子供部屋
アンティーク調なメインルームから扉を開けると、壁も床も水色を基調とした空間に着いた。
壁には飛行機がたくさんプリントされている。床は無地になっていた。見た感じ、男の子の部屋みたい。
そして、扉は部屋に入った途端、スッと跡形もなく消えてしまった。
そうか。もしかしたら、鍵を見つけたら、扉が瞬時に現れるお決まりパターンなのかな。
私は直ぐに察した。ゲームは既に始まっている。
「ということは……。出口を探さないと」
辺りを見渡すと、床には散らばれた無数の玩具。右側にはカラフルな引き出し付きのボックス。左側には子供用のふかふかなベッドが置かれていた。
「ん? これは?」
近くまで寄って見ると、剣の壁掛けを見つけた。頑丈な金具で固定されていて、プラスネジでがっちりと閉められていた。
試しに指を切らないように、刃の部分を触ってみると金属独特の冷たさがひんやりと伝わってきた。この剣、どうやら本物のようだ。
その下には、鍵穴がない蓋付きの大きな箱が置かれていた。形は四角く、液晶画面と数字のボタンが取り付けられている。
粗方見た所で私は、怪しそうな所から、虱潰しに探索を始めることにした。
まずは引き出し付きのボックスから。引き出しを上から順に一つ一つ開けていく。すると、真ん中の段に、赤色のプラスドライバーが仕舞われていた。
これがあれば、剣を固定しているあの金具、外せるな。そうひと安心し、再度探ろうとした時だった。
「ん?」
ふと、茶色くて柔らかい形をした物が下から二番目のボックスの引き出しに挟まっていたので、それを引っ張ってみる。
すると、そこにはぬいぐるみのパーツ(手だけ)らしきものが挟まれていた。
私は一瞬、驚いて目を丸くし、パーツを引き出しにしまう。そして、ふぅっと深呼吸をし、動揺した精神を落ち着かせた。
気を取り直してベッドの下や枕元を探り、ある程度探してみたら、かなり収穫を得た。
まず一つ目は、枕元にボールペンと一冊の青い日記。誰かの日記のようだ。どんなのが書かれているか、気になったので捲ってみることにした。
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十二月二十四日
きょうは、クリスマスイヴ。
なので、サンタさんに
あるものをおねがいしました。
とってもたのしみです。
十二月二十五日
きょうは、まちにまったクリスマス。
くつしたには、サンタさんからの
プレゼントがはいってました……
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此処から先のページが破けていた。
「クリスマス……か」
まぁ、私には関係無い話だ。
でも、破られたような途切れたページの先がどうしても気になる。切れ端は一体、どこにあるんだ。
もう一つは、ベッドの下に置いてあったくまのぬいぐるみ(片腕がない)を見つけた。
あとは、銀色の箱とベッドの間に挟まれていた一枚のメモだ。覗いてみると、目の前にあったので、手を伸ばしたら簡単に取れた。
メモには赤字で「継ぎ接ぎの心は箱の中」と書かれただけだった。でも、私はそれだけで何の暗号かは察した。
このような類の謎解きは前にどこかのゲームで見た覚えがあったし、やったことがあるからだ。
「継ぎ接ぎ……。そか」
思い出したかのように、日記を見て日付を確認する。
「なるほど」
そう言うと先程の箱の所へ行き、液晶に番号を打ち込んだ。
――カチャ
この暗号で合ってたようだ。良かった。ホッと一安堵する。箱の中にはレプリカの剣と、何故かスマートフォンの充電器がしまわれていた。
「え? 何で充電器?」
不思議に思っていたが、剣のレプリカと共に、一応手に入れることにした。蓋を閉めたあと、見落としたところがないか、再度この部屋を探索をする。
あと気になるのは、剣だ。
剣をすり替えるのは分かるんだけど、すり替えた後に罠として狂者がやって来るかもしれない。念には念を置いて、後回しにしとこう。
となると、次は片腕がないくまのぬいぐるみだ。
先ほどの腕と縫い合わせると思うのだが、裁縫道具らしきものがどこ探しても見つからない。もしかして、他の部屋かな。
子供部屋を後にしようと扉を開ける。
――タッ……タッ……タッ……
その途端、薄暗い廊下から誰かが歩く音がした。
狂者だったらまずいので、即座に扉を閉める。
そして、どこか隠れる場所がないか、辺りを見渡す。すると、近くに大きいクローゼットを見つけた。
これなら私一人分隠れられそう。
クローゼットの中に入り、静かに身を潜めて足音の正体を探ることにした。
――ギー……ギギギギギ
誰かが入ってきたようだ。
辺りは薄暗いが、付いてあった小窓から、はっきりと見える。小さいけど黒い影。右手には怪しく光る鋭利な刃物。間違いなく狂者だ。
狂者は辺りを見渡していたが、標的がいないことを確認してから、部屋を出て行ってしまった。
足音が消えた後、そーっと扉を開け、周りを見渡して居なくなったか確認する。そして、静かにクローゼットから降りた。
間一髪だった。ここにいたら確実に危ないと思い、扉を開けて廊下を見渡す。幸い誰もいない。
「いくか」
一言呟くと、子供部屋を立ち去って行った。