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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
05 瞳の在処
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死闘 05-03 ケルベロスの大剣とオルトロスの双剣

 ギルドの中央でライアとユウロが対峙する。

「ライアさん!」

「リッツはギルコを守ってくれ。コイツらはアタイが倒す!」

 リッツはライアの言うとおり、ギルドの奥へと隠れる。

「甘く見るなよ。俺らには隻眼の誓いがあるんだ。並大抵のことは越えられるそんな覚悟をな!!」

 ユウロは二人の盗賊と合図をし、彼らを左右に分かれさせる。 

 右に、左に、そして、真ん中に、黒き山林のメンバーが並ぶ。

「森の陣!!」

 ユウロの号令と共に、二人の盗賊と一緒になって、ライアを襲いかかる。


 右が腕を狙い、左が足を狙い、真ん中が首を狙う。

 森の陣、黒き山林の連携攻撃である。

 リスクがあるが、確実に獲物を狩るにはちょうどいい。

 それが強敵であれば、なおさらいい。

 盗賊らの持つ短剣は獲物を捉えた。

「隻眼の誓い? なんだよ! それは!!」

 ライアは盗賊の策におびえず、大剣を空にかざす。

「ふぅぅ」

 ライアはゆっくりと深呼吸する。


 ――三人の間合いを見ていない。一人の世界へと入っているぞ。


 ライアの様子を見て、盗賊らは安心する。


 ――一人が倒される危険性もなくなった。確実にヤレる!


