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ギルコさんは欺けない  作者: 羽根 守
03 ナマイキギルドの潰し方
14/57

会話 03-02 遊び人と魔法剣士と無職


 男が酒場のテーブルにつくとリッツは尋ねた。

「何者ですか? あなたは?」

「エテンシュラ。遊び人をやっている」

「遊び人?」

「おっと、命のやり取りの最中でも遊んでいるヤツじゃないぞ。そこらへんはちゃんとわきまえている」

「そんな遊び人いますか?」

「世の中、広いからな。適当な呪文を言って、スゲエ魔法を出す遊び人がいる。もっともそいつらは胃がやられて、賢者の職をやめた遊び人だけどな」

 ハハハと笑うエテンシュラにつられて、リッツも笑ってしまった。


「そんな遊び人がいたら会いたいですね」

「目の前にいるだろう?」

「ウソでしょう?」

「うそうそ」

「ハハハ」

 心をガードしていたリッツがいつの間にか、笑顔を許していた。

「あんたの名前はなんていうんだ?」

「リッツ。こいつは妹のルル」

「ルルちゃん、こんばんは」

 ルルはチラ見すると、うんと頷くだけで、食事を続ける。

 すると、エテンシュラは何を思ったのか、手を口に寄せる。

「コケー! コケコッ! コケコッ!!」

 相手にされていなかったことに寂しがったのか、エテンシュラはニワトリの声マネをした。

「うまいですね」

 リッツはエテンシュラの行動に冷ややかな目で見る。

「遊び人の十八番おはこなんだが……」

 そういうと、エテンシュラはルルを見る。

 それでも、ルルはエテンシュラに興味を持たない。

「つれないな。おじさんかなしい」

「ルルは興味のあるモノには食いつくのですが……」

「そうだな、手品の一つでもやろうか?」

「できるのですか?」

「できるがやらない。お腹が減っているこどもほど、難しい相手はいないからな」

 これ以上恥をかきたくなかったのか、エテンシュラはルルを相手にするのをやめるのであった。


「さて、飲みますか」

 エテンシュラは片手をあげる。

「パティ! ビール! 3つ!」

 エテンシュラは指を三本立てて、店員に注文を頼んだ。

 リッツはエテンシュラの注文に眉をひそめる。

「エテンシュラさん、ビールなんて勝手に頼まないでくださいよ」

「オレのおごりだ。気にすんな!」

「いえ、違って、ルルはまだ未成年……」

「わかってるよ。三つ目のさかずきを飲ませたいヤツは他にいる」

 そういって、エテンシュラは壁にもたれかかっている青年を見た。

 リッツは彼の身なりに見覚えがあった。

「そこのふてくされているニィちゃん」

 青年は自分が呼ばれたことに、ハッと気づく。

「そう、そこのなんちゃって魔法剣士のニィちゃん。あんただ」

 青年はもたれていた壁から離れる。

「我はマハラドだ!! なんちゃってではない!」

 先ほどギルドでギルコを騙そうとしていたマハラドが酒場にいた。

「それでいい、それでいい」

 エテンシュラは楽しそうに笑った。


 ※※※


 店員がリッツ達のテーブルでビール3つを、テーブルの上に置く。

「一杯やろうや」

 エテンシュラはビールを片手に、マハラドを呼びかける。


 マハラドはエテンシュラに誘われて、彼のいるテーブルへと向かった。

「そうそう、それでいい。それでいい」

 エテンシュラの頬には、

 かすかに笑みが浮かんでいた。


「いやいや、ホントに素晴らしい! ハハハ!!」

 酔っ払ったマハラドは手を叩く。

「不幸だったな。マハラドさんよ」

「ホント、憎い! あのギルドマスターめ!! 我が相棒の剣を安く買い取りやがって!!」

 二人が話をしているのは鉄の剣を炎の剣としてギルコに売りつけようとしていた一件である。

「あの剣がただの鉄の剣だとしても、10シルバーはないだろうが!!」

「守銭奴のギルコに騙そうとして騙されたんだな! アンタ!!」

「笑い事ではない! おかげで我は野宿をするハメになりそうだ!!」

「そうかいそうかい」

 マハラドのジョッキにビールがなくなれば、エテンシュラが注ぐ。

 かれこれ、これで八杯目だ。

