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Delete  作者: Ruria
第三章
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二手に分かれる(美術準備室)


 図書室から出た僕は、スマートフォンのライト機能を頼りに、廊下を歩く。途中、近くを通ると美術室から誰かが扉を叩く音がした。しかし、聞こえないふりをしてその場を通り過ぎる。


 こういう時は触らぬ神に祟無し。っていうことわざを使うのが正解かな。


 そう考えながら、無事に準備室の前に着いた。


「ここ……か」


 そっとドアノブに手をかけて回すと、カチャッと音がした。


「確か、ここにある。って模型さん、言ってたはず」


 前へ押すとすんなりと開いたので、周りを見渡しながら恐る恐る、部屋に入る。

 準備室の中は驚く程狭く、両手を広げても手がギリギリ壁につくかつかないかの広さしかない。奥行きは多少広かったが、キャンバスが邪魔で中々奥まで行けない。

 おまけに壁の両側には、ポスターカラーの瓶が入った棚がずらりと所狭しに並べられていた。右奥には多分だが、美術室に通じる扉がある。しかし、長い間使われてないようで、扉の周りには、埃の塊が沢山付いていた。誰も手を付けないまま、長年放置されていたのだろう。と言っても、ここの部屋は全体的に埃が多いから、不衛生だ。


 体の弱い僕は、ゴホゴホと咳き込む。そして、落ち着いた所で周囲を調べ始めた。


「はぁ……」


 薄暗いこの空間は少し慣れてきたが、未だに好きになれない。背後にある扉の鍵を閉め、一人溜息をつく。


 そういえば、望は何してるのだろう。愛さんと一緒にいるのかな。


 僕は扉を背もたれにするように、その場で座り込み、おもむろにスマートフォンの画面を開いてLIKEを起動させる。そして、はじめの文章をこんな風に打ち込んで送ってみた。


 麗︰望。今大丈夫?


 送ってはみたけど、異性にこんな形で文を送るのは初めてだ。緊張していたせいか、返事が来るまでの間、LIKEのトーク画面をジーッと見つめていた。


――ブーッ……


「あっ! 来た!」


 スマートフォンが震え、画面を確認する。


 望︰うん。大丈夫だけど、どうした?


 「わっ!」


 すると、突然返事が来たので思わず画面から逸し、頬を右手に当てる。


 でも、次はどう打てば……


「とりあえず、模型さんが教えてくれたことを打ちこんでみるか」


 そう言って再度画面を見つめ、この文で送ってみた。

 麗︰さっき、七つ目の七不思議の正体が分かったよ!


 これで、望は何かしら反応を示すだろう。再度トーク画面を凝視する。


――ブーッ……


 望︰え? それって、どういうこと?


 やっぱり。気になるよね。


 画面に出た文字を見てホッとした。なのでその後もLIKEでやり取りを続ける。周囲は相変わらずキャンバスなどが置かれていて、不気味な雰囲気は出ているが、そんなことは今の僕には関係ない。


 麗︰んー。つまり、七つ目の七不思議が書かれてない原因は

 望︰うん

 麗︰あの男がもう一つを作り出したからなんだ。

 望︰はぁ?


 打っても望は文の癖が変わらない。でも、そこがいいんだけどね! ほら、文の癖と現実で話す言葉が同じではない人もいるから、望はその分類に入ってなくて少し安心した。


 そう思うと、ふっ。と鼻で笑い、再度やり取りを続ける。


 麗︰まぁ、驚くよね。七つ目が二つあって、そのうちの一つは偽物でした。なんて。

 望︰うん。その男って、私らを人間楽器にするっていうキチガイ男?

 麗︰その通り。その人の名前は、遠藤先生というらしい。

 望︰遠藤先生?

 麗︰うん。元々は真面目で几帳面な先生だったらしいんだ。

 望︰そういえばその人の机、他の人の机より、異常な程綺麗だった。


 まぁ、正直言っちゃうと、僕にとって先生の存在はどうでもいい。望さえ無事にいてくれれば、それでいいと思ってるから。先生が真面目であろうがロリコンであろうが、いてもいなくても……。


 まぁ、望に危害を加えた時点で僕は許さないけど。そこだけは変わらない。本当は愛さんのこと、どうでもいいと思っていた。でも、それを口に出したら望が悲しむ。だから、その顔だけはさせないようにしないと。


 再び画面に目を向け、やり取りを続ける。


 麗︰そっか。ところで望?

 望︰ん?

 麗︰愛さんは元気?

