職員室2
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少女を抱えた彼と別れた後、私は薄暗い中で一人、辺りを調べていた。彼女が倒れた所の付近には机があり、その上には沢山の書類が無造作に置かれていた。よく見ると、机の引き出しについているネームプレートに『野々坂』と書かれている。
乱雑した机の上を虱潰しに漁ると、一枚の小さな紙が書類の山からすり抜け、床へと落ちた。
「何だこれ」
それを拾い、開けてみると、何かをメモした様な言葉が記されていた。
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一)理科室 生きる人体模型
二)美術室 涙する絵画
三)教室 呪われた机
四)調理室 血まみれの包丁
五)図書室 開かずの本
六)トイレ 欲しがる少女
これらが解き明かされた後、隠された何かが開く。
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「これって」
あー、懐かしいな。よくある学校の七不思議だが、何故、七つ目が書かれてないのだろう。まっ、一応貰っておくか。
そう思いながら、謎のメモを手に入れ、パーカーのポケットにしまいこんだ。
「あとは……」
そう呟き、『野々坂』『六角』『渡辺』『連藤』と、順番に先生の机近辺を探る。
すると、校長室へ入る扉付近に、他と比べ、やたらと綺麗に整理された机を見つけた。しかし、何故かここだけ違和感を感じる。埃一つも被ってない。
もしかして、私と狂者以外に誰かいるのか?
「また書類。でも、すごい綺麗」
先生がよく使う部屋だから、書類が多いのはわかるが、置き方によってはその人の性格がはっきりと別れる。汚かったらだらしないし、綺麗だったらそれなりなんだろうと。
引き出しに貼られたネームプレートを見ると、『遠藤』と書かれていた。この人は、かなり几帳面なのか、書類やプリントは、レターボックスに紙がはみ出ることなく、きっちりと入れられている。ここまで隅なく整理できるなんて、ズボラな私からしたら、とても羨ましい限りだ。
「んん?」
ふと、机の上に白いメモが堂々と置かれているのを見つけたので、一枚手にとる。
よく見ると、左から魚、丸い果物、刃物の絵、その下には「紅く染めよ」と赤文字で書かれていた。どこかの暗号かな。
という訳で、二枚目の謎のメモを手に入れ、パーカーのポケットにまたしまう。
そして、『草谷』『塚田』『田嶋』『萩野』と順に回りながら調べていく。
とりあえずある程度回ったら、あの手帳に机の配置をメモしてこの場を去ろう。
そう思い、書き込もうとした途端、たまたま目に入った『一ノ瀬』の机の上に、気になるものが置かれていたのを見つけた。
「これ」
直ぐ様にメモをポケットにしまい、その場で呟く。そこには、一つは透明、もう一つは緑色と青の、三つのクリアファイルが置かれていた。
しかし、私が驚いたのはそこではない。
「何で、私の名前が……」
ファイルに挟まれた中身には、こう書かれていた。
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個人データ票
名前……椎名望
生年月日……4月17日
年齢……16
現在の通学状況……登校拒否
(要観察)
家族構成……3人暮らし
父( )
母(主婦)
教科項目(能力表)
国……優 美……普
数……普 音……普
英……劣 家……劣
理……普 体……劣
社……普 道……優
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「要観察って、別に悪い事してないのに」
確かに登校拒否をしていた。しかし、何でこんなことをされるのだろう。とても不思議でたまらなかった。
そして、父の所は何故か空白だ。一体どういうこと?
でも、ここで考えても埒が明かないし、長居は危険と思った私は、他のファイルにもざっと目を通してみることにした。
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個人データ票
名前……城崎麗
生年月日……12月25日
年齢……18
現在の通学状況……療養中
家族構成……3人暮らし
父(院長)
母(女医)
教科項目(能力表)
国……優 美……普
数……優 音……優
英……優 家……劣
理……優 体……劣
社……優 道……劣
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これ、麗の個人データ票だよね。
能力表を見て、『優』の多さに愕然とする。しかし、それと同時に、なるほどな。と納得いった部分もあった。
メインルームで支配人に言った、我儘に近い、無茶苦茶な要求。それと、有名な家庭教師を週に何回も寄越すという、かなりのセレブっぷりを密かに漂わせていたこと。これで、全てが繋がった。そんな気がした。
「苗字で思い出したけど、城崎って……」
ふと、ネットやテレビで有名な『城崎総合医療センター』という精神科の権威が集まる病院が、たまたま通っていた高校近辺にあったことを思い出した。かなり大きい建物だったことも思い出した。
まぁ、苗字一緒だからって、ありえない話でもない。もしかして、その院長の息子が……。
「まさか」
ここで考えても仕方ないか。そう我に返った私は、手元に持っていたファイルをリュックにしまう。
あの二人、無事かな。早く保健室に戻らないと。
ふと、心配になってきたので、ポケットから再度白いメモ帳を取り出し、先生の机の配置を記載してから職員室の扉を開ける。そして、少し顔を出して黒い影がいないことを確認すると、真っ先に保健室へと向かった。




