情報収集 02-02 ギルド『クローバーエース』へようこそ
リッツとルルはラドル村へとついた。
滝つぼの洞窟から歩きっぱなしで来たため、二人は何処かで一度休みたかった。
「ルル、ちょっと休むよ」
「何処で?」
ルルは羊が寝ていた牧場を見ると、そちらに指をさす。
「あそこで休む」
「わかった。ボクはギルドに行って地図を売るよ。多分、安く買い取られると思うけど」
「いくら?」
「300ゴールド」
「少なっ! 1000ゴールドの価値がぐらいあるよ!」
「そういってもらえると嬉しいけど、今のギルドは冒険者にやさしくないからな」
リッツは笑いながらも不安そうなカオを浮かべていた。
「やさしくないのか?」
「特に、地図なんてもの買取るギルドがいるかどうか。色々と難くせ付けて悪い査定をする。厳しいギルドばかり増えて、皆、冒険者をやめているよ」
「ニィニィ」
「心配そうな目で見るな」
「野宿イヤだから、外で寝るのは」
「わかってるって」
「今日は泳ぎ疲れて、クマとかケンカしたし」
「わかってるわかってる」
「だから、だから、ガンバってよ!」
ルルは言葉足らずで励ましの言葉を送った。
「ああ、頑張るよ」
リッツはルルの頭をポンポンと叩いた。
「やくそくだよ」
「約束だ」
二人は小指をからめて、約束をした。
「じゃあ、行ってくるね」
ルルは牧場へ向かって走りだす。
クマを倒すぐらいにあばれたのに、まだまだ力が有り余っていた。
「ホント、元気だな」
リッツはルルの後ろ姿を見送る。
「ゴメンな、ルル。兄さんはまたウソを一つ増やしそうだ」
リッツはギルドへ向かう。
その足取りはとても重く、彼の心を物語るようであった。
※※※
リッツはロッジを見つけ、看板を確認する。
ギルド『クローバーエース』
クローバーエースは宿屋の山小屋のような建物に見える。それは全体的に丸太を活かして作られたから、そう見えるのであろう。
真新しい建物なのか、クローバーエースはイキイキと輝いていた。
リッツはクローバーエースで掃除をしている女店員を見つけた。
白い布でほっかむりしており、葉っぱを集めている。
カオはよく見えないが若い少女のようだ。
邪魔するのも悪いと思い、彼女に気付かれないように、ギルドの中に入った。
ギルドの中に踏み入れたリッツは、そこに誰もいないことに気づく。
「すいません」
ギルドの奥に誰がいるか呼びかけたが、誰もいなかった。
「すいません」
何度、呼びかけても返事がなかった。
「ギルドマスター、いないのか」
そんなことを思っているとリッツは玄関にあったギルドマークが目に入った。
レリーフに刻まれた黒い色のクローバー、このギルドのギルドマークのようだ。
「黒いクローバーだな」
クローバーと言えば、三つ葉の萌黄色のシロツメクサが一般的である。
しかしながら、この店のギルドマークで使われているクローバーはやわらかな緑色ではない。
トランプのクラブのようなマーク、どんよりで濃い色の黒いクローバーであった。
ギルドマークで使われているのは剣や盾を意味するマークが多い。
剣は世界を切り開く、盾は村町を守る意味として使われる。
ギルドマークでトランプのマークを使用するケースもあるが、クラブはいまいち人気がない。
そもそも、トランプにおいてクラブは棍棒を意味し、農民を暗示しているマークである。
このマークからギルドの役割を連想すれば、このギルドは村を意識したギルドだと考えられる。
ちなみに、ギルドマークで人気のあるマークはスペードではなく、ダイヤである。
ダイヤは宝石を意味し、実力のある者を求めているサインでもある。
クローバーのマークに触れたリッツはもう一度、それに触れる。
すると、クローバーのマークから塗料が落ちる。
ポロポロと落下し、リッツはまずいと思った。
「なにしてるんですか?」
後ろから聞こえた少女の声を耳にすると、リッツは背筋を伸ばした。
「ああ、ああ」
物思いに耽けていたリッツは少女に気づき、そちらへと振り向く。
