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城崎 麗【回想】
105/180

ガーデンの住人


「……んっ」


 目が覚めると、一面が黒い薔薇に囲まれた庭園の真ん中にいた。だけど、オレは覚えている。そう。ここはオレ自身の『頭の中』だからだ。


「あー! クソォー! あぁーー!」


 すると、庭園の向かい側にある広場から、怒鳴り声がした。オレは声がした方へと歩いていくと、容姿がそっくりな男と女がいた。


「どしたの? アキラ?」

「あー。ひばりかぁ。アイツ、今すぐにでもぶっ殺してぇーんだけど!」

「やめなよ! 全く!」


 まぁ。この物騒な発言と女の子らしい発言、髪型以外は、2人共白い髪。紫色の目。高身長。服装もほぼ同じ。正にクローンの様で、正直戸惑う。


「えぇー。あのクソ色の髪をしたクソ親父をミンチにしてーんだけど!? だめかぁ?」

「ダメ! ちゃんと『うるは』に聞けば?」

「ちぇーーっ」


 あー。仮面達か。

 どうやら怒りで発狂していたのはアキラで、前髪をオールバックにしていて目つきは鋭く、男らしい風格をしている。一方ひばりは腰元まであるロングヘアーで、サイドの髪をクルクル指で巻きながら話していた。


「じゃー、レイはいるか?」

「ん? 誰か僕のこと呼んだ?」


 すると、彼の背後から、もう1人の『オレ』が現れた。が、そいつだけ黒髪で目も黒い。服装も、オレが通っていた高校の制服を着ている。確か、色は黒のブレザーで赤いネクタイをしていて、下は灰色のスラックスだ。


 実は仮面達の真上にある、スポットライトみたいな光に照らされない限り、互いに『存在』は認知されない様だ。


「呼んだ。このオレが呼んだー」

「あー。アキラ君かぁ。相変わらず物騒な言葉言ってて、怖いよ全く」

「っせーな」

「まぁ。いいや。ところで全員いる?」

「さぁ……。あの名無しヤローとガキと、つぐは?」


 ちなみにオレが作ってしまった『仮面達』は、オレを含めると7人いて、どれも個性的で強烈なキャラを放っている。ここにいるのはオレも含めて4人。あと3人、どこかにいるはずだ。


「ねーねー! ひばりちゃーん!」

「あ。うらら!」

「うん! テーブルでおえかきしてたぁー!」

「あ。そうなのね」

「うん!」


 そのうちの一人、うららと呼ばれた子供体型の『オレ』は、昔っからいる存在だ。お絵描きが大好きな女の子で、よくテーブルを見つけては、スケッチブックに絵を描いている。歳を聞くと7歳と答えている様だ。


「むにぃ……」

「あ。名無しさんも来たのね」

「うららうらら。つんつん」

「ななしちゃん、だめだよぉ〜」

「つんつん!」


 そして、背丈と体格が子供、幼児体型の子が2人、白い椅子に座りながら、子猫のようにじゃれ合っていた。幼児体型の『オレ』は、うららちゃんに向かって、頬を軽く指で突っついている。名無しの手には、クマのぬいぐるみがしっかりと握られていた。


「つぐー! どこにいるの!?」


 ひばりはというと、心配になって大声で叫んでいるが見当たらない。多分、何かあったのだろう。そう思ってオレが探そうとすると、妨害するかの様に、足を茨に巻き憑かれ、動けなくなった。


「いだっ!」


 棘が付いた茨は鋭く、食い込む度に痛い。いくらブーツが膝まであるとはいえ、圧迫感もある。幸い、ライトには照らされていない為、『オレの声』は向こうには、全く届いていない。


