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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
05 瞳の在処
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決戦 05-08 コドクなストラテジー

 ルードは悦んでいた。

 重い表情を見せていたが内心ほくそ笑んでいた。


 ――ギルド協会の悪どさは筋金入りだ。

 ――俺らのようなヤツでも受け入れてくれるはずだ。

 ――ギルド協会とコネが作れば、俺らの将来も安泰だ。


 ルードは閉じた右目をさする。


 ――ホント、この魔導石を見つけてから運が上々だ。

 ――これなら世界中の富が俺の手の中に入るはずだ。


 ルードはそんなことを考えながら黒き山林のアジトへと戻っていく。

 しかしながら、部下が遅れていることに気づいた。

「おい、はやくしろよ」

 ユウロは首を横に振る。

「おかしら、それはできねえよ」

「なんだと?」

「死んだ奴がいまして、そいつを運ぼうとしてもケガしてるヤツもいまして、なかなか前に進むことができなくて」

「そうか。それは大変だな」

「それで休みを取りながら進んでいこうと思いまして」

「それだと朝になっちまうな」

「ええ」

 ルードは思案すると、パンと両手を叩く。

「燃やすか」

「へ?」

 ユウロは耳を疑う。

「重たいんだろう? 手厚く燃やしてやる」

「おかしら、火葬するにも灰を入れるツボがないと」

「盗賊は根無し草だ。火葬した灰が風に抱かれて消えるのが最大級のとむらいだと思うが」

「いやいや、それでも!」

「じゃあ、オマエはコイツラの遺体がハゲタカに喰らわれるのがいいとでもいうのか?」

「鳥葬って、おかしらはいつも極論ばかり……」

「なんか言ったか!?」

「いいえ! なんでもありません。燃やしてください! コイツらのためにも」

「わかればいい。わかればいい。俺の手で弔ってやるよ」

 ユウロは部下に遺体を下ろせと命令した。


 地面に遺体を横たわらせると、ルードは右目を開く。

「お前達はよくガンバった。だからもう寝てくれ」

 ルードが手のひらから火を出し、12体の遺体を燃やしていく。

 遺体から肌がこげ落ち、骨が露出する。

 その骨も火がくらいつき、灰燼かいじんへと化した。

「ユウロ」

「なんでしょうか?」

「キレイだな」

「ハ?」

「ザックスのヤツも燃やした時も思ったことだが、人間燃えたら何も残らないんだよな」

「何を言ってるのですか?」

「感傷だ。気にするな」

「はい」

 ユウロは首を傾げ、ルードの傍から離れた。

「バケて出てくるなよ。お前達は俺のために誓っただろう。なら、燃やされても恨みっこなしだかんな」

 燃えあがる遺体はいつしか火が消え、灰となって、風に吹かれた。


 風になった灰を見送ると、ユウロは言った。

「団長にとって俺らはなんですか?」

「モノに決まっているだろう。そう誓っただろう?」

「そうでした。失礼しました」

 ユウロはそれ以上、言葉をつなげることはない。

「死人と感情と比べっこするなよ。アイツが死んだから復讐してやるなんて、カネにならねえからな」

「へい」

 盗賊たちはそれ以上何も言わず、アジトへと戻っていた。


 ※※※


 黒き山林のアジトは何百年もの間、使われていた炭鉱を利用したものだ。

 そこは良質な鉄鉱石が取れると言われていた鉱山であった。

 しかし、十数年前から鉄鉱石が出なくなり、廃坑へと追い込まれた。

 それから黒き山林がこの廃坑を利用し、アジトにしていた。


 黒き山林が廃坑の入口へと帰ってくる。

「帰ってきたぞ!!」

 団長のルードがそういうが、返事がない。

「おかしいな、おーい、おーい!」

 もう一度言うが、やはり返事がない。

「まったく、寝やがったか。後で怒鳴り散らしてやるか」

 ルードはそう言いながら、部下を連れて、アジトの奥へと進んだ。


 廃坑の奥には広間があった。

 その広間には食料がズラッと並べられ、貴族の家から盗んだ絵画や装飾品が飾られていた。

