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Delete  作者: Ruria
椎名 望【回想】
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異変


 次の日の朝、教室に入ると、クラスの何人かが、私の机に取り囲んで、何かしているのが見えた。


 何してるんだろう。

 気になった私は、机に向かおうとしたら、その何人かは足早に立ち去って、自分の机に戻って行ったのだ。


 まるで、『他人事』の様にこちらを見て。

 なので、自分の机の元に向かったら、何故か悪口がハッキリと、大量に書かれていたのだ。

 しかも、中には油性マジックではなく、机を掘ったと思われる跡もあって、私はただ、呆然と立ち尽くしていた。


 だけど、周りのみんなはコソコソと笑ったりするだけで、誰も私の机に手を出してこない。

 あの時『盗ったら友達になってあげる』と言ってきた綾やその取り巻き達、担任の先生ですら、見て見ぬふりをしていた。


 なので私は、落書きされた机を職員室に持っていくと、入口付近にわざと置いて、家に帰ったんだ。


 もう、こんな事があったので、学校には行きません。という、自分なりの最大限の意思表示だ。


 だけど、重い足取りで家に帰ってきた時には、お母さんには、こう言われちゃったんだよね。


「どうしたの? こんな早くに帰ってきて。まだ登校して一時間も経ってないのよ?」


 確かにそうだ。時計を見たらまだ、朝の8時半だったけど、既に行く気力は無い。


「もう、学校なんて、行きたくない!」


 なので、私はそう大声で吐き捨てると、足早に部屋へと逃げ帰ったんだ。


 それからかな。お母さんは世間体を気にしていたせいか、無理やりにでも学校に行かそうとしていた。


 なので、私も半年程は、お母さんに言われた通りに学校には行ったんだ。

 だけど、行く度に、教科書をゴミ箱に捨てられたり、体操服をハサミでズタボロにされたりと、散々だった。


 行っても居場所や仲間なんて居ない。

 増してや、家にいても安息地なんて、どこにも無い。


 じゃあ、どうすれば良かったの?


