ローブの男
客足が途絶えた時に、ふいにミリアが言った。
「最近、あの人来ないわね」
「あの人?」
「ほら、黒いローブの。滅多に買わないけど、よく店に来てた人がいたじゃない」
「ああ、あの引きずるようなローブを着た人ね」
「そう! あの人」
「……そういえば、最近来ないわね」
「でしょ。とうとう諦めたのかなあ……」
「何を?」
「もちろん、あんたのことをよ」
ミリアはリーナを指差した。
「私のこと?」
「……あんた気付いてなかったの? あの人、あんた目当てに来てたじゃない」
「えー? そうかなあ……」
「絶対そうよ! いっつもあんたのこと見てたもん」
「……でも、あんまり話しかけられたことないけど」
「好きな女には話しかけられないタイプなんでしょ」
「そうかなあ……」
「はあ……あんたは鈍感過ぎて恋人ができないタイプよね。……でもそういうタイプに限って、結婚は早いのよね」
私なんて、なかなかプロポーズしてもらえないのに、とミリアがぼやいた。
「ミリアからプロポーズしてみれば?」
「あんたは他人事だと思って」
「でも、店長って自分からはなかなか言い出せないタイプなんじゃない?」
「そうかもしれないけど……」
ミリアが何か言いかけた時、新たな客が来て会話が途切れた。
接客するリーナを、ランスは何か考えるような瞳で見つめていた。