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Delete  作者: Ruria
第四章
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宿直室

 一方私達は、あちこちと周囲を見渡しながら向かっていると、ある扉の前に着いた。


「おい。お前ら着いたぞ」


 りくの掛け声に反応し、扉を見ると【宿直室】と書かれたプレートが堂々と取り付けられていた。他の独房より一際目立っている。何でこんな所を見落としたんだろう。


「ここが?」

「なんつーか、あっさり着いちゃった感じだね」

「まー、鍵もあるし、早く入ろうぜ」

「う、うん」


 皆に言われるがまま、パーカーのポケットから宿直室の鍵を取り出し、ガチャッと開ける。


「ところでよ、椎名」

「ん?」


 突然、彼が訊いてきたので、首を傾げながら扉を開ける。


「その、『麗さん』っつー奴はどんな奴なんだ?」

「んー。でも、どうしてそんなことを?」

「あっ。いや、その、お前が何度も言うからちょっと気になってよ……」


 六号室から出てくる際、私が麗のこと心配してると聞いていたのか知らないが、彼はそれ以降、こんな感じで執拗に聞いてくるようになった。もしかして、知り合いなのかな?


「そっか。彼は私にとって……」

「あー。麗さんはかなり頭良い人だよー」


 言おうとした途端、彼女が割り込むように背後から姿を現し、そっと私の肩に顎を乗っけて話し出した。


「え? 愛さん!?」

「望さんに言わせたら惚気しか出てこなくなると思って……」


 驚きながら訊ねると、彼女はこめかみを掻きながらそっぽ向いて答えていた。


「いや、だって! はぁ……」


 言いたいことをあっさりと取られ、大きな溜息をつきながら右手で両目を覆った。


「ふーん。頭良い奴かぁ」


 それを傍で聞いていた彼は、こちらに視線を向けることなく、宿直室の中へと入って行く。彼女も彼の後を追うように右隣につき、話をし始めた。


「突然どしたの?」

「あー。そいつ、俺と正反対なんだなーって思っただけだ」

「ん。確かに正反対かも」


 そんな二人の会話にそっと耳を傾けながら静かに扉を閉める。

 あぁ。愛さんはいつもこんな光景を眺めていたんだ……。


 気晴らしに周囲を見渡すと、コンクリート製の殺風景な壁にゴムで出来た灰色の床があり、真ん中には密集するかの様に事務用の机と椅子が三つ置かれていた。


「なぁ。お前ら、こっからどうするよ」


 彼は近くにあった安っぽくて古い回転椅子にドンッと腰掛けると、クルクルと回って遊びながら私達に質問を投げる。


「んー。この中、一通り探そうと思う」

「まぁ、何かありそうだよね。机の中とか」

「うん」

「ふーん。じゃ、退屈になるから俺、どっか行ってくるわぁー」


 すると、怠そうに言いながら椅子から立ち上がり、此方に一切振り向きもせずに扉の方へと歩き始めた。


「えぇー! もう?」

「あぁ。ちまちまと探すなんてめんどくせぇ。それと、こーやって群がるのも俺は苦手だ。つーことで!」


「じゃあ!」と言い残すと、再び扉の方へと歩き始める。


「ちょっと何それ! そーやってカッコつけて手ぇ上げても死んだら意味無いじゃん!」


 すると、彼女は悲しげな顔で言いながら引き留めた。


「あ゛ぁ!? 俺を勝手に死なすんじゃねーよ!」


 しかし、彼は睨みながらその手を振り払うと暴言を吐き始めた。


「だって、何も考えなしで危ない所に行こうとするからじゃん!」

「俺は俺のやりたいようにやるんだ。文句あんのか?」

「文句も何も、こんな物騒な場所を一人で行くとか、マジで正気?」

「んだと! テメェ!」

 

