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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
05 瞳の在処
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復讐 05-07 白詰草の花言葉

「それじゃあ、頼んだぞ、ギルコさん。ギルド協会に、俺らのことを良いように書いてくれよ」

 リッツは盗賊団を連れて、山へと戻っていく。

 ウキウキと肩を揺らす姿に、ギルコは立腹していた。


 ※※※


 酒場『スクランブルハート』へとやってきたギルコ達一同、酒場には避難していた村人や冒険者、尸傭兵団の姿があった。

 皆、落胆の表情を浮かばせ、誰もが不利な休戦協定をつきつけられると思っていた。

「ニィニィ!!」

 ルルはリッツの片腕にしがみつく。

 リッツはルルの頭を撫でると、カノジョは嬉しそうなカオを見せた。

「ギルコさん、どうだった?」

 ラムネがギルコに駆け寄る。

「……完敗」

「ギルコさん、まさか、盗賊の下僕になるってことは……」

「それはなかった」

 ギルコは苦い表情をし、口を閉ざした。

「え? じゃあ、どうなるの? わたし達は?」

 ラムネが話を進めようとするが、ギルコは気落ちしており、話をしなかった。

「ギルコさんに変わって、ボクが説明します」

 ギルコの代わりに、リッツが前に出てきた。


「交渉の結果を言います」

 酒場はシーンと静まった。

「この村にいる村人たちに対するペナルティは何もありません。また、盗賊に支払う賠償金も必要ありません」

 一同はざわめく。予想もしていない展開に唖然とする。

「どういうこと? 尸傭兵団が完敗したんでしょう?」

 酒場娘のパティが声をあげる。

「ええ、そのとおりです」

「強い奴が自由に物事を決められるのがこの大陸のルール。そのルールを破ることなんてできない」

「確かに、彼らは物事を決める立場にありました。そこでボクはあることを提案しました」

「あること?」

「ラドル村は黒き山林が引き返しの森の向こう側へ行くための拠点となる。そして、ラドル村は彼らを全面的に支持すること」

「ギルコ! ホントにそうなの!!」

「そういうことになった」

 ギルコは気怠けだるそうに応えた。

「この村が黒き山林の拠点になるってことは、アイツらが好き勝手することと同意義じゃないの! 事実上、アイツらの傘下さんかに入ることになるじゃない」

「それはありません」

「どうしてよ!!」

 リッツは人差し指を立てる。

「なぜなら、この村が引き返しの森へ行く拠点となれば、多くの冒険者の拠点にもなります」

「多くの冒険者の拠点?」

「言葉は足りませんでしたね、すいません。黒き山林を全面的に支持するってことはギルド協会に対するものです」

「どういうことよ? どうして彼らを支持しないといけないの?」

「それは彼らが引き返しの森の向こう側に行った生存者だからです」

「森の向こう側の行った生存者!?」

「ええ、ルードは純粋なる魔導石を所持し、それを右目に付けています。その力によって、彼は無尽蔵に火の魔法を使うことができ、尸傭兵団は敗北をきっすることになりました」

 パティが尸傭兵団を見ると、彼らはゆっくりと首を縦に振った。

「ルードがそんな巨大な力を得たことができたのは森の向こう側に行き、純粋なる魔導石を手に入れたからです。ギルド協会はその事実を知れば、純粋なる魔導石と同じ秘宝を手に入れようと森の向こう側を調べ上げようとします」

「多くの冒険者がこの村を拠点する理由はそういうことか」

「ええ、黒き山林がいじわるしようとしても、ギルド協会が保護してくれるということです」

 パティはリッツの言葉に納得した。

「これがボクの提案した最大限の交渉条件です。ギルド協会の支援を受けることができますから、悪魔が来ることがあっても安全は保たれます。また、黒き山林が悪さをしようとしても冒険者やギルドが守ってくれます」

 リッツから交渉の結果を聞いたみんなの表情をやんわりとほころんだ。

「アイツらの言うことを聞かなくてもすむ!!」

「村の脅威はなくなった!!」

「それどころか! 仕事にありつくことができるぞ!!」

 多種多様な反応があったが、リッツの交渉はすべてポジティブに働いた。


 たったひとりを除いて。


 ギルコはリッツの傍に来た。

「……満足?」

 ギルコは言った。

「リッツさん、満足?」

 ギルコは寂しそうな表情でそんな言葉を発言した。

「ギルコさん……」

 ギルコは正面に立ち、酒場にいるヒトビトに向けて話を始める。

 ギルコが何かを話そうと気づいたヒトビトは、カノジョの話に耳を傾ける。

「残念ながらこの村は黒き山林の拠点になることはすでに決定し、彼らに好き勝手される恐れがあります。また、村長の命は彼らの手の中にあり、安全を守れませんでした。この村にいるすべてのヒトに不安を与えました。すいません」