 すでに彼らとライアの距離は目と鼻の先、腕を振るえば肉が切れる。

 三人はギュルンと短剣を振り、ライアを切り刻む。


 しかし、一足早く、ライアの大剣が床へと降ろされた。

「技巧一つ、大刃たいは!!!」

 大剣はユウロを切った。

「ぐわぁぁああぁ!!」

 切るというよりも叩いたと言える衝撃、ユウロはその衝撃に飲み込まれ、後ろへ吹っ飛ぶ。

 しかし、ライアが発した衝撃は終わらない。

 大剣が起こした衝撃が真空を叩き斬り、風が切れる。

 更に大剣から風圧が巻き起こり、左右に流れる。

 その風もまた衝撃、風から衝撃の波が生まれる。

 二人の盗賊はその衝撃波に巻き込まれた。

「うぁわわぁ」

 二人の盗賊もユウロと同じように吹っ飛んでしまった。


「親からもらったモノをキズ物にするなよ」

 ライアは大剣を背中の鞘へと戻す。

 すでに、三人は意識を失っている。

 声を掛けても反応がないだろう。

 一方、ライアは大剣を振り落とした床の様子を見ていた。

 この前よりも大きなキズが床に付いていた。

「また傷つけたな。ギルコさん、怒るんだろうな」

 ライアはひとりごとをつぶやき、とぼとぼと歩き出した。


 ※※※


 リッツとギルコはライアの戦いを遠目から見ていた。

「スゴいですね、ライアさん。大剣を一振りしただけ、三人の盗賊をやっつけましたよ」

「ライアさんはしかばね傭兵団に居た時、こう呼ばれていた」

 ギルコは説明したくてたまらない表情で、ライアの二つ名を口にした。

「一振りで三人の敵を倒すことから、三つ首のカオを持つ地獄の番犬、ケルベロスの大剣って――」

 二人が話を交わしていると、ライアがギルドの奥へとやってくる。

「ゴメンよ、ギルコさん。また床を壊してちゃって」

「だいじょうぶ、今度の報酬から天引きしてとくから」

「それはないよ~、ギルコさん~」

 ライアは戦闘に負ったキズよりも、ギルコの交渉で負ったキズの方が大きかったようだ。

「しかし、大丈夫か? ルードのヤツを行かせて」

「これでいいの。もし、ルードが悪魔とやりあえるのなら尸傭兵団に任せた方がいいわ」

「そうですか」

「それにギルドを燃やされたら元も子もないし」

「ギルコさん」

「うそうそ」

 こんなときに冗談を言うギルコに、二人はまいっていた。


「じゃあ、そろそろ、行こうか。アニキ達が倒してくれているよ」

「そうですね。行きましょうか」

 三人はギルドの外へと行き、尸傭兵団に会うことにした。


 ※※※


 そこは戦場か。

 いや、鋳金ちゅうきんの溶鉱炉が言うべきか。

 ドロドロと融ける黒鉄の草原を赤き炎のみが闊歩かっぽしていた。


 炎をまとうは黒き山林の長、ルード。

 オレンジの魔導石から発せられる魔力で炎の鎧を作り出す。

 その炎を打ち破ろうとするのが尸傭兵団。

 彼らの持つ武器のほとんどは野外や食事で使うナイフのみ、手にしていた武器はルードの炎に熔解された。


 ビューンと矢が放たれる。

 矢はルードの眉間みけんを狙っていた。

 しかし、その矢も彼の目前まで来ると自然と消える。

 自然と消えたワケではない。

 燃えたのだ。すすとなって、そこにあったものが消滅したのだ。


「ムテキですよ!! あの男!! 隊長! どうするんですか!!」

 尸傭兵団の傭兵の一人が隊長のフォルスに尋ねる。

「アイツ、多分、森の向こう側に行ったんだろうな」

「向こう側って、異世界?」

「そうだ。異世界だ」

 フォルスはユセラ王国に居た頃を思い出しながらそう言った。 

「異世界から帰ってきた男か。だとしたら、魔法使いでしか倒せないな」

 フォルスは手にしていたナイフをしまう。

「傭兵団のみんなに通告しろ。退却しろっと」

「この村を見捨てるってことですか!!」

「尸傭兵団はムダ死にはしない。勝てる時にしか命を賭けない」

「ライアがこの村にいるかもしれないのに」

「アイツはうまく逃げるだろう」

 フォルスの考えを聞くと、傭兵はゆっくりと頷いた。


「隊長!」

 もう一人の傭兵がフォルスに話しかける。

「なんだよ」

「ライアがあそこに!!」

 傭兵のさす方向に視線を向ける。

 すると、そこにはギルドから出てきたライアの姿があった。

「ライアあのバカ!」

 ライアの他に男とギルコの姿もあった。


 ――ルードがギルコに気付かれたら、あちらへ行くだろう。

 ――そうなれば、ギルコ以外に、ライアの命も狙われる危険性もある。


「俺が時間を稼ぐからライアに知らせろ。逃げろってな」

「時間を稼ぐって、隊長が行くんですか!!」

 フォルスは傭兵に返事もせずに、足を動かす。

「オルトロスの双剣の意地を見せてやる」

 フォルスはルードの下へ行った。


 ルードは盗賊団がアジトへと帰ったことを確認する。

 しかし、ルードは自分の身体から発せられる高揚感に喜悦を覚えていた。

 どんなモノでも焼きつくす炎の力、その力は限界はなく、どんなにつかっても後遺症も残らない。

 もし自分が魔法使いなら、この魔法で結晶化をしていたのかもしれない。

 しかし、純粋なる魔導石のおかげで結晶化もせず、無尽蔵に魔法を使っている。


 ――まったく、これが最高だね。何かに怯えなくてもいいって!! 