 黒き山林の盗賊たちはそれを見ながら酒をみ交わし、干し肉を食らうのが日課となっていた。


 ルードが広間へと入るとこの場に似つかわしくない人間を見つける。

 遊び人のエテンシュラだ。

「エテンか」

 久方ぶりにエテンシュラと会ったルードは警戒心もなく彼の元へと近寄る。

「エテン、聞いてくれよ! 俺らさぁ、森の向こう側に行くことになりそうで――」

 ルードが嬉しそうにラドル村の一戦について話そうとする。


 ザッシュ


 エテンシュラの短剣がルードの左目を刺した。

「ぐぁがああぁあ!!」

 短剣の柄に力を入れて回す。

 ルードは金切り声で吠える。絶命してもおかしくない痛みであった。

 エテンシュラはルードの背中をポンポンと触り、耳元でささやく。

「俺からの餞別せんべつだ。取っておけよ」

 エテンシュラはルードを足蹴あしげにし、後ろへと下がった。


「何をしやがる!! エテン!!」

 エテンシュラはユウロの声に、冷ややかな目線で応える。

「ザックスを殺したのはオマエさんだろう?」

 エテンシュラはアジトで見つけたボウガンを見せる。

「このボウガンはなじむな~。ザックスのものか?」

 ユウロ達は口を閉ざす。

「まあいい。オマエさんが黙ろうが、ザックスを殺した証拠は上がっているんだ」

 エテンシュラはアジトの端へボウガンを投げ捨てると、ユウロ達の方へと振り向く。

「オマエさん達もルードと同じように、ヒトを殺すことにためらうことはないだろう?」

「そんなことはない。俺たちだって」

「みんなやられちまったんだろう! 村のみんなが!! だったら、俺がやることは――」

 エテンシュラは道具袋の中に手を入れ、何かを取り出そうとする。

 何かよからぬものが出てくるのではないかと怖れたユウロは声を張り上げた。

「村の連中は生きてる!!」

「はぁ?」

「交渉だ! 交渉だ!! 終戦協定を結んだんだ!!」

 ユウロはエテンシュラを落ち着かそうと、彼にそう伝える。

「どうせ、お前達のことだ。ラドル村に不利な条件を――」

「あの村は森の向こう側に行く拠点にしてもらった!!」

「……ホントか?」

 盗賊らは首を縦に振る。

「それと、ギルコは俺たちがギルド協会と交渉をできるように約束を交わした。あの森に行った生存者として、支援を受けてもらえるように」

「オマエ達!! あの森の向こう側に行ったのか!!」

「そうだ!」

「バカか!! あの森の向こう側には悪魔が!!」

「その悪魔を倒せるのがおかしらなんだよ! おかしらの魔導石は悪魔を倒すことができる。ギルド協会もそれを知れば、おかしらの力を欲しがる!」

「ギルド協会に入り込むために、ラドル村と休戦協定を結んだのか?」

「そうだ」

 エテンシュラはポリポリと頭をかく。

「早とちりしちまった」

 予想外の出来事に困惑していた。


 ※※※


 エテンシュラはあらかじめギルコからルードが生きていることを教えられていた。彼はルードを探すために、黒き山林のアジトに来ていた。

 アジトに居た数人の盗賊を倒したが、ルードがいなかったことを知ると、エテンシュラはそこに待機した。もし、ラドル村でルードを捕まえていた場合、後から村人たちがアジトに来る段取りになっていた。そのため、エテンシュラはアジトの広間で待っていた。

 ところが、予想に反して、ルードは帰ってきた。これは想定外の出来事だった。村人たちが彼らに皆殺しにされたと思い、怒りが渦巻いていた。エテンシュラは村人たちの無念を晴らすために、ルードを討つことにした。

 しかし、その考えは外れていた。村人たちは無事であった。

 相手を騙すためのウソだとしても、ウソをつくメリットがない。だとしたら、このウソは自ずとホントだと考えることができる。

 ユウロの言うことを信じれば、村人たちは無事であり、終戦協定は結ばれたことになる。


 情報の整理ができず、エテンシュラは混乱する。

 ――そんな交渉、うまく行くはずが。

 情報が錯綜さくそうする中、リッツのカオを思い出す。

 ――そうかヤツか。ヤツが交渉しやがったんだ。

 エテンシュラはニヤリと笑う。

 ――ホント、アイツ、何者だ?

