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Delete  作者: Ruria
第二章
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メインルーム2

 私達は、危機一髪で抜けることができた。狂者あいつとの距離が少しだけ離れていたのが不幸中の幸いだ。あと少し閉めるのが遅かったら、命は無かっただろう。正に、ゲームオーバー寸前の神回避だ。


「はぁ」


 思わずその場で力無く座り込む。まさかあんな所で遭遇するなんて、予想外で手が震える。それよりも早く、次に行かないと!


 しかし、焦って立ってしまい、ドテッと大きく転んでしまった。


「望、大丈夫?」

「平気」


 見かねた彼が私に優しく声をかけてくれたが、相変わらずそっけない態度で返す。


「そっか」

「え? れ、麗!」


 すると、突然お姫様抱っこで私を抱え、あの木製のテーブルの近くまで運び始めた。


「えっ? ど、ど、どうして?」


 突然の行動に頭の中は真っ白になる。


「それは、望が無茶ばかりするからだよ」

「でも……」

「僕の前だけ、素直になってもいいのに」

「え? あっ……」


 そう言うと悲しそうな眼差しで私を見ずに呟く。その後、「ありがとう」と言って降ろして貰った。

そして、リュックを床に置いてから自力で席に着いた。


「何でもかんでも、一人で背負い過ぎ。だよ」

「え?」


 その時、彼が私の耳元で囁いて顔を覗き込み、いたずらっ子のような表情で、私の額にデコピンをしてきた。


「うっ!」


 しまった! 油断を突かれた私は、やられた額を両手で覆い、痛みを抑える。彼はというと、普段通りの笑みで隣の椅子に座って微笑んでいた。


――ブツッ……


「ヤァ。無事二クリアデキマシタネ」


その時、例のスクリーンが砂嵐になり、支配人が画面内に現れる。


「おかげ様でね。ところで支配人、これはどういうことかな?」

「ン? 何ノコトダネ?」


 石の表情で画面にいる彼に詰め寄るが、すっとぼけて全くこっちの話を聞こうとしない。彼はと言うと、きょとんとした顔できょろきょろと私を見て、画面にいる支配人を見て、を繰り返していた。


破片者パーツの件や他のことで、聞きたいことが山ほどあるんだけど」

「マァ、ソレハジックリト説明シマスカラ!」


 全く。お前のせいでさっき、死にかけたんだけど!

 当の支配人はと言うと、落ち着いてくれとでも言うかの様に、両手でまったまったと身振りをしていた。


「僕のこと、忘れてないかな?」

「アッ! 麗サマデスネ。オ久シブリデス!」


 すると突然、彼が笑顔で話に割り込んで問いかけていたが、支配人も顔見知りかの様に接し始める。


「こっちも言いたいことが山程あったけど、望が代弁してくれると思うから、僕からは何もないよ」

「え?」


 余りにも突拍子も無く答えていたので、ポカンと口が開く。


 何でもかんでも、私の名を勝手に出さないで! と言いたかったけど、言ったところでややこしくなるので黙って見ていることにした。


「それより支配人」

「ハイ。何デショウ」


 緊迫した空気が流れる。今度は何を言い出すのかと思えば……


「このコート、折角気に入ってたのに血まみれなんだ。このままで洗いたいんだけど、何とか出来るかい?」


 意地の悪い笑顔で、支配人に要求を出し始めた。


「はぁ? こ、こ、このまま!?」


 余りにも予想斜め上の要求に、思わず瞬きをパチパチさせる。


「ソウイウト思ッタノデ、服ヲ着タママ洗エルシャワー室ヲ設ケマシタヨ」


 そう言うと、いつの間にか私の真後ろに、新しい扉が出来ていた。色は真っ白で丸窓付きのシンプルな扉。見るからにとてもお洒落だ。


 ふと思う。あんな無茶な要求を、涼しい顔で片付けるなんて、全くもって末恐ろしい奴だ。


「やった! 支配人、ありがとう!」

「イエイエ。麗サマノワガママハ全テオ見通シナノデ」

「流石だね。あっ、望!」

「なに?」


 突然、私に話をふってきたので、きょとんとした顔で答える。


「先に浴びてきていいよ。僕は支配人と話したいことがあって……」

「うん。分かった」


 そう言うと、服ごと画期的に洗えるシャワールームへと向かった。





 入ってみると、個室だけど広めの空間になっていた。シャンプーなどの洗面道具一式と、何故か衣類用洗剤も置かれている。


 本当にここで服も洗えるんだ。周囲を見渡しながら入り、髪を解いてキュッと蛇口を捻ると、温かいお湯が体全体に心地良く当たった。


 すっごい気持ちいい!


 床には先程の脱出の際に、大量についた鮮血が、顔や体全体から、みるみると剥がれ落ちるかの様に流れていく。


 ふと、曇りかかった鏡があったのでシャワーをかけてみると、そこには、全身濡れた状態の私が、虚ろな目を向けて映っていた。

 人が近くにいない、閉じ籠っているせいか、こういう時はとても静かに感じる。シャワールームに響く水飛沫が、静けさを生み出しているからだろう。


 ふと、子供のように無邪気な笑顔で私にくっついてくるあの人のことを何故か思い出し、そっと自身の胸に手を当てる。

 好きか嫌いかなんて、はっきりと今は言えないけど、抱えられた時に感じた、あの温もり……


 はっ! と我に返り、ふぅ。と溜息をつく。

 こんな時に何を考えてる! 私らしくない!


 内心叫びながら首を横に振り、取っ手口付近にあった乾燥ボタンを押す。どうやらこのボタンは、今いる場所が乾燥室へと変わるボタンらしい。

 押した途端、暖かい風が体全体に当たり、解いた髪も舞うように乾かされる。


 でも、一体どこでこんなの見つけてきたんだろう。普通の一般家庭には、乾燥付き洗濯機みたいな画期的過ぎるシャワールームなんて、まずない。こんな洗濯機みたいなシャワールームは初めてだ。


「あっ!」


 あの切れ端、大丈夫かな?

 乾燥が終わり、出ようとした時、急に切れ端の存在を思い出し、慌ててパーカーのポケットを漁る。少し湿り気があり、くしゃくしゃと跡が残っていたが、なんとか開けられたので、読んでみることに。


―――――――――――――――――――――――


 ズタズタボロボロ……


―――――――――――――――――――――――


 壊れたロボット様に同じ言葉が何回も何回も繰り返されていたが、また途切れていた。


「さて……」


 ふぅ。と深く深呼吸して気を落ち着かせた私は、戻ってからあの日記に挟もうと思い、シャワールームを後にした。

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