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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
04 隠された魔術師
24/57

命令 04-01 村長代理の遊び人

 

 盗賊団、黒き山林がギルドにやってくる前、エテンシュラは酒場、スクランブルハートでルードを待っていた。

「退屈だな」

 シーリングファン、天井にある扇風機を眺めながら、だらしなく椅子にもたれていた。

 そんな退屈がやりきれなくなったのか、エテンシュラは酒場の女店員、パティに話しかける。

「……パティ、ルードは好きか?」

「嫌いです」

 エテンシュラは一旦間を置いてから言葉を足す。

「オレのことは――」

「大嫌いです!」

「そうか。まあ、そうだよな」

 エテンシュラはハハハと笑う。

「ここだけの話、パティはどんなヤツが好きなの?」

「どうしてそういう話をするのですか?」

「ヒマだから」

「ヒマって」

「おっちゃんもこういうガールズトークをしたいもんよ」

「話をしたいのなら、誰かと話してください」

「悪いけどいないんだよな」

 エテンシュラの言うとおり、酒場にはエテンシュラとパティ以外、誰もいなかった。

「この村を襲う。ルードの言った言葉を本気にしたのか、ローグのヤツらは朝っぱらからさっさととんずらかましやがった」

「本気だったの? あの男が言ったことは」

「本気も本気。ルードはやるときはやるからな。――で、なんでパティは逃げなかった?」

「逃げようと思ったけど、やっぱり、この店大切だから。冒険者が休める場所ぐらいあった方がいいでしょう」

「そうだな。オマエがいるおかげで、オレは商売できてるからな」

「それに、二人の妹を置いていけないから」

「……そうか。なら、オレもガンバらないとな」

 エテンシュラはテーブルに置いてあった袋を手に取る。

 テーブルの上に中身を出すと、金貨がジャラジャラと出てきた。

「オレのかき集めた全財産。これで話をつける」

 エテンシュラは机に伏せる。

「なのに、相手は未だに来ず。読みが鈍ったのかね」

 エテンシュラは村を焼き払う前にパティを口説くと思い、昼間からスクランブルハートに来ていた。

 しかし、ルードはここには現れず、エテンシュラは一人ふてくされていた。

 

 エテンシュラは金貨を袋の中に戻し、空っぽのコーヒーカップを見る。

「パティ、コーヒー」

「はいはい」

 パティはカウンターの奥に入り、コーヒー豆を探しだす。


 スクランブルハートは、夜は酒場であるが、昼はカフェテリアである。

 元々、パティはカフェをしたかったのだが、ヒトが集まらないために、夜は酒場をすることにした。

 酒場にしたことで冒険者が集まったが、同時にローグもやってくることになった。

 パティはローグが来客することに頭を悩ましていた。

 しかし、貴重なお得意様でもあるため、無下に扱うことはできずにいた。

 パティにとって、遊び人のエテンシュラもローグと同等であり、早い所、家に帰ってもらいたかった。 

 

 パティがコーヒー豆を探している間、エテンシュラはシーリングファンを眺めていた。

「もう少し早く回れよ」

 ぎこちなく回るファンを見て、くだらないグチをこぼしていた。


 パティがコーヒー豆をミルでいていると、カウベルが鳴った。

 冒険者が酒場に入ってきた。

「いらっしゃいませ」

 パティは笑顔で来客するが、冒険者は慌てた表情でやってくる。

「大変だ! 大変だよ!!」

「まったく、騒々しいな」

 エテンシュラは尋常じゃない声の冒険者が気になり、そちらの方へと振り向く。

「ギルドに盗賊団が来ている! 数えきれない数の!!」

「なんだと!!」

 エテンシュラはテーブルから立ち上がるとその場から走り出す。

「パティ! カネは払う!! あと、そのコーヒーはあとでもらうからな!!」

「ハイハイ」

 パティはエテンシュラの言葉を気にせず、淹れたばかりのコーヒーをカップに注ぐ。

「けっこう高いの淹れたのに」

 パティは淹れたばかりのコーヒーを口にする。

「どうして、男って、こういう苦いのが好きなのかな」

 パティはミルクと砂糖を入れ、甘くなったコーヒーを口にしていた。


 ※※※ 


 酒場から出てきたエテンシュラは大急ぎで走る。

 彼の視線はギルド『クローバー・エース』を捉えている。

「幾らなんでも早すぎる!」

 エテンシュラは少なくとも盗賊が来るのは明日の夜だと考えていた。

 今日の夜、酒場にルードが来なかった場合、村人達に村が襲われることを知らせるつもりだった。

「オレの読みが外れるなんて!! 鈍っちまったな!」

 エテンシュラは下唇をかみながら、自分の無能さを恨んでいた。


 ※※※


 数多あまたの炎が動く。

 炎はその場で立ち止まっているがギルドを燃やそうとうずうずしている。

 エテンシュラはその炎を見て、黒き山林が村を襲いに来たのだと理解できた。


 周囲を見渡すエテンシュラ、ギルドの周りにいたラムネを見つけた。

 ラムネはルルと一緒に、ギルドを眺めていた。


 ――あのコがいるのなら、ギルドにはリッツがいるのか?