 望︰隣でこれ見てるから元気だよ(笑)

 麗︰そっか。それなら良かった。


 まぁ、今の所は大丈夫かな。でも、愛さんには何故か苦手意識が働く。彼女は何を考えているのか全くわからない。あの保健室での件がどうも引っかかる。


 考えながらトーク画面を眺めていると、保健室で言われたあの言葉を思い出した。



――全体的に暗い。


――良い所を沢山持ってるのに、ネガティブなことばっか言うのが勿体無い。



 言葉自体がナイフのように鋭く胸に突き刺さる。だから、かなり印象的だ。でも、僕はそんなに自信がないように見えたのかな。全体的に暗い。って、初めて言われたよ。


 まぁ、そもそも良い所なんて、僕からしたら一つもないのは事実だ。でも周りはそれを知ってか知らずか、【良い所】だけ捉えて褒めているだけだろうと思う。【容姿端麗】て言葉で片付けてね。どうせ内心では【白い化物】だと思っているんだろうね。人って怖いな。でも、最後辺りに言ったあの言葉も気になる。


――何で人は『平等』じゃないんだろうって。


 それは僕も疑問に思っていた。


 みんなと同じ身体で同じ容姿で、そして同じ時を過ごしたかったのに、何でこんな体にしたんだ。って何回神様に呪いをかけたくなったことだろう。今ではもう慣れてるからいいけど……


「はぁ。また変なこと、考えてしまった」


 僕は嫌な考えから目を背けるように、上を向く。


 孤独だ。この時が一番苦しい。何も考えたくない。あぁ……







――ブーッ……



「望からだ」


 一人、スマートフォンを左手に握りしめたまま、薄暗い天井を見上げていると、静けさをかき消すかのようにバイブ音が鳴り出す。画面を見ると、こんな返事が来ていた。


 望︰あっ。ごめんね。愛さんが拗ねちゃったから、また後で!


 何だよそれ。僕はもっと望と……


「ダメだ。正常でいないと」


 一つ溜息をつき、自我を抑えながらも左手で文を打ち込む。


 麗︰うん。でも、気をつけてね。

 望︰ん、分かった


 こっちが終わったら、早く望のところに行かないと。だから……


「早く終わらせなくちゃ。ね」


 そう呟きながら立ち上がろうとした時だった。


「ん?」


 ふと、右隣に置かれたキャンバスの下に、闇に紛れる程の黒くて大きな箱を見つけた。そっと手元まで引っ張り、静かに箱を開けてみる。


「これ、模型さんが言ってた例の奴かな」


 その中身を確認した後、一枚の紙を手に取って開いて読む。内容を確認した所で、その箱を持って準備室を後にした。





 そのまま保健室へ向かおうと、準備室から出て、扉を閉めた時だった。


「それ、手に入れたのね」

「模型、さん?」

「えぇ。そうよ。実は……」


 模型さんは目の前に立っていたけど、様子がおかしい。


「あぁ! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! 私、取り返しがつかないことをしてしまいました!」


 僕を見た途端、歯ぎしりしながら僕の目の前で土下座をし始めたのだ。


「え? 急にどうしたんですか?」


 驚きながら聞くが、一向に頭を上げない。


「望さんと、茶髪の少女がね……」

「望が、どうしたんですか?」


 涙で声を詰まらせながら話していたので優しく訊ねると、こう言葉を吐き出してきた。


「あの男に、連れ去られてしまったの!」

「そんな!」


 愕然とし、手に持っていた箱がガシャンと床に落ちる。


「それに私は、三人をここから抜け出す手伝いをしようとしていたのに、男の恐怖から抜け出せなくて……」

「そう、ですか」

「ごめんなさい! それと、あなたの大事な人にまで手を……」

「いや、無理して言わなくても良いですよ」


「もうこれ以上は聞きたくないので」と視線を反らし、相手に聞こえないように小声で呟いた。 


「え?」

「あっ。それより、顔を上げてください」


 模型さんは僕の発言に驚きを隠せないでいたが、笑顔でそう言うと、そっと顔をあげていた。


「僕は大丈夫、ですから」


 そう言い残すと、何でも無いかのように箱を拾い上げ、彼の横を通り過ぎる様にこの場を後にした。





 黒い箱を抱えたまま、保健室に着いた僕は扉を閉め、長椅子に腰を掛ける。


「連れ去られた……か」


 箱を自身の隣に置き、床に視線を向けていた。


「助けに行かないと……」


 でも、何故か足がすくんで動けない。怖い訳じゃないのに、この脱力感は何だ?


「うっ。眠たい」


 おまけに眠気も襲ってきて、正直疲れた。望達が危ない目に遭ってる。と言うのに、緊張感なさすぎて情けない。


 でも、疲れたのは事実。少しだけ休もう。

 

 座りながら腕を組み、そのままうつむいて寝てしまった。

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