そこには店の前で掃除していた金髪の少女がいた。
少女は可憐であった。
カノジョは清楚そうな雰囲気で、モノ知らずな深窓の令嬢を思わせる。
淡いエメラルドの目がカノジョのかわいらしさを引き立たせる。
そして何よりもカノジョが着ている服はかわいらしく、その服をルルに着せたいと思っていた。
「何を見てるんですか?」
「いや、その――」
「床が汚れているから、どいてくれませんか?」
少女はモップを手に床掃除していた。
リッツは自分の靴裏を見ると、粘りついた土があったことに気づく。
「まったく、どうしてこんな汚れが」
「近くの洞くつで行ってきたから」
「マットがありますから、そこで土の汚れを落としてください」
リッツは少女の言うとおりに、ギルドの入り口にあるマットで靴裏の汚れを取った。
少女がギルドの掃除を終えたと思い、リッツは再び中へと入る。
ギルドの床はピカピカに磨かれていた。
「ご用件はなんでしょうか? 依頼でしたら今はありませんよ」
少女は壁にあった掲示板をポンポンと叩く。
ギルドでは掲示板に依頼状が貼ってある。
冒険者はそこから自分の職にあった依頼を探すのが慣習となっている。
しかし、掲示板には何も貼っていない。
ホントにこのギルドには仕事がないことを示唆していた。
「えっと」
リッツは少女がテキパキとギルドの仕事をしていることに、違和感を覚えていた。
「ご用件は?」
「あの、……いいの? 店番が用件を勝手に聞くなんて」
「わたしは店番ではありません」
「えっと、ほらさ、なんかガラの悪そうな男とかそういうの店員とか店長とか」
リッツは混乱しているのか、口に出したい言葉が見つからないでいる。
「ああ、ギルドマスターと言えば、そういうヒトですよね」
「そうそう」
「いません。そういうヒトはいません」
「そうか。ギルドマスターがいないのか。まいったな」
「いえ、ギルドマスターはいますよ。目の前に」
「じゃあ、まさかキミが?」
少女は静かに首を振る。
「はい。――ギルコ。ギルコ・ギルミー。ラドル村のギルドマスターです」
ギルコはおしとやかに挨拶をするのであった。
やっと、状況を飲み込めたリッツは納得した。
「そうか、キミがこの村のギルドマスター?」
「ハイ、ギルドマスターギルコさんです」
「ギルドマスターにしては気品があるね」
「それはわるぐちですか?」
「いいや、ほめてるよ。女のギルドマスターは女をやめているイカツイ連中が多かったからな。引退した女戦士、旦那の後を付いだヒトとかいたけど、キミはギルドマスターの中で、一番の美人さんだよ」
ギルコは恥ずかしそうに視線を外す。
「そうですか」
興味なさそうに装っているが、内心、嬉しそうであった。
「ボクにも妹がいて、そいつがすごくガサツで、今日だって買ったばかりの服を破いてね。ホント、キミみたいな清楚でかわいらしい女のコなら、ボクは安心して冒険できるのにな」
「えっと」
関係ない話をされて、ギルコは挙動不審となる。
「ゴメンゴメン。グチ、言っちゃって」
「それで何かご用でしょうか?」
「実はね、地図を買い取って欲しいんだ」
「地図ですか」
「そう、鉄鋼の洞窟を書いた地図を買い取って……」
カバンから地図を出したが、それを広げると白紙であった。
「えっと……」
ギルコは何を言えばいいのかわからず、言葉を選んでいた。
「ちょっと待ってね」
リッツはカバンから地図を取り出し、中身を広げる。
しかし、どれもこれも白紙であり、目当てのモノはなかった。
「おかしいな、何処に置いたっけな。……あっ」
リッツは滝つぼの地図をルルに持たせていたことを思い出す。
「ゴメンよ! 急いで取りに行くから」
リッツはギルドから出ていき、ルルがいる場所へと急いだ。
ギルコはリッツが放り投げた白紙の地図を拾い、それを眺める。
「ホントに地図が書ける冒険者なの?」
彼は間が抜けている冒険者というのが、ギルコがリッツに対する第一印象であった。