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Delete  作者: Ruria
城崎 麗【回想】
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帰還


 そして、目まぐるしく景色が変わった後、いつも通りのガーデンに戻っていた。


「ただい……。ん?」


 しかし、何か様子がおかしい。周囲がかなり静かだ。


「あれ? 『レイ』達は?」


 唯一、ガーデンにいるうらら達に聞いてみると、驚きの答えが返ってきた。


「きえちゃったよ」

「え?」

「なんかね、レイおにいちゃんと、アキラおにいちゃんと、ヒバリおねえちゃん、つぐおにいちゃんがね、とつぜんきえちゃったんだ。ねっ! ななしちゃん」


 そして、うららの隣にいる名無しは、ボーッとオレの顔を見るや、こくりと首を縦に振る。


「は? 消えた、だと?」


 オレは突然の事で戸惑ってしまった。


「まさか……」



――その、まさかだよ!



 すると、どこからか声が聞こえてきたので、周囲を見渡してみるが、『レイ』の姿はどこにも居ない。



「もしかして、オレの……、中にいるのか?」



――大当たり!



 なんと、彼はオレの『体内』に居たのだ。


「どういう事なんだ? 詳しく教えてくれ!」

 

 驚きすぎて信じられなくなったオレは、矢継ぎ早に質問をする。


「体内に居るって……」



――まぁまぁ落ち着いて。僕の『相棒』よ。



「だからいつ『相棒』て決まったんだ! ゴラァ!」


 しかし、この通りにケラケラと笑ってはあしらわれるので、完全に怒ったオレは左手に拳を作っていた。



――おぉ! 怖いよ怖いよ! 怖いって!



「は?」



――まさか『アキラ』までも取り込んじゃった?

 


「取り込んだつもりは満更無いが……、って……」


 そういえば、うららと名無し以外は誰もいなかった事に気づいたオレ。


 まさか、1つになっちまった?

 いや。そんな、馬鹿な。


 ありえないと思って周囲を見渡しても、5人の姿はどこにも居ない。



――ったく、てめぇは見かけによらず、欲張りだよなぁ。



「その声は!」



――『アキラ』だ。テメェが「クソ親父殺る!」って息巻いていたから、楽しそーだと思ってな。だから、レイと一緒に統合してみたのさ!



「おいおい」



――うちも同じだよ。ね。『レイ』『つぐ』


――うんうん! しかも、君のお父さんのせいで彼女が悲しむのは、本当に嫌だもんねぇ。


――全く。つぐは相変わらずの『彼女』ファーストだね。相棒もつぐの『執念』さを見習うといいよ!


――えへへ! だけど、一番大事なのは君だから安心して!



「まじかよ……」


 あまりにも自由過ぎる仮面達の行動に、思わず溜息をつく。


 だけど、今は1人じゃない。

 オレはそっと胸に手を当てて目を瞑ると、微かに熱い鼓動を感じた。

 あぁ。これが……『自分自身』なんだ。と。


(うるは)お兄ちゃん!」

「ん?」

「あたしも、ななしちゃんといっしょに、おにいちゃんみたいになる!」


 すると、うららが笑顔でそう言うと、小さな手をオレに差し出してきた。


「えっ!?」


 かなり驚いたオレは、瞬時に瞬きをするが、何をするつもりなんだ!? 戸惑いが隠せない。



――うららは危ないよ! ちゃんとここにいて!


――あぁ! 絶対来んなって! いつ死ぬかわかんねぇーんだぞ!?



 そのせいか、仮面達も動揺していたが、彼女はかなり真剣な眼差しで、オレを見つめている。


「おにいちゃんたち、あたしは、いなくなっても、へーきだよ!」

「え?」

「あたしはね! こうやって、おはなしできたり、おねえちゃんとあそんだりできてね、とっても『しあわせ』だったんだ!」

「うんうん」


 しかし、彼女は天真爛漫に微笑みながらそう答えると、隣にいた名無しも一緒になって頷いていた。


「だからね、こんどはね、あたしとななしちゃんが、おにいちゃんを『しあわせ』にするの!」

「えっ……」


 幸せになれって。家族からも言われた記憶が無かったのに……。

 オレは言われたのが初めてだったせいか、何故か目から大粒の涙が零れていた。


「だからね、あたしからのおねがい、きいてくれる?」

「わかった、どんなお願いなんだ?」

「んーとね……」


 そして、彼女は名無しとアイコンタクトをとると、オレを見てこう告げてきたのだ。



「おにいちゃんたちを『しあわせ』にしてあげて!」







「んんっ。寝みぃ……」


 長い長い、夢を見た気がした。

 重い瞼をゆっくりと開けて、身体を起こすと、俺は可能な限り、周囲を見渡す。白いベット。スライド式の扉。隣には蛇川先生。かなり驚いた顔をしながら、心配そうに見つめている。


 そうか。(オレ)、帰ってきたんだ。

 この、残酷なゲームの世界に。


 しかも、心の中は未だに温かいまま。今度はただの生きる屍ではなく、ちゃんと『生きている』と実感出来る。


 母さんを失い、父さんから受けた、悲しみ。

 継母や従兄弟達に向けた、怒り。

 (ホープ)と出会った、喜び。

 そして、生きる目標を掲げられる、楽しみ。


 これらが俺の体内に刻まれているのが、鼓動で分かる。その証として、白いセーターの袖口に隠された、無数の傷口が微かに見えた。


 だけど、もう傷を付けるのはやめよう。傷を付けるだけでは『生きている』証拠にはならない。

 それが分かった俺は、捲れていたセーターの袖口をそっと戻す。


(うるは)君、大丈夫だったかい?」

「あ。先生。実は……」


 先程の夢を言おうとした時、先生は突然、「まさか! もしや……」と言葉を呟きながら何か考え込んでいた。

 

「何か、あったんですか?」

「あぁ。麗君。すまなかったね。実は、君が起きた時、暫く顔つきと口調、行動を観察していたよ」

「はぃぃ?」

「だけど、ようやく理解出来たんだ」

「どういう、事ですか?」


 まさか、今度は先生が可笑しくなってしまったのか?

 突然、訳の分からない事を言い始めてきたので、恐る恐る聞き返すと、彼は何か確信を得たような顔でこう告げてきた。


「恐らく……、全部の人格と『統合』したんだね」

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