「アドセラ地方に来たのは一山当てるために来た!! だが、我の望む仕事が何処にもない! 誰が田畑を耕すか!!」

「わかるわかるよ。冒険者なら冒険者らしい仕事をしたいからな。そんな仕事はワーカーにでも任せればいい」

「そうそう!」

 マハラドはエテンシュラから注がれたビールを飲み干す。

「我は魔法剣士、魔法剣士だけができる仕事をしたいもののだ。なのに、ギルドの仕事は農業ばかり、我を必要としてくれるマスターはいないものか」

 エテンシュラの表情がかすかに歪んだ。

「オレの仲間にならねえか?」

 エテンシュラの呼びかけにマハラドは反応する。

「仲間だと?」

「仲間と言っても儲け話があったらパーティーを組もうというもんだよ。それ以外は好き勝手にやってくれて構わない」

「お互いがお互いを利用するということか?」

「そう取っても構わねえ。お互い得するためにパーティーを組むのが冒険者なんだからよ!」

 エテンシュラはマハラドの前に手を差し出す。

「ビジネスパートナーになろうぜ」

 マハラドはその手を取って、強く握りしめる。

「よし! 酒をおごってもらった礼だ。貴公に我が剣を預けよう!」

「で、その剣は何処にあるんだ? ギルコに売ったのだろう?」

「……申し訳ないが、剣を買ってもらえないか?」

「いいぜ。魔法剣士は剣が命だからな」

 そういうと、マハラドとエテンシュラは肩を抱き合い、大声で笑いあった。

 

 リッツは二人の会話を遠目から見ていた。

 乾杯の音頭を取ってからあまりビールを口にしていない。

 別段、リッツはお酒が嫌いワケではない。

 ただ、エテンシュラの行動が奇妙だと思ったからだ。


 リッツが水を口付けていると、エテンシュラから話しかけられる。

「リッツだっけ? あんたもオレの仲間にならねえか?」

 リッツはコップをテーブルに置く。

「おことわりします」

「またまた。そうか、ヤキモチ焼いてるんだ。オレがアメマドと話していて――」

「マハラドだ! 我はマハラドだ!」

 マハラドはテーブルの上に伏せながら、大声で手をあげる。

 しかし、酔いつぶれたのか。会話に入ってくることはなかった。

「で、リッツさん。オレはあんたのことを評価しているんだ。この酒場で冒険者らしい身なりをしているのはあんたとそこのガラクタだけだ」

「マハラド!」

「わかったわかった。で、オレがこうして話をしているのは、ローグよりも先に冒険者をスカウトしておきたいからだ」

「あなたはローグじゃないのですか?」

「まさか? あんな、カネに目をくらんでいる連中と一緒にされちゃあ困る」

「けれど、あなたは冒険者の姿には見えない」

「オレは遊び人だからな。冒険者を集めるのが仕事よ。この役に立たなそうなガラハドさんでもスカウトするわけよ」

 エテンシュラはわざと言い間違えたが、マハラドから返事がないことに気づく。

「マハラドさん? マハラドさん?」

 すでにマハラドは酔いつぶれ、テーブルの上で寝込んでいた。

「コイツは大物か、はたまたただのバカか」

「おそらく後者でしょう」

 リッツはギルコを騙そうとしていたことも加味し、マハラドを辛口に評価した。


「で、どうだい? パーティーに入るかい?」

 エテンシュラはリッツに詰め寄るように尋ねる。

 リッツはエテンシュラの本心を掴めていない。

 ――エテンシュラは何のために、冒険者を集めるのか?

 彼の真意を把握するため、リッツは質問をすることにした。


「キミのいるパーティは他に誰がいる?」

「オレは数に入っていない。マハラドとクライアントの二人」

「クライアントは?」

「ザックスとかいうヤツ。目つきの悪い狩人で、なかなか肝のすわった野郎だ」

「どんな仕事をする?」

「冒険者の職業を決めてから仕事の方向を決めるつもりだろう」

「依頼から仕事を決めないのか?」

「ギルドの仕事は村のお手伝いばかりで、職がないヤツでもできるようなものばかりだ。報酬も安い」

「つまり、自分たちで仕事を見つけるワケか」

 リッツはエテンシュラの言葉の裏側を探る。


 ――職業を決めてから仕事を決めると言っている。

 だが、仕事はすでに決めているはずだ。

 なぜなら、エテンシュラは適当に冒険者を選んでいる。

 マハラドのようなヤツでもできる仕事は何か?


