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赤城征四郎3

ライブラリで精神体としての記憶を持ったまま、生身の肉体に戻った征四郎。

しかし、予想以上に自身の体の浸食は進んでいたらしい。

安全だと思っていたディバイン適性閾値減衰論に穴があったか、

それとも研究初期の無理が祟ったか。


(このまま彼女に研究中のレコードを残していくのは危険だな。)


スーツケースを用意し、今まで研究していたレコードをかき集める。

するとそこに部下の研究員がやってきた。


「所長。所長の知り合いだという方が玄関まで来ています……」


ミュトスの秘密の研究所だ。

こんな場所を知っている人間など限られている。

モニタを覗けばそこには金髪と黒髪の少女たち。


「……通せ。」


「ふん、胡散臭い研究所だな。ここでどんな研究を行っているのだ。」


ずかずかと入り込んできたアトラはどかりと客用のソファに座り込む。


「私が来たからには外道な研究など許さんぞ、すぐに被験者を解放するんだ。」


まるで研究所の主のごとく征四郎に命令するアトラ。


「いや、今はこの研究所に実験用の人間はいないよ。

…これから攫いに行くんだ。」


「何だと?そんなことさせるわけがないだろう。

今すぐ我が刃の錆となりたいか。」


「アトラ様、アトラ様。

それってきっとランサー・フーガと戦っていた時に捕まっていたあの子ですよ。

だったら大丈夫ですよ、結局フーガに助けられていましたし。」


リンのフォローに胸をなでおろす征四郎。

とりあえず、とばかりにアトラにスーツケースを渡す。


「これが例のレコードか。ありがたく預かろう。

しかし使い方に詳しい貴様がいなければただの危険物だからな。

ここから先は私の出番だ。」


そう言うとアトラはチン、と腰の剣を鳴らした。


「あのフーガを足止めするくらいのことはしてやろう。」


そうして迎えた決戦の時。

ランサー・フーガを待ち受ける征四郎の前にはアトラの姿。

リンは実験用に攫われた子供に万一のことがあっては困ると警護についている。

バイクを駆り現れたのはフーガに変身する男。


「来たぞ。さぁ決着をつけるぞ赤城征四郎、いや、ストームディバイン!」


万感の思いを込め変身したランサー・フーガ。

その前に立ちはだかるはレ・アトからきた姫将軍。

生物であることを感じさせる生々しい造形が多い怪人に対し、

ランサーはどちらかと言えば機械的なフォルムをしている。

アトラはフーガを前に名乗りを上げる。


「お初にお目にかかる、遠い世界の英雄よ。

私はアトラ・I・ディスピア、異界の姫だ。

わけあってここから先を通すわけにはいかない。」


すらりと剣を抜くアトラにランサー・フーガはいぶかしげな顔をする。


「……?君、ここは危ないから離れて……操られているのか……?」


そう疑念を抱くフーガの横を炎をまとった衝撃波が駆け抜ける。

地面を深くえぐったのは炎の斬撃から発生した衝撃波だ。

ただの人間にこんな芸当ができるわけがない。


「貴様っ!ミュトスの怪人か…!?

人間体でここまでの破壊力…。

まさか大幹部!?だが、こんな少女の幹部などいたか…?」


「ふん、考えている暇があれば戦うのだな。

戦わずして得られる真実などないぞっ!」


斬りかかるアトラ。

鋭くも重い斬撃がフーガを襲う。

レ・アトに古くから伝わる剣術に、魔術を組み合わせた魔法剣。

アトラほどの使い手は王国内には数えるほどしかいない。

王族の身体能力は高い。

フーガの居る地球では異常と言ってもいいほどのレベルだ。

魔法の素養もさることながら両手剣をナイフのように軽々と振り回すさまは

戦場で大いに恐れられた。

本来すさまじく重い両手剣は、使い手がその重さを感じていないため

少ない動きで軽やかに宙を舞う。

フーガのスピードはアトラより上であったが、

歴戦の騎士であるアトラには自分より素早い相手との闘いも経験がある。

目で追えなくとも予測ができる。

相手が来そうな場所に攻撃を置いておけば、勝手に引っかかってくる。

剣でさばききれない攻撃もアトラならば安心だ。

時折詠唱をほとんど必要としない魔法を打ち込むため隙は無かった。


一撃でも当たれば大きなダメージをうけるであろう斬撃を躱しながら、

ランサー・フーガは混乱していた。

フーガの風をまとった超スピードは確かに目の前の少女より上だ。

その証拠として少女はところどころ反応できていない攻撃を被弾している。

それでもこちらの動きを予想した剣舞と設置しておくかのような

炎や氷の超常現象じみた攻撃は少しずつこちらの体力を奪っていく。

フーガの攻撃を軽いと感じているのか、顔や腕、足に傷を負おうと、

構わず激烈な攻撃を繰り出してくる。

一撃一撃がすさまじく重い。

うっかり真正面からガードなどしようものならランサーの強化装甲を

貫通して文字通り骨を折ってきそうだ。

少女の形をした重量級のディバインと戦っているかのようだ。

ただの力任せではなく、無駄のない動きは確実に何らかの武術を修めている。

強い。

これほどの強さ、やはりミュトスでも上位の怪人に違いない。

それにしては妙だ。

いつまでたっても人間体から怪人体にならないし、攻撃に殺気が全くない。

正確な攻撃のコンビネーションから、こちらの急所を狙う攻撃など

いつでも出せることが見て取れた。

遊ばれている?