 それからの私は、学校に行っては、授業は受けず、速攻で家に帰ったり、近くの公園に寄り道する日々だったなぁ。


 その道中、呑気に歩いている小動物を見かけては、自分で手をかけて、身を守る練習をしていた。単なる憂さ晴らしだ。

 まぁ、傍から見たら『動物虐待』となってしまうだろうが、そんな事、知らない。


「ほーぷ! こらっ! 待ちなさい!」


 お母さんはというと、家に帰ってきた私の後を追いかけては、無理やり扉をこじ開けようとしてくるから、正直嫌だった。

 しかも、何故か綾が「お見舞いに来ました」と言って、家に突撃して来た時も、私は包丁や物をぶん投げて玄関から追っ払ったのに……。


「なんでお友達にそういうことをするの!?」


 と、逆に怒られてしまった。


「はぁ? 物を盗んだら友達にしてあげる。て言ってくる奴だよ。あいつは友達でも何でも無い、ただクラスが同じ。ていうだけだよ! 頭沸いてるのか、このクソババア!」


 だから、私も私で、こんな風に大声で荒げたり、誰も入らないように、わざと部屋を汚くしたり、階段に両面テープを貼り付けて、2階に登ってくるのを阻止していたんだ。


 そしたら、弟から「お母さんが階段から転げ落ちて、骨折したよ!」て、扉越しから報告があったから、思わず笑ってたなぁ。懐かしい。


 あと、11歳の頃には、完全に学校に行けなくなっていたけど、もう、良いんだ。

 私はこの方が、みんなに迷惑もかからないし。悪口も言われない。

 お父さんはと言うと、私達には無関心のせいか、育児やら家事は全部お母さんに押し付けて、仕事場がある地下に引きこもったりしていた。


 確か、『有名な医療機関とのコラボプロジェクト』だから、邪魔するな。て、お母さんに怒っていた様な。




 そんな事を繰り返し、私は中学2年生になったが、相変わらず、学校には行けずにいた。

 唯一変わった事と言えば、長期化した私の不登校のせいで、お母さんは精神的に可笑しくなったのだ。


 なので、家に居たくなかった私は、渋々学校に行くんだけど、そこで変わったことがあった。


「あれ?」


 いつもカースト最上位にいた、綾の姿が見当たらないのだ。


 どうしたんだろう。

 今なら言えるけど、前日の夜に、イカれたアイツの父親が、綾とお母さんを連れて、家から出ていくのが見えたのを思い出したんだ。


 写真だらけの部屋の窓から、外を覗いていたからハッキリと覚えている。

 まぁ。その時は興味本位で外に出たら、彼に遭遇して、ウザイ連中をスタンガンで撃退したんだよね。それから、助けた彼から、名前の事を褒められて……。うん。懐かしい。


 まぁ、綾のことはいいか。

 これも因果応報だ。あいつはあいつで、どっか別の所で苦しめばいい。


 そう思いながら日々過ごそうとしていたのだが……。


「あのさ、綾はどうしたの?」

「……知らない」

「あんたが殺ったんじゃないの?」

「だから知らないって!」

「いや。うちらさ、椎名さんの家と綾の家が近所なの知ってるんだけど。殺ったの絶対、あんただよね?」


 取り巻きの麻美(あさみ)美緒(みお)は、妙に正義感を振り回しながら、真っ先に私に疑いの目をかけてきたのだ。


「だから、知らないって言ってるでしょ!」


 なので私も必死に言ったけど、あいつらはこちら側の聞く耳なんて、全く持たない。

 しかも、麻美と美緒は、私が綾に手をかけたっていう嘘を、私が通ってた中学、高校全体にまで広げたんだ。


 本当にあの二人、ガチでうぜぇ。

 折角学校に行けたのに、こいつらのせいでまた、振り出しに戻ってしまった。


 それに、いじめの度合いは、小学校の時よりも陰湿で、悪化の一途を辿っていたんだ。

 中学から高校へと変わると、いじめは収まるどころか、益々酷くなっていく。


 LIKEのグループで省かれるのは勿論、女子からは『殺す』や『死ね』等、脅迫まがいな言葉ばかり書き込まれていた。

 あと、麻美達と一緒に行動している、男子グループからの性的な嫌がらせもあったなぁ。


 例えば、体操服に変な白い液体が着いていたり、個別のLIKEで『裸の写真送って』て言ってきたり、様々だ。


 だけど、それは死体になった猫の画像を何十枚も送っといたから、幸い、レ〇プみたいな性行為的な事はされなかった。

 男子グループも、『こいつに関わったらヤバい』という学習能力はあったみたい。


 まぁ。それをした事によって、誰も私に話しかけて来ることは無かったけど、その方が気楽だった。




「……死にたい」


 学校の屋上で一人、私は秋風に吹かれながら、毎日の様に呟いていた。

 もう高校1年の9月になったけど、友達は誰一人いない。

 きっとみんな、私のことは『関わったらやばい人』とでも思っているのだろう。


 いつまでも学習をしない、こいつらを除いては。


「あ。いったぁー! なんでこんな所にいるのぉ? 逃げちゃダメだよォー」

「それなぁ! ぎゃははははは!」


 背後から、女子高生の生意気でうるさい、嫌な声が聞こえてきた。

 その子は、高校デビューと同時に、派手な格好で、茶髪のギャルと化した麻美と美緒だった。


「ていうかさ、いつまで謝んないつもりなの? もう二年経ってるんだけどー」

「あの事は本当に知らないの」

「知らないってしらばっくれても無駄だよ。こっちはちゃーんと、SNSで情報を探ってるんだから!」


 そういうと、意気揚々と『中毒死事件の犯人は虐められた人じゃないのか?』と言ったコメントを見せびらかしてきた。

 でも、これは全部、憶測で語ってる(フェイク)だ。


「それは、情報に踊らされているだけじゃ……」

「うるさい!」


 だけど、こういう奴は、核心をつく発言をすると、直ぐに喚き散らす害獣になるんだよね。

 