 エテンシュラがリッツの正体を考えていると、地面に倒れていたルードが起き上がった。


 ※※※


 ルードはエテンシュラの短剣を取り出し、地面に捨てた。

「やっと……わかった……」

 彼の左目は血の涙を流している。

「エテン。オマエは俺の敵だ。オマエはいつも俺の感情をさかでしてくれた。俺はそれが冗談だと思っていた、が、ホントのところは違っていた」

 ルードは右目を見開き、指をさした。

「――オマエ、俺のことを見下していただろう!!」

 エテンシュラは笑う。

「それは違うな」

「なに?」

「ホントのことを言ってやる。オマエさんらじゃ戦力にならない」

「戦力?」

「使えない戦力は切るに限る。後で敵になるのなら早いところ潰した方がいい」

「敵を作っているのはオマエの方だろうが!!」

「いやいや、俺の考えている目的を聞いたら、絶対、お前さん方は敵になる」

「なんだ? その目的ってやつは!!」

 エテンシュラはまた笑った。

「復讐だよ。エトセラ帝国へのな」

 エテンシュラはヘラヘラと笑いながら話を切り出した。

「ユセラ国王からアドセラ領を任された俺が遊び人へと身を投じたのにはワケがある。俺が遊び人になったのは、エトセラ帝国を倒すためのメンバーを集めていたからだ。飲めねえ酒も飲んで、できねえ口説き文句もやってきたもんだ。だがよ、そのおかげで、使える冒険者が見つかった。あとはアイツらを納得できるだけのカネを用意するだけだ。でもよ、アイツらを納得できるだけのカネを揃える。これが意外と並大抵でできることじゃねえ。だがな、やるんだ。やらないといけねえんだ。俺のために死んでいった部下をとむらってやらねえとな!!」

「そんなワケの分からないことのために、俺の目を潰したのか!?」

「打算的に考えるオマエ達はいつか俺の敵になる」

 エテンシュラは懐にあった短剣を手にし、ルードに刃先を向ける。

「特に、オマエさんの目は後で脅威になる!! だからここで討たせてもらう!!」

 すでに、ルードの左目を潰したエテンシュラは恨みを持たれている。

 仮に、エトセラ帝国打倒のために冒険者を揃えたとしても、ルードがギルド協会の重臣になる可能性がある。

 そうなれば、エトセラ帝国へのかたき討ちどころか、自分が賞金首を掛けられる危険性がある。

 後々(のちのち)のうれいを断つためにも、ルードを倒した方が良いとここで判断したのだ。

「いいぜいいぜ!! やってやろう!!」

 一方、ルードはエテンシュラを殺すことしか考えていなかった。

 右目の義眼が体温が見えるとはいえ、彼の両目はもう二度と空の青さを見ることができなくなった。


「お前達も武器を取れ!」

 ルードの呼びかけに、盗賊たちは反論する。

「傭兵団とやりやった時に武器が壊れて、使えるものがありません!!」

「お前達はヒトに言われないと何も出来ないんだな。そこらへんにあるものを使えよ!!」

 言われたとおりに、盗賊たちは武器となりそうなものを探し出す。

 敵が前にいるにも関わらず、武器探しをしている姿はなんだか滑稽こっけいである。

 それもそのはず、誰かがきっとエテンシュラを倒してくれると思い込んでいるからだ。


 そんな中でルードに向けた声が届いた。ユウロの声だ。

「おかしら! 左にエテンシュラがいる!!」

 ――武器を探すよりもそっちの方が早いよな

 ――俺の目になってくれた方が役に立つ。

 ルードは役に立つ部下をいてくれたことに、心から感謝していた。

「前言撤回だ!」

 ユウロの声を耳にしたルードは左へと視線を向ける。

 そこには一体の体温が存在した。

 体温は地面に伏せて、何かを探していた。

 ――エテンも武器を探しているのか?

