表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Delete  作者: Ruria
第5章 後編
118/180

4枚の切り札

「ふぅ」


 私は狂者(アイツ)がいないか、周囲を確認しながら廊下を歩いているが、相変わらず薄暗い。蛍光灯が切れかかっているせいか、チカチカと床を照らしている。


 こんな事、何回心の中で言ってきたのだろう。そもそも光なんて、脱出した時の扉以外、まともに見た事がない様な。


「この先、何も無ければいいんだけど……」


 一人、呟きながらぼんやりと歩いていると、突然、鉄の臭いが鼻を刺激してきた。


「臭っ! これは……」


 私はパーカーの袖口で、鼻を塞ぎながら言うと、目の前には人型の死体が、沢山転がっていた。


「幸さんが、言っていた通りだ」


 じっ。と観察してみると、(みなと)さんの周囲を取り囲んでいる、取り巻きだった。白衣は既に血まみれになっており、見るのも無惨な状態だ。


 首だけ抉れたような深い傷跡。真っ赤に染った床。まるで愛さんが倒れた時の光景に似ている。


「ここからカードキーを……」


 探すのか。面倒だけど、やらないと。

 狂者(アイツ)が来てしまう。


 なので、私は血塗れた床を踏みながら、取り巻きの山を掻き分けるようにして、カードキーを探してみる。


「あっ」


 しかし、案外簡単に見つけてしまった。

 運が良かったのか分からなかったが、倒れている取り巻きの男付近に、『社員証』が2、3枚程落ちていたのだ。


「これって……」


 気になった私は拾ってよく見てみると、首かけストラップが付いていた。


 そういえば、ガス部屋から出ていく時に、麗が持っていたのとかなり似ている。血痕がこびりついていたせいか、誰の物なのかは分からなかったが。


 でも。いいや。次行こう。

 ひとまず複数のカードキーを手に入れた私は、それらを束にし、左手で握りしめる。


「何か、呆気ない気が……」


 それに、こんなすんなりと上手くいくものなのか?


 嫌な予感に怯えながらも、もう一枚、扉近くで倒れている、取り巻きの首にかかった社員証を外した。

 そして、束にしたカードキーに残りの1枚を加えると、カードリーダーが搭載されている扉前へと向かう。


 幸さんが言っていた通り、確かに扉は厳重に閉まっている。

 恐らく、取り巻きが開けたと同時に、狂者(アイツ)と鉢遭ってしまって殺られたのだろう。


「いや。もしかしたら、別の階にいるのかも、しれない……」


 なので、束にした4枚のうちの1枚をカードリーダーに(かざ)してみる。



――ビーッ。ビーッ。



 すると、赤に点滅しただけで全く開かなかった。


「これかな」


 なので、使ったカードキーをその場に投げ捨てると、もう一度3枚のうちの1枚を手にし、翳してみる。



――ガチャ。



「あ。開いた」


 今度は緑色へと変わり、自動で重い扉が開いた。と同時に、下に降りる階段と、上に登る階段が目の前に現れた。


「ここは4階。3階に行くには……」


 下の階段を使って降りよう。

 なので、その場で使用したカードキーを捨て、降りようとした時だった。



――ガシャーン



 突然、上の階から大きな物音がしたので、更に周囲を確認すると、床にはRと3の文字が微かに見えた。


「あれ。Rって、確か……」


 屋上のはずだ。でも、ここまで大きな物音がしたのは驚いた。

 なので、私は2階にある手術室に向かう為、足早に降りることにしたが、狂者(アイツ)は一体何処に!?


