名前
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私は生まれた時、両親共に大喜びをしたらしい。
そして、名前をつける際、『みんなから希望を与えられる様な人間になって欲しい』と願って、『望』の字が使われたのだが……。
「のぞみ。もいいけど、他の子と違う呼び方にしたいよね」
と言う、マタニティハイで有頂天になっていた両親のクソな理由で、望という字なのに、ほおぷ。と名付けられてしまった。
今思うに、それが全ての元凶だ。
ネットではこのことを、呼び方だけ、『キラキラネーム』だとか『DQNネーム』だとか言っているが、正にそれだと思う。
私の歩んだこの16年は、名前に振り回された人生だった。
どこに行くにも、平仮名で『ほおぷ』と名前が書かれた文字が、特級呪物に見えたりして怯えていた。
一番の決定打になったのは、幼稚園の時に言われた言葉だ。
「おたくのお子さんの名前、『変な名前』だよね」と。
お母さんはというと、全く人の話を聞かずに、「うちの子は凄いのよ」と一方的にママ友に言っていた。
だけど、話が終わった後かな。そのママ友がボソッと、私の名前に悪口を言っていたのを聞いてしまったんだよね。
あれから、私の名前に対する愛着心みたいなものが、全く無くなってしまったんだ。
それは、小学生になっても、変わらずで。
悪口は、幼稚園よりも更に酷くなっていたんだ。
でも、最初は「ほーちゃん」だとか、親しみを込めて、あだ名を付けて呼んでくれる子もいたから、学校、いいな。と少しながら思っていた。
だけど、ある日を境に、徐々に避けられているのを感じたんだ。
何も、悪いこと、していないのに……。
*
ある朝のことだ。教師が出席確認をとる際、
「椎名……えっと、のぞみでいいんだっけ?」
と言ってくることが多くて参った事があった。
あの時、「そうです」と言えれば、どれほど良かったことか。
だけど、嘘をつくのが苦手だった私は
「違います……ほ、ほぉ……ぷ。です」
と、バカ正直に言ってしまった。
そう言うと、何故かクラスメイト達はゲラゲラと笑っては『変な名前だよなぁ!』と言ってきたんだ。
この時、もう死のうかと思っていたけど、一人の少女が、みんなにこう言ったのだ。
「え? どこが? 素敵な名前だと思わない?」
すると、クラスメイトは、その少女に対して、何にも言えなくなっていたのだ。
それから、その少女は何かと私に絡んでくることが多くなったんだよね。
懐かしいなぁ。
確か、彼女は完璧な小学生。と言った感じだった。
どこをどうとっても、運動も勉強も、常にトップクラスの子で、そんな子は、最初にできた、私の友達……。でもあった。
名前は『城崎 綾』と言っていたかな。
綾は私と違って、みんなの輪の中にいるような中心人物だった。
目は二重でくりくりとしていて、髪もショートで短いけど、天真爛漫な女の子だったのを思い出す。
確か、どこかの大きな病院の院長の娘だとか言われていて、みんなとは服装も全く違っていたのを思い出した。
私らがファストショップで買うような、普通の服を買うのに対して、彼女は有名ブランドの服を着飾っていた。だけど、容姿も可愛かったから、一気にみんなの人気者になったんだよね。
そりゃぁ、後々アイドルにでもなるような容姿になる訳だから、今思うと納得か。
それに対して、私はとてつもないほどの、静かで、周囲と囲んで話すより、1人で本を読むのが好きな少女だった。
だから、よく学園系の漫画にありがちな、根暗少女とカーストトップの美少女。という構図が生まれてしまった訳だ。
「ほーちゃん!」
「なに?」
「ごめん! 教科書忘れちゃったぁ! みーせて!」
「はぁ……。いいよ」
「ありがとぉ! ほーちゃん、すっごくやさしくていいなぁ!」
こんな感じのやり取りをしていただけなのに、何故か綾の取り巻きが、嫉妬の憎悪に満ちた顔で私を睨んできていたのを思い出す。
そうだ。何かと思い出した事があった。
あぁ。長年、虐められた原因なんだけど、実は私、綾の裏の顔を知ってしまったんだ。
だから、こうして取り巻きのサンドバックの様に生きる人生を、歩むことになってしまったんだけど、後悔はしていない。
自分のやっていたことは、正しい事だったのに……。




