。どうやらここは……。
「病院?」
そう思い、周囲を見渡してみると、またもやベッドを取り囲むかの様に白いカーテンが閉めっぱなしになっていた。なので思いっきり開けてみる。
ベッドや机が無く、何故か椅子も無かった。ただただ、私の目の前には白い床と白い壁という殺風景な景色が広がっている。
「個室……かな」
ボソリと呟くと、柵に取り付けられていた緑色の拘束バンドに目が行く。これがあることによって、ここは凄惨な場所だと語ってくれている様な気がした。
「でも、何で私が……ここに?」
疑問を抱いたまま、奥隅に取り付けられていた鉄製の扉を開けてみると、緑色の廊下が見えた。しかし、左右を見渡すと先が真っ暗で何も見えない。
両サイドには私がいる個室みたいに、鉄製の扉が一定の間隔を開けながらズラリと並んでいた。『〇〇号室』と番号だけ記入されていて、扉に取り付けられた小窓から中が覗ける様になっている。
「もしかして……」
処刑が執行される前にいた医療刑務所の中かな。
どこを見ても、廊下と鉄製の扉と言う同じ景色が一直線に繋がっていて、電気は豆電球程の小さな灯りがぽつらぽつら一定の間隔で付けられているが、どれも薄暗くて気味が悪い。でも、今の所に戻っても何もすることが無いので先に進むことにした。
――ここから……出せよ!
――✕✕✕様! いけません!
「ん? どこからか声が……」
少し歩いていると、奥の方で激しく言い争ってる声がした。
「ここで喧嘩するって……、どういう神経してるんやら……」
「はぁ」と溜息をつく。そして、うるさいと思った私は、注意をしようと思い、慎重に歩きながら声がする部屋へと向かう。
――ふざけやがって! 何で✕✕はここにいなくちゃいけねぇんだよ!
――ですから、✕✕✕様! これは貴方の為にしているんであって……
声が段々と大きくなっていく。なので、更に歩いてみる。
――黙れ! お前に✕✕の何が分かるっていうんだ! どうせ✕✕✕✕の言いなりになって動いてるだけだろ? 無能な奴め!
――な、な、何てことを言うんですか!?
すると、男の人が荒らげている声と、泣きわめく女の人の声が扉越しから聞こえてきた。
「ここから……声がする」
ボソッと呟きながら辺りを見渡す。扉付近に取り付けられていたプレートには『四〇七号室』と書かれている。
――✕✕に口答えすんじゃねー!
――✕、✕、✕✕✕様! 一体、何するつもりですか!? ここは刑務所の中ですって!
小窓から覗いてみると、私と同じ寝衣に身をまとった背の高い青年が、近くにあった病院用のパイプイスを持ちだし、看護婦に殴りかかろうとしていた。
「あっ……危ないっ!」
止めようと思い、勢いよく扉を開けた。
「えっ……嘘……」
私は思わず絶句する。だって、そこには……




