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Delete  作者: Ruria
第四章
46/180

中道修一

――監視カメラの向こう側


「ほぉー。もうここまで来たんだ。椎名望と愉快な仲間たちは……」


 幾つもあるモニター画面を眺めながら、私は手元にあるコーヒーカップを優雅に持ち、ほろ苦いコーヒーの味を楽しむ。


「んんっ!」


 いつ飲んでも、ドリップで挽いたブラックコーヒーは格別に美味うまくて癖になる。


「それにっ!」


 誰にも邪魔されずに、モニター越しで奴隷共を飼い慣らしながら飲むコーヒーは特別な気分になり、正に至福の時だ。ふっふーんと陽気に鼻歌を歌いながらコーヒーを一口飲む。


 しかし、あのクレイジーな子、椎名望はいつ見ても目に光が宿っていない。容姿はまぁまぁ綺麗なんだけど、可愛くもないし、面白くもない。


「まるで、操り人形みたいだねぇ」


 しかも、私が設置した監視カメラを見た途端、真顔で「気持ち悪い」て吐き捨ててくるもんだから、カメラ越しからでも殺意が伝わってくる。なんて恐ろしい子なんだ! でも、それはそれで何だかゾクゾクするというか、高揚感も感じているっていうか。


「あんな強気な子を飼い慣らしてみたい。っていう願望もあるんだけどねぇ」

 

 胸に秘めた野望をボソリと呟き、再びコーヒーを一口飲む。


「それに比べて……」


 そう言いかけると、手元にあったリモコンを持ち、銀髪の青年が拘束されてる画面に切り替える。

 あれからずっと寝ているみたいで、全く反応しない。何このつまんない絵面えづら。かと言って、アイマスクや拘束具を外したとしても、この状況だと全く心を開いてくれなさそう。んー、参ったなぁ。


「まぁ、イジる分には丁度いっか。今の所彼しかいないし」


 そう言うと、私はリモコンを隣に置いてモニターを眺めていた。


「あっ。そういやこの子って……」


 ふと、コーヒーカップの隣に置かれた書類に目を通す。そこには「城崎きざき麗」と書かれていて、あらゆることが記載されていた。


「そうそう。確か、有名な病院の院長の息子なんだっけ。で……」


 更にめくると病名が書かれていた書類を見つけ、そこも見てみることにした。


「なになに……。へぇ。まさかね」


 そこには病名の欄に「――」と記載されていていた。


「これは、なかなかの危険人物だねぇー」


 そう陽気に言って回転椅子をぐるぐる回してみたけど、油断は大敵と良く言ったもんだなぁ。でも、こんな可愛い人も化けの皮を被ってるのが多いのが今の世の中だ。物騒極まりない。


「まぁ、相手がどんな人でも、看守としての任は果たすけどね」


 モニターに向かって煽るように言い残すと、席から立って書類を裏向きにし、純黒にあしらわれたシックな制服に身を包みながら、ある場所へと向かった。





 部屋から出て更に奥に進むと、金属製の硬いシャッターが目の前に降りたままになっていた。私は制服の胸ポケットに入れていた黄色のカードキーを取り出し、そっとかざす。


――ウィーーン


 勢いよく開いたので、慣れた様子で入る。すると、南京錠付きの鉄格子があり、その奥には銀髪の少年が拘束イスに力なく座り込んでいた。目には黒いアイマスクをしている。まぁ、イスもアイマスクも、私がつけたものなんだけど。

 服装から見て、いかにもセレブ感満載っていうか……。流石院長の息子としか言えない。着ているコートは私の好きな有名ブランドがデザインした水色のコートというのもあって、何だか羨ましい。うん。欲しくて思わず口からよだれがダラダラと出てくる。


「はっ!」


 そっと口元を当ててみると、何故かニヤけていた。全く。もうすぐ三十にもなる私が一回り下の青年相手に何を考えてるんだ!