「僕、ここにいる……」

『つぐ!』


 すると、つぐは白い柱の隅っこで膝を抱えていた。彼は体型が朔夜みたいに若干小さい、とはいえ、見た目は『オレ』だ。


「ちょっとね……。傷ついたことがあったんだ」

「何があった訳?!」


 ひばりが問いただすと、彼は悲しげにこう言った。


「望に、フラレチャッタ」

「何考えてんだか……」


 彼女は呆れ気味に答えると、「いつまでもウジウジしないの!」と叱咤する。


「望?」


 ふと、スポットライトが自分に浴びられ、足元にまとわりついていた茨は跡形もなく消えた。そのせいか、オレは突然の事でたじろぐ。


『うるは!』


 すると、仮面達はオレを見るや、一斉に声を揃えて呼んできた。


「あぁ。少し寝てた」

「うるは! テメェー。いつまで寝てんだよ!」

「こらこら。アキラ、怒っちゃだめ」

「お前が目覚めなかったらオレ、(アイツ)に殺されてたところだったんだぞ!」

「彼女が?」


 オレは何があったか分からなかったが、この後、アキラは勢いに任せるがまま、色々と言葉を発す。


「あぁ。テメェに用があると言って、言う事聞かなかったから、黙らせようと思ったんだけどよ……」

「うんうん」

(アイツ)に突然、スタンガンでやられてさー。オマケに催涙スプレーみたいなのかけられて、ナイフ奪われて脅されたんだ! すげー眼力で睨みつけてきたから、何も出来なかったけどよ……」

「なるほど……」


 そうして、アキラの話に耳を傾けていると、それに不服な顔をしたつぐがこう言ってきた。


「望がそんなことする訳ないよ! アキラは勘違いしてる! 彼女は僕にとっては女神なんだよ!」

「つぐ!?」

「テメェ! 何も知らねぇのにしゃしゃり出てくんなよクソ陰キャ!」

「うるさいよアキラ。そんなんだから望に嫌われちゃうんだよ」

「おめぇはいつも一言一言、うっせぇぞ!」


 そういえば、アキラとつぐはこう顔を合わせる度に、こんな口喧嘩ばかりしている。なので、よくオレと『レイ』に引き離されているが……。


「だけどね、望はちっとも振り向いてくれなかった。ずーっと『うるは』の事ばっかり言っててずるい!」

「つぐ。お前……」


 この時、かなり嫌な予感がした。前にサクヤに言われた事もあったせいか、まさか、『オレ』の体を使って……。


「だからね、好意が僕に向いてくれるように、色々とやったんだよ!?」

「どういう事だ?」

「んーと。気を向いてもらいたくて、首絞めたり脅したり、色々したんだ。なのに望は……、望は……」

「はいはい。つぐ、あんたは黙ってて」


 しかし、呆然としている俺の隣で聞いていたひばりが怠そうに言い放つと、愚図るつぐの腹に一発思いっきり強烈なパンチをかました。


「うぐっ! ひばり、さん、いだぁ、い」


 どうやらかなりきつかったようで、つぐはそのままレンガの床に突っ伏していた。


「んで、うるは、今日は何の用?」

「あぁ。実はな、ひばり……」


 そして、オレはふぅ。と深呼吸をしたあと、静かに彼女に告げる。


「オレだけで、過去の事を『決別』したいんだ」

「決別、ねぇ……。それって、つまり、『うち達』に頼らなくても、大丈夫ってこと?」

「……うん」


 深く頷くと、彼女は真剣な眼差しでこう零す。


「だけどさ、そんな感じで毎度『頼って』きたよね。その度に出てやったりもしたけど……」

「その通りだな」


 クソ親父に『やられた』その日から、オレの人生は180度暗転した。だから、親父が目の前に出て来る度に、違う仮面達が代理で出てきたことは事実だ。

 そのせいか、彼女は静かに頷いた後も、表情は一切変わらず、氷のように冷たかった。


「言っておくけど、クソ親父と『決別』したいなら、それ以上の覚悟が必要だよ」

「分かってる。それも、彼女を守る為なんだ」

「うるは……」


 しかし、オレの決意を聞いた彼女は、寂しそうにこう言い放つ。


「うち達は、貴方を失いたくない!」

「えっ……」

「うるはが壊れない様に、うち達は出てくる度に、大人の脅威から『守って』きたんだよ! だからね、うち達は、あのクソ親父の復讐の為に生まれてきたようなもんだし。本当なら、うち達の手で……、アイツを殺したい!」