 動き回る体温を捉え、そちらに火を放つ。

「エテン! 俺は幸せだ!! 使える部下がいて幸せだよ!!」

 ルードが放った火を付けられた体温は一気に上昇し、そして、失われた。

 彼の右目はそれで獲物を焼き殺したと判別した。


 広間に居た者が立ち尽くす。

 多くの体温がその場で止まった。

「まったく、呆気なかったな」

 ルードはそう呟くと、ユウロの声が響いた。

「ひでぇよひでぇよ」

「うるせぇな。オマエも消し炭にしてやろうか?」

 部下を耳にし、ルードはいらつく。

「ひでぇひでぇひでぇ」

「だから、オマエな」

 ルードは気づく。

 ――誰だ? この声? 

「ひでえひでえ」

 ――ユウロに似ているが何かが違う。

 ルードはその声を傾聴する。

 すると、その声がだんだん聞き覚えのある声へと変わっていく。

「ひでえひでえひでえな~あ~! おいっ!!」

 その声の持ち主はエテンシュラだった。

「エテンシュラ!!」

「俺、けっこう声マネうまいだろう? 声を聞いたヤツの声の抑揚よくようとかマネできるんだよ」

 エテンシュラの声がユウロの声に変わったり、元の声に変わる。

 その声を聞いたルードは悲しみも怒りが満ちてきた。

「やはり、カオは見えないみたいだな。その右目は!!」

 ルードは口が激しく歪む。

「ただの義眼じゃねえことはわかっている。そこのいるヤツから聞いたぞ」

「だが、俺の弱点がわかるはずがないだろう。――ギルコでもないのに」

「ギルコさんも見破ったみたいだな。オマエの弱点を」

 今まで部下にも自分の弱点について話したことのなかった秘密を、ギルコに続いてエテンシュラにまで気付かれた。


 ――何処でそんなミスを犯したのか?


 ルードは記憶をたどるが、答えが見つからない。

 頭を抱えるルードの様子を見て、エテンシュラは鼻で笑った。

「憶えているはずがない。その時、オマエさんは寝ぼけていたからな」

「寝ぼけていただと?」

「3ヶ月前、酒場で居眠りしていたオマエさんの目を見てやろうといたずらで開けた。オレンジの義眼を見たそのとき、オマエさんはいきなり「パティか?」と言った。どう見ても俺とパティのカオは違うのに、なぜ名前を間違えたのか? 寝ぼけたとしても、相手のカオを見間違えるのかと。ましてや、義眼だ。義眼で相手が見えるはずがない。不気味な感覚を味わった」

「酒場で居眠りしていたら普通、店員の名前を言うだろう?」

「好かれてもいないパティがオマエのそばに来るはずがねえんだよ」

「ちっ」

 ルードは小さく舌打ちをした。

「そこで俺は考えた。ルードの義眼の目は、相手は見えているんだけど、相手のカオは見えていない。そう仮定すれば、オマエがオレを見間違えた理由が納得できる」

「確証できない仮定だな」

「確証していたよ。義眼なのに、目線を感じたからな。あれは見えていた目だった」

「くっ!」

「それで俺の考えた策は、盗賊団の中に潜り込んじゃおう作戦。盗賊団の一員となって、オマエの目になってやろうと思った。あいつらの声マネをして、俺がいる方向に炎の弾とかを投げてもらうわけよ」

 エテンシュラはそういうと、盗賊団の中へと入る。

「右だ! ルードは!!」

 ルードは考えもなく、その声が言う方に火を放つ。

 胸にあるムカムカをすべて吐き出すように、魔法を使った。

 その火は盗賊の一人を食らい、一瞬にして消し炭となって、この世から消えた。

「またまた大成功」

 エテンシュラはピースサインをする。

「おい、テメエら!! エテンシュラを見つけろ!! 俺が炎上させてやるから!!」

 ルードは両手をあげて、火炎の吊り橋を作り出す。

「エテンシュラはあっち! あっちです!!」

「左だ! 左!」

「右! いや、正面か!!」

 盗賊たちがあっちこっちと指示する。

「ああ、もうめんどうだ! 全力で燃やしてやる!! お前達覚悟しろよ!!」

 ルードの怒りが頂点となり、全身を一気に燃え上がる。

「それだよ、ルード」

「なに」

「説明嫌いの俺が説明したのはそれが狙いだよ」

 そういうと、エテンシュラはその場から逃げ出した。

 

 ドッガーン!!


