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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
06 拓かれる新世界
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中止 06-04 異世界へ行くことは望めない


 エテンシュラは酒場から出て行くフォルスを見送ると、話を再開した。

「さて、異世界に行ってもらうパーティーには5人行くとして、それぞれやってもらう役割がある。前衛で戦う戦士、どんなワナも無効化できるレンジャー、サポート役に回るアイテム士、悪魔とやりあえる魔法使い、そして、地図が書ける冒険者が必要となる。この地図はギルコが情報を売買する大きな役割を持っていて、必ず生還してもらわないといけない役となる」

 エテンシュラの説明に、一同、頷く。

「戦士役はライア、レンジャー役はオレ、ラムネがアイテム士」

「え!?」

 てっきり自分が呼ばれないと思い込んでいたラムネが呼ばれたことで、思わず、声を上げてしまった。

「何か問題はあるか?」

「いやいや、おかしいでしょう? わたし、どう見ても戦う人間じゃないし」

「だからサポート役に回れと言っているだろう?」

「違うって違うって。そんな役はギルコでもできるって」

「オマエはギルコにすべてを任せるのか? ギルコがいなくなったらこの村は終わりだぞ」

「それはわかりますけど、他のヒトに任せても」

「ラムネ。道具屋をやっているだろう? 誰も来ないさびれた道具屋を」

「一言多い。今度、冒険者が来るからきっと来ますよ」

「その冒険者がエトセラのヤツでもか?」

 ラムネは眉間にしわを寄せる。

「商売人って因果な商売でな。どんなヤツでも同じように商売しないといけない。たとえ、それが故郷を奪った相手でも同じように笑いかけないといけないんだ」

「……エテン、卑怯よ」

「何、言っても構わない。俺は言いたいことを言った」

「ズルい。ホント、ズルいわ」

 長考の末、ラムネは「わかった」と、覚悟を決めた。

「やってくれるか」

「ただ、一ヶ月だけね。これ以上はやらないから!」

「わかってるわかってる」

 ラムネもパーティーに加入できたことに、エテンシュラは満足気だった。


「さて、問題なのは魔法使いだ」

 一同は頭を悩ます。それもそのはず、魔法使いは希少な存在だからだ。

「できれば、魔法使いはいた方がいい。悪魔がどんな手を使ってくるわからないから、それに対抗できるヤツが欲しいんだが……」

 

 カラカラ!


 カウベルが鳴り響く。

 その場にいた一同はそちらへと向いた。

 マハラドだった。

「オマエじゃーない」

 一同はため息をつきながら、振り向いた視線を元へ戻した。

「失敬な!! 何を言う!!」

 マハラドは木箱を運びながら、スクランブルハートへと入ってくる。

「カサドラさん、すいません。悪気はありません」

 ギルコは頭を下げる。

「だから一体何なのだ!! 我はマハラドだ! 手伝いをしにココへと来ただけなのに、なんだこの言われようは!!」

「手伝いって?」

 ラムネは尋ねる。

「武器屋にいた店主がカフェまで運んで欲しいものがあると言われてな。ホントは嫌だったんだがな。どうしてもと言われたから手伝ってやっとるんだが。――おい! ここでいいのか?」

 木箱を持っていたマハラドは後ろを向きながら尋ねる。

「いいよ」

 マハラドから遅れて、バターが入ってきた。

「バター姉さん」

「やっほ」

 黒いロープで身を包んだ少女が手を上げる。

「アタシ一人じゃ運べなかったから、そこの鉄の剣欲しかった君に手伝ってもらった」

「鉄の剣欲しかった君ではない! マハラドだ!!」

 マハラドは言うが、誰も相手にしない。

「ありがとう、バター。助かったわ」

「どうも」

 バターが挨拶する中、エテンシュラは木箱を覗いた。

「弓か。上物だな」

「この前のことがあってね。わたしも戦える武器ぐらいあった方がいいと思ってね」

「俺のパーティーに入るか?」

「冗談を。わたしは戦えないって」

 パティはエテンシュラの誘いを冗談と言って、切り離す。

「何、話してるの?」

「実はな……」

 エテンシュラは今まで話していた会話をバターに伝えた。

「なるほど、ギルコが大変だから、異世界へ行くって話ですか」

「話が早くて助かる。そういえば、バター、魔法が使えたんだったな」

「そうです」

「じゃあ、バター。俺らのパーティーに」

「エテン!」

 ラムネは怒る。

「なんだよ」

「バター姉さんの身体がどうなっているか知った上に言ってるの!!」

「ああ、知ってる知ってる」

「じゃあ、また、姉さんにヒドイ目に合わせようとするの!! あなたは!!」

「ラムネ、ホントにヒドいのはなんだと思う?」

「何?」

「後天的な障害のせいで丁寧に扱われて普通の人間と見られないことだ。オマエはそれを姉にしている」

「当然でしょう!! 家族なんだから!!!」

 ラムネが怒りに狂う中、バターは静かに口を開いた。

「ラムネ」

「何?」

「アタシも行くわ」

「行くって? 異世界へ?」

「そう」

「何言ってるの! 姉さん、身体が!!」

「だいじょうぶ」

「大丈夫じゃない。腕が結晶化しているでしょう!!」

「魔法を使い過ぎない。それを守ればだいじょうぶ」

「だいじょうぶって」

「ラムネ。ギルコはこの村に戦った。昨日も、そして、明日も。アタシは結晶化したという理由だけで戦いに参加できなくなった。でも、アタシだって戦いたい。もし、アタシも戦いに参加していたら状況は変わっていたかもしれない。わたしは普通の魔法使いという扱いで戦いたいの」