だが、目の前の少女の表情は真剣そのもの。

遊びなどではない。

彼女にとってこれは本気の戦いだ。

少女の意図がまるで分らない。

もしかしたら、この少女は怪人ではない…?

そんな疑念がフーガの胸裏をよぎる。


物語の強制力。

それは物語が本来定められた方向へ向かわない時に起きる現象。

本来、ここで倒れ、死すべき赤城征四郎。

しかしアトラの参戦によって未だ征四郎は健在だ。

その間違いをただすため、見えぬ力が働きだす。

完成まであと数週間はかかると思われたあるランサーの新しい攻撃システム。

物語終盤で活躍するその力は長距離攻撃システム。

何故か予定より早く完成したそのシステムを

試し打ちしようとした持ち主のランサーは偶々フーガとアトラの戦いを発見する。

見かけは少女にしか見えないがあのフーガと互角に戦う女。

人間体であの強さなら怪人体になればどれほどの強さの怪人なのか。

世界の脅威はロンギヌスの敵。

エクストリーム・キャノンと名付けられたその兵器の砲身がアトラに向く。


この調子で時間を稼げば予定の時間まで征四郎に戦わせないで済む。

本当なら外道を守るなどアトラの主義には反するが、皆のためだ。

外道一人守って、仲間や家族を救えるのなら、安いものだ。

そんな決意はもう、決まっている。

先ほどだってそれを確認したばかりだ。

あと1分……

フーガの激しく素早い攻撃には戸惑いがある。

自分の迷いを見抜かれてしまったか。

やはり正義の男だ。

是非とも王国に欲しい人材だが、そうもいかない。

あと5秒……

視界の端で、何かが煌めいた。


本来ならば全力で姫を守らなければいけないわけだが、

アトラ姫たっての願いと言うことで連れ去られた少女の護衛をしているリン。

目視で確認できるものの遠く離れた場所でアトラが戦っているのが見える。

相手のランサーはかなりの使い手のようだが、アトラも負けてはいない。

王国でも有数の戦士にしてリンの尊敬するアトラ。

剣も魔法も芸術的なレベルの彼女なら異世界の英雄と言えど簡単には倒せまい。

それにこれは時間稼ぎの戦い。

時間稼ぎの撤退戦は皇国との戦争で何度も味わったもの。

アトラとリンの得意中の得意だ。

もうすぐ時間だ。

作戦の成功を確信し一安堵のリン。

だが、視界の端に妙な塊があるのを見つけた。

周囲から何かを吸い込むような動き。

貯めて、貯めて、貯める。

嫌な予感がする。

リンは思わず駆け出した。

しかし、リンがアトラにたどり着くよりも早く。

視界の先で激光が閃いた。


ランサー・フーガとアトラの戦いを眺めて赤城征四郎は嘆息をついた。

アトラが甘ちゃんだという認識は既になかったが、戦士としても一流だと認めざるを得ない。。

ランサー・フーガは手ごわい。

それは征四郎も十分よく知っている。

敵である上に計画を邪魔してくる相手と言うことで口に出して評価はしないが。

そんな手ごわいランサー相手に、

ディバインレコードも使わない人間が互角の戦いを繰り広げている。

明らかに身体能力が高すぎるし、魔法などと言うわけのわからないものも使う。

ただの人間でないことは明らかだが。

まだ成人もしていないくらいの少女が怪人たちの恐れるフーガ相手に一歩にひかない。

時間稼ぎとは言えど本気の戦いだ。

当然征四郎のためなどではなく、アトラの守るべき者たちのため。

そのために本来なら好ましく思えるであろうランサーと刃を交える。

不本意なのだろう。

しかし、迷いあるその戦いの姿を、その思いを、理解できてしまう。

自分だって、ミュトス総帥の娘、彼女が追いつめられていたら恐らく……

でも。


(私はそんな殊勝な人間か?)


生きたい。

そんな資格などないのだろう。

だが、生きて、彼女ともう一度でいいから会いたい。

そのために悔いのない生き方をしたい。

もう、何かから目をそらして生きたくない。

視界の端で、何かが煌めいた。


謎の少女との闘いで徐々に消耗していくフーガ。

焦りが出始める。

元々ランサー・フーガは超高速の短期決戦が特異な戦い方だ。

目の前の少女のような手堅い防御で粘り強く戦う相手はあまり得意ではない。

あまり時間をかけるとランサー変身装置、アクチベイターもオーバーヒートする。

オーバーヒートしてしまってはストームディバインとの闘いにとっておいた

あの切り札も使えなくなってしまう。


「そこをどけっ!」


「お断り、だっ!」


幾度目かもわからぬ衝突。

互いに離れたところに朗報が来る。

仲間のランサーからの通信だ。


『フーガ!まだ生きているか!?

