労働 03-06 働く。
昼、リッツとルルは種まきをしたばかりの畑で横になっていた。
「疲れたー」
「つかれたー」
二人は疲れを口にする。
「なんでクローバーの種なんて植えているんだろう」
「それはな、四年後に小麦を育てるからじゃ」
ルルの疑問に、地主のおじさんが答える。
「ユセラ王国の寒冷地ではな、四年周期で田畑の作物を変えているんじゃ。大麦、クローバー、小麦、かぶ、をな。今年からクローバーを植えることで、四年後の小麦を植える畑を育てようとしているんじゃ」
「初耳ですね」
「クローバーにはモノを元気にさせる力がある。羊や牛がクローバーを食べるために元気に駆けまわってくれる」
「休耕地にするのですか」
「そうだ。元気な土地にするためには、休むことが必要。人間はいつまでも走り回ることもできない。土も人間も同じように調整しないとな」
畑の地主のおじさんは持ってきたバスケットから何かを取り出す。
「おつかれさま、これは差し入れだ」
バスケットの中にはサンドイッチが入っていたようだ。
「いいのですか?」
「ええよ。冒険者が手伝ってくれて感謝しとるよ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「いただきます!」
リッツとルルはサンドイッチを口にする。
適量の塩がかかったトマトとレタスのサンドイッチ、噛みしめる度に野菜のみずみずしさが口に広がる。
「おいしい!」
ルルは喜ぶ。
「けっこういけますね! これ!」
リッツも喜ぶ。
「とっておきのサンドイッチだからな。まだまだあるぞ」
「ありがとう!」
ルルはサンドイッチを頬張り、嬉しそうなカオを浮かべた。
「楽しそうじゃな」
リッツは聞き覚えのある声を耳にする。
「村長」
ラドル村の村長が三人の前にやってきた。
「どうしてここに?」
「ただの見回りじゃ。こうして歩いていないと不安でな。ところで二人は何をしとる?」
「農作業の仕事を請け負ったので」
「農作業? 冒険者なのにか?」
「ギルドにはワーカー用の仕事しか残ってなくて」
「そうかいそうかい。すまんのう、冒険者の仕事はなくてのう」
「ええ、引き返しの森がなければ、冒険することができたかもしれませんが」
「聞いたのかい?」
「はい、ギルコから聞きました」
「そうかそうか。引き返しの森はな、ワシらがユセラ王国から逃げてきた時からあってのう。これ以上先に行けないと思って、ここで村を作ることにしたんじゃ」
「村長はユセラ王国の人間なのですか?」
「この村にいるほとんどはユセラ王国の民じゃよ」
「そうでしたか」
「ラドル村は第二のユセラ王国であり、故郷じゃよ。この村がなくなれば、ワシらはもう何処にも行く場所がないのじゃ」
村長は寂しそうにそんなことを言うのであった。
リッツは村長の言葉に苦い表情を浮かべていた。
リッツは昨晩、大盗賊団、黒き山林の団長が言った言葉を思い出していた。
「この村を潰したい」
近日中にはこの村は潰される。それまでにボクはどうするべきか。
リッツは悩んでいた。
――ラドル村を守るかそれとも見捨てるか。
リッツは自分の目的をルルの記憶探しの旅と公言している。
ラドル村とは一切何の関係もない。
むしろ、この村を守っても得することなど何一つない。
ムダに命を散らすよりも、逃げた方が得である。
とはいえ、ラドル村の人々からお世話になっている。
今もこうしてサンドイッチをふるまって、それを美味しく頂いている。
――そんな彼らを見捨てていいのだろうか? 村人を逃すだけの時間は作れるのではないか?
――だが、もし、あの言葉がウソだとしたらどうする? 余計な不安を煽るのではないか?