 リッツは頭を働かせると、エテンシュラに尋ねる。

「――狩猟でもする気か?」

 エテンシュラはヒュ~と、口笛を吹いた。


「何処でわかった?」

「狩人が冒険者のメンバーを募集しているのなら狩猟ぐらいしかない。狩猟するだけなら、狩人一人でもできるが、モノを運ぶメンバーが欲しい所だ。男手がいるのなら二、三人が適切だろう」

「よくわかったな。――そうだ。この冒険者を集めているのザックスの依頼だ。なんでも、予定していた儲け話がなくなって、狩猟をおっぱじめることにした。が、本格的な狩猟をするのならそれなりのメンバーがいる。誰でもいいと言っていたから適当なのを選んでいたところで――」

「オレとアマヤドをメンバーに入れた」

「マハラド!!」

 名前を言い間違えたことに気づいたマハラドは、寝ぼけながらもそう言った。


「まあ、そういうことだ。で、やるか? リッツさん。この仕事を」

 リッツは首を左右に振った。

「悪いけど、やめとく」

「つれないな」

「適当で選んでるからだろう?」

「適当なんかじゃない。あんたから不思議な魅力を感じてな」

「不思議な魅力?」

「そうだ、不思議なんだよ。あんたから職の匂いがしないんだ」

 リッツは職のことを言われると冷たい返事をした。

「ボクは冒険者ですよ」

「冒険者は職じゃねえ」

 エテンシュラはすかさず指摘する。

「冒険者はただの呼び名だ」


 オルエイザ大陸における冒険者は一般的な呼称であって、職業ではない。

 冒険者は職業を持っており、その職にあった役割をこなしていく。

 なお、ならず者と言われているローグも冒険者に含まれる。高額報酬を求めているローグも一応、ギルドから冒険者の資格が付与されている。


 ギルドにおいて職業は職種別に依頼を分ける、ふるいわけの機能を持つ。

 職業を見分けることで、ギルドマスターは冒険者に適切な依頼を渡すことができる。


 職業の見分け方は基本的、身なりでわかる。

 魔法使いなら杖とロープ、戦士なら剣と鎧など、冒険者の身につけている武器と防具で職業を推察できる。

 冒険者はひと目でどんな職業がわかりやすい格好となっているのは、自分の職業を格好でアピールすることで、誰でもパーティーを組むことができるようにしているからだ。

 

 リッツがエテンシュラから職の匂いがしないと言われたのはそのためだ。

 彼は自分の職業をアピールしていない。

 旅人のような軽装であり、見た目は盗賊にさえ見える。

 しかし、彼の目つきは盗賊のような鋭さはなく、ほがらかなカオである。

 冒険者であることはわかってもどんな職に就いているのかは不明だ。

 冒険者にとってかなり異質な存在である。

 エテンシュラの興味が膨らむのも無理はなかった。


「教えてくれないか? どんな職に付いているのか?」

 リッツはエテンシュラの好奇心に負けて、素直に自分の職について言うことにした。

「無職」

「はぁ?」

 エテンシュラが驚くが、リッツは構わず言い続ける。

「無職、無職だ」

「マジ?」

「ええ、無職です」


 ――無職。職についていないこと。


「ハハハ!!」

 エテンシュラは立ち上がって、大声で笑い出した。

「そこまで笑いますか?」

「いやいや、職についていないなんて、もったいねえな!!」

「遊び人のあなたに言われたくありませんよ」

「遊び人でもギルドから依頼を受けることができる。だけど、無職じゃギルドから依頼を受けることは難しいだろう」

 エテンシュラは座ると、テーブルに肘を付きながら、リッツにギルドシステムについて教授する。

「職についていないということはギルドから冒険者の依頼を受けることができない。冒険者同士でパーティーを組むときも絶対選ばれない。つまり、職がなければ、依頼をもらうことができないし、パーティーも組むことができない。オマエさんができることは誰でもできそうな村の仕事ぐらいだ」

