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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
03 ナマイキギルドの潰し方
23/57

交渉 03-11 ギルコさん、お得意の交渉術


 ライアの後ろからギルコがスルリと現れた。

「ギルコさん、奥にアタイがいたことをよく知っていたね」

「わたしは取っておきのアイテムで戦おうと思っていた」

「それはアタイか?」

「ノーコメント。それより、なんでギルドにいたの」

「ギルドで仕事がないか探していたら村長が来てね。どうも、あのヒト、苦手なんだよ」

「苦手だからって、カウンターの下に隠れることはないでしょう?」

「でもさ、それで助かっただろう?」

 ライアはイヤらしい笑みを浮かべる。

 ギルコはその笑みを拒絶するような表情をし、何も言わなかった。


 ライアは口角を広げながら、ユウロ達の前に立つ。

「それで、ギルコさん、この盗賊らを――」

「倒さなくていい」

「どうして? あいつらからやってきたんだろう?」

「わたしたちが手を出したら不利な状態、ここは一旦手を引くべき」

「しかたないね」

 ライアは納得いかない表情をしながらも、大剣を背中にある鞘へと戻した。

「ギルコさんの言うことだから信じるけど、一体、何を考えているんだい?」

「ルードが誰に殺されたのかを調べたい――」

「ギルコ!! オマエが殺したんだろう!!」

 二人の会話に割り込むようにユウロは言う。

「いいえ、違う」

「いや、違わない! それならどうしてオマエの手に眼帯があるんだ!」

 ユウロはギルコが持っている眼帯を指摘する。

「これは村の入口にあった焼死体から取ったもの。もし、必要ならあなた達に返すけど」

 ギルコは眼帯をかざし、ユウロに渡そうとする。

 ユウロはその眼帯を手にしようと手を伸ばすが、ギルコはその眼帯を手元に戻す。

「その代わり、村を襲わない。ギルドにも襲わない。これが約束」

「どっちが約束を破ったんだ? ギルド公認の盗賊も冒険者規則に守られている!」


 冒険者規則。

 冒険者が守らなければならないルールが書かれたガイドである。

 このガイドを破ったものはギルドの公認が取り消される。

 ただし、冒険者には対抗権、つまり、ギルドに対して冒険者の主張を言う権利が認められる。


「おかしらは誰かに殺された。その誰かはおそらくこの村にいる誰かなんだ!!」

「だからって、わたしが殺したという証拠はない」

「証拠なら必要ない。村人がおかしらを殺されたはずがない。すると、残されるのは冒険者のみ。冒険者を統括するのはギルドの仕事だ。したがって、冒険者をまとめきれなかったギルコさんの問題」

「だからって、すべてわたしのせいにするのはお門違いというものよ」

「じゃあ、誰がおかしらを殺したと言うんだ?」

「それは……」

 ギルコは言葉を濁らせる。

 さすがのギルコも誰がルードを殺したのかわからないようだ。


 沈黙するギルド、時は静かに流れる。

 ギルコは視線を泳がし、何かを考えているようだ。

 一方、ユウロもチラチラと取り巻きの目線を配っている。

 何かのサインをしているのか、と、ライアは観察する。


 ――ギルドの外には大勢の盗賊達がいる。

 ――あたいが相手もしてもいいが、少しキツイ。

 ――一騎当千という言葉に憧れるもんだけど、ここはみんなが住んでいる村だ。

 ――村を焼かれたら元も子もない。

 ――ここは一度手を引くのが得策だろう。


 ライアの算段が決まる。

「なあ、アンタ。ここはギルコさんに任せてみないか?」

 ライアはこの村のために助け舟を出すことにした。

「なんだと?」

「ギルコさんはそりゃドケチで、守銭奴で、それはいつもいつもカネばかり考えている――」

「そこまで言う?」

 ギルコはライアの言葉に入り込むように言うが、ライアは気にせず言葉を続ける。

「が、幾らカネに汚くても、ギルドマスターとしての気高い資質ってヤツは備わっている。私利私欲に動かず、公平無私こうへいむしにやってくれる」

「いったいオマエは何を狙っている」

「依頼だよ。黒き山林の団長を殺したヤツを見つけてくれ、と、依頼を出してくれ」

「むちゃなこと言うなよ。目の前に殺人鬼がいるというのにか?」

「ギルコさんが殺したとしようか。動機は何?」

「それは……」

 ユウロは言葉を濁し、それから先の言葉が言えない。

「ギルコさんを信じてもいいんじゃないか?」

 ライアは諭すように言うが、ユウロは言葉を探すように何かを言いかけては何も言わない。よほど、納得できないようだ。


 ユウロが逡巡を繰り返す中、ギルコは口を開いた。

「ユウロさん。あなた達、黒き山林をギルド公認の盗賊からの脱退を命じます」

 それは蒼天の霹靂へきれきとも言える一言だった。


 ※※※


 冒険者規則、ギルドマスターは理由なく冒険者からギルド公認を取り消すことは許されない。

 相応の理由を持たない限り、冒険者からギルド公認は取り消されることはない。

 