「――バター姉さん」

「エテン。アタシも参加します。どこまで行けるかわからないけど」

「一ヶ月。一ヶ月で行けるトコまで。本気でヤバかったら、さっさと帰る」

「わかった」

 バターはエテンシュラの傍に近づき、耳元でささやく。

「あなた、アタシを結晶化で差別しないのね。壊れ物を扱うように傷つけないように」

「すべての物はいつか壊れる。大切に扱って遠ざけるよりも、いつも使っていた方がいいに決まっている」

「エテン。やっぱり」

「なんだ」

「何もない」

 バターはその先を言うことなく、近くの椅子に座り込んだ。


「ギルコ、どうだ。パーティーが揃ったぞ」

「エテンシュラ。ホントにこれでいいの」

「なんだよ。オレの策に文句あるのか?」

「文句ないけど、あなた達は自分の命が惜しくないの?」

「惜しいさ。けれどな、ラドル村を守る方が大切なんだよ」

「大切」

「この村はユセラ王国の第二の故郷だ。オレ達は一度、ユセラという土地を見捨てて、ここまで逃げてきた。しかし、オレたちはこの地を捨てたら何処にも居場所がないんだ」

「けれど、他に行く所もあるでしょう? そんな命を張ることはないって」

「残念だが、ギルコ。この異世界調査は文明戦争でもあるんだ」

「文明戦争?」

「ルードが持っていた魔導石と同じものを見つける冒険者が出てくるとしよう。純粋なる魔導石を元に、強力な魔導兵器が作られる可能性がある」

「魔導兵器……」


 魔導兵器、魔導石をエネルギー源として使われていた兵器。

 魔導砲、魔導壁などただ純粋に戦争のために作られた兵器である。

 強力な魔導砲を放ち、城壁を破壊する。

 頑丈な魔導壁を作り出し、強力な魔法を防ぐ。

 魔導兵器の登場によって戦争は変わった。

 ただ、魔導兵器は莫大な魔導石を消費してしまうこともあり、短期決戦用の兵器として使われていた。

 魔導兵器は適材適所に使われることで大きな戦果をもたらしていた。


 しかし、現在、魔導兵器はオルエイザ大陸から魔導石が失ったことにより、どの国も使用していない。

「純粋なる魔導石は幾ら使っても消費しない魔導石だ。そんな魔導石を魔導兵器として使われたら、どんなことが起こるのか想像はできるだろう。魔導兵器がすべての国に等しく分けられたらパワーバランスが維持される。しかし、いずれかの国が純粋なる魔導石を元にした魔導兵器を独占的に生産できるようになれば、その国がオルエイザ大陸の覇者になるだろう」

 ギルコは喉を鳴らす。

 恐怖が身体を無意識に動かしたのだ。

「いいか、ギルコ。俺らが異世界へ行くのは賭けだ。俺らは冒険をするために異世界へ行くんじゃない。この村の平和、世界の平和のために異世界へ行くんだ。ギルコ、それをよく理解してくれ」

「わかったわ」

 ギルコはエテンシュラの忠告を受け入れ、ラドル村だけの問題でないことを自覚するのであった。


「さて、色々と話したが、異世界へ行くメンバーの後一人を誘わないとこの策は始まらない。地図を書ける冒険者を入れないとな」

 エテンシュラは席を立ち、酒場の周りを見渡す。

「それでリッツは何処にいるんだ? アイツがいないと始まらないんだが」

「リッツならもうこの村から出て行ったわ」

「出て行った?」

「けっこう前の話だけど」

「出て行ったって、勝手な」

「多分、彼は妹の記憶を探しに行ったと思うわ」

「そうか。アイツも目的があって動いてるんだな」

 エテンシュラはあごを撫でながら視線をぐるりと回す。

「浮かれていたな」

 椅子にもたれ、天井を眺める。

「ギルコ。悪いがこの話はなかったことにしてくれ」

「え!!」

 エテンシュラの心の変わり様に、ラムネは口が開いたままだった。

「近隣諸国のヤツらとコンタクトを取るように進めていこう」

 エテンシュラはテーブルに座り、ペンを手にした。

「なによこれ! 尻すぼみじゃないの!!」

 ラムネは頭に血が上り、エテンシュラにげきを飛ばす。

「尻すぼみ言うな」

「地図が書けないぐらいで諦めて」

「情報はカタチになっているものが信じてもらえる。口だけなら幾らでも言える。カタチのある情報を見せないことには交渉すらしてもらえない」

「リッツの冒険者以外を探せばいいでしょう?」

「地図が書ける冒険者は少ないんだ。開拓をやめたオルエイザ大陸で地図を書く人間なんて、魔法使いよりもいないのかもしれない」

「ホントなの? ギルコ?」

「ええ。クリスト共和国までメアリーに地図が書ける冒険者を探してもらっているけど連絡がない。多分、見つかっていない」

「どおりでメアリーさんを見かけていないと思っていたら、そんなことをしていたんだ」

 ラムネはギルコの言葉を聞き、事実だと判断した。

「無策の交渉策を聞かして、いらない期待をさせてしまったな。ギルコ」

「別にいいわよ。わたしも中策で考えていたから」

 ホントは下策を考えていたが、わざとウソをついた。

「そういってくれて助かる」

 エテンシュラはギルコに謝るように、頭を振った。

「それじゃあ、話を始めるか。東にラグアという国があるんだが、この国は――」

 エテンシュラは近隣諸国との代表者とコンタクトを取る話をする。

 その話を耳にする度に、ラドル村が各国の思惑に動かされる村となることを、ギルコは痛感した。


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