 オレンジの魔導石は更に輝きを増す。

 石の中ではぐるりぐるりと火炎が回る。

 その目に写る温度を持つ者が一人現れる。

「キサマは誰だ?」

 双剣の傭兵が口を開ける。

「フォルス。尸傭兵団の隊長をやっている」

「俺はルード。黒き山林の団長をやっている」

「総大将同士の戦いか」

「いいね。燃えるシチュエーションだ」

「悪いが、そういうのは嫌いだ」

 フォルスは双剣を構える。

「剣士か」

 ルードもまた構える。

 彼の手から炎の玉が生まれる。

「お手並み拝見だ」

 ルードは炎の玉を、フォルスの正面へと放った。


 フォルスは身動き一つもせず、炎の玉がやってくる。

 炎の玉がフォルスを包もうとしたが、玉は横にそれて、彼のそばを通り過ぎた。

「斬ったか」

「斬ったワケじゃない。モノが動く軌道をそらしただけだ」

「どういう原理だ、それ」

「それはこっちが聞きたい。その炎はなんだ! なんで無尽蔵に燃やせる!!」

「さあね。考えてみたらどうだい?」

 ルードは手をかざし、今度は炎のダーツを作り出す。

「魔法使いって、ボウガンみたいな構えをしないと矢が飛ばないんだってな。そんなのめんどくさいよな」

 ルードは手を振ると、指の間にあった炎のダーツが飛ぶ。


 フォルスは身体を揺らす。

 すると、炎のダーツが斜めに落ちる。

 まっすぐな軌道を描いていたはずなのに、その軌道がズレたのだ。

「なるほど、剣を使っていたわけじゃなく、身体で空間を歪めていたんだな」

「ユセラ王国の剣士に伝わる技巧ぎこう、揺らぎだ。やってくるものの軌道を瞬時に揺らして、飛び道具を回避する技だ」

「名称まで教えてくれてありがとう。しかし、それだとやりにくいな」

 ルードは両手を伸ばすと、そこから炎の槍を生み出す。

「おかげで、俺自身が動かないといけないじゃないか!」

 ルードは炎の槍を手にすると、フォルスに目掛けて一直線に走る。

 フォルスはその槍を避け、ルードの懐へと入った。


 ――完全に入った!


 判断はそう言った。しかし、野生の勘が反抗する。


 ――何かおかしい、何かおかしい。

 ――逆に入るように誘い込まれたんじゃないか?


 戦いの経験というものか。

 懐を誘うヤツは必ずと言っていいほど、何かを仕込んでいる。

 フォルスはそういう経験を思い出し、後ろへと引き下がった。

「おしいな」

 ルードは炎の槍を地面に差す。

「矢を仕込んでいたのに!」

 ルードは炎の鎧の胴から火の矢を放った。

 フォルスはゆっくりと揺らぎ、火の矢をかわした。

「ホント、手の内をあかしてくれるな」

「いやいや、その揺らぎの正体を探りたかっただけだ。……正体がわかった気がする」

「正体?」

「揺らぎってヤツはある一定の構えじゃないと効果が出ない。その構えから右へ左へ身体の重心を動かして、風を呼び寄せる」

「なぜそう思った?」

「炎の槍が揺れたからな。風の流れが変わったことを教えてくれた」

「ちぃ」

 フォルスは舌打ちをする。

「揺らぎを封じる方法を見つけたら後は簡単だ」

 ルードはもう一度炎の槍を作り出し、それを地面に差す。

 二本の炎の槍の中央に立つと、ルードは指をさす。

「総攻撃だ」

 ルードは指をさすと、炎の槍から何かが出される。

 玉だ。小石よりも小さな玉が何百発も発射される。

 どうやら、この槍が火炎球の砲台となり、ルードがその司令塔になっているようだ。


 フォルスは身体を揺らぐのをやめ、静止する。

 双剣の柄を前にし、深く呼吸をする。

 フォルスへとやってくる火の玉は何百発、それが二つの砲台から来るのだからその数は半端ない。

「もはやかわしきれまい!」

 勝ったも当然の表情をするルード、フォルスの穏やか表情を死ぬ覚悟と見ていた。

 しかし、それは違っていた。

 その表情は逆を意味していた。

「技巧一つ。双刃そうは!!」

 フォルスは双剣を振るった。


 双剣は音を立てず、くうを切った。

 切った空から気圧が膨れあがる。

 気圧が満杯となると、固体となり、刃と化す。

 固体が炎の玉を止め、押し返して弾いた。

 気圧の刃が風を巻き起こし、炎の槍から火を剥ぎ取る。

 火を失った炎の槍はカタチを崩した。

 しかし、気圧はまだ失わない。

 ルードはその気圧に喰らわれる。

 空気の刃が炎の鎧を剥がす。

 胴をまとう炎が霧のように消えた。


 ――まずい。

 ルードが思い浮かんだのはその三文字。

 ――本気で殺しにかかってきた。

 ルードが感じたのはそれだ。


 フォルスの持つ技巧には重みがあった。キレがあった。

 その重みとキレが、空間を斬る技巧となっていた。

 

 ルードは炎を生み出そうとする。

 しかし、その炎は、気圧の刃が生み出す風が邪魔し、有形化できない。

 見る見るうちに、炎の鎧から火が飛び散った。

 気圧の刃に押しのけられ、ルードは地面に倒れた。

 彼をまとった炎の鎧は消えてしまった。

「技巧一つ。双刃そうは。双剣で空間を切ることで周囲の空気を圧迫させる。その空間にあった空気が一つの刃となって、空間を走る。しかも、二つの剣から放たれるから、その刃は二枚刃となる」

 ルードの腹が切れる。二つの剣先で斬られたように血の跡ができる。

「双刃はあらゆるものを切るために生まれた技巧だ。派生として大刃たいはと呼ばれる技巧もあるが、あれは空間をぶっ叩いて、大気の津波を放つもので意識を奪うが命を奪うものではない。だが、この双刃は違う。獲物を斬る技だ。この技で切られたからには覚悟しろよ」

