彷徨 04-07 仲違いする冒険者と村人
翌朝、リッツとルルは牧場に来ていた。
ルルは牧場と羊にたわむれ、リッツはその様子をじっと見ている。
「ルルは無邪気だな」
リッツはそんなことを言うと、空を見上げる。
空は青く、雲は流れる。
風はさほど激しく吹いていないが、雲の速さと比べたらビュンビュンと吹いているように思える。
朝方は伸びていた影も、いつの間にか短くなっている。
時の流れは意識せずとも流れているのだと、リッツはかすかに微笑んだ。
「……あと、二日か。まいったな」
二日後の夜までの時間、そう残されていないのだと、リッツは思った。
昨晩、盗賊団、山林の森の団長、ルードが殺された。
副団長ユウロはルードを殺した犯人を探すようにギルドに依頼した。
犯人を見つけ出せば、村は襲わない。
犯人が見つからなければ、村を襲う。
ギルコは彼とそんな約束を交わした。
ルードを殺した犯人を探すために、深夜遅くまで会議を開いていた。
その中で遺体の第一発見者であるリッツは最も犯人に近い男となり、それを覆す証拠が必要となっていた。その証拠が魔法だった。
一瞬のうちに死体を丸焼きにした魔法の使い手が犯人の可能性が高い。リッツは冒険者以外に村人にも魔法使いを探すように、ギルコに要請した。
しかし、村人から魔法使いを探さないように、と、逆にお願いされた。
魔法使いがいたおかげで、ここにいる村人たちはエトセラ帝国から逃げることができた。村人にとって魔法使いは命の恩人であり、どんなことがあっても守りたい存在である。
魔法使いは冒険者だけでなく村人にもいる。そして、その魔法使いがルードを殺した可能性が高い。
ところが、村人は魔法使いを匿っている。これではルードを殺した犯人を見つけられそうにない。
このままだと、自分は犯人として、殺されるのではないかと、リッツは考えてしまった。村人たちの誰かが殺されないように、ニセの証拠をでっち上げようとしている。
――疑心暗鬼、彼の口からそんな言葉が出てきそうだった。
※※※
ルルを牧場に預けたリッツは一人、村の周りを見回ることにした。
村人はリッツのカオを見るとその場から遠ざかっていく。
どうやら、彼がルードを殺した犯人であると、噂が広まっているようだ。
――完全に敵対者だな。
リッツはため息をついた。
ふと、そこで道具屋の看板を見つける。
『フォー・C・ダイヤ』
人目につくダイヤの絵、目立たない田舎村で目立とうとして、不思議なアンバランスさを生み出してしまったそんな看板だった。
しかしながら、そんな絵だからこそ、リッツはそこに道具屋があるとわかり、そこへと向かう。
そこにはラムネがいると思ったから、リッツは歩く。
誰でもいいから話したかった。
※※※
道具屋の中に入ると、高級店そうな看板とは違い、とても質素な道具屋であった。
「いらっしゃいませ~」
ラムネは甲高い声で挨拶をする。
「やあ」
リッツは声の聞こえた方へと視線を動かすと、そこにはラムネとライアがいた。
「リッツか」
リッツは二人の下へと近づく。
「何を話していたの?」
「情報を集めていた」
ライアは答える。
「ルードが殺された犯行時刻は午後4時から午後5時。その間、冒険者は何をしていたのか、片っ端から尋ねている」
「何かわかりましたか?」
「依頼主と一緒に、雑草刈りや荷物運びの仕事をしていた。ウソかどうか怪しんでいるのなら依頼主に聞いてくれと言ってたよ」
「アリバイは存在しているというわけか」
リッツはライアからの情報を整理していく。
すると、ラムネもリッツに話しかけてくる。
「わたしも村人の皆さんに聞いたのですが、午後4時から午後5時の間は読書や夕飯の準備をしていたとかで――」
「そっちにもアリバイがあるということですか?」
「ええ」
「魔法使いの村人にも尋ねましたか?」
「はい、遠回しに聞いてみましたけど、午後4時から午後5時の間はゆっくりと療養していたと」
「それを証言するヒトは?」
「います」
「そうですか……」
リッツは考える。
――さきほどの村人の様子から見て、ルード殺しの情報は既に流れている。冒険者もそうだろう。
――つまり、午後4時から午後5時の間で何をしていたのか尋ねても、正直に話してくれる可能性は少ない。
――口裏合わせのアリバイ作りをしている。そんな気がする。
時すでに遅し、リッツの頭にはそんな言葉がよぎっていた。
「まあ、まだ時間はある。リッツ、あんたの無実を晴らしてやるよ」
「わたしもあなたがルードを殺した人間だと思っていません。ヒトを殺して問題が解決することなんてないと思います」
ライアとラムネはそれぞれ、リッツに励ましのエールを送る。
「ありがとう」
リッツはその言葉で少なからず、救われていた。




