模型さん
*
理科室からそそくさに立ち去った、あの少女と、茶髪の少女。ボスが求めていたタイプとクリソツよねぇ! あぁ、そっくりってことねっ!
それと、あの銀髪の子、最初は女の子に見えたけどぉ、話からして男の子みたいだったわ。
でも、ボスは男の子には全く興味は無いらしい。まぁ、適当に報告しとこっと!
そう思い、後ろをくるっと振り向いたら、あらまぁ。ボス! 噂をしたら現れるというのはよく言ったことねぇ! 当たるったらありゃしない!
「まぁ! ボス! 一体、どちらに行かれてたのですかぁ!?」
「それはお前が知ることではないだろ。お前は所詮、模型だからな」
冷たい声で私をあしらうこの方は、通称 ボスと言われているの。ガタイが森の熊の様におっきくて、黒縁メガネにわかめみたいなチリッチリの髪の毛を不精に生やしているわ。見た目は不潔っぽいけど、白衣に身を包まれているこの人は、私を生き返らせた恩人なの!
主に理科と音楽を担当していたみたいだけど、何で音楽なのかは、さっぱりわからない。という事かしら。
「まぁ、そんな酷いこと、言わなくてもいいじゃないですかぁ!」
「ふっ。それより、先程まで理科室にいたあの三人はどこにいるんだぃ?」
「貴方がガタガタ準備室で騒いでたからですよ! 青い顔して立ち去って行きましたよぉ!」
「なっ! お前、止めなかったのか!」
彼は驚いた顔して私を見た。
「止めるも止めないも、私模型ですから、すぐにすっ飛ばされちゃいますって!」
「まぁ、それはそうだ……な」
そう言うと、少し考えている。
「じゃ、何処に行ったか、推測はつくか?」
「推測ですねぇ」
「あぁ」
もぅ。この人、何考えてるか分からない。なんでそんなに女子高生に執着するのだろうねぇ。まぁ、適当に言っとけばいっか。
「然程遠いところに行ってはないと思いますよぉ」
「そうなのか。じゃ、虱潰しにこの階を探すか」
「うふっ。了解!」
そう言うと、一つ一つ見ながら図書室に向かうことにした。
*
私と彼は廊下を歩き、図書室の扉の前へと着いた。
「そういえばですね、ボスのタイプの子がいましたよぉ!」
――ガラッ
「模型よ。それは本当か?」
「本当ですよぉ! それはそれでとっても美人さんでしたわぁ!」
その他にも、あの子達は普通の女子高生とは何かが違って見えたのよねぇ。なぜかしら。
「ほぉ、どんな子なんだい?」
ほら。ボスも食いついてきた! 私は嬉しくなって、思わず喋り始める。
「一人はバツ印のマスクをしている茶髪の子。この子の他に、白いパーカーを着て、凛々しくて、黒髪の美少女がいたのよぉ! 二人揃ったら絵になるぐらい、素敵な子たちでしたわっ!」
「ほぅ。マスクをした茶髪の少女と、白いパーカーの黒髪少女……フッ。フハハハハハハハ!」
彼はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべた途端、大笑いをし始めた。
「模型よ! 大したもんだ!」
「え! 突然どうしたんですかぁ?」
思わずオロオロする。
「それさえあれば……俺の野望がぁ!」
「野望? それって、何ですのぉ?」
「ふっ。模型に話しても無駄だと思っていたが、特別に話そう」
「え!」
どういうことかしら? これは信用してくれている。と捉えてもいいってことよね? そう思い、言葉を待つ。
「それは……」
「人間楽器を作ることだ。と言っても、腹太鼓だとか、人から音を奏でる。というのではない」
「じゃあ……」
『人の体を材料として使い、楽器を作ることだ!』
「えぇっ!」
お、おおお、恐ろしすぎるわっ! こんなエグいことがあったのなら、聞かなければ良かった!
そう思っても時はすでに遅し。思考が混乱になり、顔面蒼白となった私は再度、訊ねる。
「てことは……」
「そういうことだ。髪は束ねて弦として、目玉はスティックの先に取り付けてな。腕は空洞にして笛としても使える。そして材料は女子高生。誠に素敵なことだろう!」
「は……はぁ」
「それと、ここには居ないようだから、次へ行くぞ。模型」
「分かりました。ボス」
あの話を聞いた途端、急に胃が痛くなってしまった。そういえば、美術室に絵として囚われてしまったあの子も、この男によって両目を盗られてしまったのよね。それもまさか、『人間楽器』としての材料で……。
それより、私もなんて馬鹿なことをしてしまったのだろう。こんな酷いことをする男に、望さんや愛さんのことをうっかり言ってしまった。
あぁ……ごめんなさい。せめてもの償いとして、この男に捕まらないよう、私も精一杯嘘をつく。だから。
「三人共、どうか、逃げ切って!」




