表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delete  作者: Ruria
第5章 後編
129/180

記憶6


「ここは……」


 目を覚ますと、懐かしい匂いと共に、小さな部屋らしき場所にいたが、その光景に、かなり見覚えがあった。


「まさか、私の……、部屋?」


 周囲を見渡してみると、足元には、バラバラに散らばった布や綿が、床中に敷き詰められているかのように覆い尽くしている。

 だけど、一つだけ違かったのは、その布や綿に、沢山の血痕が付着していた事だった。


 え? なんで床に……、血?

 今まで見た記憶の中では、こんな所にまで血はなかった.......、はず。


 疑問だけが頭の中に残っていたが、右手に違和感を感じていたので見てみる。


「は、(はさみ)?」


 すると、何故か、血塗れた大きな裁ち鋏を手にしていたのだ。しかも、まだ真新しくて、生温い感触だ。


「あっ……」


 そして、目の前を改めて見てみると、エプロンを着用した40代程の女性が、胸から血を流して倒れていたのだった。


 そうだ。私が……。

 それで、警察に見つかったら、離れ離れになってしまうから、押し入れにしまったんだ。


 そう思い出した私は、動かなくなった『人形』を、押し入れにしまうと、静かに扉を閉めた。


「……ん?」


 ふと、部屋の扉から視線を感じたので振り向くと、朔夜が青ざめた顔でこちらを見ていたが、何も言って来ない。


「さく……、や?」


 しかし、彼を振り向きざまに呼んだ途端、スっと姿を消してしまった。


 あれは、ただの残像か何かだろうか。


 だけど、ここまで色々と巡ってきて、ふと思った事がある。

 私は仮想空間にいるはずなのに、なんで、私だけ、こんな悪夢を見ているのか。


 この謎の現象は……。


「いや。そんな事、ないよね。あは、はは、ははは」


 血塗れた部屋の中、私は静かに空笑いしながらも、右手に持つ鋏を強く、握りしめていた。



――カシャッ。カシャッ……



 ふと、静寂な空気の中でシャッター音がした。


「一体どこから!?」


 なので、周囲を見渡してみるが、人影も無いし、音の根源も見当たらない。



――カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ。カシャッ……



「あぁぁぁぁ! やだ! やだ! もうやめて! やめてよ! お願い! ねぇ!」



 一定間隔で不気味に鳴り響くシャッター音に狂いそうになった私は、思わず両手で強く両耳を塞ぎながら、大声を発してしまった。

 

「いだぁ!」


 すると、唐突にあの頭痛が襲いかかってくると、再び視界が歪み始めたのだ。


 なにコレ。力が段々と……、抜けて……、


 と同時に、全部が奪われていく感覚に見舞われながらも、徐々に意識が遠のくなっていった。




 

「……あれ。ここは?」


 目を開けると、今度は人の声がする雑音が、教室中を響かせていた。

 だけど、一つだけ違うのは、周囲の人の顔が、みんな私を見るや、かなり青ざめていたこと。その中には、身体中を震わせていた子もいれば、スマホを開いて、何かを書き連ねている子もいた。

 服装は先程と変わっていて、血塗れた制服と、右手には鋭利な鋏を握っているが、誰かを刺した後だろうか。どす黒い血液がベッタリと付着している。



「きゃー! 先生! 椎名さんが! 〇〇さんを!」

「えっ!? ちょ! これは……。椎名さん、まさか、貴女が……」



 そう言われても、私は……。

 あ。そうだ。


「って、ちょっと何す……」



――グサッ。



 しかし、五月蝿いと思った私は、先生の心臓目掛けて、素早く鋏を突き刺した。


 かなり深く……。深く……。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!』


 すると、周囲は更に悲鳴をあげ、教室は地獄絵図と化していた。床を這いつくばりながら、逃げようとしている子もいれば、腰を抜かして動けなくなった子もいる。


 だけど、こう見ると、ホント。

 人間って、『滑稽な生き物』だよね。


 なので、私は怯えるその子達に向けて……。



――グサッ。



『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!』



――グサッ。



『いやぁぁぁぁぁぁ!』



 五月蝿い断末魔の叫びと共に、容赦なく刺し殺した。


 1人目。2人目。3人目……。4人目。


 まるで、自分の中に閉じ込めていた『悪魔』が目覚めたみたいで、とても高揚な気分だ。


「あは! あはは! あはははははは!」


 あぁ! 何だか、楽しい。楽しい。楽しいなぁ!


