醜悪
「神田ちゃん……」
「それ、本当なのか? 恵」
「うん……」
俄に信じられなかった俺達は、再度彼女に聞いてみたが、答えは同じだった。
「遠藤先生が秋元さんにこう、ハッキリと言っていたの。『あー、あの宗教勧誘してきた生徒かぁ。そいつならしつこいから殺した』って……」
「まじかよ」
「もし、それが本当だったら、間違いなく遠藤は『黒』って言うことだね」
「だけど、晶ちゃんがまさか……」
すると、彼女は腰を抜かした様にその場で座り込んでしまい、大粒の涙を零していたのだ。
確かに晶と恵は、宗教勧誘を巡って大喧嘩する前は、一緒に行動する程、仲が良かったからな。ショックもかなり大きいはずだ。
それに……。
「ウチ、まだ晶ちゃんに謝ってないよ。どうしよう。あんな酷い事を言ったり、嫌がってるのに髪、切ったりしちゃったのに……」
「神田ちゃん、あんま自分を責めちゃダメだよ。ね」
「卓ちん。どうしよう」
俺はと言うと、何も言葉をかけられない。
確かに彼女は、『本人の許可無く、他人の髪を切る』という、犯罪の一線を超えてしまったのかもしれない。
でも、こんな形で謝る機会を、永遠に失ってしまっては、彼女は一生『罪人』のままになってしまうのに。
そう思うと、俺ができることはただ、隣に座って、泣き崩れる彼女の背中を優しく摩ることしかできなかった。
だけど、それと同時に、俺の心の中が黒くなっていくのを感じたのは、気のせいだろうか。
遠藤に対しての憎悪が、徐々に湧いてくるのだ。
「陸斗。ウチ……、これから、どうすれば、いいのかなぁ」
「恵……」
そして、我慢できなくなった俺は、一つの決断をしたのだ。
「卓、恵を頼む」
「はぁ!? 陸斗!?」
「俺が一人であの先公を、学校から追い出してくるよ」
そう言うと俺は、机に置かれたボイスレコーダーを奪い取る形で手にし、教室を出ようとした。
「ちょっと待って! 単身で乗り込むとか、正気なの!?」
「俺はこれでも正気だ。でもさ……、1人じゃねぇよ」
「えっ!?」
「俺には、卓と恵という、最高の親友と、最高の彼女がいる。だから、そんな2人を、危険な目に遭わせたくないんだ」
「陸斗……」
「それに、恵も泣きじゃくっているからな。こんな悪夢、とっとと終わらせないといけねぇからよ。遠藤にバレる前に、さっさと家に帰れ」
「……」
「それと、こんな俺を『親友』と言ってくれて、ありがとう」
そして、俺は2人に別れを告げると、教室を後にしたのだった。
だけど、この選択肢によって、俺の人生は……。




