超死刑
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俺は逮捕された後、拘留所にぶち込まれ、何週間か程過ごしたのだ。
罪状は傷害致死。そして、後に死体損壊遺棄やら、殺人やらの罪状も付くと、警察に言われてしまった。
でも、もういいんだ。俺は外に出ても、居場所なんて、どこにも無いのだから。
それに、大事な親友が亡くなった今、何を糧に生きていけばいいのか分からない。
「まぁ。このまんま……、ムショで暮らして、死刑でもいいけどな」
それで、獄中で死ねば、アイツらにももう一度、会えるかもしれねぇ。
そう待っていると、部屋の扉が何故か開き、看守みたいな人がこう言い出したのだ。
「お前と面会したい。という人が来ているぞ」
「……」
何を今更。こんな罪人の俺に用があるなんて、記者か俺を弁護したいという、物好きな弁護士なのだろうか。それとも、まさか、施設の職員か?
まぁ、面倒臭いけど、なんの用で来ているのか知りたかったし、ここでずっと一人でいるのも暇だから、付き合ってやるか。
そう思った俺は、看守に「わかりました」と言うと、彼に連れられるがまま、面会室へと向かうことにした。
*
「着いたぞ。くれぐれも失礼のないように……」
看守にそう言われ、俺は一瞬戸惑ったが、その答えは面会室に入って、直ぐに分かったのだ。
「こ、こんにちは……」
「ヤァ。君ガ、滝沢陸斗君?」
「は、はい。そうですが……」
面会室の扉を開けると、そこには、赤目が1つの白マスクを着た、謎の人が向かい側に座っていた。体格からして、俺と同じ、男だろうか。下は黒いローブで隠れていて、雰囲気からして、異様だ。周囲にいた看守も戸惑った表情をしている。
おまけに、相手は俺の名前も知っている。
一体、何者なんだ?
「マァ。話シタイコトモ山ホドアリマスノデ、ソチラニ座ッテクダサイ」
「は、はい……」
俺は機械声の白マスク男に促されるがまま、席を座ることにした。
「サテ、マズハ率直二言イマスネ」
「は、はい……」
「君ノ刑ガ先程決マリマシタ」
「刑が、決まっただと!?」
しかし、急な展開で戸惑いが隠せない。
刑が決まったとはどういう事だ!?
確か、テレビでの情報だと普通、殺人を犯した未成年は、逮捕されて拘留された後、裁判所やらで裁かれるはずだ。
それなのに、こんな所で刑があっさりと決まってしまうなんて、何だか拍子抜けしてしまった。
「ソウデスネ。刑八『超死刑』ト言ウモノデシテ……」
「超、死刑?」
初めて聞く刑だ。死刑よりも死ねる刑なのだろうか。想像がつかない。
「ハイ。貴方八、今ヲモッテ、夢中型脱出ゲーム『Delete』二参加出来ル権利ヲ得ラレタノデス」
「はぁ? デリートだと?」
聞いたこともねぇ。しかも、『脱出ゲーム』だと?
一瞬、『超死刑』と『脱出ゲーム』の繋がりが全く見えず、馬鹿にされた感じもした。
「マァ。驚クデショウネ。何セ、今年カラ本格的二実行スル、真新シイ刑デスカラ、無理モナイデショウ。チナミ二ワタシ八『Delete』ノ支配人デス。以後オ見知リ置キヲ……」
しかし、俺の目の前にいる白マスク男は、お構い無しに淡々と話し続けている。
真新しい刑だかなんだか知らねぇが、続きが何だか変に気になってしまって、仕方ないのは事実だ。
なので、ふぅ。と深呼吸し、気を落ち着かせると、渋々話を聞くことにした。
「それで、その、俺はそこで、何をするんだ?」
「オォ! モウ早ク状況ガ読メマシタカ! 流石ト言ッタトコロデス!」
「はいぃ?」
それに、気になったから聞いてみたら、突然褒めてきて、思わず気が抜けてしまった。
「簡単二言ウトデスネ、『常者』の仲間『破片者』トシテ、手助ケヲシテ欲シイノデス」
「はぁ!? 手助けだと?」
「ハイ! デスガ、コノゲームニハ『狂者』トイウ鬼ミタイナモノガ存在シマス」
「へぇー……」
「鬼二捕マラズ、無事二脱出デキタ暁ニハ、一ツダケ、願イヲ叶エテアゲマショウ」
「願い、だと?」
ふと、その言葉を聞いて、咄嗟に反応してしまった。
クリアしたら、願いを一つだけ叶えられる。だと?
もし、願いが叶うとしたら。
無理だとわかっていたとしても、本当に願いを叶えられるのなら、俺は……。
「ソウデスネ。例エバ、『両親ヲ見ツケテキテ欲シイ』トカ、『過去二戻ッテ大事ナ友人二会イタイ』ナド……」
「!!」
すると、白マスク男はとんでもない提案をしてきたので、驚きのあまり、勢い余って席を立ってしまった。
両親を見つけて欲しい。はともかく、『過去に戻って大事な友人に会いたい』だと?
目の前にいるコイツは、そんな人智を超えたことができるのか?
益々疑問が増えるが、背に腹はかえられない。
「その、『脱出ゲーム』と言うやつは、どうやって、参加するんですか?」
「オォ? モシカシテ、返事八『イエス』デスネ?」
「……当たり前だ」
こうして、俺は夢中型脱出ゲーム『Delete』に参加する流れになったんだよな。確か。
*
面会からして一週間後、俺はアイマスクを付けられながら、白マスク男の手に引かれ、どこかに連れて行かれたんだ。
そんで、その道中に何故か、眠くなって寝てしまったから、その後の記憶は覚えてない。
そして、アイマスクを取った時、機械だらけの個室みたいなベットに座らされていて、衣服も病人が着るような、質素な服になっていた。
「オ目覚メニナリマシタネ」
「は、はぁ……」
彼はAIみたいな棒読みな話し方をすると、パッチみたいな物を手に持っては、次々と俺の体にぺたぺたと貼り付け始めたのだ。
もしかして、これが『Delete』へ入る準備だろうか。何だか物々しいが、もう後戻りはできない。
「デハ、『Delete』ノ世界二着イタラ、コチラヲアル方二渡シテクダサイ」
すると、彼は突然、拘束された左手の平に、赤くて小さいゲームソフトみたいな物を乗せてきたのだ。形からして、昔懐かしいあの、ゲームソフトだろうか。
「えっ!? わ、分かったけどよ、一体、誰に渡せば良いんだ?」
気になって仕方がなかった俺は、再度聞いてみることにした。
「ソウデスネ。『椎名 望』様二ワタセバ良イダケデス」
「しいな、のぞみ?」
「ハハハ。正式ナ名前八『ノゾミ』デハアリマセンガ、マァ。ソノ辺八知ル必要ハアリマセンネ」
「そうかよ……」
「エェ。ソレニ……」
しかし、彼は淡々と語りながら、俺の目にアイマスクを装着させると、耳元でこんな事を言ってきたのだ。
「これ以上、罪人に語る必要もありませんので……」
それに、この時の声は、あの無機質な声では無かったのに驚いた。まさか支配人の正体って……。




