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Delete  作者: Ruria
第5章 後編
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ゲームクリア

 重い足取りで歩きながらもエレベーターに着いた私は、麗にカードキーを翳してもらいながら、屋上へと向かうエレベーターの中にいた。


 外との世界も閉ざされた、狭い空間だ。

 その中には私と(うるは)の二人しかいない。

 とても静かだ。


「なぁ」

「どうしたの?」

「あんなに沢山人がいたのに……。もう、俺とお前しかいなくなっちまったな」

「……うん」


 確かに最初は、愛さんと(りく)さんの4人でこの場所に来たのに。気がついたら、私と麗しかいなかった。


(ホープ)はさ、この世界を抜けたら、何がしたいんだ?」

「うーん……」


 そして、彼から突然ふられた質問に、戸惑いを隠せない。

 だって、本当にこの世界から、抜け出せるのか。という疑問の方が強いからだ。今だって、攻略法が無ければ、この歩んでいる道だって、正規ルートだとは思えない。


「まだ、分からない」

「そっか……」


 だから、私は素っ気なく答え、相槌をうつ彼から視線を逸らした。


 先程の父親のこともあったのに。

 これ以上、彼を不安にさせたくない。


「もし、分かったらさ、俺に教えてくれよ」

「えっ!?」

「俺もその時、教えるからさ。なっ!」

「う、うん!」


 しかし、彼は満面な笑顔でそう言うと、エレベーターの扉を、呆然と眺めていた。


 静寂だ。

 2階から3階、4階へと上っていくにつれ、徐々に心臓の鼓動が大きくなっていく。

 私は無くさないように、猫耳のリュックサックの前ポケットに、先程手に入れた血塗れの鍵束と黒いゲームソフトを放り込んだ。


「あっ」


 そういえば、忘れていた。

 前ポケットを整理していたら、いつの時に作ったか分からない、アルミホイルに包まれた茶色と銀の物体が出てきたのだ。


「懐かしい……」


 べっこう飴だ。確か、あの時はお腹が空いていて、近くにある機材を使って、何となく作ったんだっけ。

 だけど、もう溶けてしまっているせいか、アルミホイルと融合していて原型を留めていない。


 なので、もう食べれない。と思った私は、それを目印代わりとして、何となく床に置いてみる。きっと、誰かが見てくれると信じて。



――ティーン……。



 ふと、エレベーターが止まり、錆色の扉が重く開いた。


「うわっ!」


 すると、かなり強い風が吹いた。

 自身の黒髪は乱れたが、幸い、結び目は解けていない。

 空は真っ暗で、周囲を見渡すと、あるのは飛び降り防止の白い柵と、大きなヘリポートだけ。


「風が強いなぁ……」

「確か、飛び降りればいいって、先生、言ってたよね。だけど、柵が……」

「そんなの、飛び超えればいけんじゃね?」

「は?」

「あの柵を飛び越えるんだよ!」

「ええええ!? ちょっと待って!」


 すると、彼は無謀な事を言いながら柵を登ろうとしたので、思わず驚いてしまった。

 だって、柵と言っても、私達の何倍か分からないほど、高く(そび)え立っていたからだ。それを登ると言ったらキリがない。


「ねぇ! 安全に飛び降りれる場所を探そうよ! 麗、お願い! まだ、早まらないで!」


 なので私は、新たな脱出方法を探す為、彼が着ている水色のコートの裾を強く引っ張りながら大声で言ってみる。


「おっ! おいおい! わわわ、分かったから! 分かったからそこ引っ張んなって!」


 すると、彼も大声で荒らげながらも、素直に白い柵から降りてくれた。

 しかし、何時(いつ)見ても、彼の黒縁メガネをかけた姿は、とても見慣れないけど、どこか大人っぽくて……。


 あ。いやいや。今はこんな事で現を抜かす訳にはいかないんだった。

 早く脱出できる場所を見つけないと。

 なので、私は両頬をバンバンと叩きながら我に返ると、周囲を改めて散策してみる。


「あ。見つけた」


 ふと、一つ一つ柵を見ながら歩いていたら、盛大に大きな穴が空いた柵を見つけた。

 穴は直径2メートル程だろうか。こんな大きな穴、どうやって……。


「しっかし、どーやってこんなデカい穴を開けたんだろうな」


 彼も同じことを思っていたみたいで、ボソッと呟いていた。


「多分、あのランドリーカーが関係してるのかも」

「だけど、見る感じだと、前々から空いていた穴を更にでかくした感じだな」

「うん。まさか……」


 幸さん、全部を見越してこんな事を?

 そう思うと本当に、幸さんは何者だったんだろう。本当にただの破片者(パーツ)だったのか、未だに疑問に思ってしまう。


「まぁ。だけどよ、ここを抜けたらどうなるんだろうな。俺達」

「それは、流石の私でも、分からないよ」

「だが、俺はもう、この病院に未練はないな」

「そっか」

「あぁ。俺は『俺』だからな!」


 だけど、彼は初めて会った時よりも、天使の様な素敵な笑顔になっていた。

 きっと、長年、彼を拘束していた『父親の呪縛』が、跡形も無く消えたから、そのせいかもしれない。


「それに、俺も抜けたらやること、やらねぇと。空にいる母さんにも悪いしな」

「そうだね。私もだ……」


 お互い、やることが沢山あるのに気がついた私達は、歪に大きく開いた柵を潜り抜ける。


 だけど、下は底が見えない真っ暗闇だった。

 でも、不思議と恐怖は消えていた。


 ありがとう。愛さん。(りく)さん。模型さん。幸さん。蛇川先生。そして……。朔夜。


 私は今まで一緒に行動してきた人達に感謝しながらも、暗闇に向けて、笑顔で飛び降りたのだった。



―――――ゲームクリア―――――


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