会議 04-03 凶器は魔法?
ギルドの掲示板の前に立ったギルコは声を上げた。
「これから、黒き山林団長殺人事件の会議を開きたいと思います。メンバーには、わたし、ギルドマスターのギルコ・ギルミー、商人会メンバーのラムネ・シロップ、村長の代理、エテンシュラ・フィールド、バウンティーハンター、ライア・バガードが参加することになります」
ギルコは軽く頭を下げると小さな拍手が鳴った。
「なんでオマエがいるんだよ」
「わたしもいた方がいいと思って」
エテンシュラとラムネは小さな声で話を交わす。
「静かにして」
ギルコは話をしていた二人に注意すると、二人は口を閉じた。
その様子を見てライアはうっすらと笑みを浮かべた。
ギルコはエテンシュラのカオをチラッと見た。
こういう事態だというのに、ニヤニヤと笑っている。
この場に最もふさわしくない人間がこの場にいる。おかしなことだ。
エテンシュラは村長からの代理でこの場に参加しているという言った。
ギルコは納得しなかったが、ラムネが「エテンは村長の代理で来ている」と言ったために、エテンシュラをこの場から帰すワケにはいかなかった。
「ギルコさん、ボクもいいかな」
ルルを寝かしたリッツがギルドの受付口へと戻ってきた。
「どうしてあなたが?」
「ボクは遺体の第一発見者だから協力した方がいいかなと思って」
「――わかりました。冒険者、リッツ・クロフォードの参加を認めます」
リッツは部屋の隅に片付けられた椅子を運び、掲示板の前へと座った。
「村の人命がかかっています。皆様のご協力をお願い致します」
この場にいた達は軽く会釈した。
※※※
「形式はこれぐらいに。ルードを殺した犯人を探すために、彼の遺体の状況について話すことにしましょう」
ギルコはフランクな口調に戻し、ギルドの掲示板にヒトのシルエットを貼り付けた。
「ラドル村の入り口にルードの遺体があった。遺体を見つけた第一発見者はリッツさん。リッツさん、彼の遺体について、何か変わった所ありましたか?」
リッツは立ち上がり、ギルコの質問に応える。
「変わった所、そうですね。真っ黒でしたね。始めは動物が群がっていて、見えませんでした。おかしいと思って、近づくと何かに焼かれたような人間の死体でした」
「リッツさんの言うとおり、死体は二十代から三十代ぐらいの男でした」
「ボクは焼死体の様子から見て、魔法で焼かれたのだと思いました。それぐらい真っ黒で、一瞬にして消し炭になった感じがしました」
「死体を見てねえから、どんな具合に焼かれたのかわからねえな。ウェルダン? ミディアム?」
「肉の焼き具合なんて聞かれてもわかるわけないでしょう」
エテンシュラのトボけた質問に、ラムネはそう返す。
「どっちかというとウェルダン?」
「答えているよ……」
ラムネは真面目に回答したリッツにそう言った。
「死体を発見したボクはギルドへ向かい、ラムネさんとギルコさんと一緒に再び遺体のある村の入り口まで行きました」
「ここからはわたしが話すわ」
ギルコはリッツの代わりに、遺体の話を続ける。
「リッツさんの言うとおり、村の入り口には死体があった。死体は真っ黒焦げで火炎の魔法で焼かれたような形跡があった。死体の様子から検視は不可能かなと思った所で、眼帯を見つけた」
「眼帯って? ルードの?」
エテンシュラは質問する。
「ええ、わたしは会ったことはなかったからわからないけど、黒き山林の副団長、ユウロの様子から見て、ルードの所有物だと思った」
「それでその遺体がルードだと確信したわけか」
「ギルドから村の入り口まで行くにはだいたい10分ぐらいかかる。遺体の損壊が激しかったから、死亡時刻を確認できないけど、リッツさんの証言を信じると午後5時ぐらいに遺体を発見したことになる」