「そう……なのか……」

「でもね、うちは、貴方の大事な体を『支配する』程、殺したい訳じゃない! 殺るならちゃんと、自分の『意志』で、殺って欲しいの!」

「ひばり……」


 彼女は、熱をあげながらそう言っていたが、目には涙を潤ませている。ごめんな。ひばり。オレは心の底で謝る。


「うるはの体でもあるし、うるはの脳内でもあるし。ね。みんな!」

『んあ!?』

「あのクソ親父が目の前に出てきたとしても、『うるは』の邪魔はしないでね!」

『分かった!』


 そして、彼女の一声と共に、2人以外の仮面達が頷いた。どうやら5人の了承を得た様だ。


「やだなぁー」


 しかし、つぐだけは頑なに『いいよ』と言わないし、首を横に振るばかり。


「おい! てめぇ! まじで消されたいんか!?」

「違うよ。何で『うるは』を出さなきゃならないのさ。君は他力本願だけど、それで大事な彼女を守れるの?」

「……守れる」

「本当に守れるの? 守らなかったら……、まじでこの体『乗っ取る』から」

『つぐ!』


 それどころか、他の仮面達を怒らせる事態にまで発展してしまった。


「テメェ! ほんっとにキング・オブ・クズじゃねぇかよ!」

「アキラはギャーギャーうるさいなぁ! オレは彼女さえいれば、クソ親父とかどーでもいいのー!」

『はぁ!?』


 そして、このままでは収束がつかない程、荒れた話し合いとなってしまった。


「ね。『レイ』もそうだよね?」

「つぐ! テメェまじでいい加減……!」


 すると今度は、彼の背後にいる『レイ』が、アキラの肩に軽くポンと手を置いた後、重い口を開く。


「まぁ。つぐの言う事にも一理あるね。それと、うるは自身が、彼女のことをどれだけ知っているのか。それと、彼女が君の過去の事を、どれだけ思い出しているか。にもよると思うし……」


 まぁ。分かっていた。確かに『決別』するには、嫌でも思い出したくない、オレの幼少期の記憶を思い出す必要があるからな。仮面の中でも一番優秀な『レイ』や、一途で彼女の事になると盲目になる『つぐ』が反対する気持ちも分かる。


「実は、うるはには言ってなかった事があるんだ」

「なんだ?」

「実は僕、初めて彼女を見たあの時だけどね……」


 すると、彼は複雑な顔でそう言うと、オレからそっぽ向いて考え込み、ボソリとこう呟く。


「本当は君達の許可なく『乗っ取ろう』と思っていたんだ」

「……はぁ?」


 唐突に口から飛び出した発言に、オレや仮面達は戸惑った。が、彼は続けてこう言い始める。


「うるはの体を乗っ取って、無垢な彼女を独占したかった。かな」

「何を言って……」

「それ程、彼女は人形みたいで、冷酷で、尚且つ、鮮やかなんだ。だからね、血肉や内蔵を抜き取って、そうだねぇ。僕が集めている人形(オブジェ)の一つとして飾りたい程美しかったなぁ〜」


 そして、彼は『あぁ。今度はいつ会えるかなぁ。愛しいなぁ……』と呟きながら、乙女みたいに両手を白い頬に当て、情欲的な表情を浮かべていた。


「レイ、お前……」


 だけど、コイツ。やっぱり『人として』何かが欠けている。客観的から見たせいか、それがヒシヒシと伝わってくるのを感じた。


「オレが寝てる間、いつの間にか、かなり歪んでいたんだな」

「え?」

「あぁ。お前にそんな危ない性癖があったとはなー。正直ひいた」

「はぁ!?」


 オレにそう言われたレイは、目玉が飛び出る程目を見開きながら、驚いた顔をしていた。


「そんな事したって彼女が嫌がるだけだ。どんだけ自己中の自己満野郎なんだよ。お前は」


 なので、呆れ気味に言い返すが、レイといい、つぐといい、何でこんなにも『歪んだ人格』が生まれたんだ?