 ふぅ。とため息をつき、一旦正気に戻って深呼吸をし、頭の中に溜まった雑念を空にする。


「まー。今は誰もいないから暇だし。ちょっくら遊んでやるかぁー」


 私は面倒くさそうに呟くと、南京錠を開けて牢の中へと入り、彼に声をかけてみることにした。


「やぁ。麗くん。よく眠れたかな?」

「……」

「今度は無視かぁー」


 無言で俯いたまま反応がないので、呆れた私はポケットから赤いスイッチが付いたリモコンを取り出し、思いっきり押す。


「……いっ!」

「ねぇー。無視しちゃ駄目だよ? ちゃんと人の話を聞くっていうの、小学校で習わなかったの? ん?」


 ニヤニヤと笑いながら、手元にあったリモコンに付いていたつまみを右に回し、電圧を強めてみる。


「……」


 しかし、彼はあれ以降、全く動かない。煽ってみても全く微動だにせず、まるで魂を抜かれたかの様にガクリと椅子にうなだれているだけ。


「ったく。つまんない奴。あん時の威勢はどこに行ったんやら……」

「……」


 相手に聞こえるように吐き捨ててみたが、全く変わらなかった。


「あれ? そういえば、貴方の名前って、麗くんであってるんだよね? 全く別人だから分かんなかったんだよねー」

「……」

「はぁ……」


 今度は不意打ちに質問してみるが、ビクともしない。ほんっと、くそつまんねぇガキだ。

 思わずでっかいため息をつく。良い展開もなければ悪い展開も無く、ただただ無駄な時間が流れているだけ。


「あー。イライラするなぁぁ!」


 自身の短い金髪を右手でガシガシと乱すと、八つ当たりで彼の右足を力強く蹴り飛ばす。


「……」


 それでも彼は痛いと叫ばずに黙ったまま。こんな薄い反応を長時間ずっと見ていた私はとうとう、頭の導火線がブツリと切れてしまった。


「お前、痛いとか死にたいとか何とか言えや! コノ野郎!」


 怒鳴りながら彼の目に付けられたアイマスクを強引に剥ぎ取ってコンクリートの床に投げ捨てる。そして、無言で項垂れたまま動かない彼の首元を思いっきり強く掴んだ。


「ほんっと、てめぇはつまんないヤツだ。まるで死人の様な面してさぁあ!」

「ぅ……ぅぐっ!」


 彼の顔は血の気がひいて青ざめていたが、容赦なく締めつける。


「もう少し私を楽しませてくれない? こういう一方的な反応されたら、すっごい困るんだよねー。わかるぅー?」

「…………ぅぐぐっ!」

「最初みたいにキャンキャン吠えてくれないとさぁぁぁ!」

「……ぐっ……」


 微かに目を開けていたが、目の色には明るさはなく、澱んだ紫色と化していた。それでも私にとっては、もがきながら苦しむ彼の顔を見ると、優越感に浸れる快感がし、もっとやりたくなる衝動に駆られる。


「なーんだ。イイ顔するじゃん!」


 ニンマリと笑いながら言うと、ぱっと手を離した。


「…………ぐはっ!」


 彼は締められた勢いでゲホゲホと咳き込むと、ギッと私を睨みつける。紫色に怪しく光る彼の瞳が毒々しく感じ、更に高揚感が増す。


「あぁ! 素晴らしいよ! 私はその禍々しい目が見たかったんだよ!」


 あまりの美しい姿に、思わず彼を賞賛する言葉を吐いた。日本人離れをした彼の顔立ちと、珍しい瞳の色。どこの世界中を探しても、目に紫水晶をはめ込んだ彫刻の様な美青年はいないだろう。あぁ! そう思うと益々虐めたくなる。