「午後4時ぐらいにマハラドとザックスと一緒に、村の入り口を通ったが、死体のようなものは何もなかったぞ」
と、エテンシュラは答える。
「となると、犯行時間帯は午後4時から午後5時って辺りね」
ギルコはエテンシュラの言葉を受けて、そう推理した。
「その時間、わたしはギルドで話し合いに参加していたかな」
ラムネは皆に弁解するように発言する。
「あたいはギルドに隠れていた。村長に会いたくなかったから」
ライアもラムネと同じように、言った。
「わたしもラムネと一緒に話していたわね。そうそう、エテンシュラとリッツさんにも会っている」
「午後5時前だと、オレは酒場、いや、カフェテリアにいたぞ」
エテンシュラの言葉を聞いたリッツは、
「ここにいるみんなはアリバイがあるのか」
と、小さく呟いた。
「そうもいえない。遺体の死亡時刻がわからない以上、遺体を運ぶことも――」
「いや、それはないと思う」
ラムネの意見に対してリッツは否定する。
「遺体の周辺には焼死体の焼かれた痕跡があった。つまり、村の入り口で不意打ち気味に火炎の魔法をかけられて殺された」
「遺体は運ばれていないか。となると、午後4時から午後5時に、ラドル村を出入りしたやつが犯人というわけか」
エテンシュラの言葉を聞いたギルコはギルドの掲示板に書き足す。
「遺体をもっと調べれば、情報を引き出せると思うんだけど」
「それはできないな。黒き山林が回収済みだろう」
ラムネの意見に対して、エテンシュラはそう返した。
「死亡時刻で割り出すよりも魔法を使う人物から考えた方がいいんじゃない」
リッツはそう主張すると、ギルコは頭を抱える。
「凶器は魔法か」
ギルコが言った魔法という言葉に、皆のカオが暗くなる。
魔法が凶器、それだけでは犯人を絞り出すことはできないと、ここにいる誰もが心の何処かで思っていた。
「ギルコ、ギルドの冒険者名簿を調べてくれないか? 魔法使いがいるかどうか」
「多分、調べてもムダだと思うけどね」
ギルコはライアに言われるとおりに、戸棚にあった冒険者名簿を手に取り、魔法使いがいるか探す。
「うーん、いないわね」
「ホントにいないの?」
「一ヶ月前に、ロゼストさんという魔法使いが来たけど、仕事の内容を見て、さっさと帰ったわ」
「そうか」
「現在、この村に滞在している冒険者に、魔法使いは何処にもいない。魔法を使える冒険者を探しても、魔法剣士は一名ぐらいで、後はいないね」
「魔法を使うヤツは貴重だからな。そうそういない」
エテンシュラはあきらめ気味に応える。
「もしくは魔法を使えるけど、使えないとウソをついている可能性は?」
ラムネはギルコに質問する。
「メリットがないわね。冒険者を探すために、自分の職業を明かすのが冒険者として当然だから。でも、元々、ルードを殺すつもりで、わざとウソをついていたということもあるけどね」
ギルコは冒険者名簿を戸棚に戻し、掲示板の前へと戻った。
「動機か」
エテンシュラは天井を見上げ、そんなことをつぶやく。
「ルードは盗賊団のかしらだ。色んな方面から因縁を持たれていてもおかしくない。しかし、アイツはそういう恨みを持つヤツらと戦ってきた。闇討ちでもうまく立ち回りできたアイツが急に殺されたなんて」
「しかも、昨日殺されたのでしょう? どうして急に?」
ラムネの質問に、エテンシュラはゆっくりと立ち上がった。
妙にうんうんと頷きながら、リッツの下へと足を運ぶ。
「リッツさん? ちょっといいかい」
「なんでしょうか?」
リッツは急に自分の方へと来たエテンシュラを奇妙に覚える。
「すげぇすげぇくだらないことだが、どうしても尋ねたいことなんだが――」
「もったいぶらずに言ってくださいよ」
「ああ、そうだな。単純な質問だ」
エテンシュラは一度咳き込み、リッツの目を見た。
「オマエさんが犯人かい?」