リッツの悩みは募るばかり、納得する答えが見つからずにいた。
「そういえば、リッツさんや。ギルコはどうじゃった? うわさ通り、ドケチじゃったろう」
いきなり村長から話しかけられたリッツは思ったことを口にする。
「いえ、地図を高値で売ってくれました」
「高値じゃっと?」
村長は目を見開き、驚いた表情をする。
「そうか。あやつ、ワシの教えどおりに」
村長はぶつくさとひとりごとをいう。
「リッツさん、その地図は何処にあるのかのう」
「ギルコに渡していますので、多分、そこに」
「そうか。ありがとうのぅ。ギルドに行った時に、お主の地図を見せてもらうとしよう」
村長はそういうと彼らのそばから離れた。
リッツは心にあった葛藤の末、ある決意を決めた。
――この村が盗賊に襲われる。急いで逃げる準備をしてください。
そう助言しようとし、リッツは村長の後を追いかけた。
※※※
リッツは荷馬車と一緒に歩く村長の姿を見つけた。
「村長、実は!」
荷馬車に乗っていた村人が村長に話しかける。
「村長さん、村長さん、風車小屋の件で話があるのでよろしいでしょうか」
「ああ、はいはい」
村長は荷馬車に乗り込み、荷馬車は動き出す。
リッツと村長の距離は次第に、離れていった。
※※※
リッツはとぼとぼと帰ってきた。
「村長と話ができなくて残念だな」
地主のおじさんがリッツを慰める。
「村長は忙しいからな。毎日、村中を巡って、村の様子を確認している。村長がああして村を回ってくれることでこの村は安心して生活できる」
「そんなに村長はスゴいのですか?」
「スゴいってわけじゃないが安心できる人間だよ」
「村長は昔、何をやっていたんですか?」
「この村で過去の話を持ち出すのは禁止だよ」
「タブーなんですか?」
「そうだ。この村は帝国から逃げのびた人間が作り出した最後の故郷なんだよ。戦争でこどもや親をなくした人間が多い、無理して過去をほじくっても悲しいだけだ」
「……失礼しました」
「わかってくれたらそれでいいよ」
おじさんは両手を広げ、身体を伸ばす。
「さて、仕事を再開しようか」
三人は農作業の仕事へと戻るのであった。
※※※
昼下がり、リッツはギルドへと戻ってきた。
「ギルコさん、仕事したよ」
「ルルちゃんは?」
「牧場で羊と一緒に寝たいって」
「そうですか」
「それで、ギルコさん、仕事が終わったので報酬金をもらいたいのですが」
リッツは依頼主のサイン入りの依頼状を渡す。
このサインは仕事が完了したことを意味し、ギルドに対して報酬を請求できる権利書となっている。
「はい、承りました」
ギルコは引き出しから手早く金貨を並べた。
リッツはカウンターに出された報酬金を確認する。
「80ゴールドですか」
「日払いはこれぐらいしか」
「ありがとうございます。大切に使わせてもらいます」
リッツは特に口出しすることもなく、礼を口にした。
「ところで、村長来ましたか?」
「ええ、地図を貸して欲しいって、村長に何か?」
「いや、なんでもありません」
リッツはそれ以上何も言わなかった。
不意に話が途切れる。沈黙が不気味に思えた。
「えっと」
特に話すことのがなかったリッツであったが話題を探そうとした。
すると、ギルコは話を切り出した。
「村長は良いヒトですよ」
「え?」
「村長は良いヒトです。わたしが困っていたら、村長はいいアドバイスをくれました。冒険者が来ないのなら、村のために働くと良い助言してくれました。あのヒトがいたから、クローバーエースはここまでやってこれた」
「そうですか」
「あのヒトがいるからこの村は安心して暮らせます」
リッツはどんなときでも笑っていた村長のカオを思い浮かべるのであった。
しかしながら、そんな笑顔もすぐに消えてしまう。
「ギルコさん!」
緩やかな昼下がりの時間を壊す男の声、エテンシュラの声だった。