 ギルコは頭を下げ、陳謝ちんしゃした。

「元々、わたしがギルドマスターをすることになったのは、ある目的のためでした。その目的というのはエトセラ帝国に復讐をするためでした」

「復讐!?」

 ラムネは驚愕きょうがくする。

 ギルコの友人であったカノジョでさえ知らない事実を始めて知ったからだ。

「エトセラ帝国はわたしのいた国、ユセラ王国を襲った憎き悪魔です。今でも、わたしの父と母はエトセラ帝国の手の中にあり、彼らを救おうと算段を企てています。エトセラ帝国と戦うためには、大規模な戦争ができる資金と組織が必要となります。しかし、皆さんもご存知のように、ギルドにはお金もなければ、冒険者と人脈を作ることもできないでいます。わたしの意地っ張りな性格がわたしの目的を遠ざけている要因となっています」

 ギルコはもう一度、謝る。先ほどよりも深く頭を下げた。

「この村を不安にさせたのはわたしの思慮の浅さと身勝手な性格にあります。ルードを捕まえれば、すべてが解決できると本気で思っていました。しかしながら、わたしが思うよりも盗賊団は強く、狡猾こうかつでした。完全に、うぬぼれていました」

 ギルコは酒場にいるヒトビトに見せるように、カオを上げた。

「この村の不安はまだ終わっていません。これから黒き山林はこの村に住むことになります。彼らの嫌がらせに耐える日々が来ると思います。そのような事態へとおとしいれたわたしは責任を取る必要があります」

「それって、ギルコさん。まさか」

 ラムネの言葉に、ギルコは頷く。

「わたしはこの一件で自分自身の無力さを思い知りました。わたしはここで一度、ギルドマスターをやめたいと思います」

「ギルコさん!」

「けれど、それは逃げることではなく、また、この村のギルドマスターになるためのものです! 本気でギルドマスターになるために、クリスト共和国へと行き、勉強をしたいと思います」

 さきほどからギルコが黙っていたのは、ギルドマスターをやめることを考えていたからであった。


 ――ちっぽけなことにこだわって、村の人達に迷惑をかけた。

 ――多くのヒトから信頼を得るためにはもっと勉強しないといけない。


 ギルコはそう感じて、村人たちがいる酒場で自分の決意を宣言したのだ。


 ギルコがやめると発言した後、声が上がる。

「ギルコさん、やめなくていいよ」

「ギルコさんはギルドマスターだよ」

 村人と冒険者らがカノジョを応援する。

「そうよ、ギルコ。あなたがいたからこの村は救われたのよ!」

 彼らの声に押されるように、ラムネも口を添える。

「救っていない。これから先、この村は不安に押し潰される日々が待っている。みんな早く逃げて」

「何を言っているんだ、ギルコさん」

「みんなを置いて逃げられますか」

 村人と冒険者らは口々に言う。

「ギルコ、あなたはよく考えて行動したと思う。もし、わたしなら村長を差し出してそれで全てを解決させたと思う。けれど、その後、わたし達の村はどうなったのかわからない。ルードがわたし達の村を焼き払った可能性もあったはずよ」

 ラムネは自分の考えをギルコに伝える。

「だけど! わたしはルードを捕まえるために、わざとギルドに呼びつけた! 尸傭兵団と一緒にアイツらのアジトに行くことだって!!」

「ギルコ」

 フォルスが二人の会話に口を挟む。

「多分、アイツと“サシ”で戦っていたら俺らは退却しただろう。確実に全滅していた」

「……フォルスさん」

「ギルコ。いつまでも負けたとか勝ったとか、そういう考えはダメ」

「パティさん」

「わたしたちは負けた。でも、その負け勝負の後始末で、ギルコがガンバったから何も奪わなくてすんだ。あなたの行動がマイナスをゼロにできたの!!」

「すいません。すいません」

「謝ることはない。村長はあなたにすべてを任せたから、わたし達もあなたを信じたの」

 パティは村人たちの目を合わせると、彼らは頷く。

 皆、パティと同じ心境だった。

「……ギルコ」

 二階にいたバターがギルコを呼ぶ。

「バターさん」

「あたしたちのためにガンバってくれてありがとう。魔法使いを代表してあなたを感謝します」

 バターはそういうと二階にある部屋へと戻っていた。

「みんなみんな、ゴメンなさい!!」

 ギルコは地面に伏せ、誰の目も気にせずに涙を流した。


 こらえていた。ずっと堪えていた。

 だけど、今夜はその涙を流せた。

 誰かに見せることを許した涙は少しばかり多めに流していた。


 酒場の外にいたリッツは酒場の様子を遠巻きに見ていた。

「――白詰草のもう一つの花言葉は“復讐”だ。復讐にかられた人間はどんな手を使ってでも自分の目的を為そうとする」

 リッツは手にしていた三つ葉のクローバーを見ると、それを捨てた。

「だけど、ギルコさんにはもうそういう気持ちはない。カノジョにあるのはこの村を守ろうと思う約束だけだ」

 リッツはそっと歩き出す。

「ボクも約束を果たすために行くとするか」

 リッツは闇の中へと隠れるように、その場を後にするのであった。


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