「わかっていますよ。それぐらい」

「そうかいそうかい。依頼を受けることができないのに、ギルドの仕事なんてできるの?」

「ええ、ボクにはこれがありますから」

 リッツはカバンから何かを取り出す。

「地図か」

 エテンシュラは白紙の地図を広げると、ニンマリと笑った。


「ボクは地図を売る冒険者です。この地方の地図はまだ空白ですが、いずれすべてを埋めるつもりです」

「その心意気、ニクいね」

「ありがとうございます」

「でも、オマエさんを雇いたがる冒険者は多分いねえよ。そこらへんはわかっているだろう?」

 リッツは静かに頷く。

 どうやら彼は自覚があるようだ。

「もし、パーティーを組むのなら戦士、魔法使い、僧侶はメインに入れて、格闘家、盗賊、狩人、商人なんかも入れたいな。戦士の代わりに剣士もいいし、魔法使い、僧侶の代わりに賢者もいいかも」

「魔法剣士は!!」

 マハラドは寝言で話に割り込む。

「魔法剣士はメインに張れない、魔法も剣も中途半端だからな。……って、オマエ、起きてるだろう」

 エテンシュラはマハラドの方を見ると、彼はスヤスヤと寝ていた。

「スゴく激しい自己主張」

 リッツはさりげなく寝ているマハラドに毒を吐いていた。


「地図を書く技術がある職は商人ぐらいしかいませんよ。しかも、冒険する旅の商人もいませんからね」

「それもそうだな。危険な儲け話は自分ですることもよりも相手にさせた方が得することを覚えたからな」

「ええ。それに、未開拓地方アドセラに興味を持つヒトはあまりいません。地図を作るだけでも労力はいりますし、それが売れるか売れないか不明ですから」

「遺跡か何かがあれば冒険者は一気に興味を持ってくれるが、何もなければ誰も寄ってこないからな。商人が投資するとしてもリスクが高すぎるわ」

「それでボクが何をしたいのかわかってくれましたか?」

「わかったよ。むしょく」

「だから、そういう言い方はやめてくださいよ」

「いや、これでも誉めてるんだぞ。地図を売る冒険者。とてもいいことだ。カネになるかわからないが、それをやろうとしている。オマエさんのこと、ますます好きになったよ」

「やめてくださいよ、気持ち悪い」

「もっともオマエさんがウソをついていなければ話だがよ」

「ボクがウソをついているとでも?」

「さあ、わからねえ。ウソ自体、悪魔の証明みたいなもんだからよ」

「悪魔の証明?」

「悪魔がいるのなら証拠を出せ、それで無実が晴れる。でも、悪魔がいないのなら証拠が出し用がない。出せないだけで有罪だ」

「つまり、ボクは職があるのに、職がないフリをしていると?」

「そういうこと」

「じゃあ、ボクのホントの職業はなんだと思いますか?」

「そうだな、オマエさんが職があるとしたら――」

 エテンシュラは指を何回か動かす。

「もし職があるのなら、オマエは盗賊だな」

「盗賊って? あの? 盗賊」

「そうだ。ギルド公認の盗賊だよ」

「鍵開けもなければ、トラップを仕掛ける技術もないのですが」

「誰かの盗賊団で修行すれば、身についている」

「まるで盗賊に入れでも誘っているみたいですね」

「職があれば、ギルドから依頼を優先的に受けられる。白紙の地図もいつかは埋まる」

「それでも、盗賊はイヤですね」

「難くせを付けている盗賊でも職は職。職は持っておいたらいいことだらけだぞ」

 エテンシュラは笑いながら、ビールをぐびぐびと飲み干していった。


 カウベルが鳴り響き、エテンシュラは酒場の入り口を見る。

「おっと噂をすれば、なんとやら」

 黒い眼帯を付けたマントの男が現れる。

 その男を見たエテンシュラは、不敵な笑みを浮かばせた。

 リッツはその笑みに気になり、エテンシュラに話しかける。

「誰ですか? あれ」

「ここ一帯の盗賊達をまとめている大盗賊団『黒き山林<<シュヴァルツ・バーウド>>』の団長、ルードだ」


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