 私は次々と降りかかる生温かい感触を肌で感じながらも、鋏を持つ右手は止めなかった。


 5人目、6人目、7人目.......。


「あれ? もう、いなくなっちゃったの?」


 しかし、我に返った時は、何人殺ったのかも、全く覚えていない。

 私の周囲は既に、血みどろだらけになっていたり、動かなくなった『人形』が、数え切れない程、ゴロゴロと床に転がっていた。


「でも、いいや」


 私はその『人形ら』を軽蔑した目で見ると、血塗れた鋏をテーブルに置いて、ゆっくりと教室を出る。


 勘だけど、ここにいたら、あの時に唯一、私の名前を肯定してくれた『彼』に会えなくなってしまう。


 だから、せめて最後に.......。


「あっ.......。あぁァァァ!」


 また、強烈な頭痛が襲いかかってきた。と同時に、視界が徐々にフィールドアウトしていく。



 なんで!

 もう、私は、

 全てのソフトを揃えた.......、はずなのに!






「今度は.......、何?」


 目覚めると、見たことの無い、真っ暗な空間に飛ばされていた。どの記憶の時でも見たことの無い、歪な場所で、とても不気味だ。


「やぁ」


 すると、私と全く同じ姿をした少女が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら、目の前で両腕を組んで突っ立っていた。唯一違うとしたら、相手が着ているパーカーの色が、黒だと言うことだけ。


「誰!?」


 なので、横向けに倒れた体を起こそうとしたが、ビクともしない。まるで、上から何かの圧がかけられているかのようで、指1本も動かせられない状態だ。


「動こうとしても、無駄だよ」

「はぁ?」

「ここにいる。ということは、ついに全部の感情を手に入れちゃったんだね」

「えっ.......」

「ははは。そんなに怯えなくてもいいからさ」

「いや.......」


 だって、目の前に、私と容姿が鏡合わせしたかの様なそっくりな奴がいるんだよ?


 普通に考えても、明らかにおかしいでしょ。

 この状況。


 内心そう言いたかったが、彼女はニヤニヤと笑いながらも、続け様にこう話し始める。


「まぁ。じゃれ合いはここまでにしといて、早速本題に入ろうか」

「本題?」

「そ。本題」


 何を言ってるか分からない彼女に、私は思わず聞き返すが、素っ気ない態度で返されてしまった。

 

「まずは、私の正体からね」

「.......」

「私はね、貴女がどんな記憶を持っていたか、別の角度から常に、監視していた者だよ」

「監視!?」

「そ。貴女が一時的に思い出した記憶を、写真にして『預かっていた』と言った方が正しいかな」

「写真.......」


 ってまさか、毎回カシャカシャとシャッター音が鳴っていたのは、コイツが写真を撮っていたって事!?


 ふと、毎度の記憶ごとに出ていたシャッター音の正体を知った私は、空いた口が塞がらなかった。


「あーそういやさ、君も一眼レフカメラを持って、写真を撮っていた事、あったよね?」

「あっ.......」


 確かに持って、思い出を『残していた』記憶はある。

 そう。怒りの感情を手に入れた時に見た夢の中で.......。


「もしかして、その時も、貴女はいたの?」

「いたよー。証拠に、ほら」


 彼女は笑顔で言うと、黒いパーカーのポケットから、一枚の写真を見せてきた。

 確かに写真に映る自分は、床に倒れている『人形』を撮影している。


 つまり、その姿をコイツが撮影していた。


「だけど、その、何でそんな形で人の記憶を預かっているのか、その辺がよく分かんないんだけど.......」

「あー。それはねー」


 私は思ったことをそのまんま言ってみると、彼女は、面倒くさそうな顔でこう答えたのだ。


「君の仲間がね、自分勝手な都合で、この世界に茶々を入れてきたからなんだ」

「茶々?」


 もしかして、幸さんの事かな?

