拾われた竜
翌日。リーナが職場へ行くと、なぜかあの竜がいた。
「何でここに……」
リーナが呟くと、先に来ていたミリアが答えた。
「店の前に捨てられてたのよ。それで店長が拾ってきたの」
「……木箱に入ってた?」
「うん。見る?」
ミリアは面白がるような瞳で問い掛けてきた。
それに嫌な予感がしたが、気になったので見せてもらうことにした。
「……」
木箱には、やはり“名前はランスです。リーナさん、拾ってください”と書いてあった。
しかし、その下にリーナが書いた文字は消えていた。
「ここに、ほかにも文字が書いてなかった?」
「私が見た時はなかったわよ」
「そう……」
つまり、リーナの書いた文字を消してから、再び職場にまで捨てに来たということだ。
それなら元飼い主はリーナの家も職場も知っている者ということになるが、彼女に心当たりはなかった。
……それにしても、どうしてそこまでしてリーナに拾わせたいのか。
何が目的なのか、彼女にはさっぱり分からなかった。
「この竜、きっとリーナへの贈り物よ」
「いらないっての」
「まあ、そう言わないで。よく見ると可愛いじゃない」
確かに可愛いと思う。けど、自分で飼いたいとは思わない。
しかも、元飼い主は得体が知れないのだ。
飼うのは絶対お断りだ。
「心配しなくても大丈夫よ。店長が店で飼うって言ってたから、あんたに押し付けたりしないわよ」
「……この店で飼うの?」
「うん。そう言ってたよ。リーナも、別に構わないでしょ?」
「……うん」
本当は店でも飼いたくないと思ったが、そう言ったらリーナが引き取ることになりそうなので、彼女は黙ってうなずいた。
その様子を、拾われた竜がじっと見ていた。
ランスという名の竜は、リーナのことだけを見つめていた。
リーナがその視線に気がつくと、ランスは嬉しそうに尻尾を振った。
それを見て、まあ飼うのは店長だからいいか、とリーナは思い直すのだった。