なんとかアレが完成した!標的はお前が戦っている人間体だ。』


アレ、と聞いてフーガは固まる。

エクストリーム・キャノン。

ロンギヌスの技術の粋を集めた光線兵器。

局所的な破壊をもたらす光線兵器は

ディバインの硬い装甲をも容易に打ち抜くだろうと言われているそれだ。

目の前の少女は恐らく高位のディバインなのだろう。

だがしかし、もしも洗脳されたただの人間なのだとしたら……?

フーガは慌てて仲間に通信をとる。


「まて、この少女はもしかしたらディバインじゃな…!」


フーガの通信を待たず仲間は兵器を起動する。

地を震わせる轟音と共にすさまじい威力の波動が荒野を駆け抜けた。

自分の横を通り過ぎたそれは目の前で着弾し、硬い地面がぼろぼろにはじけ飛んでいる。

エクストリーム・キャノンが少女に当たった……?

少女がただの人間だとしたら?

蒼白になるランサー・フーガ。

しかし……


あと数秒で本来の赤城征四郎が撃破されたタイミング。

自分は時間を稼ぎ切り作戦に成功したはずだ。

赤城征四郎には傷一つついていないはず。

うまくいくはずだった。

なのに、何が起きた?

視界が真っ白に染まったかと思えば、

いつの間にかしりもちをついている自分。

アトラは困惑しながら顔を上げた。

そこには……


「がはっ……全く、詰めが……甘い……」


わき腹に大きな穴をあけ、立つのもやっとという様子の征四郎。

アトラの傍らに駆け寄ってきたリンも目を大きく見開いている。


「馬鹿なっ!?何が、何が起きたっ!?」


よくよく見れば征四郎から先、地面の破壊された傷跡の先には物々しい塊。

あの塊から放たれた何らかの攻撃から自分を庇ったというのか。

この外道が。

私を。


「ぜん…ぶ…利用……して……生き延びるのなら……もっと、周りを……」


パリン、パリン、と、征四郎の体から

炎をまとったレコードと電気をまとったレコードが弾かれるように浮き出る。

これはあの時と同じ、悪に生きた怪人の末路の光景。

アトラはとっさに端役魔法とめくらましの爆発の魔法を放った。


大きな爆発の後、そこから消え去った三人の姿を前にランサー・フーガは呆然としていた。

大きく球状に削れた地面は爆発の威力を物語る。

何故少女が自爆をしたのかフーガにはわからない。

だが、目の前の爆発の後で人が生きていられるとは思わない。

フーガの一つの戦いが終わったのだ。


それ以降赤城征四郎の姿を見た者はいないし、フーガも見ていない。

攫われた少女も助けることができた。

何故あの時ストームディバインが仲間を庇うような真似をしたのか。

それだけがフーガにはわからなかった。

しかし、しばらくの時が経ると何かの力が働いたかのようにフーガの疑問もやがて忘れ去られた。


ライブラリの中。

何度も唱えられる回復魔法。

そのかいもあってか、赤城征四郎は一命をとりとめた。

もっとも、体に大きなダメージを受けたせいでディバインレコードの浸食は進んでしまった。

もう一度大きなダメージを受けるか、変身を数回してしまえば、

再び浸食に飲み込まれ消滅してしまうかもしれないというギリギリの状況だ。

ストームのレコードにもひびが入っている。


何よりも大切な主を守ってくれたとあって、

リンは泣きじゃくりながら征四郎に礼を言っていた。


「あとりゃ、あっ、アトラしゃまをたしゅけてくれてっ!

ありがじょうごじゃいましゅうううううっ!」


征四郎がエクストリーム・キャノンを受けた瞬間は、

大慌てだったアトラはリンとは逆に顔を真っ赤にして怒っていた。


「この大ばか者がっ!

貴様を救うための戦いだったのに自分から死にに行ってどうするっ!」


泣いているのか起こっているのかわからない顔で征四郎をしかりつけるアトラ。

なんて正直な生きざま。

なんて真っ直ぐな表情なのか。

征四郎はそんなアトラの顔を見て思わず笑ってしまう。

ここで戦い続けることで自分がどうなっていくのか。

それはまだわからないが、今のところはこの勇ましい姫についていくこと。

それだけが征四郎にできることだろう。

アトラが少し照れくさそうに言う。


「だが、その。すまなかったな。………ありがとう。」


国のため戦い抜くことを決めた、姫たち。

己の欲望のために生きた、冷酷非道の怪人。

交わることがないはずだった二つの道は、こうして交わることになったのだった。


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