「まさか……」


 下にいたらと思うと、かなり鳥肌が立ってしまった。


 でも、居ない可能性もある。

 そう信じた私は、恐る恐る階段を降りるが、下はぼんやりと暗く、先まで見えない。まるで暗闇に吸い込まれるかのような気がして、足がすくんでしまう。


「あ。3階だ」


 しかし、その後は何事もなく3階へと到達したが、不気味な程に物音も無く、静かだった。

 周囲は先程の深紅な床ではなく、綺麗な緑色の廊下だ。


「ここにも、扉が……」


 更に降りようとしたら、厳重に閉められた鉄製の扉が、降りる私の前に立ち塞がっていた。試しにグーで扉を叩いてみたりしたが、かなり強い力でないと、無理な程頑丈だ。

 だけど幸い、未使用かもしれないカードキーが、2枚手元にある。


「さて……」


 私は、左手に握った2枚のうちの1枚を(かざ)そうとした時だった。



――カタッ。カタッ。



「えっ。嘘。この音って」


 静かだった周辺に、突如、足音が響いてきたのだ。しかも、この階から聞こえてくる。



――ビーッ。ビーッ。



 それに、(かざ)したカードキーは、運悪く『ハズレ』だった。その間にも、不気味な足音は、徐々に大きくなっていく。


「どうしよう! あと1枚。あと1枚……」


 そして、残り1枚となってしまった私は、呪文を唱えるかの様に呟くと、急いで最後の1枚を、カードリーダーに(かざ)した。



――ガチャ。



「やった……」


 しかし、かなり焦っていた為、喜ぶのは後回しだと思った私は、急いで2階へ向かう階段へ

足を踏み入れた時だった。



――カタッ。カタッ。



 足音がかなり大きくなってきたので、扉を閉めようとしたが、閉まらない。どうやら、ある程度、時間が経たないと駄目な様だ。


「どうしよう。早く、閉めないと……」


 この先の手術室にいる、(うるは)達に迷惑がかかってしまう!

 なので、私は怖い感情を押し殺しながら背後を振り向くと、使えるものが無いか、改めて周囲を見渡してみる。


「あ。これ……」


 すると、扉付近に、先程見たのと全く同じカードリーダーを見つけた。


「一か八か、やるしかない!」


 ふと、ある事を思いついた私は、試しに持っていたカードキーを翳してみる。



――ビーッ。ビーッ。ガダーン。



 その瞬間、かなり早いスピードで、扉が閉まった。


「ああぁぁぁぁぁ!」


 と同時に、閉まった扉の向こう側から、狂者(アイツ)の奇声が聞こえてくる。


 早く、この場から、離れないと!

 危機を察した私は、急いで2階へと降りると、手にしていたカードキーを、勢いよく放り投げた。


「良かった」


 まさか、『使用済みのカードキー』も、この様に使えるとは思ってなかった。


 あ。でも、手術室、どうやって開けよう。


 カードキーも既に使ってしまったから、もう開ける手段が無い。それに、今の時点で(うるは)がいるかどうかも分からない。

 確かに幸さんと一緒に見た動画には、先生と『共に』映っていたけど、その後は見ていない。


「んー。あ。そうだ」


 ふと、何かを思い出した私は、パーカーのポケットから、白いスマートフォンを取り出した。


「直接電話すれば……」


 そして、通話アプリ『Like』を開くと、トーク画面から麗を見つけ、直接電話をかけてみる。


「どうした?」

「私だよ。えっと……」

「あ。お前か。今、扉開けるから待ってろ」

「え? あ。うん」


 すると、(うるは)が電話越しで話してきたが、口調がさっき逢った時より、かなり冷静だった。


 でも、改めてよく聞くと、『教室』と『シャワールーム』『毒ガス充満の病室』で逢った時の彼に間違いない。


(うるは)……」


 やっぱり、あの時と全く変わっていない。

 私は両手にスマートフォンを持ちながら、足早に手術室に着くと、既に扉が開いていた。


「おい。早く、入れよ」

「えっ!?」


 そこには、黒縁メガネをかけた彼が私の目の前にいたが、雰囲気が大人っぽくなっていたせいか、変に緊張してしまった。


「そんなとこに突っ立ってたら危ねーよ。ほら」

「あ。う、うん……。って、ええ!?」


 そして、怒り気味に手を差し出してきたので、咄嗟に彼の手を握ると、引っ張られる形で手術室に入ることになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