ワケ 06-05 シブトクアザトク
エテンシュラの話が終わると、皆、バラバラに散っていく。
そんな中、ギルコはカフェテリアに残っていた。
後片付けをしていたエテンシュラもギルコが居残っていたことに気づいた。
「ギルコ、もう話は終わりだぞ」
「一ついい?」
「なんだ?」
「どうしてわたしにだけこんな仕事を任すの。わたしが憎いの」
「それは弱音か?」
「違う。ただ、あなたはわたしにギルドをやめるように言っていたのに、今になってからどうしてギルドマスターとやるように言うなんて」
「他にやるヤツがいない、――っと言ったら怒るか」
ギルコは黙って中指の第二関節を曲げた拳を、エテンシュラの腹にグリグリと押し付ける。
「怒るな怒るな」
エテンシュラはギルコの拳を払う。
「そもそも、ギルドってヤツは村の開拓のために必要なものだ。お金を潤沢に流してもらうためには野心的なギルドマスターが求められる。だが、この村でギルドマスターをやることになったのはギルコ、オマエだった」
「ええ」
「オマエの営むギルドは平和的で正直、おままごとのようなものだった。これじゃ村の発展が遅れると、イラついていた」
「それがわたしをギルドマスターとして認めなかったワケ?」
「さあな。オレが期待していたギルドマスターはもっとアザトいヤツにしてほしい」
「わたしはアザトクないの?」
「いや、アザトい。合格点、はなまる、優にチェックを入れてやろう」
「あのね――」
「ただな、生真面目なんだよ、ギルコは。ウソをついた相手は許さないが、そのウソを認めたらそれで終わりにする。罪を認めさせたらそれで終わりにする」
「普通じゃないの?」
「相手に罪を認めさせようと動くヤツはいない。それをしたら仕返しが怖いからな。だが、オマエさんは違う。ルードに自分がしたことを自覚させようとしたから実際に会いたかったんだろう?」
ギルコは言葉を途切らせる。
「まあいいや。オマエさんのその生真面目な行動がラドル村に危機を呼んだ」
「反省してる」
「でも、その後、平和的な交渉ができた」
「あれはわたしじゃ――」
「知ってる。アイツが手伝ったのは知ってる。でもな、ギルコが居たからあの交渉のテーブルに着くことができた」
エテンシュラはいつもと違う晴れやかな笑顔をみせる。
「ギルコは故郷を守ってくれた。こんなオレでも武器を持たずに戦った勇者を認めるしかない」
「エテン……」
「それに、オマエはオレの目的のために動いてくれそうだし」
エテンシュラの笑顔がニヤケ笑いへと戻る。
「本人の前に言いますか?」
「ああ、言うよ。オレはオレの目的のためにオマエさんを利用する。オマエさんも自分の目的のために利用しろ」
「そうさせてもらうわよ」
「遠慮はなしだ。生真面目さはいらない。シブトクアザトク、やっていけ」
エテンシュラは片手を肩の所まで上げる。
「アザトく欺いていきましょう」
ギルコはその手にタッチするように、手のひらで叩く。
二人はお互いの意志を確認し、スクランブルハートから出て行くのであった。




