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Delete  作者: Ruria
第一章
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メインルーム

 扉を開けると、アンティーク調の部屋で、周りは真っ赤な壁と絨毯が敷かれていた。大きさはそんなに広くはない。天井に吊るされた高そうなシャンデリアは、大きくて綺麗だが、光は何故か薄暗く、豆電球の様な温かみがある。


「ここはホントに……どこ?」


 その場で唖然とした。あんな眩しすぎて何もない空間から、突如、西洋風の部屋へと変わった為、思うように頭が働かない。


「お洒落で綺麗だけど、これは?」


 歩きながらそう呟くと、左側の壁に架けられた、場違いなモニターの前で止まる。私は思わず無表情でじーっと画面を見つめた。電源はついてない。暗いけど、自分の容姿が鏡のように映ると同時に、今いる場所を再確認した。


 両サイドの髪を垂らし、後ろに縛った黒髪。上は無地柄の白パーカー。チャック付なので胸元まで下ろすと、黒の丸襟トップスが見える。下は何回も洗濯をした様な、色あせた青ジーンズに黒いスニーカー。顔立ちは整ってて綺麗だが、少年にも見える顔つきであるから、自分でも一瞬男の子だと思ってしまった。


 私の近くには、西洋風のお洒落な木製のテーブルと椅子が六つ、囲むように置かれていた。


「あと、何故かリモコンが無い」


 小声で呟きながら歩き、テーブルに目を向ける。白いメモ帳と黒いボールペン、真ん中には薔薇を生けた花瓶が置かれているだけ。見た感じ、スッキリとした印象で、匂いも仄かに薔薇の香りがしたが、一目だけ見てすぐに逸らした。あまり花には興味ない。そして画面と向い合うようにして、椅子に腰掛ける。



――プツッ……



 突然、モニターの電源が勝手に入り、白黒の砂嵐になった後、白い仮面の男が画面に映る。一つ目で瞳孔が赤い。なんとも奇妙な姿だ。


「ヤァ! 椎名望サマ! ヨウコソイラッシャイマシタ!」

「え? 誰?」


 その男は陽気に話し掛けるが、私は冷静に耳を傾けていた。


「私ハ、此ノ館ノ支配人デス」

「支配……人?」


 疑問を抱きながら聞き返す。支配人と自分で言ってるこの男は、かなりのナルシストに見えたが、何者なのかはわからない。


「ハイ。ココ『異空館』ノデス!」

「異空……館? 私の名は、望?」

「ハイ、ヤット覚エラレマシタカ?」

「まぁ」


 名前と場所は、何とか覚えることができた。私の名は望だということ、ここは異空館だということも。


 しかし、これは現実なのか夢なのか、頭の整理が追いつかない。それを知ってか知らずか、支配人は片言ながら流暢に喋り始める。


「実ハデスネ、貴方ハ、選バレタノデス」

「え! 何に?」


 思わず聞き返した。それはそうだ、画面にいる変な男が急に、「貴方は選ばれた」だとか、意味不明なことを言い出したからだ。


 しかし、彼はそんなのもお構いなしに、画面越しから再びべらべらと喋る。


「マァ。『常者(プレイヤー)』二選バレタノデス」

「常……(プレイヤー)? どういうこと?」


 首を傾げ、画面を睨む。


「用スルニ、ゲームノ参加権ヲ得ラレタ。トイッテモヨイデショウ」

「ゲームの、参加権?」

「ハイ、簡単二言ウト、脱出ゲームデスネ」

「脱出、ゲーム?」


 ここから支配人は、長々と片言で説明していたので、私は自分なりに解釈をしながら、忘れないように、白いメモ帳にこう記載する。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


    ーDeleteー(ゲームの説明)


 ・今いる所はメインルーム。

 ・ここを拠点として、順に扉を開ける。

 ・次の扉の鍵は、空間の中で手に入れること。

 ・空間内のアイテムは、自由に使っても良い。

 ・破片者パーツを仲間にすると、どれか一つ、常者に感情を得ることができるアイテムを渡してくれる。

 ・又は、破片者に関するアイテムを手に入れ、彼らに渡すと、彼らの抜けた感情を一時だけ、取り戻すことができる。(しかし、関連する物でないと何も起こらない)