 同時に、炭鉱を揺るがす爆音が響いた。

 爆風はこの場にいる者を吹き飛ばす。

 テーブルにあったロウソク立ては倒れ、壁に立てた絵画も爆風に巻き込まれる。

 盗賊たちはその場に伏せて、爆風から逃れようとする。

 耳がキーンとする。鼓膜が破けそうだ。

 しかし、彼らはこの爆発を我慢する。

 この爆風を放ったのはルードだと信じていたからだ。

 

 天井の坑木こうぼくがミシリと動く。

 広間の爆発がやっと止まった。

 爆心地はルードの居た場所だった。

 いや、ルードは確かにいたのだが、彼と呼べるものは足しかなかった。

 ルードの身体は上半身と下半身に分かれ、上半身は胸より下がなくなっていた。

 彼の身体で起きた爆風によって、腹部が肉片になって飛び散ったのだ。


 黒き山林の盗賊たちは何が起きたのか理解できずにいた。

 いや、理解しようとしていた。

 ただ、ルードが怒り心頭になって、全身から炎を放っていた。

 そこまでわかっていた。

 問題なのは次だ。


 ――いきなり爆発した。


 そういう表現はおかしいのだが、それが的確な表現である。

 盗賊たちはそれがルードの魔法だと思っていた。

 しかし、それは違っていた。

 魔法とは別の何かが発動し、ルードの身体がバラバラにぶっ飛んだ。


 自分の身を守ってくれるはずの魔法が、自分の身を襲ってくる。

 まるで魔導粒子の後遺症のごとく、純粋なる魔導石にもリスクがあったのかと彼らは思っていた。


 上半身だけになったルードは息絶え絶えに、手を伸ばしていた。

 一点だけ目立つ体温を持つ者をつかもうと手はしゃかりきに伸ばしていた。

「どうだ、ルード。俺の戦略は」

 体温が近づいてくる。

 その体温はエテンシュラの声を持っていた。

「アジトにいた部下を倒した俺はオマエが火を何処からでも自由に操ることを知った。そんな人間をどうやって倒せばいいか、ない知恵を絞り上げた。すると、戦略案を見つけたワケよ」

「戦略……案?」

「何度か挑発すれば、オマエは怒りに狂って、身体中から火を出すんじゃないかと考えて、爆薬を背中に仕掛けた」

「俺に……、声マネしたことを……、明かしたのも……」

「そういうこと。ホントの狙いはそっちだ」

 エテンシュラは爆薬の破片を手にし、スリスリとこする。

「この爆薬はリッツが直伝のモノだ。中身を見たが、これはけっこうな爆弾だ。どんな威力を持っていたか見たかったが、爆音でビビったから、そこらの物陰で隠れた。ものすごいぐらいに吹き飛んだな」

「あ……あ……」

 ルードは白目をむき、手をあげる。

「さすがのオマエさんももう喋れねえか」

 エテンシュラは命の灯火を尽きようとするルードの頭を蹴る。

「これで終わりだ」

 転がったルードの後頭部をドンドンと踏みつける。

 肺に詰まった空気を吐かせるように、ルードの口から声を出させる。

 ……あ、や、……い、ばかりで言葉を発せない。

 しかし、エテンシュラはやめない。

 彼の心がそれをやめることを許さない。


 ――鬼、彼は古代文献に出てくるような悪鬼となっていた。


 ルードが反抗することがなくなるのを確認すると、頭から足を放した。

 盗賊たちは身動き一つも取れず、その場で立ち尽くしていた。

「おい」

 盗賊たちはピクリと動く。

「休戦協定は守れよ。ラドル村は俺の故郷だからな。今度、何かしたら、コイツみたいに、気づいた時には死んでいるぞ」

 盗賊たちは首を何回か縦に振った。

 自分達の身体もルードと同じようになるのではないかと、おののいていた。

「帰るか」

 エテンシュラは靴を地面にこすり、そして、歩き出す。

 しかし、彼が一歩前に踏み込むと、歩を進めるのをやめた。

 気味の悪い音が耳穴にするりと入り込んだのだ。


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