「だからさぁ、もっと絶望的で魅力的なその目をねぇ……」


 私はそう言いながら、ガチガチと歯を震わせる彼の耳元で、更に囁いてみた。


「もっと、もっと、『私に』見せてくれないかい?」


 理性という名の制御が効かなくなった私は、悪魔の様に笑うと、再び彼の首元へ手をかけようとした。


「おっ?」


 すると、彼は睨みつけながら、私の右手を思いっきりかじりついた。


「その姿も綺麗なんだけど、何か残念な気がしてならないなぁ。まるで飼い主に酷く捨てられて、人を恨むようになった哀れな駄犬みたいにさぁぁぁ!」


 そう吐き捨てると私は齧られた右手で力強く彼の口を塞ぐ。


「うぐっ!……」


 彼はガチャガチャと音を立てながら必死に抵抗をするが、両手両足を拘束している為、思いのままにできる私の方が圧倒的に有利。なので、塞ぐ手の力を緩めず、更に彼の右足をグリグリと踏みつける。


「んぐっ!……ぐぐぐっ!……」

「あぁ。そういやこの駄犬は、噛みつく癖があるんだったなぁー」


 ねっとりと言いながら強く口を塞ぐ。


「ったく。飼い主の言う事はちゃーんと聞かないとだめだよー。ねぇー」

「んんっ!……んぐぐっ!」


 ニンマリと笑い、更に口元を強く塞いでみる。すると、彼はガクッと項垂れたまま、全く動かなくなってしまった。


「はぁー。気絶しちゃったのかー。つまんねぇーのー」


 怠い口調で吐き捨てると、手をパンパンと叩いて鉄格子の扉前まで歩く。最初の時は傲慢な態度をとってきたから、なかなか面白くて電流流して遊んでたんだけど、正直かったるかったなぁ。

 最後はこうもあっさりと気絶しちまったし。まぁ、もっと骨のある奴を探しとけば良かった。


「まぁー、次に抵抗したら、これよりきつーいお仕置きだからね? じゃあー」


「コーヒーでも飲み直すかぁ」とボソボソと呟きながら私は鉄格子の扉の取っ手に手をかけようとした。


――ガンッ!


「いっ!……」


 その途端、背後から突然、何者かに後頭部を思いっきり捕まれ、勢いよく鉄格子の扉にグリグリと押さえつけられていた。

 一体、どうなってるんだ! 気絶したはずじゃ……

 突然のことで戸惑いを隠せない。ふと左側に視線を向けると、彼を縛りつけたはずの拘束イスがもぬけの殻となっていた。


「おいおい。まさか!」


――ガンッ ガンッ……


「っ!」


 油断をしていたせいか、背後にいるだろう、何者かは押さえつけた私の頭を掴んでは鉄格子に容赦なく打ちつける。打ちつけては、引き離す、打ちつけては、引き離す……


「アハハハハハ! アハハハハ!」


 それを何回も何回も繰り返す間、背後からは子供が嘲笑うかの様な声がした。


――ガンッ ガンッ……


 鈍い音を立てながらも、次第に私の額からはダラダラと鉄の味がする赤い液体が流れ落ちていく。


「ってーな! コノ野郎!」


 笑い声が鬱陶しく思った私は、雄叫びを上げながら咄嗟に右肘で彼の脇腹を強くどつく。


「うっ!」


 何者かは声を上げながら脇腹を抑えていたので手が一瞬離れた。声をする方へと振り向くと、その勢いで何者かの顔面を思いっきりグーで殴る。


「うがっ!」


 その正体は、拘束イスに縛りつけていたはずの彼だった。彼はよろめいてコンクリートの地面にべたっと座り込むと、一言も喋らずに私を睨みつけた。


「どーやってイスから抜け出したのか、予想はつくけど……」

「……」

「あの椅子についてあったボタンでしょ? あれ、私が遊び心でわざとつけた奴だから速攻で分かったさぁー」

「……」


 そう言うとじりじりと近寄ってみる。彼はというと、禍々しいオーラを放ちながらも終始睨みつけていた。


「でもねぇー、まさか、看守である私の頭をここまでズタズタにするのは予想外だがなぁー!」


 怒りが有頂天に達した私はそう吐き捨てながら、右腰にしまわれた黒い拳銃を取り出す。

 

