支配人の末路
*
「ふっ。残念だったな」
「……」
「これで、悪魔達の脱出は果たせたぞ」
「……」
「さぁ。どうする?」
俺は、目標を達成したかのような、高揚感があった。
このまま死んでも後悔は無い。
あとは目の前にいる裏切り者を殺るだけ。
「そう言われてもねぇ。ふふふっ!」
だけど、こいつは余裕な表情を浮かべながら、こう問いかけてきやがった。
「そんな無様な死に様を見せて、何がしたい訳?」
「さぁ? なんでだろーな。でも、お前には無様に見えるだろうが、他人を庇うことなんざ、一部の人間にしか、出来ねーけどな」
「人間。ねぇ……」
「ところでよ……」
なので、俺も切断して出血が酷くなった左腕を、口と右手を使って器用に袖口を縛って自力で止血すると、彼女にある質問をしてみた。
「狂者を作ったのってさ、お前だろ?」
「え? その根拠はぁ?」
「これを見ろ」
自身のローブの下から取り出したのは、6枚の小さな画用紙だ。そこには黒い影に赤い目玉が一つだけ描かれている。
ちなみに描いたのは、『Delete』に参加した悪魔達だ。残りの一枚は、恐らく『Purple』の所にあるだろう。
「狂者は悪魔達が、1番恐れているモノを具現化させた姿なんだろう?」
「……」
「そして、そいつに捕まった奴は、『更生』という名の『拷問』にかけ、被験者の思考を廃人化させ、安楽死へと導かせる様にした。その第1号として、『Purple』を拷問したのだろう?」
「……」
「それに……」
更なる反撃をするために、俺は再度、ローブの下から、一つのメモリーカードを取り出した。
「Siriさん、いや。コードネーム『サナエル』様」
「……」
「本当のお前は、教団に造られた『知的生命体』で、『人間』では無いんだろ?」
「……くっ!」
「やっぱりな」
実は、誰にも言ってなかったが、マスターから渡されたハンドガンの後に、俺だけ、密かに一枚のメモリーカードを、渡してきた事があったのだ。
だけど、このカードは、いつでも廃棄にしても良いように、マスターが何個か複製にしてとっといているらしい。
その中の一部なので、仮に壊れてもまぁ。被害はそんなにないがな。
ちなみに中身は『サナエル』の秘密が詰め込まれているらしく、そこで、彼女が『人間では無い』という事も記録されていたのだ。
これにはとても驚いていたが、今思うと、確かに人間には思えなかったんだよな。
前の映像で見たが、被験者の目を刺す時の、あの淡々と仕事をこなす姿。最初から感情が無いようにも見えたのだ。
記憶と感情が抜けた時の望とは、また違う。最初から感情が存在しないロボットの様な。そんな気がした。
「だから、何よ。『人間』じゃなかったら、イルミナの執行官としていちゃダメな訳?」
「そーでは無いですよ。ちゃんと貴方は『任務』をこなしていましたよ。ただ、度が過ぎていただけです」
「だけど、どこかの裏切り者のせいで、『城崎源』は臓器提供ていう形になってしまったじゃないの。その臓器が善人な病人の元に行ったらどーするのよ。臓器だって、『記憶』するのに……」
「けど、結局はさ、狂者に食われて臓器提供をしても、死んだ事には変わりはないだろ?」
「ちっ……」
「本当は、自分で殺りたかった癖にな」
「……」
しかし、彼女は無機質な表情でこちらを見ては、灰色のローブからハンドガンを取りだし、無言で俺に銃口を向けてきた。
「今でもそうだ。何もかも、俺達を『死』で片付けようとしている」
「……」
「まぁ。サナエルからしたら、ただの『任務』に過ぎないだろうな。一体誰からの命令なのやら……」
「さぁ。ワタシはワタシを造ったバベルの教祖様の言う通りに、従っているだけなの。人間は『下僕』であり、知的生命体の『奴隷』である。とね」
「はっ。何が奴隷だ馬鹿野郎」
しかも、人間の事まで見下しやがって。
俺は終始、彼女の事を睨みながらも、ふらつく足元に力を入れた。
それに、一言だけ付け加えておくと、お前が崇拝している教祖はもう、『柏崎 幸』によって殺されているのにな。
「でも、こんな危機的状況なのに、よく呑気でいられるわね。人間って、本当にしぶといって言うか……」
「まぁな。俺はつくづく、人間で良かったと思うがな」
「さてと、遺言はあるかしら? こんな絶体絶命な状況で逃げようとなんて、するわけないものね?」
「遺言なぁ。まぁ、あるとすればな……。人間は『不完全』だから、『不完全』で良かった。て事だな」
「何それ?」
「お前ら『ロボット』には、何も分からねーよな? 人間は誰しも完璧じゃない。『欠点』があるからこそ、人間なんだよ」
「……」
「だから、悪魔達にも、道を踏み外したらはい人生終了。では無くてな。人並みと同じく、幸せになって欲しいだけなんだ」
「……」
「そう。親という障壁に縛られない。自分だけの人生を。真っ当に。な」
「……はぁぁぁ」
しかし、彼女は俺の遺言をよそに、盛大なため息をつくと、突然俺に発砲をしてきた。
「いっ!」
当たった場所は右脚だ。ただでさえ、彼らを脱出させるために左腕を切断したから、出血が激しい。
「そんな血塗れた格好で、良い様に説得しても、無理なのは、無理なのよね。教祖様の言う事は絶対条件だから」
「はっ。くっだらねーな」
だけど、彼女の言ってる事が、相変わらず可笑しくて、思わず鼻で笑ってしまった。
しかも、死んでもう居ない教祖を、未だに崇拝してるなんて、このクソ上司、かなりイカてやがる。
「幾ら言いように言っても、ワタシには一切響かないわよ。まぁ。あと一発で死んでもらうけど」
「……勝手にしろよ。何れ、お前も人間に反感を買われて、人間に『殺される』かもな!」
さて。これでもう、俺は言い残すことは無いな。
それと、俺はハナっから、バベル教を崇拝してないし、本当にここに来た目的はな、『囚われた従兄弟に借りを返すため』なんだよ。
だから、さっきので、もう目標は達成しているし、仮にこの状況で外に行ったとしても、足でまといになってしまう。
なので、俺は、最後の気力を絞って、右手でハンドガンを取り出すと、イカれた彼女の頭に向かって発砲した。
しかし、最後まで天は、俺に味方をしなかった様だ。
俺が発泡した弾は彼女の顔面近くをスレスレに通って、天井へと当たってしまった。
そして……。
俺は彼女から放たれた銃声によって、息を引き取ったのだ。
だけど、これでいい。
ふと、本人格に戻った麗と久しぶりに会話した時の事を思い出した。
――実ハデスネ、貴女ニオ願イガアッテ、コウヤッテ交信ヲ試ミタノデス。
――どういう、事だ?
――ソレハデスネ……。
「脱出に拘って扉を探している様ですが、その扉は最初から存在していません。なので、貴方は彼女を殺し、貴方も誰かに、殺されてください。そして、ここから出た先、幸せになってください」
――……は?
――デハ、ゴ武運ヲ祈リマス。