「……」


 だから、私は暫く黙っていた。

 でも、沸点が低い彼女達は、直ぐさまに5、6人近くの友人を屋上へ呼ぶと、あっという間に囲まれてしまった。


「まぁ。そーじゃないにしても、私らの親友を殺した犯罪者は、ここにいるべきじゃないと思うのよ」

「……」

「ということで、今から死んでもらおっか! まぁ、大丈夫! うちらが殺っても少年法があるし! あはははは!」


 そう言うと、あの時の夢みたいに、殴る、蹴るの暴力的な行為が始まったのだ。

 まるで男子みたいだと思うけど、実際にこういうことは、女子でも、日常茶飯事にある。


「ぐはっ!」


 口からは真っ赤な液体が吹き出してくるが、それでもお構いなく、サッカーボールみたいに、蹴られ、踏まれ、殴られ……。


 何十回だろう。

 そう思っていた時だった。


「なっ!? 何するんですか!」

「少年法が助けてくれると言うなら、俺も適用、だよな?」

「やっ!?」


 何故か騒ぎ声がしてきたのだ。


「……え?」


 私は薄れていく意識を、無理やり起こしながら目を見開くと、お姫様だっこで抱えられた麻美が見えたのだ。


 しかも、高身長で、私達と同じ、ブレザーの制服を着た、黒髪の青年に。


「ぎ……ぎゃああああ! 」

「ぎゃーぎゃーぎゃーぎゃーうっせーなぁ!」

「や……やや……」

「オイオイ。さっきの威勢はどーしたァ! もっと楽しませてくれよぉ。なぁ!」

「い……い…………いやぁぁぁぁ! 」


 そこからは、前に見た夢と全く同じで、黒髪の青年が、暴れる麻美を抱えながら、屋上の柵へと向かっていた。


「ごごご、ごめ……」

「はぁ? 聞こえねーなぁ! 」


 そして、彼女と謎の青年は、柵の前へと行くと彼女を下ろし、柵にグリグリと頭を押し付けられていた。


「ごめん……なさい……って言ってるでしょ!!」

「言う相手間違ってるだろ!」

『ひぃぃぃ……』


 だけど、青年の気迫が怖すぎて、周りにいた取り巻きは、動けないほどガタガタと身震いしていた。


「あいつに謝れ!」

「だって……あの子だって……」

「だとしてもな、高校生にもなって、1人に対して寄って(たか)って蹴り飛ばしたり、水かけたりしてよー。お前ら何してんだ! この学校の恥さらしが! 」

『ひぃぃぃぃぃ!』


 そして、美緒も含む取り巻きは、屋上から、一目散に逃げていってしまった。

 見捨てられてしまった麻美は、とても驚いた顔をしていたが、まだまだ彼からの制裁は止まらない。


「恥さらし……じゃ……ないもん……。みんな……虐めてる……から……」

「ふーん……」


 だけど、この麻美という人間は、かなりのクズ人間だ。こんな一人になった状況になっても、まだ反省の色さえもない。


「じゃあ、城崎先輩は庇ってるけど、あの子が……好きなの? あんな……お化けのこと…… 」


 そして、彼は彼女の言葉を、最後まで聞くことは無く……。


「いやいや! 何するの!! やだ! やだ! 死にたくない! やだぁぁぁ! 」


 泣いて暴れる彼女を、放り投げる様に、屋上から落としていた。


「えっ……」


 この時の私は、呆然と動けないままでいたが、屋上という空間には、私と彼しか残っていなかった。


 でも、なんで助けてくれたんだろう。

 しかも、この『城崎先輩』は、あまり学校にも姿を現さなくて、来ても保健室通いだ。という噂を聞いたことがあった。


 見た目が天使みたいで顔立ちが整っていて、綺麗だった事から、彼の姿を見ようと、よく保健室の扉から覗いてた人が多かった。


 しかも、毎日ではなく、月に何回か程度だったので、来た途端に保健室の前で出待ちしている子がいる程、彼は人気だったのだ。


 だけど、私からしたら、まるで見世物小屋みたいな。そんな感じがした。彼だって、教室に行って普通の学校生活を送りたかったんだろうに。


 だけど、なんで?