――ガチャッ


「!」


 彼は驚いた顔でこちらを見ているが、その姿もまたいい。

 ニタリと笑いながら、右手にしっくりと馴染むように持たれた拳銃の銃口を、彼の色白い額にあてる。


「本当はもーっと楽しみたかったんだけどさぁ。これじゃあ、急遽変更だわ」


 そう言うと、人差し指をフレームの上に置いて撃つ体制をとった。


「君、大人をナメすぎ。でも、最後に一つだけ、イイことを教えてあげるよ」

「……ナニ……を?」


 すると、突然彼の声色が一気に高くなり、額に銃口をあてられてもポカンと口を開けて私を見つめていた。


「お? やっと喋ったんだー。じゃあ、特別に遺言でも何でも聞いてやる」

「えっと、そのぉ……、ゆいごんって、なーに?」

「はぁ!?」


 なんだコイツ!? 正気か!?

 いきなり幼稚な発言をしてきたので、思わず拍子抜けしてしまった。


「はははっ! おまわりさん、へんなかおしてるぅー! それに、あたまからケチャップがでてるよぉ?」


 彼はそう言うと、唖然としている私に指を指しながら、大声で笑っている。


「あー! くそっ!」


 恥ずかしさのあまり、声を荒らげながら彼に向けていた銃をしまう。


「え? おまわりさん、いったい、どうしたの?」

「んー、何でもないさ」

「ふーん……」


 そこで私は、彼の警戒を解こうと、急遽、『優しいおまわりさん』を演じることにした。


「ところで、クレイジーな子、椎名望のことは知ってるかぃ?」

「……くれいじぃ? のぞみ? だぁれ?」

「あ……、えっと、き、君がとっても好きな人。じゃなかったのかぃ?」


 彼は「ん?」と首をかしげ、しばらく黙り込む。


「……うーん。たぶん、なまえだけならきいたこと、あるよ!」

「そ、そうなのか……」

「えっと、だれがいったのかはしらないけどぉ、『泣かせちゃダメだ』っていわれたことがあるんだぁ!」

「へぇ……そうなんだ」


 戸惑いながらも相槌を返すと、笑顔で「うん」と頭を縦にふる。


「おまわりさん、それが、どうかしたの?」

「ん。んー……」


 見た目は『城崎 麗』本人なのは間違いない。しかし、私とこうやって話をしている人は、一体誰なんだ? まるで小学校の低学年と話をしている様な感覚だ。波のような突然の変化に調子が狂う。


「ねーねー、ところで、ここはどこなの?」

「えっとねー、ここはね……」


 ん? まてよ……『優しいおまわりさん』ってこんな感じなのか!?

 普段は囚人からも恐れられている『怖い看守』から一転して『優しいおまわりさん』を演じている為、訳が分からなくなってしまった。


 あぁ! クソッ!


 自身の中で色々と違和感や感情がこみ上げている中、私はそれを顔を出さないようにしようと冷静を装いながらも、彼の前にしゃがんで話しかける。


「わるい人にきつーくおしおきをするところだよー」


 私にとっては最高なスマイルで答えたが、彼は「ふーん」と相槌を打ちながら、水色のコートから片目がとれたくまのぬいぐるみを取り出す。


「でも、わるいことしてないのにおしおきをするのって、へんだよね」


 彼はそう言うと、両手に持ちながら「ねー、くまたろー。このひと、へんなこといってるよー」とぬいぐるみに向かってお話をしていた。


「あっ……えっと……」


 な、な、なんとも言い難い光景だ。思わず頭を抱える。目の前で起こってるのはもしかして、この危機的状況から免れるためにやっている演技なのか? それとも、書類に書かれていたあの『病気』が発症しているのか……