 元々、盗賊団がギルドを襲った理由は、ギルコがルードの遺品である眼帯を見つけたことから始まった。

 ユウロの勘違いによって、ギルコは殺されかけた。


 もし、ギルドマスターであるギルコが殺されたのであれば、盗賊団はギルド公認を取り消される案件となる。しかし、ギルコはライアのおかげで生き延びることができ、未遂で終わった。

 だが、これ以上の盗賊団を傷つけることは過剰防衛となり、ギルドマスターの問題となる。


 ギルドと盗賊の間で不可侵条約を結んでいる。

 ギルコが冒険者に盗賊団を倒すことを依頼することは、ギルドマスターの裁量を超えた越権行為となる。

 また、盗賊団からギルド公認を取り消すことも、ギルドマスターとしては越権行為となる。ギルド公認が消されるということは、冒険者のターゲットにされることになる。盗賊団は冒険者からハンティングされる獲物となるのだ。


 つまり、ギルコは自分の身に危険が迫ったことで、ギルドマスターとしてしてはいけないことをした。

 ギルコはギルドが定めた規則を自ずと破ってしまったのだ。


 ※※※


「――ギルコさん!!」

 ライアは驚く。

 だが、ギルコはカノジョに構わず、話し続ける。

「でも、もし、この村の誰かがあなた達の団長を殺したことが分かれば、それを取り消します」

 ライアは「なるほど、ギルコさん、お得意の交渉術か」と、勘付いた。


 ギルコは開口一番に彼らからギルド公認の盗賊団であることを取り消すと言った。

 これによって、彼らはギルコと交渉しなければならず、同時に、デメリットを負うことになった。

 