 そんな疑問が、記憶の片隅にあったけど、もしかしたら、見ていた私も目撃者だから、殺されるかもしれない。


 そう考えた私は、その前に逃げなければ。と思って、その場から逃げようとしたんだよね。


 片足を引きずりながら。


「!!」


 すると、背後から白い手が伸びてきて、私の手を掴んできたんだ。


「大丈夫?」

「あっ……えっ……」


 彼は優しい口調でそう声をかけると、背後から抱き寄せてきた。


「怖がらなくて、いいよ」

「だって、あなたはさっき……、人を……、ってえっ!?」

「驚かしてごめんね。でも安心していいよ。『僕』は君を絶対、殺したりしないからさ」

「……」

「それに……」


 彼は、天使のような笑顔でこっちを見ると、そっと頭を撫でてきたのだ。


 あぁ。懐かしい。何だろう。


 だけど、その彼は、目は黒くて、髪も黒い。

 私の知ってる彼は、紫水晶みたいな綺麗な瞳と、銀髪の髪色。

 あの時、本当に誰なのか、疑問だったけど、取り巻きが言った『先輩』で、今やっと思い出したんだ。


「僕は君の事を『第一に考えて』行動しているからね。決して殺したりしないから、安心してね。あの時の、『恩返し』だよ」

「まさか!」


 公園で会ったあの青年と、同一人物だった。て事に。




 それから、私は暫く、彼と屋上で話をしていた。

 空は夕暮れ。下では生徒や先生の声が聞こえてきて、かなり大騒ぎしていたけど、私達の世界の中では、ただの雑音にしか聞こえない。


「もしかして、あの時の!」

「そうそう! 思い出してくれて嬉しいよ! あの時はほんっとに危なくてねー。君がいなかったらあの後どうなっていたか……」

「だけど、何で、助けてくれたんですか?」

「え? 助けちゃ駄目だった?」

「あ。いや。そういう訳じゃないんですけど……」


 だけど、今思うと、私と話していたこの彼は、『(うるは)』ではなく『(レイ)』だったんだ。

 このゲームに入るまで、全然分かんなかったけど、本当に以前から会っていたんだなぁ。て。今更だけど。


「まっ。無事で良かった!」

「えっと、あの……」

「どうしたの?」

「何で、さっきはその……、助けて、くれたの?」


 あんな取り巻き一人、抱えて屋上へ落としちゃうんだから、かなり驚いたんだ。

 だから、私は恐る恐る聞いてみる事にした。


「あー。単に『邪魔』だっただけだよ?」

「え!?」


 しかし、彼はケロッとした顔でそう言うと、西に沈む太陽を指さしてこう言っていたのだ。


「例えるなら、君は太陽だ。けど、取り巻きは雲で、太陽を隠してしまうよね?」

「あっ……」

「だから、僕は風として、覆った雲を追っ払っただけなんだ!」

「……」


 凄いわかりやすい例えで、一瞬頷いたが、やってる事は人を殺しているので犯罪だ。


「あ。驚かしちゃったね。ごめんね!」


 それなのに、彼は常に笑顔を絶やさない。


「でもね、不思議な事に、さっきの行動は悪いこと。じゃないって思うんだ。勿論、僕の中にいる『仮面達』だって、賞賛してくれるはずだし」

「……」

「それに、何のために『少年法』なんて、存在しているんだろうね。この法律さえなければ、こんな犯罪まがいなイジメなんて、無くなるのにね」

「……そう。かな?」

「え? 君は違うのかい?」

「……うん」


 違う。法律が無かったら無かったらで、また、別な『法律』が生まれるのだ。


 少年法に代わる『何か』が。

 それが良い方向に働くのか、悪い方向に働くのか。分からないけど……


「少年法から取って代わって、厳しくしたところで、また同じになると思う」

「へぇ。なんで?」

「それは……、破る人の大半は、法律を重視して行動しない、人に似た『バケモノ』だから」

「なるほどね! バケモノって! さっきの取り巻きも『バケモノ』だったってことか! はははははは!」

「そうそう! あはっ! ははははははは!」


 思わず二人で顔揃えて笑ってしまったが、多分そこからだと思う。


「だから、貴方も、殺したのは人ではなくて、『バケモノ』だから、大丈夫。無罪。だよ!」


 私も『人』という倫理観が狂ったのは。

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