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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
03 ナマイキギルドの潰し方
16/57

対話 03-04 無職の空白期間が埋まる時


 エテンシュラとルードのケンカは、意外なカタチで幕引きとなった。火薬のような音を耳にしたことで、ルードは酒場から出て行ったのだ。


 エテンシュラはその音を出したのはリッツだと思い、彼のテーブルへと戻った。リッツの足下にあった黒いシミを確認すると、彼はニヤけた。

「どうして、あそこで火薬玉を使った?」

「火薬玉は村や町の警備兵の呼び出しに使う代物だ。冒険者は笛がない時に、よくこれを代用して警備兵を呼ぶ」

「確かにそういう慣習があるな」

「しかし、あそこまで効果があるとは思わなかった」

「ルードはめんどくさいのが苦手なんだよ。予定になかったものが現れると一気に不機嫌になる。その代わり、自分に都合のいいものが来れば機嫌が治る。気分屋なんだよ、アイツは」

「それでボクが火薬玉を使ってわかったんだ?」

「ケンカを止めたがるのは酒場の店員ぐらい。ローグはケンカを煽り、冒険者はケンカから逃げたがる」

「へぇ」

「それに火薬玉特有の煙が鼻にしみる。ルードはそれに気が付かなかったが」

 エテンシュラの言うとおり、酒場の中は火薬の特有の匂いが充満していた。

「大した推理力だな」

「いやいや、ホント、助かったわ。礼を言うわ」

「酒の代金を払うヒトがいなくなったら困るって話だ」

「言ってくれるな、おい」

 リッツの軽口に、エテンシュラは喜んでいた。


「それでどうする? あの盗賊団のかしらはこの村が襲うと言っていたが」

 リッツの質問に、エテンシュラは両手をあげる。どうやら、お手上げのようだ。

「逃げちゃおうか?」

「ボクらはいいけど、村の人間はどうするんだ?」

「それは困るな」

「やっぱり、あなたは根っからの悪党じゃない」

「そうか? おっちゃん、けっこう悪いことしているよ」

「ギルコが嫌いなのに、村は好きなんだな」

「村が好きってワケじゃない。ただ、この村を守りたい」

「殊勝だね」

「酒が飲めるからな」

「さっきの言葉、取り消す」

「酒が飲めるだけで幸せなんだよ」

 エテンシュラは泡の消えたビールを口にする。

 ゴクリと喉を動かしたが、それ以上、喉を動かすことはなかった。


 エテンシュラはビールの残ったジョッキを戻すと、リッツは話しだした。

「やっとわかったよ」

「何が?」

「ボクはあなたと気が合わない」

「そうか? 相性バツグンだと思うが」

「ギルコを潰してどんな意味がある?」

「ギルドがお金を動かして、この村が大きく開拓される。守りすぎなんだ、ギルコは。守りに入っている」

「ボクにはそう思わない」

「どうしてだ?」

「地図を買い取ってくれた」

「幾ら?」

「5000ゴールド」

「ほう、そりゃ大金だ」

「ギルコはお金のなかったボクらにとって命の恩人だよ。ギルドは潰させない」

「オレに言うか? それ。言うべき相手は他にいるが」

「少なくともあなたは信じられない。目的がわからない」

「ギルドを潰したい。村は守りたい。オーケー?」

「矛盾している」

「ギルコと違うギルドマスターがギルドをやってほしい」

「そういうことならわかるが、そんなにギルコはギルドマスターに向いていないのか?」

「ギルドは冒険者のためにある。村のためのギルドじゃない」

「『クローバー』には農民の意味がある。この村を耕す意味だと考える」

「そうだよな! やっぱり、そう思うよな」

 エテンシュラは壮絶に笑い出した。

「やっぱ、おもしれえよ、あんた」

「ボクは面白く無い」

「無職で悪知恵が働く冒険者。謎にもほどがある」

「5000ゴールドは悪知恵で稼いだというのか?」

「そうしか考えられないな。その地図は何処の洞窟だ?」

「答えるか」

「ルルちゃん応えてくれる?」

 エテンシュラは寝ているルルを呼びかける。 

「妹をダシにするな」

「おっとゴメンゴメン」

 きつく睨みつけるリッツに対して、エテンシュラは軽く頭を下げた。

「オマエさんの正体掴んでみたい。きっと、面白いことになりそうだ」

 エテンシュラは楽しげに笑うと、両手をあげて立ち上がった。

「よーし、オレも久しぶりに働くか」

「冒険者? それともローグとして?」

