とある少年の本心
「なっ!」
俺は暫く、開いた口が塞がらなかった。
麗が全くの別人になっていたというのもあるが、俺が今まで見てきた中でも1番『本人』に近かったのだ。
「俺はな、彼女の『邪魔』をする人を、排除しただけなんだ。それは例え、『父』であってもね」
「彼女って……、まさか!?」
あの椎名望が深く関係しているのか?
それに、そもそも望と麗にはどんな間柄があるというのだろうか。
この時点では全く分からないし、彼の行動が読めない。
「彼女は。いや、望は、俺の『希望』、そのものなんだ」
「希望!?」
「はい。彼女がいなかったら、今の俺はいませんでした」
「どういう、事なんだ……」
益々分からない。
なので俺は『罪状』を含めた今までの脳内データを、片っ端から思い出していくことにした。
確か、彼は幼少の頃、『辛い体験』を幾度か経験している。それが、人格障害を引き起こした元凶であるのも知ってはいるが。
「実は俺、ずっと昔からこの見た目だから、みんなから変な目で見られていたんだ」
「そうだったのか……」
「はい。まるで割れ物を扱うかの様な目で見てくるのが、何よりも辛かったんだ。考えは至って普通の人なのに……」
そういえば、アルビノはかなり低い確率で、産まれてくるんだったな。しかも、日本人で持つことも無い、銀髪と紫眼を持って産まれてくるとしたら、尚更のことだ。
「それと、俺の姿が母さんに似ていたんだ。だから、父さんは俺に対して……」
「……」
まさか……。それで院長は、心底愛していた『亡き嫁』に似た彼に手を出した。というのか。
これ以外にも再婚相手が原因というのも考えられるが、院長が原因の半分以上であっても良いかもしれない。
だけど、この様な親子同士で殺り合う結末は、本人の前では言えないけど……。あんまりだ。
俺は静寂な手術室の中で深く、大きなため息をついた。
「でも、彼女はな、こんな怪物みたいな俺の姿を見ても、『綺麗』と言うだけで、何も変な事、言ってこなかったんだ」
「そう……、なんだ」
「あぁ。あの時はかなり驚いちゃったんだ。だけどさ……」
「だけど?」
しかし、彼は血塗れたメスを元にあった場所へ戻すと、こう、笑顔で答えてきたのだ。
「俺、すっごい嬉しかったんだ。こんな姿の俺でも『生きてて良いんだ』って思えたからさ!」
「……そうか」
なので、俺はため息混じりに相槌を打ったが、そんな事を言われたら、流石の俺も反論できないなぁ。
ったく。カルテ上では彼女は『精神異常の殺人鬼』と記載されていたのにな。
それに、ここの空間上で出会った彼女の人物像が、データ上で記載された彼女の情報と、あまりにも違いすぎるのだ。
まさか……。
「先生?」
「はっ!」
「さっきから、ずっと上の空になってましたよ」
「あ、あぁ。ごめんな。ちょっと考え事をしていてな。あは。あははは」
俺は必死に誤魔化そうと愛想笑いをしていたら、突然、彼のコートの中からスマートフォンの着信音が鳴った。
「あ。彼女からだ」
「お?」
「すみません。先生」
多分、相手は彼女か幸さんのどちらかだろうが、とる時の様子からして、恐らくは……。
「どうした? あ。お前か。今、扉開けるから待ってろ」
彼はそう言って電話を切ると、そそくさと扉前まで行ってしまったのだ。
そうか。そういう事か!
この時俺は、恐ろしい事に気がついてしまったのだ。
互いに『愛し合っている』という生易しいものではなく、鎖より重い『執着』の様なモノ。
そう。2人は共に『依存』し合っている。という事に。
それと、近くに置かれた棚には、廃人になった彼のレントゲン写真を見つけたのだが……。
「嘘。だろ……」
俺は思わず膝から崩れ落ちてしまった。
院長。なんて事をしているんだ!