 呆気に取られ、殺す気が失せかけていた。


「えっとじゃあ、君の名前は?」

「……おしえなーい」


 改めて名前を訊ねようとすると、何故か頑なに拒否された。


「え? なんで? だって、私は見ての通り、おまわりさんだよ? なんにも悪いことしてないし、それに、君を悪い人から守ろうとしてるんだよ?」

「だって、しらないひとにはなまえをおしえちゃだめ。ってパパやママにいわれてるからー」

「そっかぁ……」


 そんなに私は信用が無いのか……。って、よく考えたらこいつ、『囚人』だった。そりゃぁ信用しようと思っても無駄な話だったんだよな。


「やれやれ……」


 正気を取り戻した私は、溜息混じりに呟くと、ゆっくりと立ち上がり、腰元にしまっていた拳銃を再び取り出した。


「なにするの!?」


 彼は目をまん丸くし、声を震わせながら問いかけてきたが、「ふっ」と鼻で笑って銃口を彼に向ける。


「危うく『お前を殺る』という目的を忘れかけてしまいそうになったよ。突然別人みたく幼稚になったからなぁぁ!」

「えっ!」


 笑いながら人差し指をフレームの上に置き、撃つ体制をとる。


「でも、これで心置きなく君を処刑することができる。感謝しろよな」

「な、な、なんで? いやだよ! ママにあわせてぇぇ!」

「だめだっ!」


 そう怒鳴ると、おもむろに彼の手に抱えていたくまのぬいぐるみを強引に取り上げる。


「あぁ! それ、だいじなものぉぉ! かえしてぇぇ!」


 すると、彼は大声で泣きながら、ぬいぐるみに向かって手を伸ばそうとしてきた。


「わがままいうんじゃねぇ!」


 なので咄嗟に後ずさり、声を荒らげながら顔面を蹴り飛ばす。


「うっ……!」

「この人形の命をとるか、お前自身の命をとるか、どっちかにしろ。わかったな!」


 そう言い放つと、まるで人質をとるかの様にくまのぬいぐるみの頭部に銃口を当てた。


「……い……いやだよぉ……」

「……」

「くまたろぉ……」


 彼は床に突っ伏したまま動かず、声を震わせながら泣いていた。でも私は目の前で見ても、慈悲すら何も感じない。


 あーそうだ。そうだよ。罪人を処刑すること。これが断罪人である私の『使命』だ。この一連の流れを見て、目の前で子供のように泣きわめく青年『城崎 麗』は、『病気』という名の免罪符を渡された『罪人』だったことが分かった。

 だから、私はこいつみたいに、人を殺めたとしても、病気という理由で罪を免れてのうのうと生きているやつが吐く程とっても嫌いだ。あのクレイジーな奴 椎名望と同じくなぁ!


「まぁ。どっちにしろ、お前がこの場に来る前から君を処刑しないといけなかったからねぇ。どんなことであれ、今までやってきた行動は『悪人』そのものだからさぁ」

「あく……にん?」

「そう。てことでー」


――ガチャッ


「大人しく、あの世へ逝って罪を償ってくれないかぃ?」


 不敵な笑みを浮かべながらそう言うと、銃に弾を入れ、引き金をひこうと指を添えた。




――バンッ


「えっ!?」


 しかし、突然私の背後からするはずもない拳銃の音がし、恐怖を感じて左右を見渡す。


「誰だっ!」


 大声で叫びながら振り向こうとするが、何故か右足の付け根に痛みが生じる。


「いっ! な、な、何故だ!?」


 痛さに耐えきれず、膝からガクリと座り込む。慌てて足元をよく見ると、直径十センチ程の穴が、付け根から前へと貫通していた。


「何故私がこんな目に……。クソッ!」


 不意を突かれ、拳で思いっきり床を叩く。痛みが紛れるかと言ったらこんなのでは紛れるどころか、怒りだけがこみ上げてくる。


「どいつもこいつも邪魔しやがってぇぇぇ!」


 痛みのあまり、思わず叫びながら金髪をガシャガシャと掻き乱した。


――ガチャッ


「……!」


 ふと、背後から銃に弾が入る音がしたので咄嗟に振り向く。すると、黒い拳銃を構えた黒髪の少女が、鬼の様な顔で私を睨みつけながら銃を向けていた。



 

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