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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
03 ナマイキギルドの潰し方
21/57

謎 03-09 足止めの焼死体

 遺体損壊の残酷描写あり。


 夜、リッツはルルと一緒に羊飼いから貸してもらった馬に乗った。

「ニィニィ、どこにいくの?」

「コダールだよ」

 二人を乗せた馬はラドル村を駆け抜けていった。


 ※※※


 ラドル村の入口に着くと、馬は止まってしまった。

「おい、動け」

 リッツが呼びかけるが、馬は応えない。


「何か見つけたみたい」 

「何を?」

「わからない」

 リッツは馬から降りて、馬の視線を追う。


 ――真っ黒な何かがいる。

 ――その何かに動物たちが群がっている


 リッツは馬に付けていたランプを手にする。

 動物達はその場から去っていき、残された真っ黒を目にすると、リッツは口を抑える。

「何見たの?」

 リッツは応える。

「焼死体」

「しょうしたい?」

「ああ、何かに焼かれた死体があった」


 リッツは焼死体を観察する。


 鼻から漂う焦げの匂い。

 生ゴミを焼いたような臭さが広がる。


 死体は全身を焼かれている。

 皮膚はただれ落ち、骨がかろうじて残っている。


 焼死体に触れる。

 カサカサとした感触、けれど、まだ水分が残っている感じがする。

 急激な温度で焼かれたのか、焦げがゆびを貼り付いてくる。

 まるで殺されたことに恨みを持った男の無念のような粘りがゆびさきから伝わってきそうだ。


 焼死体の全身を見る。

 服は丸焦げになっているが、手袋や靴はまだ残っている。


 手袋を調べる。

 かわのてぶくろ、一般的な冒険者が使用するてぶくろだ。

 所々、破れている所からかなり使い込んでいる。

 できれば手袋を外して、名前があるか確認したい。

 だが、冒険者の手袋は本人ものとは限らない。

 物取りの多いこの大陸では、誰のものが判別しにくい。

 冒険者のアイテムは他の冒険者が使ってもいいというギルドの慣習があるのもそのためだ。


 靴を調べる。

 革の靴、一般的な冒険者が履く靴。

 靴底には黒くてネチャネチャした土が張り付いており、あまり触りたくない。

 

 全身を調べる。

 服はボロボロ、どんな人間が来ていたのか、判断できない。

 鍛えられた筋肉から見て、死体は男であり、年齢は20代から30代のようだ。

 しかし、どんなカオをしていたのかわからない。カオの損壊も激しく、この遺体は誰なのか判断できない。


 焼死体の周りを見る。

 焼かれた土の跡が焼死体の周囲しかない。

 同じ靴跡がいくつもある。

 自分の身体が燃やされたことがよほど苦しかったのだろう。

 

 リッツが焼死体に気にかけていることに苛立ち、ルルは話しかけてきた。

「何、考えているの?」

「いろいろ」

「焼死体が何を語っているの?」

「何も語っていない。もし、語っていることがあるとしたら、火炎系魔法で焼かれたことぐらい」

「どうして、それがわかるの?」

「無防備のまま火ダルマになって死んでいる。何が起きたのかわからず、その場で暴れている」

「ダイイングメッセージとか書いている?」

「それもできないくらい、火炎の渦に飲まれて死んだのだろうね」

「ふーん」

「でも、これでわかったことが一つある」

「わかったことって?」

「人間をその場で燃やせるぐらいの魔法使いがあの村にいるよ」


 ※※※


 リッツとルルは一度、ギルドに戻ることにした。

 このまま、コダールに行ったら、焼死体を殺したのは自分たちだと疑われる。

 それに、ギルコに焼死体があることを早い所、知らせた方が良いと思ったからだ。


 ギルドに辿りつくと、ギルコは商人会のメンバーと話し合っていた。

「ギルコ?」

 リッツとルルがギルドの中へ入る。

「リッツさん? どうしたの? コダールに行かず?」

「実は、焼死体を見つけて」

「焼死体? 誰の?」

「それがわからないぐらい焼け焦げていて……」

「盗賊のメッセージ?」

 商人会にいた若い少女が言う。

「誰? あの子」

「道具屋のラムネ・シロップ。酒場にいるパティ・シロップ、武器屋のバター・シロップとは姉妹で。カノジョはその三姉妹の中で一番下のコよ」

 ギルコがラムネを紹介すると、カノジョは軽く頭を下げた。

「ねえ、焼死体の正体は村人なの? オレらに逆らうヤツはこうするぞって、脅しているの?」

 ラムネはリッツに話しかける。

「村の入り口に焼死体があった。それしかわからない」

 リッツの話を耳にしたラムネは動き出した。

「わたし、見てきます!」

 ラムネはギルドから飛び出すように走ろうとする。

「待って」

 ギルコはラムネを呼び止める。

「わたしも行くわ。わたしが検視した方が早いわ」


 ※※※


 商人会のメンバーとルルをギルドに残し、リッツ、ギルコ、ラムネはラドル村の入り口へと向かった。

  

 三人は歩いてラドル村の入り口に着く。

 そこにあった焼死体を目にする。

「あわわわわわわ~」

 ラムネは後ろに下がり、見てはいけない物を見たような表情をする。

 一方、ギルコは死体の検視をするための準備を始める。

 メモ帳、薄い手袋、小瓶などなど様々なアイテムを道具袋から取り出した。

 薄い手袋を付けると焼死体に近づく。

 頭、腹、手、足、と、くまなく調べる。

「一気に、丸焦げになったような姿、魔法でも使わない限り、こうはならない」

 ギルコは焼死体の様子をメモする。

「魔導具を間違っていて使ったワケでもないみたいね」

 魔法アイテムの使い方を間違えて、使い手が死んでしまう事例も存在する。

 アイテム鑑定の必要性があるのはそのためだ。

「どうして魔導具を使ったと考えている?」

「高度な魔術師いなら消し炭にできるはず、でも、この焼死体はカタチを残している」

 ギルコは小瓶に黒いすすのようなカタマリを入れる。

「わざと残しているのじゃないか?」

「かもしれないわね」

「ギルコは魔導具でコイツが自殺したと考えているのか?」

「魔導具で殺されたと考えている。この村で魔法を使える冒険者は今のところ、見ていないから」

「エテンシュラのヤツもそう言っていたな」

「そういうこと。あとはこの焼死体は誰なのか。ここまで焼かれると判定することは難しいわね」

 ギルコは小瓶へ黒いカタマリを入れる際についた粘着性のあるものを手袋から剥がしていると、ふと、何かを見つける。

「これは……、眼帯?」

 ギルコは焼死体の右目にあった眼帯を手にする。

 眼帯は燃えた跡があったが、かろうじて形状を残していた。

 ギルコは眼帯に付着したすすをぬぐい、その感触を確認する。

「これで正体がわかるかも」

 焼死体の両目を閉じさせると、ギルコはニンマリと笑みを浮かばせた。


 ※※※


「検視はこれくらいかな」

 ギルコは手袋を外すと、村人がこちらへとやってきた。

「大変だ!! 大変だ!!」

 慌てふためく村人に違和感を覚えた三人はそちらへ振り向く。

「どうしたんですか?」

 ラムネは村人に話しかけると、村人は大声で叫ぶ。

「盗賊団がギルドにやってきたぞ!!」


 2014/08/29 加筆修正

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