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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
04 隠された魔術師
31/57

疑問 04-08 “剣と魔法と冒険者の大陸で起こる殺人事件”ってヤツを考えたことがあるかい?

 

 リッツは黒き山林の団長、ルードを殺した必要な要素を洗い出していた。


 凶器。ルードはどうやって殺されたか。

 遺体が一瞬に焼かれていたことから“魔法”が有力視されている。


 動機。ルードを殺す“メリット”は何か?

 この村を守ることが動機だと考えられている。


 時間。午後4時から午後5時の間で行われた。

 審美眼を持つギルコが死体を検視したため、ほぼその時間帯で間違いない。


 凶器と時間は定まった。

 しかしながら、動機について、もうひとつわからないところがある。


 ――盗賊団の団長を殺す動機は村を守るだけなのか?


 元々、あの団長はあらゆる所から恨みを持たれている。

 盗賊団から裏切られてもおかしくない。


 ――かしらを潰せば、自分が上になることができる。


 となると、盗賊団がルードを殺した可能性だってある。

 魔導石を使って魔法を使えば、ルードは殺せるはずだ。

 

 しかし、盗賊団の誰かがルードを殺したとしても問題はまだある。

 それはユウロが発したあの一言だ。


 ――あのヒトに殺されることがあっても、オレらが殺すことなんて絶対ねぇ!! 寝言は寝てから言いやがれ!! わかったか!!


 盗賊団黒き山林、副団長ユウロの叫びがウソとは思えない

 鬼気きき迫る心からの慟哭どうこく、あの言葉は男のカリスマに惹かれた者が出したものだ。

 そこには裏切りもウソも存在せず、ただルードという人間から褒められたい認められたいという衝動に駆られた男の心がある。

 そんな人間が殺されたのだ。怒りを暴発させてもおかしくない。


 それに、あの盗賊団は並の盗賊とは違う。

 ふてぶてしいエテンシュラが地面に伏せて謝るぐらいだ。


 ――あの盗賊団には何かがある?

 ――おぞましい何かがある。


 リッツはその何かを知るために、スクランブルハートにいるエテンシュラに聞くことにした。


 ※※※


 昼間の酒場『スクランブルハート』はカフェテリアである。

 陰気な冒険者のつどいから、村人たちの憩いの場となっている。

 しかし、そんな憩いの場でアンニュイそうにコーヒーを飲んでいる男がいる。遊び人エテンシュラだ。

 

 カフェテリアへとやってきたリッツはカウンターにいるエテンシュラを見つける。

 リッツはスコスコとエテンシュラの隣に座り、オーダーを取る。

「ぶどうジュース」

 女店員にそういうと、リッツはエテンシュラに話しかける。

「エテンシュラさん。どうですか?」

「晴れやかな気分だ。すぐにでもウトウトとして寝てしまいたくなりそうな」

「じゃあ、そのコーヒーをおやめになった方がよろしいのでは?」

「そうも言ってられねえ。これからどうするか考えなきゃな」

 とはいいつつも、エテンシュラはコーヒーを口にし、天井を眺める。何かを考えているとは言いがたい表情であった。


 そんな惰眠をむさぼっているエテンシュラに対して、リッツは胸中にあった疑問をぶつけた。

「……ボクは殺されるのでしょうか?」

「アイツらはそれで納得するか?」

「納得? 納得って何が?」

「オマエさんは殺される人間としてふさわしくない」

 エテンシュラはコーヒーカップを方向け、中にあるコーヒーをたしなむ。ほどよくコクのある苦さが舌先を刺激する。

 エテンシュラはコーヒーカップをソーサーに戻すと語りだした。

「オルエイザ大陸は剣と魔法と冒険者の大陸だ。剣は大地を切り拓き、魔法はこの世へいつくしみを与え、冒険者は未知の世界に地図を描き、それを村人たちに知らせる」

「詩的な表現ですね」

「なのに、何処で間違えたのか、剣は争いを呼び寄せ、魔法はこの世へ悲しみを授け、冒険者が地元の住民にこき使われるようになってしまった」

「身も蓋もない言い方ですね」

「オマエさんは“剣と魔法と冒険者で起こる殺人事件”ってヤツを考えたことがあるかい?」

「全然、考えたことないですね」

「だろう? そういう殺人事件は冒険者の間でも起こってもおかしくない。むしろ、自分だけ利益を独占しようと、冒険者を皆殺しするヤツがいてもおかしくない。しかし、そういう事件が起こってもみんな、興味を持ってくれない。なぜだかわかるか?」

「当たり前だから」

「そうさ、冒険者にとって、裏切りなんてものは日常茶飯事だからな」

「ええ、そうですね」

「それよか、オレらが嬉しがる殺人事件って他にあるだろう。例えば、王宮で起こった殺人事件なんかさ」

「そうですね。殺人事件って言えば、貴族や王族の殺人事件の方が興味ありますね。でも、どうして、そっちばかり興味を持つのでしょうね?」

「やっぱり、民衆にとって、貴族、王族の世界は聖域なわけよ。その聖域で起こってはならない殺人事件なんかが発生したら、誰もが耳を疑うワケよ」

「たしかにそうですね」

「冒険者の間で殺人事件があっても誰も不思議と思わない。そんな話、山ほどあるからな。醜聞しゅうぶんは聖域で起こるもんよ」

「それはわかったのですが、ボクが殺される人間としてふさわしくない意味はどういうことですか?」

「殺人事件が王宮で起こったら誰が犯人だと思う?」

「王や女王、その息子辺りかと」

「そうそう、第二王子や執事、メイドなんかも怪しいよな。でも、その中で一番犯人だと思ってしまうのは誰だ?」

「そりゃ、王様」

「だろう? 執事やメイドなんかが犯人と言われた日にはスケープゴートなんかしていると民衆は思うもんだ。それよりも位の高い人間が犯人で、そいつが処刑された方が、民衆のフラストレーションもスカっとするもんよ」