 黒き山林がギルド公認を剥奪はくだつされる理由はギルドマスター、ギルコの傷害未遂にある。

 しかしながら、黒き山林にも団長、ルードが殺されたという正答な理由がある。

 そのため、彼らは対抗権を振るうことができ、ギルドと交渉できる。


 そこで、ギルコは交渉の材料として、ルードを殺した犯人を探しだすという約束を取り付ける。


 ――ルードが村の誰かに殺されたとしたらギルド公認の盗賊団でいられる――

 ――ルードがそれ以外の誰かに殺されたとしたらギルド公認が取り消される――


 ユウロはルードを殺したのはギルコだと思い込んでいる。

 ユウロの考えが正しければ、狼藉を働いたことが不問となった上で、ギルド公認の盗賊団でいられる。

 また、ギルコ以外の者が犯人であっても、村の誰かであれば、ギルド公認の盗賊団で居続けられる。

 黒き山林の誰かが犯人ではない限り、どちらに転んでもデメリットはないのだ。


「なるほど、それが取引か」

「どうかしら?」

 ユウロはこくりと頷き、数人の盗賊の取り巻きと一緒に話しあった。


 しばらくして、ユウロは納得いかなそうなカオをしながらも無理やり笑みを浮かばせた。

「わかった、ギルコさんの取引に応じる」

「ありがとう」 

「勝手にあばれたことは事実だからな。ギルコさんの取引にのってやる。――が、一つ確認したいことがある」

「何かしら」

「犯人を探しても見つからなかった場合、この村を襲う」

「待てよ!!」

 ライアは叫んだ。

「村の人間以外とは限らないだろう!! 冒険者か旅人が殺した可能性だってある!!」

「村の誰かはこの村に立っているヤツが対象だ。冒険者もローグも旅人も数に入れている。俺達は言うまでもなく対象外だがな」

「だとしても、盗賊団の裏切り行為も考えられる」

「それはねえ!!」

 ユウロは叫びあがる。

「あのヒトに殺されることがあっても、オレらが殺すことなんて絶対ねぇ!! 寝言は寝てから言いやがれ!! わかったか!!」

 あまりに大きな恫喝どうかつに、ライアとギルコはすくんでしまう。

「わりぃな、ちっと、驚かしたな。――しかし、犯人はきっとこの村にいるんだ。ぜってぇ、無念を払ってやるんだからな」

 ユウロはルードと約束するように、静かに呟くのであった。


「おい帰るぞ」

 ユウロは取り巻きと一緒にギルドを後にしようとする。

「ギルコ。三日だ。三日経って、犯人がいなかったらこの村を襲うからな!!」 

「わかったわ」

「ギルコさん!!」

 ライアは言った。

「だいじょうぶ、犯人はいるわ。死体は他殺とわかった上で言っているから」

 ギルコはライアをさとすようにやさしく言う。

「死体か。――ギルコ、その死体は俺らの方に回収させてもらうぞ。ちゃんと埋葬させてやりてえからよ」

「わたしがダメと言っても、あなた達は止めないでしょう?」

「まあな」

「なら、持って行ってよ。ちゃんと墓を作ってね」

「ギルコさん!! 死体から何か見つかるかもしれないのに渡してもいいの!!」

「死体は隅々まで確認したからいい」

「ライア、ギルコさんがそう言ってるからいいだろう」

 ユウロはライアをずっと見つめ、ギルコは大丈夫という笑顔で応える。

「……ギルコさんが言うのなら」

 ライアは死体からもっと何かが発見できると思ってたが、ギルコの笑顔に負けて、そう応えた。

「ありがとう」

 ユウロからの感謝の言葉がイヤに耳障りに残った。

「ギルド公認をもらったんだ。これは面白い。犯人が見つからなくても、ギルド公認の村の焼き討ちは楽しそうだ」

 ユウロはあざ笑う中、ギルコは彼と事務的な話をする。

「待ち合わせの場所は?」

「このギルドだ」

「時間は」

「夜」

「了解。ちゃんと約束守ってよ」

「そっちこそ、三日後までに犯人の首を用意しとけよ」

 ギルコは眼帯を差し出すと、ユウロはその眼帯を手にする。

 ユウロは焼け焦げた眼帯をやさしく撫でながら、取り巻きと共にギルドから立ち去った。


 ※※※


 ギルドを取り囲んでいた火が山へと戻る。

 盗賊団は村を襲わずに、帰っていく。

 ギルコとライアはその火を見ながら、ギルドにある椅子へと座った。

 

 ライアはゆううつそうに椅子に身体を預ける。

「さて、そこで壁にもたれているヤツ」

 ギルドの外側でずっと待機していたリックが現れる。 

「ボクのことですか?」

「いつから居た?」

「カウンターをぶっ壊した辺りから」

「そういう所は見てほしくなかったんだけどな」

 ライアは足を組み、ハハハと笑った。

「それでオマエの名前は?」

「リッツ」

「あたいはライア、このギルドにお世話になっている。どんな仕事でもやる賞金稼ぎバウンティーだ」

「バウンティーか。たくましい身体をしているな」

 ライアの身長は平均的な男性の身長より高めで、身体は筋肉でできている。

 ゴツゴツした体つきであるが女性の曲線も保っている。カノジョはまさしく戦の女神と言ってもいいだろう。

「なんなら一度試してみるかい」

 ライアは椅子の横に置いた大剣を手にする。

「ゴメンだけど、ボクは戦闘ができないから」

「なんだ。ただの旅行者か。つまらないね。今、アタイは無性に身体を動かしたい気分なんだけどな」

 先ほどの交渉でだいぶストレスがたまったのだろうと、リッツは察した。


「さて、これからどうしようか」

 リッツもギルドにある椅子に座り、話をすることにする。

「三日後には盗賊団が確実に村を襲ってくる」

「コダールから助けに行くとしても、三日後の夜だとしたら無理だな。」

「となると、傭兵に力を貸してもらうのが現実的だな。あたいはアイツらとは会いたくないんだけどな」

「知り合いなのか?」

「メシを食わせてもらっていたからな。スゴい剣術を使うヤツらが集まっているぞ」

「それなのに、ライアさんはバウンティーなんか?」

「傭兵を雇う所が少なくってなってな。腕がなまるとイヤだから、バウンティーになったんだ。カネも稼げて、色んな所から融通が効くからけっこう楽しいぞ」

「そうですか」

「アイツらの腕は確かだ。黒き山林が相手でも撃退できるだろう」

「撃退? 殲滅せんめつじゃなくて?」

 リッツは冗談のつもりでそういうが、ライアは重いカオをする。

「アイツらはただの盗賊じゃない。あたいの大剣をかわした身のこなしからして、何か本能的な強さというのを感じる」

「本能?」

「何か欠けているくせに、何かを埋めあわせしようとしている技術と経験を積み重ねた本能ってヤツを感じた。騙したと思ったら騙し切れない。トリックを仕掛けても解除してしまうあざとさを感じた」

「ああ、つまり、ずる賢いってワケね」

「ずる賢いというよりもずる強い。頭も身体を動かして戦っている。だから、早い所、こっちも手を打たないと色々とマズイかもしれない」

 ライアはギルコの方を向く。

「ギルコさん、ギルドの仕事だ。早いところ、傭兵を呼んで」

 ギルコはライアの言葉に耳をかさず、ずっと下を向いている。

 ユウロ達が帰ってから、そのままだった。

「ギルコさん?」

 さすがのライアも心配そうに声をかける。

 すると、ギルコの口がゆっくりと開いた。

「ゴメン、呼べないの」

「呼べない? 傭兵が?」

「どうして?」

「わたしが認めちゃった」

「認めた?」

「わたしがギルド公認で村を襲うことを許したから、傭兵はもう呼べないの」


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