 不思議でならないが、もしかしたら、無意識に出来てしまった人格の1人でもあるかもしれない。


「じゃあ、なんで君は、彼女が好きなのにも関わらず、何も言ってないの?」

「それは……」

「好きならきちんと、伝えるべきだよ?」

「それは、そうだけど……」

「あー。まさか、『嫌われる』と思ってる?」

「うっ!」


 しかし、質問攻めする彼の背後にいたつぐに図星をつつかれ、思わず驚いてしまった。


「まぁ。そんな変に心配しなくても大丈夫だよ。うん。彼女は間違いなく、『君』が好きだよ。僕、わかるもん! うん!」

「そんな根拠、どっから来るんだよ……」


 そして、本音が漏れたオレは呆れた口調で話し返すが、つぐは彼の背後でニヤニヤと不適に笑ってやがる。あの野郎。後で仕返ししてやるから覚えてろよ。


「まぁ。いいや」


 すると、レイが話に割って入るかの様にこう言ってきた。


「あと1つ重要な事を忘れてたよー」

「どういう事だ?」

「そのまんまの意味だよ。例えば……『彼女の本当の名前』は知ってるの?」

「そういえば……」


 あの教室で2人きりで話した時、何か言いかけたら突然意識が吹っ飛んでしまって、気がついたら変な風呂場にいたんだよな。

 それで、何故か(アイツ)に起こされたんだ。だけど、その後また、意識が吹っ飛んで、サクヤや幸と出逢って、蛇川先生にも出会ったけど、そこでも意識が吹っ飛んで……。というのを繰り返していたのを思い出す。


「あと、彼女がこのゲームに参加してきた『目的』とか」

「それも含めて言おうとしたら、お前が邪魔したんじゃねーか。だからそれで伝えられなかっただけだ!」


 そのせいか、妙にイラついたオレは不満げに怒った。


「それは『タイミング』が大事だったからね。あの時は!」

「何だよそれ……」


 だけど、コイツは腕を組みながらニンマリと笑っていた。実は彼、この仮面の中では2番目に古く、スポットライトを仕切ってるのは大体コイツである。なので、都合が悪くなったら、こうやってオレの意思に『反して』介入することが多いのだ。


「うん。今は言うべきでは無いって、僕が判断したまでだよ」

「ふーん。だけど、さっき勝手に言った時は何だ?」

「あれはそーでもしないと、彼女は危ない『悪魔』になってしまうと思ったからね。冷静になってもらう為に言っといたんだ」

「それ……」


 ただ都合よく支配したかっただけだろ。でかいため息をつくと、目の前の黒髪野郎を睨みつける。


「まぁ。睨まないでよー。乗っ取りそうにしてたことも謝るからさぁー。お願いー」

「じゃあ……」


 だけど、謝ってくれたから別にいいや。と思ったオレは、改めて、彼にお願いをすることにした。


「オレの『記憶』を全部寄越せ」


 右手を差し出しながらそう答えたが、レイも先程とは違う、何処か穏やかな表情でこう言ってきた。


「そかそか。まぁ、構わないよ。今の君のその『覚悟』なら、仮面達の屈辱も晴らせると思うしね」

「そうか?」

「うん。じゃあ……」


 そう言って、彼はオレの額に軽く手を当てると、『ふぅー』と静かに深呼吸をし、目を閉じた。なので、オレも彼と同じ様に、額に手を当てて目を閉じる。


 あぁ。うん。思い出してきた。

 優しい薔薇の香り。そう。母さんの……、母さんの……。

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