「冒険者として働くに決まっているって」

「冒険者ならギルドを憎むなんてあってはいけない」

「オレはギルドを憎んでいない。ギルコを憎んでいるわけじゃない。むしろ、愛している」

「愛してる?」

「ギルコはギルドマスターの器じゃない。好き勝手にお金を使っていて、村人をひいきしている。この村にいる冒険者が減っているのは、カノジョの仕事が悪いからだ」

 エテンシュラは両手を広げ、リッツに辺りを見渡せと合図する。


 リッツは酒場を見渡すと、ならず者たちが自分たちを見ていることに気づく。

 ねたみとひがみの視線が交差する。

 自分と相手を見比べて、彼らは劣等感を覚えている。

 彼らにとって自分を誇示するものはお金のみ、どんな方法でもギルドからカネをせびれば、自信となる。 

 リッツはそんなイヤな空気を肌身で味わった。


「こんなヤツらと差しでやっているんだ。どんな手を使ってでも、ギルコを騙そうと考えている」

「……騙す」

「もっともギルコはそんなヤツらに騙されず、きちんと仕事やってるんだけどな」

 エテンシュラは両手を広げるのをやめると、ポケットから何かを探し出す。

「ギルコは普通の女のコに戻るべき、もっとバランスの取れるヤツがギルドマスターをすべきなんだよ」

 エテンシュラのポケットからジャラジャラと金貨が鳴る音がした。

 どうやら、会計をするつもりのようだった。


 金貨の音につられるように、ルルが起き上がった。 

「ニィニィ、ご飯?」

 リッツは寝ぼけているルルの言葉に答える。

「食べたよ」

「えぇ~」

「食べたよ」

 二人が楽しげな会話をしているとエテンシュラはぬののふくろを取り出した。


「さて、会計はオレがやるよ。今日は楽しかった」

 エテンシュラは金貨の入ったぬののふくろを見せびらかす。

 しかし、リッツはそんなエテンシュラの話を聞いていない。

 それもそのはず、今朝方けさがた、滝つぼの洞くつでなくしたぬののふくろが彼の手元にあることに気づいたからだ。

「それは何処で?」

「ああ、これはな。滝つぼの洞くつの前で拾ってな。中に入っていたアイテムを売ってから、財布代わりに使っているんだ。いいものだろう」

「……火薬玉入っていなかった?」

「火薬玉あったような、なかったような。……あ」

 察しのいいエテンシュラは目の前に所有主がいることに、気がついた。


「これはこれはすいません。持ち主がいたなんて」

 エテンシュラは頭をかきながら、頭を下げた。

「別にいい。冒険者が落としたものは別の冒険者が使ってもいいという慣習があるからな」

「そういってくれると助かりますよ」

「だけど、ボクの気が済まない」

 リッツはひとさしゆびを立てる。

「一発だけ一発だけ殴らせてくれないか?」

「おっちゃん、身体が弱いのよ」

「だいじょうぶです。妹が殴るから」

「そういうことならそれでいいよ」

 エテンシュラは小柄なルルなら殴られても、そんなに痛くないはずだと判断した。


 リッツはルルの耳元で話しかける。

「ルル、全力でこのおっさんを殴ってやれ」

「ルル、暴力反対」

「腕が回っているぞ」

 リッツの言うとおり、ルルは片手をグルグルと回していた。

「ニィニィの頼みだからやる」

 ルルはエテンシュラの前に立つ。

「嬢ちゃん、あまり手を回転しない方がいいよ。手が脱臼だっきゅうして、そのまま腕がもげちゃうから」

「わたしはそこまでこどもじゃない!」

「ゴメンゴメン」

 エテンシュラは無意識にルルを発破に掛ける。

 それでルルは火がついたのか、エテンシュラを全力に殴りにかかる。

「ウリャャァァァ!!」

 少女とは思えない奇声が酒場で響き渡る。

「オゥゥアァアア!?」

 エテンシュラはその場で吹き飛び、酒場にあった酒樽に突っ込んだ。


「何があったんですか!?」

 先ほど、ルードに代金を求めて追いかけていたパティが帰ってくる。

「おいしいぶどう酒が飲みたくて、我慢できなくてね……。ガクリ」

 エテンシュラは持っていたぬののふくろを店員に渡すと意識を失った。


 ※※※


 リッツとルルは酒場を後にする。

「さて、宿屋に急ごうか」

「何処にあるか知ってる?」

「ギルドにでも聞くよ」

「ギルドってなに~?」

「無職の期間の長いボクが仕事をもらう場所だよ」

 リッツはルルにやさしく話しかけたようにそう言った。

 

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