理科室
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見取り図を頼りに、私達は廊下を歩いていると、左側に階段が見えた。しかし、颯爽と通り過ぎる。なぜなら、何の装備無しに降りて狂者に出くわすのは危険行為と判断したから。
そして、美術室の前を通り、目的地の理科室に着くと、私はおもむろに扉の取っ手を横に引いた。すると、鍵はかかってなかったみたいで、ガラガラと開けることができた。
右側には大きなガラス棚があり、その中には実験器具が所狭しに置かれていた。でも、鍵がかかっているせいか、開けることができない。どこにあるんだろう。その奥に見えたのは人体模型。左側は生徒が座りそうな木の椅子にシンク付きの実験台。その奥は真っ暗のせいか、何も見えなかった。
「望、この部屋、不気味だよ」
「まー、理科室だし、人体模型もあるから不気味なのは当たり前」
真っ青になる彼をよそに、相変わらずつっけんどに答える。
「そうだけど、変なのが出てきそうで正直怖い」
「大丈夫、だと思う」
「思う。って、ちょっと! 望待って!」
全く。行こうと言い出した張本人はこの有り様。こんなの何ともないって。そう思った私は何の躊躇いもなく、ズカズカと中へ入る。
しかし、入った途端、余りにも薄暗かったので電気をつけよう思い、扉付近にあったスイッチを押したが、何故か電気がつかない。
「これじゃ、奥まで調べられない」
「そっか。もし、照らせるもの見つけたら、もう一度来ようか」
「うん」
そう頷き、改めて辺りを見渡すと、目の前にあった実験台の上一面に、沢山の物が置かれていた。
三脚と網台のセットで置かれたアルコールランプ、マッチ、スプーン、何故かグラニュー糖、アルミケース、ラップ、爪楊枝、計量カップが未使用のまま。
誰かが何か作って食べようとしたのかな。
そう思っていると、ぐぅっと少しお腹が空いてきてしまった。そういえば、この異空館に来てから何も口にしてない。それに、今の状態で肉類を見ると、あの貯蔵室にあった屍の山を思い出してしまい、食べれなくなる。
なので薄暗い中、マッチを使ってアルコールランプに火を灯し、簡易的な何かを作ることにした。計量カップに少量の水を入れ、グラニュー糖を入れてスプーンでかき混ぜて砂糖水にする。そしたらアルミケースの中にそれらを入れたら、網台に置いて……。
「ところで望?」
「ん?」
「何作ってるの?」
「これ? べっこう飴だよ。何だか食べたくなってきちゃった」
彼が不思議そうな顔で背後から覗き込んできたので、満面な笑みで答える。
「それで、作れるの?」
「作れるよ。って、え?」
突然の質問に戸惑う。まさか、べっこう飴の作り方を知らなかったのか!
「もしかして、知らない?」
全員誰もが知ってるかと思っていた為か、私は驚いた顔で問いかける。
「うん。小学生の時は体が弱くて、あまり行けなかったからね」
「学校に?」
そう言うと彼は無言で頷く。
「でも、週に何回か、家庭教師が病院や家に来てくれたりもしたから、ある程度は……」
「え?」
「えっと。そこまで驚くことなのかな?」
「いや! それは驚くって!」
空いた口が塞がらない。当の本人は何食わぬ顔でこう訊ねてきたので、天と地がひっくり返ったような衝撃が走る。
「だって、私のとこだと、塾や学校に行って勉強したりする人もいれば、勉強より遊びがメインで遊んでばっかの人もいたというか……」
「なるほど。そういうの、何か楽しそうで羨ましいな」
「え?」
「だって……」
彼が淋しげに言いかけた時、金網の上に乗っていたべっこう飴が、グツグツと音を立て、きつね色に色づき始めていた。
「やばっ! 止めなきゃ!」
焦りながらアルコールランプに蓋をし、袖を手元まで伸ばしてから、金網に乗っけたアルミカップをそっと降ろす。あと少しのとこで、黒焦げになる所だった。少し冷ましかけた所でべっこう飴の完成だ。
「ふぅ。やっとできた!」
「おっ! 美味しそう!」
甘く、懐かしい様な匂いが理科室の中いっぱいに立ち籠める。数は五つに分けていたが、そのうちの二つは、ラップに大切に包んで、リュックの手前のポケットにしまう。
あっ。ついでに使えそうな物も貰っていこう。
そう思い、アルコールランプと網台以外の物をリュックにしまった。
残りは、私と麗で食べようとしたその時だった。
――トン、トン、トン、トン
「誰かが階段を登ってきてる!」
「一旦出よう」
「うん!」
もし、一階にいる黒い奴が、こっちに向かってきているのであれば、一階は安全。だから、見取り図の通りに行くと、来た道を戻れば、あの音から遠ざけることができる。
そう考えた私は、べっこう飴片手に麗と共に理科室を出る。そして、足早に反対側の階段付近へと向かい、音の正体を探るように隠れる。見た感じ、どこかの探偵モノの張り込み調査にありそうだ。
――タッ、タッ、タッ、タッ……
次第に音が大きくなっていき、二階に着くと同時に音は消えた。
私は息を殺し、そっと様子を覗う。すると、女子高生風の黒い影が、左手に包丁を持ちながらふらふらと周囲を彷徨いていた。
やっぱり。私は、彼に下に行くよと階段に指差して合図を送る。その後、甘い匂いの理科室にそいつが入っていったのを見計らい、足音を立てないよう、そっと行動を開始した。