 確かにこの仮想空間の世界を弄っていたと、前に言っていたが.......。


「だから、君のゲーム端末が壊れる前に『ネットの雲』に一時的に保存していたって訳。そんで、私はそのネットの雲の『管理者』だよ」

「管理者!? という事は.......」

「仮想空間『Delete』の全てを知る者だよ。名前は知らん」

「はぁ!?」


 どういう事だ。先程から言っている事が、良く分からない。

 そもそも『管理者』が何で、こんな所にわざわざ.......。


「ところで、椎名 (ホープ)よ」

「な、何!?」

「貴女は本当に、『罪を償う』気はあるのかい?』」

「急に何を言って.......」

「だから、ちゃんと『罪を償う』気はあるのか? と聞いているんだよ」

「.......」


 そういえば、私も破片者(パーツ)と同じく、『罪人』だったんだ。

 嫌な事を思い出してしまった私は、瓜二つの相手から目を逸らすと、下唇を思いっきり噛んだ。


「どうなんだ? ん?」

「.......」


 だけど、私は、悪い事なんて、一切していない。

 ここに来る前からも、そして、今までも。

 それなのに、何で、私だけ、こんな理不尽な思いをするんだろう。

 こんな思いをするんだったら、いっそ.......。


 私は必死に降りかかる圧力に抵抗しながらも、ポケットから拳銃を取り出す。


「ん!? な、何を取り出してるの!?」

「.......何って? やることはただ一つだよ」


 そして、自称 ネットの雲の管理者に向けて銃口をむけた。


「ふっ」

「何がおかしい!」


 しかし、彼女は鼻で笑うと、余裕の笑みで私にこう告げてきたのだ。


「まさかさ.......、私をそれで『消そう』と言うのかい?」

「うっ!」

「という事は、全く『罪を償う』気は無いという事だね。よーくわかった」

「いっ.......」


 なので、痛いところを突かれた私は反論できずに銃を下ろすと、ただ下唇を噛むしか出来なかった。


 そう。まるで、自分の手際を相手に全部見透かされたかの様で、何だかとても悔しい。


「あ。そうそう。そんな貴女に良いことを教えてあげるよ!」

「は?」

「君は時期にね……」

「……」

「『殺される』んだ」

「え……」


 誰に? とは言いたかったが、まさか!

 いや。『彼』がそんな事をするはずは……。


「まぁ。今回だけは見逃してあげるよ」

「えっ?」

「それに、ぶっちゃけた話、私は幾ら、君が過去に犯した罪の数が多かろうが少なかろうが、そんな細かいことは、どーでもいいんだー」

「じゃあ……、何で?」

「ん? それは、君が本気で『償う気』があるかどーか、気になっただけ。ま。結果的にはこっち側で『ない』と判断を下したまでだけど」

「君はさっきから何を……」

「そーだな。細かく言えば……」


 しかし、彼女はゴミを見るかのような目で見下げると、私に右掌を(かざ)し、思いっきり握り拳を作ったのだ。


「いぎゃぁ!」


 その途端、頭が割れるかのように痛み始めた。

 まるであの時、夢から現実に近い仮想空間に引き戻される時の様に……。


「うっ……。あぁぁ!」


 そして、私は呆気なく、真っ黒な床に倒れ込んでしまったが、相手が言っていた言葉は微かに聞こえてきたのだ。




「君にはもっと、盛大に、そして、永久に苦しむ必要性が出てきた。という事だよ。あは。あはは。あはははははは!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