「つまり、盗賊のフラストレーションを解消する人間が犯人に仕立てるってことですか?」

「話は早くて助かる。犯人はみんなが納得されるヤツじゃないとな。一番、シックリ来る動機を持つ人間が犯人と言えば、丸く収まるワケよ」

「そんなの詭弁きべんだ」

「詭弁と言われようが、相手は盗賊だ。ここだけの話だが、オレは、犯人なんか見つからないと考えている。それはな、凶器が魔法だからだ。魔法で犯人を見つけることなんて、できるはずがないだろう?」

 エテンシュラの指摘に、リッツは口を閉じる。

「となると、殺されても納得する人間を犯人に仕立てることが大事になってくる。この村の中でシックリと来る人物は誰だと思う?」

「――エテンシュラ」

「身も蓋もねえ!!」

「冗談ですよ、ただ言いたくありません」

「そうだよな。オレも言いたくねえよ」

 ヘラヘラと軽口を言っていたエテンシュラだったが、急に表情を重くする。

「ギルコの首が吹き飛ぶなんてな」

 エテンシュラの言葉に、リッツは頷いた。


「この村を牛耳るギルドマスターでギルド公認を取り消そうとしている。ヤツらがシックリ来る犯人なのはギルコしかいねえ」

「でも、ギルコにはアリバイがある。時間も合っていなければ、凶器も持っていない」

「そんなの盗賊の前じゃ成り立たない理屈だ。幾ら証言や証拠があろうとも、一番望む結果を手に入られなきゃ、受け入れてくれない」

「利益半分でギルコが殺されるのですが?」

「恨みの片方はそれで納得できるだろう。あちらさんもわかっているんだ。誰が犯人でもどうでもいい。いや、犯人なんてわからない。ただ、アイツらはポカリと開いた胸の空洞を埋めてくれるものを彼らは求めているんだよ」

「それがギルコの命だというのですか?」

「ああ」

「間違ってます」

「間違っている?」

「命でプライドは埋められません」

「しかし、相手はそれで埋め合わそうとしているんだぞ」

「盗賊も人間です。打算的な考えができる論理的な思考を持ち合しています」

「ギルコの命に同等になるものを与えられるのか?」

「何を言っていますか? 論理的に犯人を追い詰めるんですよ」

「そりゃいいな! おもしろいおもしろい」

「からかっている言い方はやめてもらえませんか?」

「いいや。曲りなりな解決方法で考えていたから、なんだか新しく感じてね。犯人を誰にしようか考えるよりも、犯人を誰かにした方が得策かもな」

「そうですよ。真実を見つけた方がプラスですよ」

「だが、聞き込み捜査は無駄足、犯行時間を話してくれるヤツらはいない。村人も冒険者も協力的じゃねえ。どうやっても、犯人が絞られるはずが」

「魔法ですよ」

「魔法?」

「そう、魔法ですよ。魔法という証拠さえ見つけられれば、犯人に近づける」

「もう一つ忘れているぞ、魔導石を所有しているヤツが犯人の可能性が高い」

「エテンシュラさん」

「証拠を見つけようか。グゥの音もでないぐらいにな」

 エテンシュラは笑いながら、犯人探しに協力することを誓うのであった。

 

 ※※※


 リッツとエテンシュラはカフェテリア、スクランブルハートから出てきた。

「オレは村人からもう一度話を聞いてみるわ。クロコダイルみたいにしつこくな。オマエさんはギルコの所に行って、冒険者の情報をまとめてくれ」

「わかった」

 自分達の役割を確認した二人はカフェテリアから離れる。

「ちょっと待った」

 と、エテンシュラはリッツを呼び止める。

「リッツさん。マハラドを見つけなかったか?」

「マハラド? 誰でしたっけ?」

「意外と薄情者だな、オマエさん」

 エテンシュラは頭を抱えながら、難癖をつける。

「魔法剣士のアイツだよ」

「ああ、いましたね。そんなの」

「ザックスはコダールへ向かったことは知っていたんだが、マハラドは何処にいるかわからなくてな。アイツもザックスと一緒にコダールに行ったのかね」

「どうして、マハラドを探しているんですか?」

「アイツに鉄の剣でも買ってやろうと思った。そんなところだ」

「けっこうやさしいところありますね」

「魔法が使えなきゃ誰も相手にされないからな。冒険者にとって魔法剣士ってそんなもんよ」

 そういうと、エテンシュラはリッツを背にする。

「ギルコのトコに行ったら、探しビトの貼り紙にでもつけておいてくれ。貼り紙を掲示板に貼るぐらいならタダだからな」

 エテンシュラはリッツの下から去っていく。

 酒場以外に、冒険者は何処にいるだろうかと思いながら、リッツもここから離れていく。

 ――そういえば、黒き山林の話をするの忘れたな。

「今度にしようか」

 リッツはエテンシュラの言うとおりに、ギルコから冒険者の情報について聞くことにしようと、ギルド『クローバー・エース』へと向かった。


2014/8/23 誤字修正済み


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