 そんなことを思いつつ、エテンシュラはラムネから詳しい話を聞くことにした。

「ラムネ、何があった?」

 ふらふらしていたラムネはエテンシュラが話しかけてきたことに気づく。

「エテン?」

「とりあえず、知っていることを教えろ」

「ええっと、死体を見つけたら、盗賊団がバッってやってきて、ギルコが眼帯を見せたら襲いかかって!!」

「要領つかめねぇ!!」

「とにかく! 盗賊団の団長が殺されたの!!」

「ルードが殺されたのか!?」

「そうよ!!」

「どうして!!」

「知らない!!」

「なら、いいや」

 エテンシュラは困惑しているラムネにルードに関する情報は引き出すことができないと判断した。

「それで、今、どんな状態なんだ。あの中で何が起きている?」

「盗賊の数名がギルコを襲おうとギルドの中に入った。それでリッツさんがギルドの入り口の前にいるんだけど、中の様子を見ていて」

 ラムネに言われるように、エテンシュラはギルドの入り口を見る。

 そこにはリッツが盗賊団に感付かれないように、チラチラとギルドの中を見ている。

「ギルコはまだ生きているようだな」

「わかるの?」

「もし、命の危険に迫る事態なら、あの唐変木とうへんぼくでも中にはいるだろう。しかし、それがないということは、ギルコは何かとんでもない交渉をしたということだな」

「どんな交渉?」

「まともな交渉じゃないことは確かだな。何かきなくさい物を交渉材料にしているのだろう」

「その交渉材料って?」

「村にいるみんなの命」

「エテン!」

「それぐらい度の超えた取引が行われているんだ。それぐらいの気構えは持っておけよ」


 ※※※


 エテンシュラがギルドへやってきた数分後、盗賊団らがギルドから出てきた。


 ――あれはユウロか?


 先頭から出てきた黒き山林の副団長を見る。


 ――ルードはいない。

 ――となると、アイツらがやってきたのはルードを殺した犯人を探すためか?


 エテンシュラは推理していると、村長が彼のそばへと来た。

「村長」

 だらしなかったエテンシュラの顔つきが急に変わる。

「エテンか」

「お体の方は大丈夫ですか?」

 エテンシュラは礼儀正しい話し方をする。

「大丈夫大丈夫」

「それは良かったです」

 エテンシュラは深々しく頭を下げた。

「エテン。オマエに頼み事がある」

「なんでしょうか」

「村のことを任せたい」

「それは……」

「村長を譲るということではないぞ」

「いやいや、おたわむれはそれぐらいに」

「ワシが頼みたいのはワシの代理、ギルコに知恵を貸す役としてサポートしてほしいということじゃ」

「ギルコに?」

「イヤなのか?」

「いいえ、しかし、わたくしのような人間にその役は――」

「エテンシュラよ。もうじき、この村は大きな災いと衝突することになる。そのとき、災禍と戦う中心となる存在はギルコとなるだろう」

「ギルコが?」

「そうじゃ。この村を動かせるのは実質、ギルドマスターのギルコだけじゃ。そんなギルコを欺くのも守るのもオマエ次第」

「わたくしはそんなことをいたしません。天地神明てんちしんめい誓って」

「お前には期待しておる。お前にはな」

 村長はそういうと、エテンシュラから離れる。

「ワシは疲れた。後のことを任せるぞ」

「ハッ!」

 エテンシュラは挙手の敬礼をし、村長の後ろ姿を見送った。


「エテン」

 ラムネは未だに敬礼をするエテンシュラに話しかける。

「そっちの方が格好いい」

「うるさい」

 エテンシュラは元のニヤケ顔へと戻る。

「とかく、オレはギルドへ向かう。オマエも来い」

「ええ!? わたしも!?」

「そうだよ!! そいつも連れてな!!」

 エテンシュラはルルを指しながら、ラムネに連れてくるように言う。

「どうしてわたしが!!」

「この場にいる商人会メンバーはオマエだけだから知っておく必要がある。それに」

「それに?」

「オレがギルドの中で何が起きたのか話しても誰も信じてくれないからな」

「ああそうね」

 ラムネは納得し、それ以上、エテンシュラに追及することはなかった。


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