 そう言うと互いに睨み合いながら、盛大な口喧嘩が飛び交い始めた。


「二人共……」

「だって! 戮さんが勝手な行動するから!」

「あ゛ぁ? 俺は一人で行きたいと言ってるのにコイツが訳わかんねぇこと言い出すんだ!」

「はぁ」


 互いに責任をなすり合う姿に思わず深いため息をつく。まぁ、両者の言いたいことはわかるけど……。


「そんな大っきい声出してたら、見つかるよ」

『あっ……』


 その途端、二人は顔を見合わせながらオドオドとし始めた。


「気分わりぃ。俺、先に行くから」


 彼はしかめっ面しながらそう言い捨てると、颯爽と部屋から出ていってしまった。





「どうしよう。望さん」

「ん?」

「彼を……、怒らせちゃった」


 愛はそう言うとガックシと肩を下ろしながら私に相談をしてきた。


「あぁ。確かに一人で探したいとか駄々こねてたね」

「そうそう! 何なのあいつ!」


 あぁー! と叫ぶと、両手で長髪をグシャグシャにして怒りをあらわにする。


「えっと、じゃあ、愛さんにかなり大事なお願いがあるんだけど……」

「え? お願い?」

「うん。さっき出ていった彼を追って」


 そう言いながら扉を指さす。


「はぁ? 何でよ!」

「だって、ちゃんと謝った方がいいと思ったから。それと……」

「それと?」

「まぁ、とにかく彼を追って」

「あ……うん。望さんが言うなら仕方ないね」


 話の意図が全く掴めてないのか、戸惑いながらも私に言われるがまま、愛は部屋をあとにして行った。





「確か彼、あれで破片者パーツなんだよね」


 誰も居なくなった当直室でポツリと呟いた私は、再び片っ端から引き出しを開ける。


「ん?」


 すると、一つだけ開かない引き出しがあったが、年季も何年か入っていた為、所々に錆が生じていた。


「強引だけど、これしか思い浮かばない」


 そう呟くと両手で取っ手を掴み、前後にガチャガチャと動かしてみた。


――ガチャッ

 

「おっ。開いた!」


 すると、手首がかろうじて入れるほどの隙間を確保することができたが、大量の書類がぎっしりと隙間なく詰まっていた。


「はぁ」


 とりあえず、全部調べてみるか。

 そう思った私は破かないよう、一番上から何枚か慎重に取り出し、一枚一枚中身を見る。


「えっ……」


 ある書類に目を通した途端、呆然と立ち尽くしてしまった。と同時に、右手に持っていた書類が指からすり抜け、バラバラと音を立てながら床へと落ちていく。


 そして、左手に残った書類の一番上には、こんなことが記載されていた。


――――――――――――――――――――――


――〇〇年〇月〇日〇曜日 


 深夜十二時半。医療センター近辺の閑静な住宅街の一軒家の――の中から、女性の変死体が発見された。発見当時、死体は仰向けの状態になっており、顔は血の気が無いほど真っ青になっていた。小型の懐中電灯で目の中を照らすと、瞳孔は開きっぱなしとなっていた。おそらく、死後1週間までは経ってないだろう。状態は悪くも良くとも言えないが、腐敗は進行していない。


 鑑識の調べによると、身元は――さん(――)だと言うことが判明。全身には鋭利な刃物で刺した様な傷が数十箇所もあり、死因は出血死。何者かの強い殺意による犯行として、捜査に当たっているが謎が多く、捜査は難航している。


――――――――――――――――――――――


「医療センター近辺の住宅街って……」


 場所は明確に記されて無かったが、明らかに私の近所だった。医療センターの中の住宅街と言ったら、噴水があった大きな公園しか思い出せない。

 それと、何故か黒ペンで塗りつぶされた名前、場所も気になる。


「でも……」


 今はそれより、脱出する手がかりを見つけないと。内心焦っていた。


「あっ」


 ふと、視線を机の上に向けると、赤いゲームソフトと『枷』と書かれた小さな鍵が無造作に置かれていた。

 もしかして、りくさん、こうなることを予想して……?


「いや」


 この置き方から見ると、麗みたいに先々までは考えてはないだろう。仮にあの口喧嘩が演技だとしたら、あまりにも滑稽こっけい過ぎる。


「とりあえず、挿すか」


 私は独り言の様に呟きながらパーカーのポケットからゲーム機を取り出し、赤く輝いたソフトを手にすると、躊躇ためらいもなくカチッと差し込んだ。


「いっ! まただ!」


 その途端、愛さんから貰ったソフトを挿した時と似たような、あの激しい頭痛と眩暈が私を襲う。視界がぐにゃぐにゃに歪み、徐々に方向感覚が失われていく。前を向いているのかどうかすらも全く分からない。


 私はその場で蹲りながら、痛みに耐えようとするが、背後から魂が抜けるかのように、力が徐々に抜けていく。


「やだ……やだ……」


 再び同じ言葉を繰り返していたが、その後、力なく倒れてしまった。







 うつ伏せで倒れた少女の手元近くに置かれたゲーム機の液晶には、あのデジタル文字がくっきりと刻まれていた。


――ノゾミサマハ

     イカリノカンジョウヲ

            エラレマシタ――



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