 フォルスはそういうと双剣を鞘へと戻した。

「立てよ。まだ生きているだろう」

 フォルスに言われたルードは不敵に笑った。

「さすが尸傭兵団の隊長さんだな」

 フォルスは両目を開け、のっそりと立ち上がる。

「炎の鎧が防御壁になったみたいだな」

「腹を切られたから驚いたが、なんてことはない。かすり傷だ。すぐ止血した」

「双刃で切ったものはオマエが作り出す炎の武具だ。オマエの命なんぞすぐに切れる」

「ホントは切れなかっただんだろう」

 ルードは親指で後ろを差す。

「俺の後ろにギルドがあるからだろう?」

 フォルスの喉がうなる。

「ホント、ギルドがあって助かった。もし、ギルドがなかったら、俺の身体は真っ二つになっていたかもな」

 ルードはそういうと、ゆっくりと頷いた。

 得も言われぬカオをしていた。

「やることは決まった」

「何をする気だ?」

「交渉だよ、しかばねさんよ。この村から出て行ってくれないか」

「悪いがそれはできない。しかし」

「しかし?」

「交渉次第で応じてやろう」

 元々、フォルスの目的はギルドにいる妹の救出だ。


 ――ギルドには三人が遠巻きでこっちを見ている。

 ――どうやら、まだ、言伝ことでてが伝わっていない。


 双刃という奥義を出したからにはルードと戦って勝ち目はない。

 良くても相打ち。悪くても……。

 それ以上は考えない。それが傭兵の長をやり切るフォルスの思考法だった。

「交渉に応じたってことは、俺の力を認めたわけか」

「ああ、そうだ。だから」

「じらすなよ」

「は?」

「交渉は断る」

 ルードは左目を閉じ、地面に手を置いた。

 

 火山特有の匂い、じわっと焼けつくような匂いが漂う。

 ぐつぐつと地面が動き出し、そこから火が噴き出す。

 マグマ、意志を持つ熔岩流がうごめく。

 ルードは赤きマグマを招聘しょうへいしたのだ。

「ほらほら!! お得意の揺らぎが使えないだろう!!」

 得心とくしんした。

 ルードに勝てないと本能的に感じた理由がわかった気がする。

 センスがいい。盗賊には惜しいほど、戦闘センスが高い。

 冒険者として欲しがるパーティーもいるだろう。

 傭兵の長としてスカウトしたいところだ。

 しかし、ヤツは残念なことに盗賊だ。

 どんなに強くても、センスが良くても、相手のモノを略奪する職に就いている。

 相手の依頼を請け負い、それをこなす傭兵とはあいそれない存在だ。

 ――そんなやつは討たなければならない。

 フォルスはそんなことを思いながら、地面を灼熱しゃくねつのマグマから逃げ、ギルドから遠ざかっていた。


 ギルドにいた三人はフォルスとルードの戦いを見ていた。 

「スゴいなキミの兄さん。あの二つの剣でルードを切った」

「オルトロスの双剣と言われる所以だよ」

「だけど、フォルスさん、マグマに追いかけられているけど」

「アニキなら大丈夫!」

「いや、そうじゃなくて――」

「ギルコさん、何を感じたの?」

「感じたというか、その……」

 ギルコは胸中にあった不安を口にする。

「ルードがいないの」 

 ルードはマグマを呼び起こすと、闇に隠れるようにすぅ~と消えていたのだ。

 三人が左右を見渡し、ルードを探す。

 だが、ルードの姿が何処にもなかった。


「……ライア」

 闇から表れた男に、ライアは驚くが、すぐ元の表情に戻る。

「なんだよ、驚かすなよ」

 ライアはニカッと笑い、その男が尸傭兵団のメンバーだと気づいた。

「ひさしぶり、元気だったか」

 傭兵はその言葉に反応せず、唇を必死に動かす。

「おいおい、なんだよ。何かクイズでも出しているのか?」

 ライアは笑いながら傭兵の下へと近づいてく。

「……ライアさん、逃げて!!」

 ギルコの言葉に、ライアは振り向く。

「え? なんで?」

「くちびる見てわかった。そのヒトは逃げろって!!」

 読唇術で言葉を判別したギルコに言われ、ライアは正面を見る。

 すると、傭兵の腹から赤い火が放たれた。


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