 ・尚、破片者と協力しながら進めてもいいが、所持品は不必要に触らない。

 ・狂者には何しても効かないので、出逢わないようにするのが懸命。

 ・一度クリアした扉には、再度入れる。

 ・尚、各部屋には、休憩所がどこか一つ必ずあるので、そこにいる間は狂者は寄り付いて来ない。なのでゆっくりと休むと良い。




    ー呼び名ー(参加者と破片者のみ使える名称)


 ・破片者パーツ……一部だけ感情が抜けた人のこと。常者に味方をしてくれる。


 ・狂者……文字通り狂った者。主人公や破片者を襲うことがある。そいつに捕まったら最後、抉られて死亡。


 ・常者(プレイヤー)……脱出ゲーム「Delete」のプレイヤー。脱出しなければ、死ぬまで異空館から出られないようだ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「要するに、破片者パーツを集めて、無くなった私の感情を取り戻せばいいってこと?」

「ソノトオリデス」


 メモを執りながら、画面越しの支配人に無表情で鋭く言葉を投げかける。


「ふーん。それと、何で一部の記憶、感情が無くなってるの?」


 そう訊ねると、彼は咳払いをしてこう切り出した。


「簡単二言ウト、『Delete(デリート)』二参加スルコトト引キ換エニ、貴女ノ感情ヲ全テ無クシテイタダキマシタ」

「えぇ? そんなこと、いつやったの?」


 疑問が沢山あったが、彼は微動だにしない。まるで人形に話しかけてるかのような気分になる。


「マァマァ。ソレト、全テノ扉ヲ開ケタアカツキニハ、願イヲ一ツダケ、聞イテアゲマスヨ」

「はぁ、分かりました」


 彼はなだめながらも淡々と答えていたが、私は「ここを抜けたら願いを叶えてくれる」と言った言葉を信じ、コクリと頷いた。


「アト、一ツダケ忘レマシタ」

「え?」

「貴方ノパーカーノ中二、ゲーム機ガアルノデ、ソレヲ起動シテクダサイ」

「ゲーム機、ですか?」


 おもむろにパーカーのポケットを探る。そこには確かに携帯型ゲーム機が忍ばされていた。左右にボタンがついていて、真ん中には大きな液晶がついている。こんなゲーム機、入れた覚えは全く無いが、何故か懐かしく感じる。多分、「前からやっていた」という感覚だけが覚えているからだろう。奇妙な気分だ。


 雑念に駆られながら、私は彼に言われた通り、手元に持ってるゲーム機を起動してみる。


 すると、今まで手に入れた感情リストというものが出てきた。確かにそこには


 ━━ノゾミサマノ

    ゲンザイノカンジョウハ

            アリマセン━━


 そうはっきりと、デジタル文字で刻まれていた。


 ありませんって唐突に言われても……。そもそも「感情」って何だろう。内心思っていたが、聞くとややこしくなると思い、黙っていることにした。


「デハ、ゴ武運ヲ祈リマス」


 彼はそう言い残すと、映像はプツリと途絶え、辺りは再び静寂に包まれる。


「……」


 無言でゲーム機を何気なく机に置き、天井を見上げていた。が、それをやっても答えは見つからない。全く無駄な行動をしたものだ。


「さて、行こうっと」


 重い腰を上げ、ゲーム機を手に取るとポケットにしまった。


 私の周りには、五つの扉が右側に二つ、左側にも二つあるが、何故か真ん中の扉だけは幾つもの南京錠がかけられている。なので、南京錠以外の扉を、虱潰しにガチャガチャと調べることにした。


 すると、一つだけ開いた扉を見つけた。どうやら場所は、私から見て右奥の様だ。


「ここからか」


 そう呟くと、扉をゆっくりと開けて入って行った。

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